82.『背中、押してやろうか?』
今回紹介するのはこちら。
悠木シュンさん作
双葉社 出版
『背中、押してやろうか?』です。
この作品を読んでまず感じたのは、「学校」という閉ざされた場所の怖さでした。
物語では、事故なのか自殺なのか、はっきりしない形で同級生の死が続きます。
さらに、主人公の親友が不登校になり、主人公自身にも突然いじめが始まります。
最初は、それぞれが別々に起こっている出来事のように見えるんですが、読み進めていくと、少しずつ歯車がかみ合っていきます。
特に印象に残ったのが、主人公の姿です。
自分自身がいじめの標的になっているのに、ただ逃げるだけではなく、周囲で起きている同級生の死や不穏な出来事について考え続けます。
普通なら、自分が苦しい状況に置かれたら、他人のことまで考える余裕はなくなってしまいます。
それでも主人公は、「なぜこんなことが起きているのか」と考えようとする。
その姿には、中学生らしい危うさと同時に、強さも感じました。
そして、もう一人強く印象に残るのが、繭子です。
彼女は主人公と同じようにいじめを受けながらも、どこか冷静で、周囲の人間とは違う空気を持っています。
主人公と繭子の距離が近づいていくことで、物語には友情とも共犯関係とも言える、独特な緊張感が生まれていきます。
特に怖いのは、登場人物たちが必ずしも「ものすごく悪い人」として描かれているわけではないところです。
誰かが面白半分でやったこと。
誰かが見て見ぬふりをしたこと。
その場の空気に流されてしまったこと。
そういった小さな行動が積み重なって、取り返しのつかない結果につながっていく。
だからこそ、この作品のいじめは怖いんです。
「自分は直接何もしていない」と思っている人間でさえ、結果的には誰かを追い詰める側に立ってしまう。
この作品を読んでいると、教室という場所が、中学生にとってどれほど狭い世界なのかということも感じさせられます。
大人になった今なら、「学校がすべてじゃない」と思えます。
でも、その時代の本人たちにとっては、クラスの中でどう見られるか、誰と一緒にいるかということが、本当に大きな意味を持っている。
そして、この作品で最も印象的なのがタイトルの『背中、押してやろうか?』という言葉です。
普通なら、「背中を押す」というのは、勇気を与える、前に進ませるという意味ですよね。
ところが、この作品では、その言葉がまったく違う意味を持ってきます。
読み終わったあとにタイトルを見返すと、「ああ、そういうことだったのか」とゾッとさせられる。
さらに、冒頭の場面を読み返すことで、最初に読んだときとはまったく違った印象を受ける作品でもあります。
個人的には、単純な「犯人探し」のミステリーというより、人間の感情や悪意がどう連鎖していくのかを描いた作品として楽しめました。
爽やかな青春小説を想像して読むと、かなり重たい内容に驚くと思います。
でも、その重さこそが、この作品の魅力でもあります。
いじめる側、いじめられる側、見ている側。
それぞれの立場にいる人間の行動が、少しずつ物語を動かしていく。
そして最後には、「誰かを傷つけるつもりがなかったとしても、人を追い詰めることはできてしまう」という怖さが残ります。
『背中、押してやろうか?』は、青春ミステリーというより、青春の中に潜む「狂気」と「閉塞感」を描いた、かなり苦くて怖い作品でした。
読み終わったあと、タイトルの意味をもう一度考えたくなる一冊です。




