怪しい依頼
アメリカに戻った「池上」を待っていたのは、やはり次の仕事だった。しかも、今回は時間に余裕が無く、下調べも現地では出来ないとのことだ。
「ちょっとリスクが高いんだけどな…何せ場所がシリアなんだ。政府もガタガタだし、軍部も怪しいし、一般市民も不安定で何もまともな所が無いときた」としかめ面で民間軍事会社の担当は「池上」に説明していた。「池上」は、「まあ、シリアがまともじゃ無いのは百も承知だが、一体シリアで何をしろって言うんだ?」と煮え切らない口調の担当に聞いた。「実は、依頼の出処がNSAなんだ、しかも、シリアのCIA支局員を始末しろだなんて話し、まともじゃ無いだろ?」「よくよく聞くと、なんでも現地採用のCIA支局員が二重スパイだとかで、アサド政権にCIA情報を流していたらしいんだ。まぁ、支局員て言ったって現地採用だから大した情報にアクセスできる訳では無いらしいから、”CIAはいつもの事”ぐらいにしか思っていないらしい。」と担当はまだどうするか決めかねる顔で説明する。「CIAは二重だろうが、三重だろうがそいつを泳がしているんならそれで良い訳だ。NSAがウチに依頼をするからには、表立って国外活動出来ない訳で、しかも、理由はアメリカ国内の安全を脅かす事情がある訳だろ?」と「池上」が読みをぶつけると担当は、「まあ、ぶっちゃけた話しそうなんだ。NSAの話しでは、どうもシリアに寝返ったそいつは、シリアの情報部員をアメリカやイギリスに潜り込ませる手助けをしているらしい。CIAは二重スパイなら三重スパイにして入国したその情報部員の活動を、更に監視対象にして逆手に取るつもりなんだろな。事務屋が考えそうなことだ。」とやれやれといった表情で担当は手元のコーヒーを飲み干した。「池上」もコーヒーを飲みながら、「ただ、CIAは承認している訳では無いから、殺ればCIAは突っかかって来るんじゃないか?それが嫌でNSAはウチにやらせようって腹なんだろ。」「それに、まだ問題がある。あんな不安定な国で、自国の国民が暗殺、しかも射殺されれば、警察だけでなく周辺の市民まで警察ヅラして追って来るぜ。それも外国人だ、逃げるのに時間がかかれば軍も黙って無いかもな」と「池上」は考えつくリスクを並べたが、口には出さない考えもあった。(どうも臭いな、NSAとCIA…どっちも怪しい集団だ。まともに話しを聞いていたんじゃハメられて簡単に切り捨てられかねないし、イギリスってのも引っかかる…)「池上」はどうも気が乗らないという表情で終始コーヒーを飲んでいた。
そんな時、担当の部屋の前を通った男が足を止め、「モップじゃないか!」と声をかけた。「池上」が「よう、Mr.オタク!久しぶりだな」と言い終わる前に男は歩み寄り握手していた。オタクは、「打ち合わせか?それとも暇つぶしか?」と冗談ぶいた口調で言った。「池上」も「いやいや打ち合わせだよ、ただ、胡散臭い内容でね、どうするか決め兼ねていたんだ」と言うと「ひょっとしてシリア絡みか?」と言ったものだから「池上」は驚いた。「何だ、オタクもその絡みで来たのか?」と聞くと、「いやいや、実は昨日までイスラエルにいたんだが、モサドからの情報で、CIAが慌てた様子で「シリアからの入国に注意して、特に白人以外のアメリカパスポートの所持者に気を付けろ」て通達があったとかで、モサドは、「我々がそんな人物を入国させる訳ない」と笑っていたよ。ただ、モサドもシリア情勢にはアンテナを張っていて、この一週間、シリア国内の情報機関が慌ただしく動き出したといっていたよ」「俺は、別件でモサドからの情報提供を受けに行っていたから問題無く出国できたが、ユダヤ系アメリカ人でも入国、出国が厳しくなっていて空港のダイヤがメチャクチャになっていたナ」
「池上」は、(なるほど、まんざらNSAの話しは、嘘では無いようだが、でもまだイギリスが引っかかる…第三者としての意見が聴ける所はないかな…第三者…)と見上げると、オタクの顔が…「なあ、君はイスラエルには所縁があるのか?ひょっとして」と言い終わる前に「あぁ、俺はユダヤ系アメリカ人だし、今も、叔母がイスラエルに住んでいるんだよ。モサドの幹部に叔母の教え子がいてね、こいつが叔母には頭が上がらないんだ」と笑った。「だから、ここ(民間軍事会社)でイスラエル関係は俺が担当することが多いんだ」と言い終わる前に、今度は、「池上」がオタクの手を握っていた。
一時間後、オタクの協力のもと衛星電話でモサドからシリアにおけるCIAの状況を細かく聞き、イギリスや他国の絡みもリサーチ出来たので、担当には、「なんとか目星が付いたから、行けそうかも」と説明した。




