観測監視員
曇り空に紙飛行機が飛んでいる。
「池上」はポーランドの外れで、ドイツとの国境近くにいた。今回、陣取った場所は廃墟になった教会の塔の上で、横には珍しく観測員がいる。
二日前、ドイツに着いて仕事の詳細を聞き、
(たまにはそんな仕事も良いか)と正式に仕事を引き受けた。「そんな仕事」とは、ドイツを窓口にユーロ連邦からの依頼だった。しかし、実働はドイツのGSG-9(ドイツの特殊部隊)で、自分達は観測員としての仕事だった。観測監視対象は、ヨーロッパを中心に麻薬を売りさばいている密輸組織で、ポーランドからドイツに大量の麻薬を持ち込む車両を監視し、ドイツ側で待ち受けるGSG-9に情報を発信する役目だ。
二日前にGSG-9が用意した銃器はいくつも有ったが、ドイツ製の物は一つも無かった。今回ドイツは、ポーランド側に監視協力の依頼をしたが、「そのレベルの装備は、我が軍になは無い」とあっさりと断られ、しかも、他国の軍やGSGなどの特殊部隊の入国も拒否された。ただ、一般人がこの活動をする分には我が国は干渉しない。とだけ約束はした。困ったドイツは、民間軍事会社に事の早急さを伝え、ポーランド側に着く人員を間に合わせたのだった。GSGが用意した銃器がドイツ製でないのは、ポーランド側に配慮したもので、もし事が公けになっても、ドイツに関係無く、単に密輸組織同士の抗争で誤魔化すつもりだった。
「池上」は数ある狙撃銃を見ながら、(よくこれだけ揃えたもんだ)と感心していた。しかも、中にはレミントン社製のM2010MSR-338まである。(どこから持ってきたんだこんな物)とつぶやきながらも、手に取る顔はニヤけていた(ドイツでこれが撃てるとはね♪)と内心は得したと思っていた。「池上」が選んだ銃はそれを含め三挺で、残り二挺はL96とステアーアウグだった。相棒になる観測員も到着していて、アメリカ人の男だった。このアメリカ人の話では、自分はアフガンで従軍して、退役してから民間軍事会社に登録していたが、今回の仕事は誰でも出来る訳で無く、「ちょっと特殊なんだぜ」と得意げに言った。その「ちょっと特殊」の答えは二日後、二人の上空を飛ぶ冒頭の「紙飛行機」だった。
紙飛行機に見えた物の正体は、アメリカ製の無人偵察機RQ-11「レイヴン」で翼幅1m程しかない超小型機だ。アメリカ人の観測員は、この「レイヴン」を無線操縦出来るまだ希少な民間人だった。無人偵察機を持たないポーランドは、今回の協力を断る理由にこれを挙げ、ついでに全く関与したくないのでこのような事態になった。密輸組織は、A2と呼ばれる高速道路を3〜4台の車で隊列を組んでドイツに入ると見られているが、この高速道路の通る国境近くは広大な平野部で、有人の航空機では、目立ってしまう為に無人小型機が必要なのだ。「池上」達の「レイヴン」はポーランド国内上空の担当で、ドイツ側ではドイツ製のLuna X2000という中型の無人偵察機が用意されている。「池上」は「律儀で他国間の摩擦に敏感な国民性は、まるで我が祖国の様だ」と言ってアメリカ人の観測員を笑わせた。
教会の塔の上で監視に入り、初めて2人はお互いの呼び方を交換した。
「俺はモップでイイよ」と池上は言い、「じゃあ俺はオタクだ」とアメリカ人は言った。「モップの意味は?」と聞かれ「昔の仲間に
ギリースーツ姿がモップみたいだと言われてから、こんな時はモップと呼んでもらっているんだ」と説明し、オタクは?と聞き返した。「俺は日本のTVゲームやマンガ、家電製品が大好きで家中が日本製品でイッパイなんだぜ!アフガンにもゲームを持ち込んでたもんだから仲間がオタクって呼んでたんだ」と笑い飛ばした。
「池上」は対象を待ちながらも珍しく会話を楽しみ、そんな会話のなかで、「今回はレイヴンがメーンだから、撃つことは無いよな?」と言ったが、「オタク」は、「その割りには一昨日の試射で、M2010をバンバン撃ってたじゃないか」と言った。「いや〜M2010を撃つ機会なんて無いからな〜どんなもんか試したかったんだょ」と答え「でも、もし撃つ事になったら俺はこれを使うょ」とL96をガン・バックから出した。
「オタク」は、「ヘェ〜L96か、そういえば5発くらい撃っていたな…ん?7.62mmじゃなくて…338じゃん、そうか、M2010に合わせた口径にしたんだな」と「オタク」は感心し、「池上」は、「1km程の距離だが念の為にネ。それに、L96は普段からメーンに使う銃だから、自然に手が伸びるんだ」と言った時に、二人の間に置いてある無線機がノイズ混じりに「対象が5kmに入った」とつぶやいた。




