83.『ヴァンパイア・シュテン』
今回紹介するのはこちら。
福田和代さん作
光文社 出版
『ヴァンパイア・シュテン』です。
この作品を一言で表すなら、**「酒呑童子を吸血鬼として現代によみがえらせた、伝奇アクション小説」**です。
明治の時代に封印された、不死の鬼・酒呑童子――シュテン。
それが現代になって、永遠の命を求める者たちによって復活します。
そしてシュテンを追うのが、平安時代から鬼と戦ってきた陰陽師の末裔たち。
警察庁特別調査課、通称「トクチョー」に所属する那智行人たちは、鬼を人類の敵と考え、シュテンを討とうとします。
ところが、この作品が面白いのは、ここからです。
シュテンは確かに恐ろしい力を持つ鬼なのですが、単純な「悪の怪物」ではありません。
むしろ、人間社会に溶け込みながら生きている茨木童子たちの姿を見ると、彼らは意外なほど理性的です。
特に印象に残るのが、鬼と人間、どちらが本当に恐ろしい存在なのかという問いです。
人間側は、鬼が人間を殺し、鬼に変えてしまうことを理由に、鬼を排除しようとします。
しかしシュテンは、人間だって人間同士で殺し合っているではないか、と反論します。
長い眠りから目覚めたシュテンが見た現代は、ミサイルや爆弾、ドローン兵器など、人間が作り出した強力な殺傷兵器に満ちています。
この視点が非常に面白いんですよね。
「鬼だから危険」「人間だから正義」という単純な構図ではなく、異質な存在を恐れ、排除しようとする人間自身の姿が描かれているからです。
そして、もう一人重要なのが那智行人です。
行人は、鬼を倒すことを使命として生きてきた人物です。
だからこそ、鬼が人間と共存しようとしていることを、簡単には信じられません。
長年にわたって受け継いできた「鬼は敵だ」という価値観と、目の前にいる鬼たちの実際の姿。
その間で行人は苦しみ、少しずつ自分の信じてきたものを揺さぶられていきます。
さらに、行人と瑞祥との親子関係も、この物語の重要な部分です。
鬼との戦いだけではなく、親子としての距離や、行人が瑞祥を守ろうとする気持ちが物語を動かしていきます。
個人的に面白いと思ったのは、最初は「鬼対人間」という単純な戦いに見えていた物語が、読み進めるほどに、シュテン、行人、そして真の敵である徐福による三つ巴の戦いへと変化していくところです。
そして終盤には、想像していた「鬼退治」とはかなり違った、スケールの大きな戦いへと発展していきます。
酒呑童子や茨木童子といった日本の伝説を、吸血鬼という要素と現代の警察組織、さらには兵器まで組み合わせて描いた発想が、とても大胆な作品でした。
一方で、物語の展開がかなり速いため、行人や瑞祥の心情を、もう少しじっくり読みたかったという印象もあります。
それでも、**「鬼は本当に悪なのか?」「人間と異なる存在を、私たちはどう受け入れるのか?」**というテーマを、派手なアクションと伝奇要素の中に盛り込んでいるのが、この作品の魅力だと思います。
恐ろしい鬼が登場する物語なのに、読み終わってみると、むしろ「人間とは何なのか」を考えさせられる。
そんな一冊でした。
伝奇小説や妖怪もの、現代を舞台にした異能力バトルが好きな方には、ぜひおすすめしたい作品です。




