81.『100人館の殺人』
今回紹介するのはこちら。
山口芳宏さん作
東京創元社 出版
『100人館の殺人』です。
この作品を読んでまず驚かされるのは、タイトル通り、とにかく「人が多い」ことです。
舞台となるのは、大富豪・高崎幸之助の館。
そこで開かれたパーティーには、親族や招待客、使用人など、実に大勢の人間が集まっています。
そこへ、館でメイドとして働く妹・結衣子に呼ばれてやって来た神尾と、名探偵・西園寺が現れます。
そしてパーティーの最中、館の主人である高崎幸之助が、なんと大勢の人が見ている前で殺されてしまいます。
しかも、容疑者は館にいる「100人」。
さらに外へ通じる橋まで爆破され、電話も使えないという閉鎖空間が完成します。
つまり、「誰が犯人なのか」だけではなく、「こんなに大勢の人間がいる中で、どうやって殺人を実行したのか」という点が大きな謎になっているんです。
この作品で面白いのは、主人公の神尾と探偵の西園寺の立ち位置の違いです。
神尾は、妹の結衣子を心配して館へやって来た、ごく普通の感覚を持った人物です。
だからこそ、館で次々と起こる異常な出来事に対して、読者と同じような驚きや疑問を抱きます。
一方の西園寺は、こうした異常な状況でも比較的冷静に事件を観察していきます。
普通なら「犯人を見つけなければ」と焦ってしまうところですが、探偵として状況を整理し、何が可能で、何が不可能なのかを考えていく。
この冷静さが、物語の大きな軸になっています。
そして、個人的に一番面白いと感じたのが、「100人」という人数そのものです。
普通の館ミステリなら、数人から十数人程度の容疑者を一人ずつ疑っていくのが定番です。
ところが、この作品では最初から「100人全員が怪しい」。
そのため、読者も「この人が犯人か?」と一人ずつ追いかけるというより、「そもそも、100人もいる状況を犯人はどう利用したのか?」という発想で考えることになります。
ここが非常にユニークでした。
また、作品全体には本格ミステリらしい緊張感がありながら、どこかユーモラスな雰囲気もあります。
本格ミステリのお約束を知っている読者ほど、「そう来るのか!」と楽しめる場面が多く、単純に犯人当てをするだけではない面白さがあります。
そして物語が進むにつれて、登場人物たちがそれぞれの思惑を抱えて行動していることも見えてきます。
誰かを疑う者、自分が疑われないように振る舞う者、事件の混乱を利用しようとする者。
「100人」という人数の多さが、単なる設定ではなく、人間同士の疑心暗鬼を生み出す装置になっているんですね。
『100人館の殺人』は、王道の館ミステリを土台にしながら、「もし館の中に100人もの人間がいたら、殺人事件はどうなるのか?」という大胆な発想で、本格ミステリの定番を少しずつ崩していく作品です。
緻密な謎解きを楽しみたい人はもちろん、「ちょっと変わったミステリを読みたい」という人にもおすすめです。
特に、探偵と一緒になって「この状況、一体どうやって解決するんだ?」と考えながら読むと、かなり楽しめる一冊だと思います。
皆さんもぜひ、「100人もいたら、逆に犯人を見つけやすいのか、それとも難しくなるのか?」という視点で読んでみてください。




