表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/90

第73話 猛き鷹  (4)

 


 カムラ軍曹に御苦労と労いの言葉をかけた。


眼前、幾つもの槍穂を突きつけられる膝を折る男


それは正に鬼。

歳の頃はマレと同じ位に見え三十前後。

粗紐で無造作に縛られた赤髪。

草臥くたびれた麻布のしたは筋骨隆々にして褐色の肌。

身丈は狼、虎人男子と遜色なく二百センチに届こうかという程に大柄。

二本の角に精悍にして獰猛、不遜な面構え。

正に鬼、鬼の男。


     「お前が 族長か」


 マレの問いかけに獰猛な瞳を向け、黄色味がかった歯と鋭い犬歯剥き出しにし。


 「てめぇぇ後で 必ず ぶっ殺してやるッ」


鬼男の恫喝に一切心揺れる事無く。


「ふむ、貴殿は、まだ、自分の立場が理解できて無いようだな?ハク。」


隣りに立つ白狼に顎をしゃくり、理解らせろと短く告げた。


「 YES SIR」


白き狼は牙を剥き出し一歩、二歩。

目尻吊り上げ、鼻息、呼吸荒く。

仇を前に笑み深め。


「うおおおおッ」


雄叫びと共に頑強な鬼男の顎を蹴り上げた。


赤髪の頭は太い首は後ろに崩折れ、

上半身を後方に弓形に反らせ、

地に着く膝両脚は宙に浮く。

百KG強はゆうにあろう巨体が後方へと吹き飛び

夜の闇に土煙舞い大地に伏す。


鬼男の口内が血に塗れる。


「ハク、まだ殺すなよ。此奴には色々聞きたいからな。」


仰向けに倒れ伏す鬼男を松明掲げる兵、槍突き付ける兵が半円にて囲む。

男は呻く、そして倒れたままに動こうとはしない。


「ふむ、ハク少し待て、セン、()()()()()()()。」


マレの言葉と視線にセンは求められているものを一考する。


そう、だな、ホウの痛みの

幾らかでも理解らせてやらんとな


センは、片目をすがめ。

「ハク、少し代わってくれるか」

「おう」


下がる白狼、進む黒狼。


ハクは両腕を組み幼馴染のやる事を観て、、、


セン、エゲツねーな そうだよな、、、 


 鬼が泣く 鬼が鳴く 鬼が啼く 鬼が哭く


黒狼は鬼男の股間を踏みつけ、躙った。

声にならぬ絶叫が闇夜、燃える集落に響き渡る。


「何時まで寝てる気だ、くず。」


冷静に 静かに その声音に籠る 怒気


さらに 踵に力込め 踏み躙る 黒狼


「おい、くず、立場を弁えろ。貴様は他部族の者を攫い、同族を差し出し、人族に寝返った。さらには我等の使者を嬲り殺した。人族がお前を助けに来てくれるとでも勘違いしてるのか?もし奴等が来ても、我等が神、恵比寿の神罰の炎に焼かれるが落ちよ。」


踏み躙り続けられる股間。

自分に向けられる幾つも槍。

逃げる事も振り払う事もできず、

鬼男は痛苦に声すら出せず荒れた呼吸は酸素を求め過呼吸を起こし、仰向けた体を遂には痙攣させ泡を吹いた。










「ドゴル」


正座の状態、顔伏せる巨鬼。

名を問われ怯えと共に身を縮め答える。

深まる夜の闇。

センの責めに一度意識を手放したドゴル。

時間ができたと兵を三つに分け三交代制にて。

一つは集落の死体を一箇所に纏めさせる。

一つは休憩と待機。

一つは鬼男が逃げられぬ用包囲威嚇と周辺警戒。


火勢弱まり煙燻る集落。

幾処にも篝火が焚かれ周囲の闇を払う。


「で、お前が 族長で いいのだな。」


黒衣の将に問われ巨躯を小さく丸め震えだす鬼、ドゴル。


「たた助け許してかあああさいいい」


怯えと動揺にまともに喋る事もできずドゴルは土下座を始めた。

地に額擦り付け震え泣き出す巨躯の赤鬼。

ハクとハルは男の様に怒り湧き上がる。

戦士としての矜持も無いのか。

マレは出来の悪い日本昔話かと呆れる。


「ドゴル族長、質問だ、レキ国との連絡手段は」


問われ涙と鼻水、土塗れの顔をあげ、

そして無言で、

そう、何を言っているのだと不思議そうな表情をするドゴル。


物言わぬドゴル。

センは対面のハクにアイコンタクトする。

お前がやれ、と。

ハクは視線を受け取り軽く頷き一歩前へ。


「貴様あああ!恵比寿様がお尋ねだろうが!答えんかああああああッ!」


  “あああああああああああああああ”


地に着ける掌、右手の甲を踏み躙る白狼。

心折れた弱者と化したドゴルは大仰に叫ぶ。

痛み、涙、鼻水、叫びと共に知らない知らないの言葉が混じる。

此れにはマレも嘆息する。


「お前、従属相手の名も知らんのか。次だ、相手との連絡手段は。」


マレの質問、結果は惨憺さんたんたるもの。

ドゴルは鬼人分離派は何も知らなかった。

連絡は一方通行。

レキ国の下級士官または貴族が抱える騎士が狩りの度に偵察兼用にて集落を訪れる。

ドゴルと鬼達は末端騎士を全員土下座にて出迎え集落にて集めた奴隷を献上し他部族の集落迄の道案内をだす。

 此の道案内をレキ側は重宝したのだ。


連合、狼猫鬼さらにハルと虎の若衆が殺気だつ。


“ぎゃあああああああああああああ”


ドゴルが痛みに叫んだ。

カラチに取り押さえられる怒り狂う猫人兵。

ドゴルの臀部に刺さる苦無。

皆が襲い掛かった若き猫兵と同じ思いであった。


「ふむ、カラチ伍長。」

「はッ」

「その者の独断専行、不問にする、しかしだ、皆、命令ある迄待機、勝手は許さん。次は軍規守れぬなら罰を与える。」


部下を羽交い締めたカラチは耳元で幾つか囁き彼を落ち着かせ。

“SIR YES SIR”

部下と共に敬礼を返した。






「さて、ドゴル。貴様はもう用済みとなったわけだが。」

碌な情報も持たず、使い走りの末端枝葉。

レキ国にとっての使い捨ての道具であった鬼分離派。

「Brotherああッ 俺に殺らせてくれッ!」


「ひぃぃぃ 従います従います連合体に入れてくださいませ。決して裏切ったりいたしません。」


ククリナイフを抜き今にも飛び掛からんと腰を落とし構えるハク。

ドゴルは伏し泣き喚き命乞うた。

マレはハクに待てと短く告げ。









「ドゴル 貴様 俺と一対一にて 決闘せよ」


場の全ての者が意味を理解できずに沈黙した。



暫しの間。

そしてドゴルは笑み深める。

ハクがBrother!と焦りの声を挙げた。

場の全ての者が不安に心掻き乱された。


「俺が、俺が、勝ったら。命は助けてくれるんだよな!」


場の異様な空気の中、巨躯の鬼だけが勢い付く。




「いや、お前が勝てば、お前が連合総大将、総族長だな。」



篝火のパチと爆ぜる音だけが皆の耳に届く。



「ま!? まてよッ!!」

誰かが叫んだ、そして皆が連合兵皆が騒ぎ出した

マレは暫し待つ。

皆が落ち着くのを待ち。

両手を挙げ万歳し


「まあ、聴け。」


義兄の対応にセンはハクへと目配せする。

様子見しろの意を込めて。

兎に角ハクは直情過ぎるとマレの邪魔にならぬ様立ち回る。


 目の前、黒衣の男の奇行にドゴルは唇の両端を吊り上げ笑む。

クククと嬉しそうに笑いだす。


「ぶっ殺してやる。」


ドゴルの調子に乗る様に皆が殺意籠る視線を向けるも意に介さずの赤鬼。

そしてマレは、


「お前、馬鹿だろ。」


「ああン!びびったかッ!」


安い挑発に乗る事無くマレは淡々と語った。


「まず、一つ。俺を殺せばお前も殺される。」


「て!? てめッ汚えぞッ」


「まてまて、話し聴けよ此の単細胞。と〜ぜんだろ?俺が死ねば連合体は瓦解だ。お前をぶっ殺してえ奴等ばっかなんだぞ?この場に居る奴。」


ドゴルは周囲の視線を感じとり歯軋りする。


「でよ?お前が連合の族長になって先ど〜すんの?連合から人族に奴隷として連合の者達を引き渡すのか?此れも有り得んわな。」


黄ばむ歯を剥き出し軋らせるドゴル。

学が無い、教養が無い、生きる知恵が圧倒的に無い。

 この男は刹那過ぎるのだ。


「で、俺が必要になる。ぜ〜ンぶ 考えてやんよ。次の人族侵攻も連合体の運営も未来も。」



ドゴルは意味が分からんと言いたげに唇を歪める。

「じゃ、俺が、、、うそかッ!」


「いや、お前馬鹿だろ。お前が勝てば連合体総族長。で、俺がお前の下に就いて頭使って全部上手い事やってやると言ってんだ。俺の死はお前の死でもあるんだぞ。」




センは義兄の話しを聴きながら考える。


詭道、何時もの詐術か

しかし、何故 今さっさと殺せば後腐れなかろう



黒衣の男の言葉を鵜呑みにし再度笑みに表情崩すドゴル。

刹那的で生きる知恵乏しき赤鬼。

周囲の軍曹、兵皆も何故、必要ないと感じながらもマレこと恵比寿の決定に異を唱える事できず。


「決闘は素手、己が肉体のみ。他の者に手出しはさせん。」


「おう!」


「貴様は俺に参りました。許してください。貴方が連合族長です、と言わせれば、お前の勝ちってとこか?」


「おうおうおうおう 決まりだ!軽く捻ってやらあ!」


此の言葉で察するハク、セン、軍曹とプラノ。

死んでも言わないだろうと。

そしてセンは何故、こんな茶番を演じる、、、








  ホウ、頼りにならん義兄弟ですまん


 八人の狼人軍曹、白狼、黒狼、若虎族長が周囲を囲む、更に外を三百人近い狼猫鬼人の兵が囲んだ。

即席の人垣円形闘技場。


マレは黒の外套を脱ぎハクに手渡す。


「Brother、俺は納得いかん。俺にやらせてくれ。」


マレはハクの話しを聞きながらロレ国の服屋で作って(オーダーメイド)もらったワイシャツのボタンを外していく。


「そうだな、わかるよ。センだってそうだろ。此処はさ、義兄弟最年長の俺に譲ってくれよ。」


脱いだ汗と皮脂に黄ばみ抜けないシャツをハクに押し付ける。


わかる

譲ってくれ


ハクは口を告ぐんだ。

センは眉間に深い皺を寄せる。

損得じゃない。

理と利 どうだっていい。

義兄弟三人想い同じくする。

“応報せよ”

理屈じゃない。

“復讐するは我”


思わずセンはククと笑った。


相変わらず義兄はやる事がセコい。

自身の命を確保しての決闘。

ハクなら正面から殺し合っただろう。

もしハクが死ねば負ければ義兄はドゴルを()()き助命せねばなるまい。

自分だったら、、、私情は捨てる。

連合体こそ最優先。

不安要素を排除し囲み複数人にて槍で突き殺す。

本当に義兄は小狡い。

本当に頼りになる。

センは呵々大笑しそうになるのを必死に堪えハクを見た。


ハクはぐっと両の拳を握り締め泣くのをこらえていた。

「Brother 全て任せた!」






 泰然と立つドゴル。

目の前、半裸の男のなんとも貧相貧弱な事か。

人族としては恵体であろう。

ハッ!種としての格が違うのだ馬鹿が!


永きに渡り人種から迫害されてきた過去。

無様に這い蹲り集落の同胞を他種族の者を奴隷に差し出した自身の行いも忘れ、勝利を確信し、その先の未来、全部族の族長となる自分を想い猛々しい笑み浮かべる巨躯恵体の赤鬼。



左半身、半歩前へ。半身にて拳構える拳闘スタイルの男。


ドゴルは腰を低くし。


  “おおおおおおおおおおおおおおおおお”


吠えた。

駆けた。

一直線。



あ、なぜ、、、

ハクが八人の軍曹が惑う。









海浜町、一軒の家の前。

夜間人質救出作戦訓練の合間。

青空の下、地べたに座りこみ雑談する。


「やっぱ男は拳!」

拳闘に傾倒するソテツが眼前にて拳を握り締め力説する。


「いや、槍の柄折れて、矢尽きたら柔道ッス。」

柔道に傾倒するシマル。


格闘技、マレが基本を狼人に伝えた人類が古代から積み重ねた叡智の結晶の一つ。


「ま〜一長一短だわな〜」


ジャブとストレート。

大振りでただ力任せに拳を振るうしか識らなかった狼人。

最短、最速にて打つ。

このシンプルな迄の理にソテツは深く感銘をうけた。


柔道、戦場格闘技から競技へと。

矢尽き刀折れ、打撃蹴撃は鎧兜に防がれる。

ならば、投げよ、極めよ。

シマルは此れだ!と思った。


青空の下マレとハク、八人の狼の雑談。

「あくまでさ、拳闘も柔道も競技。相撲と同じで決まり事のなかでやる競技な。殺し合いにまで競技規則持ち込むなよ?」


当然だなと納得する九人。

ハクは更に尋ねる、例えば?

マレは暫し考えこみ。

「柔道な、度々規則がかわるのよ。柔道は相手を投げ飛ばし一本を取る競技。それで寝技に持ち込む前提の技が禁止されたんだったか?」


「どんな技ッスか!?それむっさ有効じゃないっスか!!」 


若く血気盛んな狼達。

闘いに関する柔軟性、適応力は高い。


「高速タックル。」


暫し、高速タックルの練習を急遽行なう事になる

十人。


「あ〜此れさ、相手の顔面に膝合わせれば良いんじゃね?」


ルール無用の殺し合いに卑怯は無い。

ハクが告げ、皆も気付いていた。

特に拳闘を愛するソテツは考えていた。

腰を掴まれ倒される。

蹴りにて応戦し脚を掴まれる。

倒されたら終わる。

馬乗りで一方的に殴られる。


「なあ?シマル、もしだ、もしタックル仕掛けて顔面に膝喰らったらお前どうする?」


幼馴染、ソテツに問われシマルは即答する。

「我慢するッス!そのまま組み付くッス!」


シマルの玉砕上等発言に皆が笑った。

ただ独りマレを除き。


「うん、そうだな、それしかない。耐えて押し倒す。上を取れば決まる。痛みに耐えるしかない」


真顔でシンプルに真面目に根性論を語るマレに誇らしげに笑むシマルを除き皆が沈黙し深く考え込まされた。









今、目の前、なんの対処、対応せず

組み伏せられたマレに皆が焦り心乱された




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ