72.『寝てる場合じゃねえんだよ』
『寝てる場合じゃねえんだよ』
竹宮ゆゆこ 作
実業之日本社 出版
今回ご紹介するのは、竹宮ゆゆこさん作、実業之日本社出版。
『寝てる場合じゃねえんだよ』です。
大学寮で同室になった、まったく正反対の二人の男子大学生。
一人は、アメフト界の貴公子と呼ばれていた紫波央士。
そしてもう一人は、ものすごく顔が整っているのに、服装も地味で、人との関わりを極端に避けている丹生景都。
最初は、この二人がどうやって仲良くなるんだろうと思いながら読み始めました。
特に面白かったのが、紫波のキャラクターです。
紫波は、とにかくまっすぐで、考えるより先に動いてしまうような人物です。
アメフト一筋だった彼は、怪我によって選手としての道を失ってしまいます。
それでも、完全に投げ出すのではなく、最初はマネージャーとしてアメフト部に残ろうとします。
ところが、自分の中にある悔しさや苦しさを抱えきれなくなり、部を辞めることになります。
このあたりを読んでいると、明るく豪快に見える紫波にも、実は簡単には人に見せられない傷があるんだな、と感じました。
一方の景都は、紫波とは正反対です。
人と関わることを避け、できるだけ目立たず、自分の世界に閉じこもろうとしています。
そんな景都に対して、紫波は遠慮しません。
景都がどれだけそっけない態度を取っても、普通なら「嫌われているのかな」と距離を置きそうなところを、紫波はどんどん踏み込んでいきます。
この二人のやり取りが、とにかく面白いんです。
紫波の行動に景都が「なんでこいつはこうなんだ」と振り回され、それでも景都のほうも、少しずつ紫波を放っておけなくなっていく。
最初はただの同室の人間だった二人が、いつの間にか、お互いのことを気にする存在になっていくんです。
そして、この作品がすごいと思ったのは、そんなコミカルなやり取りの裏側に、二人が抱えている深い傷が隠されているところです。
最初は笑って読んでいた場面が、二人の過去を知ることで、まったく違った意味に見えてきます。
紫波は、失ったものを抱えながら、それでも前に進もうとする。
景都は、人を信じることを避けながらも、紫波との関係を通して、誰かと関わることから逃げ続けることができなくなっていく。
私は、この二人の姿を見て、「人は一人で傷を治すことができるのかな」と考えさせられました。
もちろん、誰かに頼ればすべて解決するわけではありません。
でも、自分一人ではどうにもならないときに、誰かのために動いたり、誰かに頼ったりすることが、もう一度前を向くきっかけになることはある。
『寝てる場合じゃねえんだよ』は、タイトルだけ見ると、勢いのある青春コメディのように感じます。
実際、二人のやり取りはかなり笑えます。
でも、その笑いの奥には、挫折や孤独、人を信じることへの怖さがしっかり描かれています。
だからこそ、二人が少しずつ相手を大切にしていく姿が、とても印象に残りました。
ただの「仲良し男子大学生」の物語ではなく、傷ついた二人が出会い、お互いを放っておけなくなっていく物語。
笑えて、そして最後には、誰かとつながることの大切さを感じさせてくれる一冊でした。
気になった方は、ぜひ読んでみてください。




