北の男達
「思い出した…あの男は中国じゃなかった」村の外れにある民家の中で、「池上」は頭をフル回転させていた。「たしか、自衛隊から韓国軍に「出張」した時に韓国軍幹部に見せられた写真に写っていた男だ」あの時、軍幹部が言っていたのは、平壌の施設「朝鮮人民軍偵察局 軍事584号室」でとらえたトップニュースだとか…その写真に写っていた4〜5人の内の1人だ。
当時「池上」は名前までは知らされてなかった為、印象は薄かったが、今、民家の外で「池上」を包囲している男達の言葉を聞いて「ハングル語だ…」と解り確信した。
男達は3人で正面と右側面、裏手と分かれており、手にはそれぞれAK47が握られていた。
「さて、困ったな、モサドのオマケを殺ったらお釣りが高くてかなわん」と念仏を唱えるかのような小さな声で囁くと、肩掛けカバンから手榴弾を一つ取り出し「今ある武器はこの手榴弾一つと、トカレフ一丁に弾が5発…なんとも心許ないもんだ」と今度は怨みがましく言うと、窓を覗き外を確認していた。2部屋しかない民家は裏口が無く窓も正面と右の部屋しかない。「池上」が右の窓からAK47の男を見ていたら、その直ぐ後ろにアラブ人の男が見え隠れしていた。「池上」は「あっ、マハドじゃないか」と驚愕して直ぐに正面の入り口付近まで行った。「あいつ逃げなかったのか!これでなんとかなりそうだ」と言い終わる前に右側面から「タッタッタッ!」とAK独特の銃声がして、それに合わせて「池上」も正面の扉を開け銃声に気を取られている男を撃ち倒した。そしてそのまま正面方向に全速力で走り、車に乗り込んだのだった。右側面後方から現れたマハドという男は「池上」の通訳兼運転手で、「池上」のいた家の家主だった。
「もうそれはしまって下さい」と車を運転しているマハドに言われて「池上」はハッとして手元を見た。「池上」の手には手榴弾が握られたままだったのだ。「池上」は手榴弾を肩掛けカバンにしまうと、「マハド、逃げなかったのかい?」と聞くと、マハドは、「ええ、実は家に忘れ物を取りに戻ったんです。そうしたら貴方が…」続けて「それよりも、貴方が探していた男はアジア人ではありませんでしたよね?」と聞いた。「池上」は、「いや〜行きがかり上仕方なく、1人殺ったら3人に追われてしまってね」「マハド助かったょ〜」と顔をクシャッとさせた。
「池上」を乗せた車は、砂漠を越えトルコ国境を越えて行った。




