79.『心臓の王国』
今回紹介するのはこちら。
竹宮ゆゆこさん作
PHP研究所 出版
『心臓の王国』をご紹介します。
この作品を一言で表すなら、「青春って、こんなにも眩しくて、こんなにも残酷なんだ」と感じさせられる小説でした。
主人公は17歳の高校生、鬼島鋼太郎。
そんな鋼太郎の前に突然現れるのが、アストラル神威という、白い服をまとった不思議な美青年です。
神威は、とにかく行動が予測不能。
「せいしゅん」をするために、普通の高校生なら絶対にやらないようなことまで平気でやってしまいます。
最初、鋼太郎はそんな神威を見て、「こいつには関わらないほうがいい」と思います。
ところが、神威は鋼太郎の学校へ転校してきて、鋼太郎の日常にどんどん入り込んでいきます。
鋼太郎は振り回されながらも、結局は神威を仲間として受け入れていく。
ここから始まる二人の高校生活は、とにかくくだらなくて、笑えて、そして眩しいんです。
友達と一緒に騒いだり、馬鹿なことをしたり、何でもないことで笑ったり。
17歳という年齢だからこそできる、「今、この瞬間を生きる」ような青春が描かれています。
特に印象的なのは、鋼太郎が最初は神威を面倒な存在だと思っていたのに、少しずつ彼のことを放っておけなくなっていくところです。
神威の突拍子もない行動に呆れながらも、困っていれば助ける。
そして神威も、鋼太郎と一緒に過ごすことで、「せいしゅん」というものを全力で楽しもうとします。
だからこそ、物語の後半で神威が抱えていた秘密が明らかになっていくと、それまでの明るい日常の見え方が一気に変わります。
「どうして神威は、こんなにも必死に青春を求めていたのか」
「なぜ17歳という時間に、これほど執着していたのか」
その理由が分かってくるにつれて、前半で笑っていた場面さえ、別の意味を持って見えてきます。
そして、この作品で強く感じたのが、「誰かのために尽くすことは、本当に正しいことなのか」という問いです。
大切な人を救いたい。
その人のためなら、自分が犠牲になってもいい。
そういう気持ちは、とても美しく見えます。
でも、本当に相手が望んでいることなのか。
自分の人生を犠牲にすることが、本当に「優しさ」なのか。
鋼太郎や神威たちの行動を追っていると、そんなことまで考えさせられます。
竹宮ゆゆこさんは、前半では「これぞ青春!」という楽しさを思い切り描きながら、その楽しさを土台にして、後半では生きること、誰かを思うこと、そして自分自身の人生を選ぶことについて問いかけてきます。
だから読み終わったあと、単純に「面白かった」だけでは終われません。
笑ったはずなのに、最後には胸が苦しくなる。
そして、もう一度最初から読み返したくなる。
そんな不思議な読後感のある作品でした。
『心臓の王国』は、青春小説が好きな人はもちろん、「友情とは何なのか」「誰かを大切にするとはどういうことなのか」を考えさせられる物語を読みたい人にもおすすめしたい一冊です。
最初は、ちょっと変わった男子高校生たちの青春物語。
そう思って読み始めた人ほど、後半の展開に大きな衝撃を受けると思います。
笑って、驚いて、苦しくなって、最後には登場人物たちのことを忘れられなくなる。
そんな、竹宮ゆゆこさんらしい、感情を大きく揺さぶってくる一冊でした。




