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第72話 猛き鷹  (3)



 星々、夜空を見上げる義兄弟三人。

 伝う涙そのままに。


「ホウは、、、おっちょこちょいだからな。道に迷ったんだろう。迎えにいってやらんとな。」


“応”


柔らかな声音。

応じる二つの声は堅く強く。

共に胸に押し忍。




「前進せよ」


横陣を組み兵が前進する。


横陣左右が突出し集落を半包囲する。


集落外周から五十歩の距離。


最左翼右翼で松明に火が灯る。


火は次々と伝播した。


黒曜石の鏃、矢に巻かれた粗い植物繊維布に染み込んだ軽油に火が着けられてゆく。


両翼、サク、カマン軍曹が率いる一隊各三十名。

皆、弓巧者なる狼人。


「放て」


陣左右から静かな号令。

放たれる火矢六十射。


六十の弓兵は次の火矢準備に入る。


多くの連合兵無言で星火を見守る。

星火燎原 次の火矢が射ちこまれた。


陣形を抜け出し先行する者達。

猫人斥候兵に先導され二つの竪穴住居に押し入るラル軍曹の部隊。

目標救出に向かう。



始まりは静粛に。


火と燻る煙。


次々に射こまれる火矢。


良く寝入ろうとも誰がしか気付く。


全ての竪穴住居に火が掛かる。


鬼女の甲高い金切り声。


間を数拍置き一つ二つ叫びが挙がる。


家人が枝と土でできた穴倉から四肢を着き這い出すのを眺め。



「咆哮せよおおおおおお」


黒衣の大将が叫ぶ。


“おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお”


鬨の声が挙がった。


“突げえええええええええきッ”

“射てええええええええええッ”

軍曹が部下に号令を下す。


サク、カマン、カムラの重籐弓隊が集落奥へ狙い定めず乱れ射つ。


集落外周ラルと兵士が救出した者達を連れ走る。


先頭をいち早く駆け出すは二メートル強の槍を握る軍曹自身。

槍隊各三十名が軍曹の背を追う。


ロロがシマルがソテツがオウンが柵を飛び越え敵地へ。


“らああああああッ”

烈帛の咆哮。

槍と剣をこよなく愛すロロ軍曹が想うまま駆け、

力の限り一突きす。


一番槍が若い鬼娘の腹を剛腕螺旋突き穂先は背後に抜ける。


「ふんッ」


致命の一突き、まだ息ある鬼の娘が血をながし藻掻くのを一顧だにせず地に縫い付け足裏で踏みつけ槍を抜く。


戦狼に気圧され一歩、いや、四、五歩遅れて走りだしたプラノ。

惑う上官に不安抱く三十名の兵士も駆け出す。

燃える粗末な家々。

早くも挙がる怨嗟呪詛の悲鳴。





 集落入口。

立つのはマレとセンとハク。

少し離れた後方には槍持つハル族長と虎の若衆達


「ホウ待たせたな。」


ぶら下がる亡骸を見上げ、ハクとセンは堪えきれず声をあげ泣いた。

今更気にする者などいない。

集落内の阿鼻叫喚に比べれば些細。


柵に足を掛ける義兄。

「ほら、お前等も」

優しく掛ける言葉。

炎に照らされる横顔は涙で崩れた化粧ドーラン


義弟二人、共の亡骸を支え、義兄が首に巻かれた荒縄を鉈で切る。

物いわぬ義兄弟をハクとセンは強く抱きしめた。


「おいおい、二人共、ホウに仕事サボりか?て言われちまうぞ?軍曹を待たせてる。」


義兄の道化た言葉に二人頷き義兄弟を抱きかかえ傍らの荷車に寝かせる。


それは憤怒。

荷車に寝かされた狼ホウ。

四肢は潰れた肉塊に露出した骨は折れ。

執拗に鈍器で殴打されたのだろう血塗れの股間。

それは憤怒。


強く堅く引き結んだ口。

犬歯二つだけをのぞかせ強く噛み締め。

眉間には深い皺を刻み込み。

その双眸をカッと見開き正面を威嚇する。

若き狼人ホウ、憤怒の形相にて息絶える。



 義兄はホウの瞼に手を添えた。

堅く見開かれた瞼を幾度も撫で眠らせる。


「Brother、そんな顔してちゃ皺残るぜ?俺が美顔マッサージしてやるよ。」


未だ号泣するハクセンを前に義兄は眠る義兄弟の眉間を両手で揉み解してい。

堅く強張る筋肉を揉み解し続けた。


眉間から頬へそして口周りを解していく。

丹念に丹念に。



「ハク セン 泣くな」


義兄の突然の言葉。


泣きながら義兄をみる。


泣きながら笑顔でホウをみる義兄。


白と黒は友を見た。


「Brotherホウ カッコつけやがって」

「ホウ、その顔の方がおまえらしい」



春月夜 友の笑顔を 照らす仄か


ホウは笑っていた


「ケリつけにいくぞ」


“え い”


燃え盛る集落へ










 連合新兵、若い鬼人女が逃げ惑う同族の幼女を背後から槍で一突きする。


泣き喚く褐色肌の赤子を地に置き、その細首に長剣を叩きつける狼人。


鬼人、初老の婆が地に伏し涙を流し命乞うを一切斟酌せず小柄な猫人の兵士は弩の引き金を弾いた。


焔と煙 

血と臓物 

鉄と糞便、燃える脂の臭い

唸りと悲鳴

憎悪 怨嗟 怨讐

死を直前にし 恨みの言魂を 吐く


纏わりつく呪詛の言魂

心を蝕む毒

入れ替わる立場に黒い酩酊


私は 何を して、、、いる


集落の端、立ち尽くす上官に鬼女新兵は槍を手に自身の身を守る様にし惑いと共に一塊となり動けないでいた。


異常に気付いたソテツが大音声にて叫ぶ。


「プラノ軍曹の部隊員は俺に続け!此の隊!俺が率いるッ!!」

“SIR YES SIR”


即座に返る新兵の声。

三十名の鬼女は獰猛な狼の背に続いた。


独り女(プラノ)は立ち尽くす。

此処は戦場 悪鬼を喰らう羅刹女の世界。


美しく華やかなる

儀礼の王族護衛

近衛騎士

文武優れ

品格教養も血筋家柄も全て持つ者

リストアス王家近衛騎士


此れが 武勲 武功 誉れ 

違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う

ラハンの獣と何が違う


サンマルール・プラノは大地に膝をついた。






 先頭を黒衣の男。


 後方左右には槍握る白き狼と黒き狼を従え。


 その後に続くのは虎族族長と若き虎。


「プラノ殿?」

地に両膝着き、槍を手放し放心する女。

海浜町指導教官、臨時軍曹 サンマルール・プラノの様にハクは心配気に声を掛けたが。


「放っておけ、覚悟が足らんのだろ。」


マレの言葉にハクは自身を顧み気を引き締める。

此処は戦場、慢心が友を殺した。

俺は愚かと。


「マレ 様」


地に膝着いたままぼんやりと顔を上げ。


「せめて、せめて年端もいかぬ子供は見逃して下さい。」


開始前、軍議で決めたはず。

老若男女構わず。

根切り撫で斬り、皆殺し。

素早く、苦しみ長引かせず、殺せ。


黒衣の男と元近衛騎士の間には男の養女と歳の変わらぬ鬼の幼女の亡骸がうつ伏せにて転がる。


黒衣の男は数瞬思案したかの様にみえた。


「プラノ、帰ったらアミをアーミテノールをお前の手で、殺してくれるか?」




「            」

 言葉が出ない。

 お前は何を言っている。


「お前の大事な者を殺す。その対価に、子供達は赦そう。」


「              」

 なぜ そう なる 馬鹿なのか


「此の戦場を生き延びた、はぐれ鬼共が復讐を誓い大人になり応報し、アーミテノールが命落とそうと良いでわないか。今ならアミ独りの命で、全て赦す。」


「   」

 詭弁だ


「海浜の子供が攫われ、海浜の町が焼かれても赦す。何人死のうが赦す。お前が責を負え。」


「              」

 何を無茶な 責任など、、、、


「おめでとう お前 今日より 今より 客人神 恵比寿を名乗れ。千五百の命、預けたぞ。」


「         」


「どうした」


「         」


「アミを殺し、目に前の子供救い、千五百の民、背負わんのか。」





「なんとかいえ! この下郎がッ!」




「俺は俺の手の中にある、護るべき者達の為なら、一千!一万!十万!でも殺す。国の一つ二つ焼き払ってやる!タリア、ラハンが相手であろうが一歩も退かン。世界の半分を血と臓物、怨嗟の言葉で埋め尽くしてやるわッ!」



「           」

 神より王権を授かりし者

「         」

 いつしか天を掴む者

「            」

 リストアス王家始祖の再来

「もう、、、しわけ、、、ござい、ません」


サンマルール・プラノのは地に落ちた槍へ手を伸ばす。


「プラノ、俺の下を去る事、許す。支度金も用意しようアミと共に去れ。逃げていい。耳目塞ぎ、口を噤み、戦火逃れ転々とするもよし。」


サンマルール・プラノは槍を握り締めた。


不様、愚か、私は誓ったのでは、無かったのか

いや、違う、ずっと、疑って いた

信じていなかった

理解していなかった

王権とは 覚悟と責務

王権を授かりし

我が(Yes)(my lord) 今一度、貴方様への忠誠を」


立ち上がる

今も目の前の惨劇に心砕かれる

それでも護るべきものある


駆け出す

「ソテツ殿!失礼した!兵皆!我に、続け!」



一方的なる虐殺。

集落百五十前後。

戦えるものは百もいない。

倍の兵、優れた武具。

自分達が今夜狩られると知らず。

狩る者と狩られる者。

奪う者と奪われる者。

圧倒的暴力が無道を呑み込む。

群れを離れ はぐれた鬼 手に入れた

束の間の平和が 今炎に巻かれ 灰舞い上がる

無情なる兵士が 死体踏みつけ 槍向けた



「お前が 族長か」




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