高地合宿
「池上」は一週間後、アラスカのマッキンリーにいた。仕事のオーダーはシビアだった。標的となる朝鮮民主主義人民共和国ナンバー2、ソン・ミンファ国防委員会副委員長の「影武者」は一ヶ月と三週間後、中国チベット阿理地区に現れるとのこと。そして、この阿理地区から小型機に乗り換え、さらに山奥に飛び国境監視基地に降り立つ予定だ。この国境監視基地にはたった150mだが滑走路があり、なんと標高4000mをゆうに超えた場所にあるという。この滑走路は公式には存在せず、年に数回党の幹部や軍の幹部が視察に来る時だけ小型機が離着陸するものだった。
「池上」に課せらた仕事は、この国境監視基地で「影武者」を狙撃することだった。中国内では狙撃は難しく、例え狙撃出来ても無事に撤収できる確率は低い。となると国境付近が一番効率が良い。ただ、なんと言っても4000mを越える高地で、国境監視基地はまるで孤島の様な長細い山の頂上付近にあり、滑走路はその山の山肌を削り作られていた。一番近いインド側の山腹は、基地まで2300mを少し越える位置にある。
最初「池上」はこの地形と標高ならバレットなどの対物ライフルでいけると思ったが、いくらインドとはいえバレットをおいそれと持ち歩くのは難しく、しかもエベレスト登頂ヨロシク、雪中行軍である。少しでも軽くしたい。となると銃も限られてくる、山から山への狙撃だから、初弾を外せばセミオートでバンバン撃たなくてはならない。M700などのボルトアクションは除外される。となると軍用のオートライフルで中口径のライフル、しかもバラして運べて精度も良く手に入りやすい…「数も用意出来るからHK417を5丁と、シェイタックに7.65と365のバレルを五本づつ、あとスペシャルの弾頭を30ダースづつ発注しといてくれ」と担当者に指示していた。
「池上」はマッキンリーの麓でシェイタックから受け取ったバレルと合計60ダースの弾頭を手に、標高2000mの山小屋まで登り、銃の組み立てと弾丸の作製を行った。今回は、何もかもがスペシャル品を使用している。バレルや弾頭はもちろん、薬莢もスペシャルで作ったが検品した結果半分以上がはじかれた。これにはシェイタックの人間も閉口して、「何が悪いんだ?」と詰め寄ったが「池上」は、「これを見ろよ、炸薬無しで弾頭をセットしたが弾頭を支えるココ。ココにわずかに歪がある」と言って精密機器製作用のルーペで見せた。シェイタックの人間には違いが解らなく、ダメだと言って半分もの薬莢を受け取らない「池上」に、「明日にはコレの倍の薬莢を持ってくる」と約束させられた。
実は「池上」はマッキンリーに来る前に、自前のラボでリロードした弾丸に「あの」火薬を詰め、砂漠のシューティングレンジで10発ほど撃って試していた。そして、その火薬の性能がまんざらブラフでない事を知った。火薬のパッケージには「従来の火薬に比べ20%パワーアップ」などとコレ見よがしにプリントされていたが、こんなのマユツバと思い、「良くて2〜3%増しだろ」と踏んでいた。しかし、いざ撃ってみたら嬉しい誤算であり、「池上」の計算では、15〜16%の性能アップであり、しかも発砲時の煙も少なく感じた。「池上」は「凄いな、5%でも凄いのに15%なんて有り得ない、これで4000m越えの高地なら小口径でも相当距離が稼げるな」当然、空気の薄い高地で、風を上手く使えば5.56mmでもよく飛ぶ。しかし、殺傷能力を考えると、もう一つ上げて「池上」は7.65mmを選択し、365をあっさり切り捨てた。7.65mmならHK417である。米軍の一部はM4からHK416に装備が変わり、銃への信頼度が上がっている。米軍の偵察兵やシールズなどからも要望を受け7.65mmのHK417の配備が進んでいると言う。かの名銃M14もようやく退役であるだろう。
マッキンリーで弾丸を作製した「池上」は、更に高地へ上がり3000mの地点で100発程撃ち、身体を高地順応させてから更に1000mを登り4000mへとたどり着いていた。




