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54.『シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱』


今回紹介するのは、高殿円さんの『シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱』


ただの「女性版ホームズ」ではありません。


これは、“未来のロンドン”を舞台にしたSFミステリーであり、人間の感情そのものを解剖していく作品でした。


まず驚くのが世界観です。


物語の舞台は2012年のロンドン。


でも、描かれている技術は、2026年の今よりも未来的なんですよね。


シャーリーの前にはホログラム画面が現れ、秘書のように遠隔で捜査をサポート。


ロンドン中の監視カメラへアクセスし、犯人を追跡していく。

さらに無人運転自動車まで登場する。


発行が2014年であることを考えると、この未来描写はかなり先進的でした。


しかも、ホームズ作品の定番キャラクターたちが、全員女性として再構築されているのも特徴です。


シャーリー・ホームズ は、一人称が「僕」のクールな女性。


ワトソンからは「人工心臓の情緒欠陥アンドロイド」なんて言われるほど、人間離れした存在として描かれています。


見た目はまるで白雪姫のように美しい。


でも、その内側には、人間の感情を理解しきれない危うさがある。


だからこそ、普通の探偵とは違うんですよね。


犯人の動機を聞いたとき、一般的な探偵なら「許せない」で終わる。


でもシャーリーは、“なぜそうなったのか”を理解してしまう。

しかも、その理解には妙な説得力がある。


読んでいるこちらまで、「もし自分だったら」と考えさせられるんです。


ただ面白いのは、シャーリーが語る“犯人像”には共感できるのに、実際に犯人本人が語る本当の動機には、逆に共感できなかったところ。


人間って、ひとつの感情だけで壊れるわけじゃない。


怒り、嫉妬、孤独、劣等感、後悔。


いろんな感情が積み重なって、最後に心の堰が決壊してしまう。


この作品は、その“感情の濁流”を描いているんですよね。


そして後半から始まる、裏で糸を引く権力者――“あの人”に繋がる追跡劇が本当に面白い。


陸路、海路、空路。


金と権力を使って逃げ続ける相手を、シャーリーたちが追い詰めていく。


この辺りは、クラシック探偵小説というよりスパイサスペンスに近いワクワク感があります。


しかも犯人は、どれだけ追い詰められても余裕を崩さない。

何を突きつけられても平然としている。


でも終盤、次々と新しい事実が明らかになることで、その表情が初めて揺らぐんです。


「ああ、この人にも崩れる瞬間があるんだ」と感じるあのシーンは、かなり印象的でした。


さらに、この作品はシャーリーだけじゃなく、ワトソン側にも深い影がある。


語り手であるワトソン自身も、過去にいくつもの傷や秘密を抱えている。


だから単純な“名探偵を見守る役”では終わらないんですよね。


ホームズとワトソンの関係でありながら、どこか危うく、互いを完全には理解できない距離感がある。


その関係性がすごく現代的でした。


そして、この作品の面白いところは、単なる女性化ではなく、“パスティーシュ”として成立している点です。


つまり、原作へのリスペクトを持ちながら、新しい物語として再構築している。


ホームズらしい空気はちゃんとある。


でもやっていることは、監視社会、AI、人間の感情、権力構造など、かなり現代的なテーマなんです。


だから読み終わったあと、「これはホームズなのに、今の時代の物語だ」と強く感じました。


まとめると、シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱 は、

・未来的SFロンドンの世界観

・全員女性化されたホームズパスティーシュ

・感情を理解しすぎる探偵シャーリー

・人間の心が壊れる瞬間の描写

・権力者を巡るスケールの大きい追跡劇

・ワトソン自身の過去と影


これらが組み合わさった、“近未来ミステリー”として非常に完成度の高い作品でした。


クラシックなホームズが好きな人にも、SFサスペンスが好きな人にも刺さる。


そして何より、「人間の感情って何なんだろう」と考えさせられる物語だったと思います。




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