73.『卒業タイムリミット』
『卒業タイムリミット』
辻堂ゆめ 作
双葉社 出版
今回ご紹介する本はこちら。
辻堂ゆめさん作
双葉社 出版
『卒業タイムリミット』です。
この作品は、卒業式まであと3日という高校を舞台にした青春ミステリーです。
ある日、人気の女性教師・水口里紗子が誘拐されます。
そしてネット上には、「72時間後に教師を始末する」という犯人からの予告動画が公開されます。
そんな中、3年生の黒川良樹のもとに、「誘拐の謎を解け。真相は君たちにしか分からない」という挑戦状が届きます。
同じように挑戦状を受け取ったのは、体育会系の荻生田隼平、学年一の美少女・小松澪、そして黒川の幼馴染みで優等生の高畑あやね。
それまで特別仲が良かったわけでもない4人が、教師を救うために一緒に事件を追うことになります。
この作品で面白いと思ったのは、4人がそれぞれまったく違う性格をしているところです。
特に黒川は、いわゆる優等生タイプではありません。
学校に反発し、不登校気味になっていた彼ですが、事件が起こると、ただ傍観しているのではなく、自分で真相を探ろうと動き始めます。
最初は「どうして自分たちがこんなことをしなければならないんだ」と思っていても、時間がなくなるにつれて、教師を助けたいという気持ちが強くなっていきます。
そんな黒川と対照的なのが、幼馴染みのあやねです。
頭がよく、冷静に物事を考えるあやねは、感情だけで突っ走るのではなく、情報を整理しながら事件を考えていきます。
一方、荻生田は体育会系らしい行動力を見せます。
そして澪は、周囲から「学年一の美少女」と見られている一方で、単純に華やかなだけの人物ではありません。
4人は、それぞれ違う考え方を持っているからこそ、意見がぶつかります。
でも、その違いが事件を解くための力にもなっていきます。
そして読んでいて印象に残ったのが、「高校生だからこそ見えるもの」と「高校生だから見えないもの」が描かれているところです。
大人である教師を助けるために、高校生たちが必死になって動く。
その姿を見ていると、危なっかしいと思う一方で、「この子たちだからこそ、真相に近づけるのかもしれない」と感じます。
また、事件を追っていくうちに、4人自身が教師や学校に対して抱えていた思いも少しずつ見えてきます。
最初は単純な誘拐事件に見えていたものが、調べれば調べるほど、「この先生は本当はどんな人だったのか」「学校という場所は、本当に生徒を守る場所なのか」と考えさせられるようになります。
私は、この作品は単なる犯人探しのミステリーではなく、「卒業」という人生の区切りを前にした高校生たちの物語でもあると思いました。
卒業すれば、今まで当たり前だった学校生活は終わります。
だからこそ、4人が事件を追う72時間は、ただ教師を救うための時間ではなく、自分自身や周りの人間について考えるための時間にもなっているように感じます。
そして、物語の最後まで読んだときには、事件の真相だけではなく、4人がこの事件を通してどう変わったのかにも注目してほしいと思いました。
緊張感のある誘拐事件。
個性の違う4人の高校生。
そして、卒業を目前にした青春。
この三つが組み合わさっていて、続きが気になって一気に読み進めたくなる作品です。
ミステリーが好きな方はもちろん、青春小説が好きな方にもおすすめしたい一冊です。




