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55.『スウィッシュ!Swish!』

「スウィッシュ!Swish!」

 藤ノ木優

 徳間書店




スウィッシュ!は、女子バスケットボールを題材にしながら、親子関係、怪我、女性アスリート特有の問題まで丁寧に描いた青春小説でした。


物語は父親でありスポーツドクターでもある竜介の視点から始まります。


反抗期の娘・愛菜との関係はぎくしゃくしており、二人の間には二年前から埋まらない溝が残っています。


そんな中、女子バスケ部のエース・羽瑠が大会中に大怪我を負う。


愛菜は父にあるお願いをするが、竜介は医師として理性的に答えようとしてしまい、親子の会話はすれ違ってしまいます。


この“感情”と“理屈”の衝突が、作品全体を通して大きなテーマになっています。


特に印象的だったのは、バスケ描写のリアルさ。


試合や練習風景が細かく描かれていて、プレーの動きや空気感が頭の中に浮かんできます。


エースの羽瑠は、ただ上手いだけではなく、人を惹きつける存在でした。


誰に対しても壁を作らず、相手の長所を自然に見つけて言葉にできる。


大会前に大怪我をしてもなお、周囲を励まし続ける姿には、人間としての強さを感じました。


一方で、この作品はスポ根小説というより、“身体と人生”について考えさせられる作品でもあります。


怪我の説明やリハビリだけでなく、女性アスリートの栄養不足、月経不順、貧血、骨粗鬆症リスクといった問題が非常に具体的に描かれている。


テーマとして扱われるREDsの話は衝撃的で、スポーツの裏側にある危うさを知ることができました。


華やかな活躍の裏で、身体を削りながら戦う現実がありました。


愛菜自身も魅力的です。


小柄で、決して恵まれた体格ではない。


それでも顧問不在の中、自分で練習メニューを考え、なぜ必要なのかを部員たちに説明していく。


その姿からは強い責任感が伝わってきました。


愛菜は感情的に見えて、実は自分を俯瞰して見つめている子でもあり、自己評価の低さや諦め癖がどこか痛々しい。


竜介が自分自身を諦めていたからこそ、愛菜もまた「自分には無理だ」と思い込んでいたのかもしれない。


中盤から愛菜視点になることで、羽瑠への憧れや友情がより強く伝わってきます。


「自分にも新しい可能性があるかもしれない」という感情は、読んでいて胸に刺さりました。


誰かに出会ったことで人生の景色が変わる瞬間。


その眩しさと苦しさが、この作品には詰まっています。


また、親たちの描写も非常にリアルでした。


竜介は医師として正しい判断をしようとするが、弥生は母親として現実と感情の両方を見ている。


どちらが正しいとも言い切れない。


そして羽瑠の母・美也子の存在からは、「他人の苦しみにどう向き合えばいいのか」という難しさを感じました。


読んでいて、自分がどれだけ恵まれた環境で生きてきたのかを考えさせられる場面も多かったです。


終盤、倒れた羽瑠を巡る会話では、竜介と愛菜が単なる親子ではなく、“ドクターと選手”のように向き合っていたのが印象的でした。


そして、練習試合のあとに竜介が愛菜へある物を差し出す場面。


あの瞬間、ようやく親子の距離が縮まったように感じました。


そしてタイトルにもなっている「スウィッシュ」。


リングに触れずネットだけを揺らすシュート音。


その言葉が物語の最後に重なった瞬間、これまで積み重ねてきた努力や葛藤が一気に報われた気がしました。


夏の大会の描写は本当に緊張感があり、読んでいるこちらまで息を呑みました。


最後に愛菜が選んだ進路も、この物語らしい終わり方でした。


ただの青春スポーツ小説ではなく、親子、身体、夢、そして“自分を諦めないこと”を描いた作品だったと思います。





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