74.『王妃の帰還』
今回紹介するのはこちら。
柚木麻子さん作
実業之日本社 出版
『王妃の帰還』です。
舞台は、カトリック系の女子校、聖鏡女学園中等部。主人公は、範子、通称「ノリスケ」です。
ノリスケは、チヨジ、スーさん、リンダさんという仲間たちと、目立たないながらも穏やかな学校生活を送っていました。
ところが、そんな日常を大きく変えてしまう出来事が起こります。
クラスの頂点に君臨していた美少女、滝沢さん。
ノリスケは、彼女を心の中で「王妃」と呼んでいました。
ところが、ある腕時計事件をきっかけに、滝沢さんはそれまで所属していた「姫グループ」から追放されてしまいます。
そして、なぜかノリスケたちの地味なグループにやって来ることに。
憧れの「王妃」が自分たちの仲間になったのだから、最初は嬉しい……と思いきや、そう簡単にはいきません。
滝沢さんは、これまでの立場のまま振る舞い、ノリスケたちに対してもわがまま放題。
せっかく仲良く平和に過ごしていた四人の関係まで、少しずつ崩れていってしまいます。
ここで面白いのが、ノリスケたちが「滝沢さんなんて追い出してしまおう」とは考えないところです。
むしろ彼女を元の姫グループに戻して、以前の平穏な生活を取り戻そうとします。
つまり、「王妃帰還作戦」を始めるわけです。
ノリスケは一見すると、おとなしくて周囲に合わせている女の子に見えます。
でも、作者の柚木麻子さんによると、実はノリスケはかなり過激な性格で、最終的には自分から行動を起こす「革命家」のような人物として描かれています。
この部分が、私はとても面白いと思いました。
教室の中で目立たないようにしていたノリスケが、物語が進むにつれて、自分の考えで動き始める。
一方の滝沢さんも、最初は単純な「嫌な女の子」に見えます。
人を見下したり、わがままを言ったり、周囲を自分の思い通りに動かそうとしたりする。
でも、物語を読んでいくと、彼女にも彼女なりの不安や苦しさがあることが分かってきます。
教室の頂点に立っているからこそ、その場所から落ちることへの恐怖もある。
そして、周囲から期待される「王妃」であり続けなければならないプレッシャーも抱えているんです。
だからこそ、この作品は「滝沢さんが悪い」「ノリスケたちが正しい」という単純な話ではありません。
それぞれの少女が、自分の立場から必死に生きている。
その姿が、とてもリアルに感じられました。
特に印象に残ったのは、物語の終盤です。
この作品では、誰か一人を完全な悪者にして、みんなで責めれば問題が解決する、という結末にはなりません。
作者自身も、正論で誰かを打ち負かしたり、一人にすべての責任を押しつけたりしても、問題は解決しないという考えを語っています。
そこに、この作品の優しさがあるように思いました。
中学生にとって、教室は世界のすべてのように感じられる場所です。
どのグループにいるのか。
誰と一緒にいるのか。
誰から嫌われているのか。
そんなことが、自分の人生そのもののように思えてしまう。
でも、本当は教室の外にはもっと広い世界がある。
今は「地味な子」でも、「王妃」でも、その先にはいくらでも違う未来がある。
『王妃の帰還』は、そんな少女たちの可能性を描いた青春小説なのだと思います。
最初は、女子校の中で繰り広げられる「王妃の座」をめぐる騒動として楽しめます。
でも読み終わってみると、そこには、友達とは何なのか、自分らしく生きるとはどういうことなのか、そして、人を一つのイメージだけで判断してはいけないというメッセージが込められているように感じました。
テンポがよく、登場人物たちの関係が次々と変化していくので、とても読みやすい作品です。
そして何より、ノリスケたちが起こす「王妃帰還作戦」がどうなっていくのか。
ぜひ実際に読んで、少女たちの小さな「革命」の結末を見届けてほしい一冊です。




