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第79話  WILDに 我儘に 心赴くままに その男凶暴につき(3)


 普段の世話を養女の初に任せっきりであったマレは今日くらいはと愛馬DANGANを藁束にてブラッシングしていた。

 背後から声が掛かった。


「ふッ 今日は良い勝負をしようじゃないか。まあ僕が勝たせてもらうけどね。」


背後、振り返った先には朝の陽光に照らされる純白の礼服に身を包む少年テオキン。

言葉の最後には金の髪を撫でつけ後ろへと流す。

 さらに、マレの横に侍りDANGANの世話を補助する馬丁(三十路女)に流し目を送った。

 春の新緑に囲まれマレは独りぽかんとした表情で歩き去るテオキンを見送るのだった。( °д°)







「ヨシツネッ!すまん!」


 うぁ ('A`) 酷い無茶振りktkr


眼前で詫びる王女から視線を逸らせば、にこやかに笑み弩を握り締める公女レキス・アーシスが視界に入った。

男のポーカーフェイスが崩れ落ちた。


  ギラ(`・ω+´) ギラッ    (( 'Д`;))クックワレル



王女アルウルの謝罪、公女アーシスの不敵な笑み、そして先程のテオキンの行動で全てを察したマレだった。

アルウルは弁解弁明する。

押し切られた、断りきれなかった、貴族達の()()、付き合いもある。

そう、遊戯。

互いの()()を賭けた狩猟勝負。


「あ、あのだな、わ、私はアーシスの愛妾など、求めては、、、ないからな!そこはきっちり断ったからな!勘違いしないで欲しい!」


深く吐息する男を前に少女は不安を滲ませた表情で見上げるのだった。

最善を尽くすしかないですねと返された言葉に少女は深く安堵する。


今日の狩りは二対二のチーム戦、私が勝利しましたら一晩ヨシツネ様をお借りいたしますわ。

公女の提案、そして公女の愛妾は賭け自体を知らされていない。

なりふり構わず獲りに来る肉食公女。

(愛人)として自身の方が格上と識らしめたい少年。

愛人の機嫌を損ねぬようオロオロする王女。

ハァ−('A`)マンドクセ貴族王族の我儘に呆れ返るマレ。

四者四様の思惑渦巻き狩猟遊戯が始まる。







      フ―(´・ω・`)―ン

 森の木々を縫うように従者が鳴物を叩き走る。

向かう先は木々の無い拓けた場所にて弩を構える王侯貴族が待機する場所。

弩を構え獲物を待つアルウルの斜め後方にて愛馬の手綱を握り大弓と矢筒を背負う男。

 此れが?此の世界の貴人の狩りなのか?と特段感慨も無く眺めていた。

追い立てられた野兎、距離十歩というとこか、王女と公女が弩を弾く。

王女が放った短矢(ボルト)は空をきり公女が放った矢に射抜かれた野兎は薄茶の躯を震わせ小さく一鳴きし青草倒れ伏した。

時折、地に撒かれた餌に釣られた野鳥の弩を向ける王女公女。

手慣れた公女外す王女、公女は笑み深める。

一向に役にたたぬ愛妾二人。

マレの横でDANGANは悠々と青草を食む。


    勝負師(;`ω´)マレ

   まだ慌てる状況じゃない

      此処は見や!


王女が兎一匹仕留めれば公女は兎一鳥一羽仕留め時間を追うごとに拡がる差に王女の表情には焦りの影。


  くっ 差が縮まらぬ


焦れる王女に天が応えたのかはわからない。

従者達が悲鳴を挙げた。

四者、悲鳴に眼を向ければ猪突猛進にて向かい来る大猪一頭。

突撃を受ければ大惨事となりうるが千載一遇の好機と弩を猪に向けるテオキン、勝負所と構え機を窺うアルウル、アーシス。

 テオキンが弾く矢は明後日の方へ。

 弩を構え引き付ける王女公女の左右には盾持ちの近衛が待機する。


フッと吐息し引金を弾いた、危険を察知した野性は減速し王女の射た矢は横をすり抜ける。

公女はこの機逃さずと引金を弾いた。

狙い違わずの公女の矢、減速した猪。

そして方向転換、大地を削り猪は曲がった。

大猪の尻後方を抜けていく矢に王女公女共に矢を番えた弩を寄越せと従者に叫ぶを。


 “ハッ”

男の掛け声、一拍遅れ嘶く馬の声が掻き消す。

王女公女の横を一陣の黒い風が吹き抜けた。




 駆ける大猪は脚にさらなる力を込め加速するも選びぬかれ厳選された血統より産まれた黒馬は苦も無く追いつき、並び、余裕を見せつけるをかの如く並走する。

 矢筒より抜かれた二本の矢。

一本を番え、一本を指の間に挟み込み三人張りの剛弓を引き絞る黒衣の男。

騎乗者の意を汲み並走を続ける漆黒の巨馬。

追うものと追われるもの。

狩るものと狩られるもの。

彼我の距離わずか三メートル。

マレは腰を上げ鐙を両膝で挟み込み半立にて、


 此の距離 外さん


至近距離からの剛弓一矢、猪側面中央を射る。


巨体がぐらりと揺れた。

失速する。

しかし猪はその体躯に見合ったタフネスさで走り続けた。

停まる事、それは生命を止める時と足掻く野性に黒衣の男は無情をもって第二矢を番え引き絞るを王女と公女は見つめていた。


 あゝ 北西の遊牧民は たしか あのように


馬上弓、レキ女王国北東、北方三カ国と呼ばれる地に隣接する草原遊牧民と男を重ね観る。

猪の巨躯に二射、三射、四射と矢が突き刺さる。

失速する大猪に五本目の矢が突き立つと共に、その脚は縺れ大地青草の上を滑るように倒れ伏した。

 伏す猪の横を過ぎ去る黒馬の上で左手に弓、無手の右手を眼前に。

 男は祈りを捧げる。

 南無阿弥陀仏。

黒馬は嘶く、鬨の声を挙げるかの如くに。


     アッ ( °д° |||) チョマ


「だんがあああああン すとーっぷううううう」


マレの焦りと制止を意に返さず脚に力を込め加速する漆黒の巨馬。


「行って、しまいましたね」


「そうだ な」


狩った獲物を残し午前の散歩に駆け出すDANGANと乗せられたマレを只見送るしかできない王女と公女。

従者四人掛かりにて引き摺られる大猪に眼をとめアルウルはニヤリと口角を上げた。


「アーシス?此の勝負、妾の勝ちであるな。」


「あらあら、殿下?猪一頭で兎三匹換算の取り決めでわ?」


「重さでいえば妾の圧勝ではないか。」


「約束は約束で御座います。それに、まだ始まったばかりではございませんか。」

「よかろう!」


ころころと笑う従姉妹にアルウルは歯噛みし僅差のリード守り抜こうと躍起になる。

その後、目星い狩果も無く迎えた昼食、更には午後の喫茶を前に狩果は逆転した。


「ヨシツネさん、戻られませんね。」

「う、うむ。」


終始空気扱い放置される公女愛妾を他所に二人の女達は未だこの場に戻らぬ男を気に掛けつつもテーブルについた。

テーブルに供される高級茶葉の紅茶、立ち昇る湯気と芳醇な香りを前にして。


「で・ん・か♡」


にこやかに微笑する公女に対し王女は端正な顔、眉間に皺を寄せ両手で顔を覆った。

狩猟の終わりを告げる午後の喫茶。

勝者は、、、、。

 


 周囲、従者、近衛が驚き歓声を挙げた。


 木々を切り拓いた平原に皆が眼を向けた。


「殿下、(わたくし)昂ってしまいましたわ。」


ほうと吐息する従姉妹を横に王女は誰が見てもわかる程に両頬を吊り上げて笑んだ。


「アーシス、私達の勝ちのようだな。」



視線の先、漆黒の巨馬の背に猪一頭乗せ、黒衣の男は鹿を背負い宿営地へ向かって歩く。







  時代が 世が 求める 男は 

  彼のような

  そう 野蛮な


 陽傾く午後。

下品な 野蛮な 此れだから下々のものはと口にするテオキン。

テーブルを前にし純白の礼服を纏う愛妾は露骨に顔を歪め視線を逸らすを一瞥し。

公女(アーシス)も一瞥をくれ視線を逸らすのは獲物を血抜きし解体する黒衣の男、王女もまた男を凝視するに堪えず。

黒色の服は草と土、そして血に塗れ、ナイフを握り鼻歌交じりに獲物を捌く。

宮廷厨師は解体された部位から上等な物を見繕い早めの夕食用意に掛かり従者は大量の塩にて塩漬けに。

 マレは肉の一部を燻し燻製を造り始めたかと思えば次の獲物の解体を始める。

王女、公女と愛妾は血なまぐさい解体から眼を逸らしティーカップを傾けた。







「ヨシツネは、なんだ、多才だな。」

「ええ、まるで戦場に居るかのようですわ。」

「ふむ。」

解体作業に区切りがつき、王女公女愛妾が宮廷厨師が調理した食事と共にワイングラスを傾け今も燻製造りに勤しむマレを眺めていた。

陽は傾き近付く茜の下、狩った獲物の肉に舌鼓を打つ一時。

 その一時が次の瞬間には霧散した。



「貴ッ様ぁ! 何をしておるかッ! 此処は王族専用地であるぞッ! 此の下賤の者がッ!」



 怒声挙げる近衛兵、優雅な一時に無粋な程度の関心しか示さぬ王女と公女は一瞥すらせずワイングラスを手に吐息する。

近衛兵が年端もいかぬ少女を取り囲み威圧する。

歳の頃は十程か、貧相な体躯にボロ布の服は如何にも貧しい平民、そうそれはレキ女王国の一般的な平民の子供。

怯え震える少女が胸に抱えるのは一羽の鳥、王女公女が遊興に狩った一羽の鴨。

 盗んだ鴨一羽を必死に細い両腕で抱える少女から力強くで奪い返す近衛兵、更には隣に立つ近衛が腰に佩く剣の柄に手を掛けた。

 王族専用狩場に無断で侵入した。

更には王侯貴族の獲物を盗んだ。

不敬であると斬り捨てるには十分な理由であった。


 すっと黒い影が少女と近衛の間に割って入る。

黒い影は近衛の柄に掛けた手に己が手をそっと重ね。


「失礼」只一声。


王女殿下の愛人を相手取り此れ以上分が悪いと柄から手を離す近衛にマレは微笑を向けた。

 だからだろう、別の近衛が少女を掴もうと手を伸ばす。

見えない場所で、離れた場所で、()()して参りますと小声で告げ。


 金属を打つ打音と共に銅板が茜の陽光に煌めき舞い次に音を立てて若草の上を転がる。


 輝く近衛鎧が草に塗れ地に伏す近衛兵。

唖然とする周囲全ての者達を前にしてマレは恵体から繰り出し近衛の胴を蹴り飛ばした脚をゆっくりと下ろす。


「お〜わりぃ 足が滑ったわ。」


全く悪怯れず謝罪する王女の愛人に俄に殺気だつ周囲を囲む近衛兵、幾人かは腰に佩く剣の柄に手を掛ける。

そして次には男の行動は周囲を囲む近衛皆を困惑させる。


「悪い 悪い 大丈夫か」


地を転がった近衛兵に手を差し伸べにかりと笑う男。

蹴りつけられた近衛兵も此の状況は不味いと察し王女殿下の愛人の手をとった。


「よっ!」


掛け声一つ、勢いよく引き上げるマレ。

黒衣の男が馬鹿なのか、素直に手を取った近衛兵の女が愚かだったのか。


黒衣の男は近衛を引き上げると共に一歩踏み込む。

身を翻し膝を腰を落とし、


「そ〜らッ “せいっ”」


完全なる不意からの一本背負い投げが綺麗に決まった。

夕陽に煌めく銅製鎧を纏う近衛兵が今も剣の柄に手を掛けたままの近衛兵に音を立て打つかり合い二人揉み合い大地に伏す。

“なッ” “ひっ” と短い悲鳴が挙がったかと思えば次には周囲皆が沈黙した。

 何が起こったのか理解追い付かず皆が右往左往する事しばし。

独りの近衛兵が地に伏し呻く二人の同僚を見下ろし理解した。

 栄光あるレキ女王国近衛兵を此の男は侮辱したのだと理解した。

 理解は感情を一瞬にて激発させ。


「貴ッ様あああああああああ」


 吠え、腰の剣を抜く。


 それは一瞬の事。


 マレもまた、腰を落とし後背に隠し持つ(ククリナイフ)を抜き放ち相対する。


「やっ やめよ」


それは震える様な悲鳴の叫びとなって王女の口からでた。

わずかな間に次々と起こった凶行に呆然とし自失し今やっと声にだしたアルウル。

独り近衛は王女に視線を向け所在なげに抜いた剣を降ろすも、


“ふッ”


一歩、二歩、三歩。

一瞬にて詰める間合い。

鉈を強く握り締めたままに近衛兜の下、剥き出しの顎に向かって拳を叩きつける。

手加減無き拳打、吹き飛び草上を転がる三人目の近衛兵に躊躇なく駆け寄り兜側面を蹴り上げる。

そう、囲む近衛兵、()()を無力化した。

最悪の状況を視野に入れての立ち廻り。


「やめ、、、やめよ!ヨシツネッ!」

「馬ッ鹿じゃね〜の。()()はガキの玩具じゃね〜んだよ。覚悟あって抜いたんだよ、なあッ!!」


此の国の王女を一顧だにせず周囲に警戒の視線を送る男の蛮勇。

草の上、未だに握られた剣、握り締める指ごと踏みつけ踏み躙られ呻く近衛兵。

未だ眼前の光景に理解追い付かず言葉失う公女。

野蛮なと顔を顰めるも我関せずの公女愛妾。

王女殿下愛人の蛮勇と暴力に呑まれる近衛兵と従者達。

 場を何とか治めようとアルウルは金切り声を挙げ叫ぶ。


「下がれ!下がれッ! 皆、下がれええええ」


取り乱す王女を前にし、これ以上は自身に勘気及ぶと場から距離を取る近衛と従者。

しかし、此の男だけは空気を読まかった。


「てめえッ! なに睨んでンだッ! ブッ殺すぞッ!」


貧民窟のチンピラの如き恫喝の言葉を地に伏す近衛に浴びせかけまたも兜側面を蹴り飛ばす。

男の異常さ異様さを十分に理解した同僚近衛の独りが声を挙げ場に駆け寄った。

お許しを 今、今下がらせますのでと叫び地に伏し呻く近衛兵を引きずったのだった。

更に一人が加わり二人掛かりで引き摺られていく近衛を前に“ハッ”と威丈高に一声吐き捨てる男に場の皆が眼を付けられぬ用にと顔を背け更に二歩、三歩と距離を置いたのだった。

マレは、そんな彼女達に背を向け、問題の原点へ向き合う。

屈み込み、視線を合わせ、


「お嬢ちゃん、どうした?そんな鳥よりおじさんがもっと良い肉を分けてあげるぞ?困ってるのかな?おじさんに聞かせてくれないかな。」


 茜に染まる空の下

 狂気の面を脱ぎ捨て

 慈愛の笑みを向ける

 誰も彼もが黒衣の男を理解する事かなわず



 そう、理解 できない



 「ヨシツネ」



男は此の国の王女に背を向けたまま子供の言葉に耳を傾ける。



 「ヨシツネ」



男は子供の話しに幾度も頷き、そうか、大変だったな、うん、うん、と。

話しを聴きながらも荷物袋に出来上がったばかりの燻製肉を詰め込んでいく。



「ヨシツネッ! そのような小汚い平民の小娘など捨て置けッ! 後の事は近衛に任せ余と食事を共にいたせ! 聴こえておるのであろう! 妾はレキ・アルウルなるぞッ!!」



 癇癪混じる少女の声

 振り返る男にわずかに安堵し

 次には絶望する


  “チッ”


 一国の王女に向かって

 舌打ちと共に不快だと表情に浮かべ


  “マジ うぜぇ”


 ぼそり呟いた


「な、なにを いうて、おる――」

  余はレキ・アルウルなるぞ、、、、



王女アルウルの問に応える事無くマレは立ち上がり向き直る。

胸に片手を当て、慇懃に一礼すると共に、


「殿下、短いようで永らくお世話になりました。おさらばです。」


 別れの挨拶

 挙げた顔は曇り一つ無く晴れやかに




 対する少女の顔から表情が抜け落ちる

 

 なにを 申して おる のだ

  余は レキ、、、アルウル、、、


 


 少女の視界に映るは

 平民の子供を抱きかかえ荷袋と大弓を背負い

 漆黒の馬へと向かう男の背中

 それは只の風景の様に目に映る

 何処か現実感も無く夢幻

 


 ああ 夢 なのだ

 起きれば 目を覚ませば

 そう 私は レキ・アルウル

 此の国の次代の女王

 


 黄昏の空 遠ざかる馬の足音




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