石橋を叩くのが生き延びる手だて。
男の上空に一羽の鳥が飛んでいる。通り過ぎた訳では無い、明らかに同じ所を旋回している。おそらく猛禽類であろう。鳥には男が行き倒れの死体に見えたのであろう。ギリースーツでカムフラージュしていても、空を飛ぶ鳥、特に猛禽類を騙せはしない。しかし、男は死体では無く生きている、鳥もまさか生きた人間が何日も動かないとは思わなかったのだろう。そして鳥の誤算はもう一つ…この「死体」は撃ってくること。いつまでも頭の上を旋回されては、馬鹿でもそこに何かがあると思うだろう。サイレンサー付きのハンドガンで撃ち落とされた鳥は、大型の鷲だった。男は手際良く穴を掘り鷲を埋めていた。
さて、話を装備に戻そう。今回狙撃に用意した銃がバレットなのは単に50口径だからではない。弾頭に劣化ウラン弾を使用している点がバレットの使用理由である。通常、対物狙撃銃には劣化ウラン弾は使わない、と言うより使用例が無い。完全な特注品である。貫通力を求めるなら精々タングステン弾頭でもいいだろう。しかし、標的がどのレベルの防弾ガラスを使用しているか不明だからである。タングステン弾頭が防弾ガラスを貫通できても、標的に当たらなければ意味が無い。しかし、劣化ウラン弾は物質を貫通する際に焼夷弾の様に高温の火の玉になるのだ。しかも、狭い車内で放射性物質が拡散しながら燃えるのだから…
もう一つ理由が…何もバレットでなくても50口径を撃てるライフルは有るが、劣化ウランは非常に比重が重く、これを1000m以上飛ばすには膨大なエネルギーが必要である。当然、それを発射する銃には大きな負担がかかる。ただでさえ、50口径弾を打ち続けるとバレットでさえ銃身は精度を欠いてくる。男にとって比較的安価なバレットは使い捨てである。撤退時に重いバレットは足手まといだから、深い池や湖に廃棄するのだ。
他の銃は、通常ならばM4だがやはり身軽になりたい男は、MP5と9mmのUSPのみだった。どちらも多く出回っていて、手に入り易い銃だからである。
あとは、退路の途中に隠してある、AK47ぐらいだ。
銃以外では、撤退移動用に現地で盗んだバイク一台だけ。
以上が男の装備だ。
男が撤退プランを再確認していると、遥か彼方の山間から砂煙りが上がった。観測用望遠鏡を見ていた男は、バレットに手を伸ばしていた。




