31.『営繕かるかや怪異譚』
『営繕かるかや怪異譚』
出版社:角川書店
小野不由美(著)
漫画にもなっているこの本、一見すると怪談集ですが、普通のホラーとはかなり違っていて、怪異を退治しません。
物語の主人公は、家の修理を行う「営繕屋」。
彼は怪奇現象が起きる家の修理を依頼されて訪れます。
普通のホラーなら、霊能力者が祓ったり、原因を突き止めて解決したりする展開になりそうですが、この作品では怪異は基本的に消えません。
営繕屋がやるのは「建物を少し直すこと」だけ。
例えばある家で、使われていない窓や隙間を塞ぎます。
また別の家では壁の構造を変えたり、通路の作りを変えたりします。
すると、不思議なことに怪異は静まるのです。
これはつまり怪異は完全に消えるものではなく、家の構造や空間の“歪み”に引き寄せられて現れている可能性がある、ということ。
つまり営繕屋は「怪異を祓う人」ではなく、「人と怪異が干渉しないよう空間を調整する人」なんです。
ここが、この作品のとても独特で面白いところです。
さらに怖いのは、怪異の背景にある“人間の事情”。
多くの怪異は強い怨念や呪いというよりも、
・孤独
・後悔
・家族の記憶
・過去の出来事
そういった感情に結びついています。
つまりこの作品では怪異そのものよりも「人の心」や「その場所に残る記憶」の方がむしろ恐ろしい。
そしてもう一つ気になるのが、営繕屋という人物の正体です。
彼は怪異にまったく驚きません。
むしろ最初から存在を知っているように振る舞います。
そして、怪異に対して敵意も恐怖も持っていません。
まるで「昔からそこにいるもの」として扱っているんです。
そして読後に残るのは単純な恐怖ではありません。
「怪異は、実は身近なものなのではないか」
「人が住む家という場所には、何かが残り続けるのではないか」
そんな、不思議な感覚です。
派手に怖がらせるホラーではありませんが、静かに、そして深く怖い。
まさに“大人の怪談”と呼べる作品でした




