第75話 不滅の誓い 猛き鷹は舞い上がる
その日
「虎人族の族長となしつけてくる。」
部族の統合、連合体構想。
マレの想いに応えんが為と前のめりになるハク。
センも両眼を細め反対する事は無かった。
現状、話しを持ち込んで返事を貰えずとも虎人族との関係悪化は無いだろうとふむ。
「あ〜じゃあ、俺は、此処から一番近い鬼人族と話ししてくるよ。」
話し合い。本接触前の折衝程度の気持ちでホウは深く考えずにでた言葉だった。
前触れ、先触れは必要だなと感じ。
「ン。では俺が砦の留守は預かろう。」
重籐弓、矢と矢筒、腰に佩く鉈。
念の為にと水と食料を用意し麻袋に詰め馬に跨る。
「じゃ〜行ってくる。上手くいったら儲けものくらいに思っといて。」
笑顔でセンに告げハクと馬を列べ砦をでた。
馬の背に揺られゆるりと鬼人族分離派の集落前に到着したのは午後の遅い頃。
馬を引き集落の中へと入り最初に出会った鬼人の女に自分の立場を告げ族長との面会を申し出る。
緑一色の軍服とベレー帽。
馬を引き背には大弓と矢筒。
ホウの身形を一目見て女も察する。
直ぐにの言葉を残し駆け出す女、ホウはすんなりと鬼人分離派族長との面会が叶う。
なんか、、、辛気臭い集落だな。
は?、、、何故?猫人の子供?
うあ、、、
族長の家へと向かう道すがらホウは異様な光景に違和感を抱いた。
荒縄で繋がれる猫人。
鬼人の女達から暴行を受ける鬼女。
ホウは集落の澱んだ空気を感じとる。
「いやぁ〜良くぞおいでくださいました。私が此の集落を束ねる族長のドゴルです。」
二メートル近い上背の巨躯巨漢の赤鬼が両手を広げ出迎えた。
狼人族としては小柄な百八十半ばのホウが見上げた先には満面の笑み。
男が族長?
若いな、、、
ガタイ良すぎるし、納得ちゃー納得だけど
族長は経験と知識が問われた。
各部族ごとの特徴、差異はあれど概ね同じである
鬼人族であれば女性かつ年長者、元族長のママヤイのように。
では、この鬼男は、と暫し考えるも。
「何やら集落の外で大変な事が起こっているようですね。まずは落ち着いてゆっくりとお話しをお伺いしたい。ささ、どうぞどうぞ此方へ。」
終始笑みを絶やさず族長は自身の家、一際大きい竪穴住居へホウを促す。
藁編みの敷物に座し族長と対面するホウは自己紹介と大凡の経緯を語った。
自分は狼猫鬼人族連合体の兵士ホウ。
三度前の秋、此地に神が降りた。
我等狼人に多くの恩恵をもたらした。
長い語りを族長ドゴルは笑顔で相槌をうち聴く。
左右に侍る女達も口を噤み神妙な顔つきで使者の狼人の話し聴いた。
神と共に村を造った、造っている。
この前の秋の終わり、人族の大きな群れを我等狼人と神によって滅ぼした。
この時、ドゴルの、御付きの女の、表情が険しくなる。
表情の変化と戸惑いを察したホウではあったが我等が勝ったのを驚きと好意と解釈する。
その後、猫人と鬼人に神様は庇護を与えた。
今の彼等彼女等は連合体の仲間である。
「我等に敵対する人族、レキ国との次の戦いに向け準備しております。ドゴル族長、連合体に参加し共に戦いましょう!」
ドゴルは胡座座りにて両腕を組み瞑目し数度小さく頷き。
「成る程、成る程、そうでしたか。そうでしたか。」
「もう家族を殺され、住処を焼かれる事も、寒さと飢えに苦しむ事も無くなるんです。どうか族長殿、今直ぐ返事をくれとはいいません。一度、じっくり考えて頂けませんか。」
対面、胡座座りのホウは深く頭をさげた。
対するドゴルは膝を大きく叩き打ち鳴らす。
「相分かった!皆!ホウさんを歓迎する宴を準備せい!」
族長の号令一下、準備に席を立つ女達。
大きな顔に皺を深め笑みを向ける大赤鬼。
ホウはひどく安堵し、連合体、義兄弟と共に創る未来を想い胸熱くする。
その夜、粗末ながらも食事を供され、族長と差し向かいにて。
「ドゴル族長、連合に参加して頂ければ今よりも、もっと美味しい物が食べれるようになります。」
度々、連合参加の利点を説くホウ。
族長と席を共にする鬼女達は、それは凄い、素晴らしい、楽しみですとホウを持ち上げた。
「では、私共も、とって置きをだしませんとな」
族長の言葉に鬼女が素焼き壺から碗に白濁した液体を掬いホウへと手渡す。
「あー濁り酒ですか?」
「ええ、お知りでしたか。鬼人族伝統の酒です。ささ、ぐいっと。」
米と雑穀を口噛み放置にて発酵させた原始的な酒
アルコール度数は10%前後であろう。
ホウは碗に波々と注がれた酒を見つめ。
あ〜酒はな〜 祖先から今迄酒を呑む習慣が無いだろ?
一口、二口楽しむとか、料理に使う位がいいぞ?
麹発酵のどぶろく。
ぐい呑み一杯を前に説明する義兄弟。
俺、酒ほとんど飲まね〜しなww
ぐい呑み一杯のどぶろくに半日眼を回したあの日を思い出す。
「どうされましたかな。此れは祝い。契りの酒。連合参加の橋渡しよろしく頼みましたぞ。さあ、ぐっと呷られませ。」
止まる手、族長は笑みながら尋ねる。
場の空気、饗しの場を壊すまいとホウは碗に口付け胃に流し込む。
鬼女達が感嘆の声を挙げ囃す。
「良い呑みっぷりですな!」
族長の賞賛の声。
渡される次の酒碗。
いつしか鬼女達が手拍子する。
一杯のみ深く吐息。
また一杯と手渡され飲み干し吐息するホウ。
ホウの視点は定まらず。
体前後左右に揺れる。
体は熱くなる。
混濁を始める意識。
手拍子と歓声にながされて。
また一杯。
また一杯。
また一杯。
寒い 寒い 寒い 寒い さむい
寒さに目を覚ます。
群青の青。
明けの星。
澄んだ空気を深く胸に吸い込む。
混じるのは潮の香り。
半覚醒の状態にて身を起こそうと。
―――――――――――――。
そして絶句する。
視線を左右に
杭に荒縄で縛り付けられた手首
視線を下方に
左右の足首も同様に
野外、屋外、集落の中心。
大地に五体投地。
大の字にて縛り付けられた己が体。
朝の冷えた空気と現状に一瞬に現実に引き戻される。
“ドゴるううううううううううううう”
吼えた。
一人、鬼人の女が住居より這い出す。
宴席の場に居た女の一人。
ホウの吼え声に安眠を邪魔された女は気怠そうに立ち上がり赤髪を掻きながら大地に拘束されるホウへと近付き。
「うっせええわッ」
ぐぇ
女の苛つきを込めた爪先がホウの脇腹を蹴り上げた。
苦鳴一声。然し退けぬと。
「どういう事だ! ぞく」 ぐぇッ
先程以上に強く脇腹を蹴り上げられ呻く。
さらに数度眠りを妨げられた腹いせか蹴りつける。
「だーってろ 眠いんだよ」
ホウの質問に一切答える気の無い女は背を向け自身の寝床に戻っていった。
「ハク セン タン マク マレ Brother すまん」
この先を想い 男の頬を 滴一つ
“ピィュゥゥ―――――――――――”
雲無き青空を鷹が舞った
狼人の若者は澄んだ空を見上げる
「ンッとに、余計な事してくれたもんだぜ」
ドゴルの言葉が耳を抜けていく。
昨夜迄の歓迎の笑みは抑えきれぬ苛立ちに変わる
周囲を囲む鬼の女達の手に握られる石斧。
斧と名付けられた鈍器。
「こっちは人族の奴等とよろしくやってんだよ」
「小競り合いに勝ったくらいで調子に乗りやがって、次、大勢の人族がやって来て蹂躙されるだけじゃねえか。」
「どれだけの人族が来ようが我等連合体と客人神恵比寿が必ず勝つ!」
“けっ”「神てのは厄病神かよ?そんな奴信じて死ねるかくそがッ。」
「我が友、我が義兄。恵比寿を愚弄するな。」
捕縛されたにも拘らず怯む事なき若き狼人に族長は苛立ちを募らせていく。
調子こいてんじゃねえぞ ガキがッ
ドゴルは傍らの鬼女に顎をしゃっくった。
やれ。
青空に向かい放たれる絶叫。
集落中に響いた苦鳴に囚われの猫人、奴隷の鬼女が耳塞ぎ目を逸らす。
私刑、此れは見せしめ。
囚われの猫人、奴隷の鬼女へ見せつける。
容赦無く上段から振り下ろされた石斧。
左腕の肉が裂け骨が砕ける。
腕が石刃が大地が朱に濡れる。
「あ〜あ、厄病神なんか信じたばっかりによ」
血塗れの斧を手にしゃがみこんだ鬼女の言葉。
ホウは痛みに涙しながらも歯を何度もがちがちと噛み、フッフッと荒い呼吸を繰り返し苦痛を紛らわせ。
「違う!断じて! 己が無知無力を知りて、それでも尚、奇跡起こすが恵比寿!!我等此地に住まう者達の希望 “恵比寿”!」
叫ぶ声、痛みは一瞬の忘却。
強く談じる若き狼。
“ああン”「言ってろ チンカス」
女は同じ箇所、同じ場所へと斧を叩きつけた。
さらに肉裂け骨砕け血が滴る。
石斧を前後させ痛覚神経をゴリゴリと削る女の嗜虐の笑み。
ホウは幾度も声を挙げ痛みに絶叫する。
“あがあああああああああああああああがああ”
逆側、右腕に叩きつけられた石斧。
痛みに耐えきれず絶叫する。
「力ねえ神とか、信じるお前も、別れた鬼共と、あの糞婆も馬鹿だろ。」
三十人に一人産まれる鬼男。
恵体にして力強く自身を信じ疑わなかったドゴル
そんな彼を信じ部族を割り付いて来た者、二百弱
自分の選択は間違っていなかったと確信するドゴルと周囲でホウを嘲る鬼の女達。
次、やれの族長命令に二人の女がホウの左右の脚に分かれしゃがみこんだ。
「「そ〜らっ」」
“あがががっっっがああああああああああああ”
両脛に石斧が叩きつけられた。
荒い呼吸。
「我等は、知識無き事、を知り、力無き事を、知りて、初めて、ハッ、、知と力を、、得られ、る、貴様、には、、理解るまいッ。」
無知の知を説くホウ、それは再びドゴルの勘気に触れる。
「おう、お前等、先っちょだ。先っぽの方をやれ。全員でじっくりな。」
抽象的な族長の命令に五人いた女達は互いを見合い頷きあう。
手足の先に散開する女達。
挙がる苦鳴。
潰れていく左右の五指。
計二十の指が轢き潰される。
独り持ち場無しと立ち尽くす鬼女がいた。
両手両足に一人づつの鬼女。
暫し考え、その女は笑み深める。
「お〜お〜お〜 私がやるのは、ここか〜。」
ホウの脚と脚の間に座り込む鬼女。
卑しい笑みだった。
女は軍服ズボンを留める腰紐へと手を伸ばす。
「おい、期待していいぞ。」
嘲りの声音。
嗜虐の笑み。
手にかけ降ろすズボン。
「おら、みてみろ」
指先を叩いていた女達の手が止まった。
女は性器を指先で摘み上げ。
「びびって 縮み あがってるぜ 可愛いじゃないの。」
下卑たものいいに他の女達が腹を抱え笑った。
「お〜し お〜し 今から 気持ちい〜ことしてやんよ。チンカス野郎期待して待ってな。」
嗜虐的で下卑た笑みがホウを囲む。
女は石斧を手に立ち上がる。
極端に前屈したゴルフスイングの構え。
「おらッ! 決めてやる! みてな」
吸息、青空に向かい振り上げらた斧。
吐息、大地すれすれで振り切られる斧。
血が舞い散り。
肉片が飛んだ。
ホウ何か短く一声挙げたが言葉にはならず。
流石のドゴルも凄惨さに目を背けた。
意識手放した若狼の周囲を女達は下卑た笑い声を挙げ踊り狂った。
血と肉と骨、狂喜狂乱の宴
「ひぃっひひひひ あ〜ッはははは」
「飛んだ飛んだ飛び出した」♪
「玉なし 玉なし 玉なし野郎ぅぅぅ」♪
「玉なし狼 できあがり〜」
「お前等ッ!逃げたらこーなるかんな!憶えとけよ!」
目を固く閉じ耳塞ぐ猫と鬼の奴隷。
「オラッ どんどん水ぶっかけろ!」
息苦しいさに意識戻るも耐え難い苦痛が襲いくる
それもいつしかわからなくなる。
ああ 空が 青いな
”ピィュゥゥ―――――――――――”
荒い吐息 広大な空 鷹が舞うのを見つめ
お前は 空が飛べていいよな
帰りてえ みんな の ところに
Brother
ハクぅ セン タン マク マレぇぇ
「なあ、今、どんな気分だ。」
「助けて欲しいか。許してやろうか」
「くだらねえ神を信じた事、後悔してるだろ」
「素直になれや」
「助けてやってもいい。許してやってもいい。」
ドゴルに、そんな気は毛頭ない。
ホウ、狼人の死体を人族のレキ国の兵に渡し、泣いて許しを乞う予定であった。
「なあ、馬鹿な神に唾吐けよ。この無能がって罵倒しろよ。許しやる、お前は、騙されてたんだよ。」
顔横で話しかけるドゴル。
背後で女達がニヤつく。
いつしか周囲を囲む集落の鬼達。
醜悪な笑みが孤狼を囲む。
”ピィュゥゥ―――――――――――”
青い空 鷹が舞うのを見つめ
帰ろう 俺も 帰ろう
翔ぼう みんなのところまで
海浜の町に還るンだ
「我 狼人族が戦士 ホウ!」
声の限り叫んだ
ドゴルはおい、と女を促す
腕にまた斧が振り下ろさた
「此の大地に 神 天降り」
斧が振り下ろされた
肉裂け骨砕け血管ちぎれ腱露出する
「八百万の神が一柱 その名は恵比寿!」
“チッ”「イカレが、おいお前等やれッ」
女達が斧を振り下ろす
「我が陽は沈む 今 此の肉は滅びよう」
斧が振り下ろされる
「だが 我が魂は永遠」
幾つもの斧が振り下ろされようと
その言魂はとまることなく
「我 高らかに叫ぼう」
見るものは恐怖した
強信
目を逸らし耳塞いでいた者は手を下ろし見た
「“Rising Sun
我等の誓いは永遠不滅
HEY BROTHER ”
我―――――――――――――――――」
ドゴルは女から斧を奪い取り振り上げた
”ピィュゥゥ―――――――――――――――”
天を舞う 鷹 が一鳴きし
飛び去った
頭上、旋回し飛び去る鷹を眼に収め
若き狼は笑み
迫りくる斧を前に
歯を食いしばる
ささやかなる抵抗
憤怒の表情で迎え
鬼人族分離派、ドゴル族長は、震える声でを語った。
ラル軍曹の横に座り込む助けだされた猫人、鬼人に尋ねる。
「此奴は、ドゴルは真実を語ったか。」
痩せた猫人、痣だらけの鬼女は頷き。
「ホウは、狼人の使者は勇敢だったか」
猫人鬼女は頷き。
日々集落で暴行を受けていた鬼女の奴隷は、
「最後の言葉は、、、我、退かず 我、媚びず 我、後悔せず 我、不退転 でした。」
今も怯える、彼女に男は微笑する。
「教えてくれて ありがとう。」
微笑と共に頬をつたう雫。
「うおおおおおおおッホウッすまンンン」
ハクは耐えきれず、その場に泣き崩れた。
軍曹、カラチ、プラノも兵士も涙する。
ハルと若衆も一人の若狼を想い涙堪え天を仰いだ
「も、もう全部、喋った。な、なあ」
縋る瞳で自分を押さえ込む男を見上げるドゴル。
マレはドゴルの背後で声を堪え泣くセンへと視線を送った。
「そうだな、約束は守ろう。」
マレの下で巨漢、強面の鬼が脱力する。
ドゴルは大地に背を預け大の字になり安心の為か目を閉じた。
「お前を赦そう。私は 慈悲深く 寛容だ ホウの様に嬲ったりはせん。」
黒狼は握るククリナイフを鬼の首に振り下ろす。
大地に濡れた血の華が咲いた。
「我 渡来人にして 客人神 恵比寿也
従うものにはすべてを与えよう
逆らう者はすべてを灰にせよ
死体は全て火に焚べよ
骨となっては土を被せよ
石積みて塚となるをもって終いとす
憎しみも此れをもって終わりとする。」




