28.『僕は上手にしゃべれない』
『僕は上手にしゃべれない』
出版社:ポプラ社
椎野 直弥 (著)
正直泣きました。本を読んで泣いたのは初めてです。
この作品はただ「しゃべれない」ということを書くだけではなく、人が社会の中でどう生きるか、どう他人と関わるか、その本質を問いかけている物語です。
『僕は上手にしゃべれない』
この言葉を聞いて何を思い浮かべますか?
人見知りや緊張を思い浮かべるのではないでしょうか。
でもこの作品を読んでいると、それが単なる「しゃべれない」話ではなく、心の奥深くにある「生きづらさ」を象徴しているのではないかと思います。
主人公のゆーたは上手く喋れません。
「あ、あ、あ」と何度も言葉がつっかえたり、声を出そうと思っても出なかったりで普通にしゃべることができません。
でも作者はゆーたを「可哀そうな人」とは描いていません。
弱さと同時に静かな強さを持つ人間として描いています。
ちょっとした挑戦。
小さな成功。
そしてまた立ち止まってしまう瞬間、その繰り返しを丁寧に描くことで自然と彼に寄り添ってしまう。
私は気づけば自分がゆーたになったかのように入り込み、ゆーたの感動や苦しみ、痛みを追体験していました。
ゆーたを取り巻く人々もまた現実的です。
味方となり理解を示す人もいれば、馬鹿にしたり、笑いものにして傷つける人もいる。
その両方が存在するからこそ、物語はリアルに響いてきます。
私たちの世界も同じです。
優しさに救われる瞬間もあれば、心無い態度に心を折られることもある。
この小説を読むと2つの感情に悩まされます。
1つは「痛み」
喉が詰まったように言葉が出ない瞬間の息苦しさ。
クラスや人前での緊張感。
自分でもわかっていることを責められた時の痛み。
自分の過去の経験を思い出して胸が痛くなります。
もう一つは「救い」
喰らわされる説教が責められているのではなく、自分を思っての言葉だと知った時の「救い」。
それに気づいたとき、ゆーたは今まで周囲の「救い」に甘えていたこと、自分は何も頑張っていなかったことを反省し、自分なりの小さな歩みを積み重ねていきます。
その姿は心を温かくしました。
この物語は、ゆーただけの話ではありません。
社会全体への問いかけだと思います。
「普通」であることが優秀さの証とされがちな現在、その中でしゃべることに不自由を抱える人は、どう生きればいいのか、そして私たちは彼らをどう受け止めればいいのか、その問いは決して軽くないと思います。
けれどこの小説を読むと、「多様性の肯定」へとつながる道筋が見えてくるのではないでしょうか。
普通にしゃべれないからこそ見える景色がある。
それは人間関係をもっと豊かにしてくれると思います。
読み終えた後、しばらく他の事は考えられませんでした。
「終わり」ではなく「続き」を考えました。
ゆーたは劇的に変わるわけではないし、でも確実に一歩を踏み出しているのです。
ゆーたが感じたように、私自身も周囲に甘えていて自分では何も頑張っていないことに気づき、反省しました。
この反省こそがこの小説の最大の魅力ではないかとも思いました。
おススメしたい3つの理由
最後にこの本をお勧めしたい3つの理由を上げたいと思います。
1.優しい世界
誰にでも「誰にも言えない秘密」があります。
ゆーたを理解してくれる人たちにも、「誰にも言えない秘密」があります。
その秘密と戦いながらゆーたを支え、克服するために助けてくれる。
本当に優しい人たちです。
2.他人を理解するきっかけになる
言葉に不自由な人以外にも、色々な障害を持っている人のことを考え、想像できるようになる。
それは優しさの第一歩だと思います。
3.静かな希望を与えてくれる
大きな奇跡ではなく、小さな一歩の積み重ねが人生を変える。
その事実を教えてくれます。
『僕は上手にしゃべれない』は言葉の壁を描きながら、人間の普遍的なテーマを問いかける作品だと思います。
読み終えたとき、「自分も誰かとつながれる」という希望が残りました。
そしてその希望は日常の中でふと顔を出し、私を支えてくれるのだと思いました。
以上、椎野直弥さんの『僕は上手にしゃべれない』でした。




