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第87話 Beginner's luck 瓢箪から駒 本から凰雛 (2)

 


 夕暮れの陽が射し込む窓をカーベル・アリスは、そっと閉めた。

室内、油灯に火を点すのはカーベルと女王都高等学院の同級で友人、そして最下級文官のララメイン・アイス。

 王女殿下の自室に部屋の主を含め五人の女が集う。

ソファーに浅く掛ける二人の若い女は全身から脂汗をにじませ今此の場に居る場違いな自分に居心地の悪さを感じていた。

 そう、卓を挟み相対するのは此の国の王女。

ララメイン・アイスは人数分の茶を配る。


「カーベル、此の二人を紹介してくれるか」


写本の一件から王女付き文官となったカーベル・アリスとカーベルの推挙により同じく王女付きとなったララメイン・アイス。

そして今、新たに二人の人材を王女に推挙する。

 一人は、やはり下級文官で雑用部署勤務のエリザース・マイン。高等学院の後輩。

 一人は、カーベルの同郷で幼馴染、下級兵士、それもペーペーの衛士、ロッサーニ・ママレル。

 王女を前に雑な紹介をするカーベルに

「ア、アリス先輩、、、殿下に失礼、、、ですよ」

と恐る恐る窘めるエリザースにそうだぞと同調するロッサーニ。

 茶を配り終えたララメインは王女の対面、新規の二人の横に腰を下ろしカーベルは王女の隣りに腰を落ち着ける。


「面倒な事は抜き礼儀礼節は最小限、これから忙しくなるよ」


友人二人の苦言を流すカーベルと一切気にする事無くティーカップを手に取る王女アルウル。


「ん?なんだ此の茶は?薫りがせぬぞ?」


「麦茶です。今後、紅茶葉を購入した事にし裏金を用意します。殿下の無駄遣いも全て見直し不必要なものはどんどん裏金に代えていきます。」


抑揚無く告げるララメインにアルウルはぐぬッと短く小さく苦鳴を漏らすも、


「殿下ぁ〜 殿下の放蕩を抑えるだけで貴族の横槍を受けずに幾つもの改革ができるんですよ〜。兎にも角にも、さきだつものは、お・か・ね! 理解りますよ・ね?」


王女相手に不敬が過ぎるカーベルとララメインに

狼狽したエリザースとロッサーニが詰め寄る、先輩! アリス! と。

対するカーベルは二人を手で制し、まあ待て待て落ち着いてと。


「殿下、陛下より許可は頂けましたか。」


「うむ、政の練習と称して貧民窟の一画を私の好きにして良いと許可を得た。多少の予算と人員も限られた人数だが下級官であれば好きにして良いと許可も得ている。」


結構で御座いますと応じるカーベル。

貧民窟、アルウルでも知る浮民の溜まり場、無法地帯。

女王の直轄領でありながら一切の税収が無く何も産まない場所。

本日の朝議でカーベルからの提案をアルウルが告げると高位貴族高官から一切の反対意見も無く口にしたアルウル本人が拍子抜けする程にすんなりと提案は通ったのだ。


 殿下、朝議とは権力、利権、金を奪い合う場ですよ?

 国を良くしたい?そんな殊勝な心の持ち主があの場の椅子に座る訳ないじゃないですかww

 

 幾度も席に座り幾度もつまらない退屈だと無為に時間を浪費してきた王女。

 一度も朝議の場を見る事も知る事も無いはずの下級文官が識る。

 自分に足り無い何かが埋まった奇妙な感覚をアルウルは憶える。



 最下級衛士(ロッサーニ)をカーベルが促すと彼女は卓上、王女の前に一枚の(パピルス)を差し出した。


「殿下の麾下に置く兵士十名の名簿です。」


カーベルの言葉に紙を手に取り目を通す。

退役を待つだけの老兵と地方出身の若い兵士、上職でも兵士五人を束ねる兵長が一人のみであった為かアルウルは大丈夫なのか?とカーベルに尋ねる。


「此の者達は優秀なのか?」


「ええ、それはもう、レキ国では稀なる逸材ですよ」


ニヤニヤ顔のカーベルを胡散臭いものでも見るかの様な表情をする王女に対し友人の言葉を補うララメインとロッサーニ。


「真に優秀な兵士、官吏は賄賂を受け取らない」


「えっと、殿下直下の隊の長に元上官のラクレール・ニチエ様を推薦したいのですが」


ララメイン・アイスの言葉にアルウルは、あッ、と小さく驚きの声を漏らした。

ロレ富国論にも同様の一節が在った事を思い出す。

同時に自身が余りにも周囲の兵士官吏に無関心で在った事を知る。


「殿下ぁ〜、こちらの紙束全部に署名を〜」

「こちらの木簡にも全て署名をお願いします」


「任命書は分かるが此方の木簡は?」


「大工石工鍛冶、各組合から職人を紹介させます。」


アルウルは言われるまま署名をしながら、ふと。


「で、私は何故署名をしているのだ?政をする為にお前達を直下に入れたが、まだ何も決めておらんではないか。」


「あ?気づきました?此方で勝手に進める予定でした。」


  ニヤニヤ(・∀・)      Σ( ° д °;)ハッ!? 


「ちょっと待つのだッ! カーベルッ貴様何を企んでいるッ!!」


「面倒臭いなぁ」ボソッ(‘・ω・)


「カーーーーベルうううッ!」(#゜Д゜)


「殿下はですね〜仔細を知り事細かに采配する必要は、まぁ〜〜〜ッたく無いんですよ。殿下は最終目標を立てる。必要な官に任せる。官は最終目標に向けて小さな立案と殿下の名を全面に出し推し進める。殿下は私達を使い、私達も殿下と殿下の名を上手く使う。才の無い君主は部下に任せる才さえあれば良いのです!」(´=ω=`)


「そうか、、、ちょっと待てえええッ才が無いとか言うで無いわッ!!」ヽ(#`Д´)/


怒れる王女

スル〜する王女麾下筆頭官吏

冷静な次席官吏(ララメイン・アイス)が業務説明をする


「貧民窟の住民に家と職を与えます。当面は食うや食わずの者達への炊き出しから。職人には必要最低限の家を大量に建てさせます。仕事は貧民窟近郊の岩山から石の切出しと採掘です。」


「採掘!?銅か?鉄か?まさか金銀かッ!?」


「殿下、あ・ほ・ですか」


側近筆頭の容赦ないツッコミに絶叫あげる王女を口を閉ざし只見守る三人。

王女が幾ばくか落ち着いた頃合いでララメインが説明する。


「現在ロレ国が幾つかの石を大量に買い集めています。当面の資金繰りにしますが将来性は不安定で先が読めません。麻畑と紡績業も考えています。」


石を売るは理解できたが麻畑と紡績と聞かされてもチンプンカンプンのアルウルの為に麻の有用性を説くララメイン。

食用となる麻の実、麻から取り出す繊維。

――何よりも育成が早いです。

次席の説明後、筆頭文官はニヤァ〜と王女に笑みを向ける。


「殿下ぁ〜。此の事業、殿下にとって本当に美味しい事業ですよ。当面の出費は掛かりますが回収の見込みはある。こう考えて下さい、此の事業で殿下は浮民の心を掴む。殿下の支持者になるのです城壁を強固にする以上の価値があり殿下がいざ窮地に陥った時の力になるのですから放蕩三昧を適切な遊興費にするだけで叶う!安い出費です。」



カーベルの言葉の真意を完全に理解できずであったが自己の支持者、力、安い出費の単語を完全に信じた次代の女王が此処に居た。

  チョロ姫 レキ・アルウル (*゜∀゜)ニパッ



今後の予定を話し合う。

ララメイン・アイスはエリザース・マインを伴い各組合を周り折衝を。

ロッサーニ・ママレルは十名の兵士の招集。


「では殿下、明日は私と一緒に商談にいきましょう。殿下の御名前存分に利用させて頂きます。」


商談に対する幾つかの注意点を告げカーベル・アリスは不敵な笑みを浮かべる。






 翌日

王女側近筆頭に先導され近衛兵二名に後方を警護される王女殿下はバークス商会の扉をくぐった。




 

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