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第71話 猛き鷹  (2)



「すまん!Brotherああ!」

「浅はかだった。思慮が足りなかった。」



大天幕。

地に伏して額が土に塗れるのも構わず詫びる白狼と黒狼。

マレは頭を上げろ、それだけ言い、次々と指示をだす。


「ロロ、狼煙を焚け 色は黄色」

「カマン、カラチ伍長と猫人隊伍一組招集。」

「オウン、最小限の警固警戒兵士を残し皆に戦準備のち休憩、飯睡眠をとらせてくれ。」


“SIR YES SIR”


慌ただしく駆け出す三軍曹。

渋い表情で椅子に掛けるハルと虎若衆。


「ハク、セン座れ、話しにならん。起きた事は戻せん。それに決まったわけでも無い。今は最悪を想定し動くしかない。」


よろよろと立ち上がるハクとセンが席に着くと今後の話し合いが持たれた。

「ハル、騒がしくてすまん。知っている事を全て話してくれるか?」








「おい!? 鬼人族から離れた、はぐれ共の集落に向かったのか!?奴等は、外の人族と繋がっているんだぞ!!。」


族長ハルと若衆の厳しい表情。

ハルの切羽つまる声音に大天幕に動揺が奔った。

マレは、瞬時に決断を下す。

狼煙、斥候、戦準備。

今、即座に対応すべき事を三軍曹に伝え後、情報収集と協議に入る。




鬼人族、分離独立派と連合体にて仮称する集団、部族。

ママヤイ族長頼り無し! と数年前の人種侵攻後に鬼人族の集落を離れた二百人前後の鬼人が造った集落。

 所在はアル峡谷東方の海沿い。

分離後ママヤイ族長派との交流は途絶えた集団。

マレ、義兄弟、族長、海浜町の皆が識るのは、その程度情報だけだった。





「この件は、此の後協議したいと考えていた。俺も全てを話す。」

ハルの苦渋の表情にハクとセンは奥歯噛み締める


「失礼します!カラチ伍長参上しました!」


「すまん、ハル少し待っててくれ。カラチ伍長、猫人隊伍と共に斥候任務にでて貰いたい。最重要課題は全員生きて戻り情報を伝える事。まず此れを忘れるな。」


“SIR YES SIR”


水、食料の準備と武装。

最重要装備は望遠鏡。

鬼人分離派の集落偵察。

現地鬼人との接触厳禁を下命する。

準備に駆け出すカラチを一瞥しハルへと向き直る




「あれはまだ親父も兄貴分も居た頃だ。」

何時かはよく覚えていない、そもそも虎人に暦が無い故に。


 集落、虎人の子供が攫われそうになった。

拉致誘拐未遂。

犯人は鬼人の成人女達。

複数犯。

「うち、一人を捕まえた。そして拷問した。俺もガキだったが親父に立ち会わされた。」

凄惨な現場であった事は告げず語るハル族長。


「奴等、集落を焼き払い奪い殺しに来た人族に泣いて頼み込んで、、、同族を差し出して、服従を誓ったんだと。」


最後は吐き捨てる様に告げるハル。

又聞きであったろう若衆も嫌悪の表情を浮かべる


「成る程な、で、子供攫いの件は。」


「自分達の部族奴隷では足りんからやったそうだ。」

ハルは話しを再開する。

敵に恭順した鬼人分離独立派。

彼女彼等は、時に同族鬼人集落から、時に猫人、狸人集落から献上する為に人を攫っていた事。

それでも献上奴隷が足りず虎人の子供を狙った事。

人族の侵攻を受け、焼き払われた地を捨て集落を移転した部族の情報を人族の兵士に知らせていた事。

以上の事を鬼女を拷問して情報を得たとハルは語る。


「ガキの時分の話しだ。そんなんだから他部族との交流も慎重になる。何処の部族が敵か味方かも分からんしな。」


そして、狼人族、流れの神と共に人族の大軍を討つの話しを聴き多くの葛藤を経て今此処に居た。


ハク、センの顔色は毛並みで窺えないが表情は絶望に塗れていた。

軽率だった。吉報を義兄に届け驚かそうと思った、相談せず行動に移してしまった。

ハクとセンから後悔の苦鳴が漏れる。

マレは幾度も深呼吸を繰り返す。

不安、葛藤を鎮める為、心平静に、思考する為に深く呼吸する。 


 全ては俺の責

 あの時 俺の考えを

 三人に伝えていたなら

 俺が 甘かった

 慢心があった

 ここは 日本じゃねえ

 くそがッ 




「ハル族長、教えて頂き感謝する。族長と皆さんは荷馬車にて集落迄送らせよう。」


「いや、俺達も同行させてくれ。」


真っ直ぐに自分を見つめる虎に頷き返す。


「海浜からの増援を待つ。行動開始は明日、午後遅くになる。ハク、虎人の皆さんに天幕一つ。センは援兵の受け入れ準備。明日の行軍、携行食と水の準備。三百人での行軍を想定してくれ。」


レキ国への恭順と他部族への危害。

部族統一を目指す黒衣の男にとって鬼人分離独立派を見逃す事はできなかった。

何らかの仕置きは必須。

でなければ目の前の族長も他部族族長も納得すまいと。



ホウ、どうか無事でいてくれ。









 陽が落ち夜の闇が北の大地を覆った頃。

砦に海浜町から三百人の援兵が到着した。

大半は狼人族。

それも予備役とされる昨年秋の峡谷の戦に参加した者達で構成される。

いわば半農半兵の様な存在で重籐弓を持つ。

海浜町から送らた物資の中にはルワイ兵から奪った槍穂を再鍛錬した槍が数多く含まれていた。

四時間弱歩き続けた援軍を今は充分に休ませる。


 大天幕にはマレ、ハク、セン、ハル族長と若衆、八人の軍曹、さらにはサンマルール・プラノが集まる。

義兄弟、マクとタンはいざという時を想定し海浜町に待機していた。


「予備役狼人五十名を砦の防衛に残す。ロロ軍曹振り分けを頼む。」

「 YES SIR」


「出兵は三百名弱か?軍曹五人とプラノは詳しい事情を知らんだろうから説明するが、その前に。今回は同じ地に住む部族との戦になる、というのも内容が内容だけに無血にて終わらせる事が出来ない状況だ。何処までやるかは、カラチ伍長の報告次第で俺が決める。ン、セン副長、お前から事のあらましと鬼人族分離独立派の説明を頼む。」


「ハイ。」


説明役を振られ黒狼は自身の責に心乱されながら固い声音で話しを始めた。

ハクに至っては今、まともな思考が出来ない状態であったろう。

此度の全容が明らかになる程に五人の軍曹の表情が険しくなっていく。

 一戦辞さず、是非も無し。

大凡のセンの説明、軍曹の理解得られ。


「陽のあるうちに仕掛ける気は無い。よって明日の午後。そうだな夕方前に出発、完全に陽が落ちてより集落を半包囲する。兵には明日の移動中に話せ。今から話しても兵も動揺する。特に初陣の新兵はな。こーいう時は特にだ、ぎりぎり迄、一兵卒には情報を伏せろ。明日、鬼人分離集落奇襲しますて言ったらもう奇襲じゃないからな?以上だ各自準備だけしたらさっさと休め。」


“SIR YES SIR”


黒衣の男は終始落ち着いていた。

その全ては演技。

不動、神算、頼れる将として振る舞う。

心掻きむしられながら。





 腕時計は午後三時。

瓶に入った泥水、染料、炭水を顔や腕にぬる兵士

マレもまた髪に頬に、目の下に炭水を塗る。

武装は槍と重籐弓。

一部の者は弩。

副武装に多くの者は自前の黒曜石ナイフ。

特に年若い狼人は最後尾にて荷馬車の御者にあてられた。

ゆっくり準備し陽が傾いた頃合で砦を出発する。

片道三時間強の道程を度々休憩を挟み時間を懸けて進む。

 十全な状態で臨む為に。



 最終休憩。

マレの腕時計は午後九時三十三分。

鬼人分派集落迄は十分とかからぬ距離。

夜の闇、月と星明かり。

殆どの者は寝入る時間。


カサリ

動く草にドキリとしプラノは腰に佩く長剣の柄に手を掛けたが隣にいた軍曹ラルが肩を引き彼女を諌めた。

 

 立ち上がる草が敬礼する。

草を纏い、ドーランメイクのカラチ斥候部隊。


「カラチ伍長以下 隊伍無事帰還しました。」


「ご苦労、恵比寿様に報告を。」


全く気付かなかった。

まるで王族直下の暗部、

いや、それ以上の、、、


プラノは斜め横まで接近を許した事に恐怖した。

小柄で非力と侮っていたのを改めさせられる経験であった。


その後、全隊に静かに、音をたてるな、前進の命令が下った。






「集落は漁業、採取、狩猟、麦作をしているようです。ハル族長のお話しにあった他部族から攫ったらしき者達も見えました。猫人と鬼人です。ただ鬼人は奴隷か攫われた者かの判別が難しいです。」


「猫人を奴隷にしている時点で仕置きは決まりだな。猫人と奴隷の数、囲われている家は分かるか?」


「はい、数は猫人三人、鬼人の奴隷は十もいないかと。こちらの和紙に集落の概略図を印しておきました。住む場所も土と枝の穴倉(竪穴式住居)です。猫人と奴隷は昼は労働、夕方から朝までは縄で縛られ一箇所に集められます。その、、、酷いものです。」


「大変結構。」


「集落の人数は少ないかと。自分と隊伍の者で個別に数えてみましたが、百五十を超えるか超えないかと感じました。」


「結構。」


「集落の周囲には柵がありますが、猫人以外であれば、跨げるような低さ、自分達なら下を潜り抜けますし簡素な物で防衛効果は皆無です。」


「結構。」


「武装も石器、槍斧、弓もまともな物では無いです。その、、、、あの、えと」


先を言い淀むカラチに軍曹皆が視線で言えと促すがマレが片手を挙げ制した。


「いや、いい。カラチ、望遠鏡で確認できる場所迄案内してくれるか。斥候の任務良くやってくれた。充分だ。前進する隠密行動を皆心掛けよ。」






 後方に全隊を待機させ集落端から三百歩程の距離にてカラチと猫人隊伍と共に身を伏せるマレ、ハク、セン、軍曹八人とプラノ。

カラチは震える手でマレに望遠鏡を手渡し鬼人集落の一画を指差した。


覚悟はしていた。

なのに目の前が揺れる。

頭に血が巡らない。


「すまん、カラチ、少し待っててくれ。」


地に両手を着き、暫し、ゆっくりと呼吸を繰り返す。


皆が一縷の望みに懸けていた。

全てを察したハクが、、、声をあげて泣き出す。

そこが限界であったセンも軍曹八人も。

しかし、男は、それを許さない。


「黙れ、声をだすな、音を点てるな。泣くのは構わん。だが敵前だ、気付かれて部隊全体を危険に晒すのか。」


男の静かで怒気を含んだ声音にハクは口先を押さえた。

押さえ声を抑え、泣いた。


ハクもセンも義兄の冷淡な様に怒りも拒絶も落胆も無い。


月下、顔を伏せ無言で涙零す義兄を見た。

己の愚かさ浅慮に打ちひしがれる義弟。






 頭への血の巡りが戻ったのだろうか。

目の前のふらつきが幾分治まった頃。

「カラチ伍長不様を晒したすまん。」

差し出されら望遠鏡を手に取る男にカラチにかけれる言葉無く。

カラチは無言にて集落の一点を指差す。

カラチの指差す先に望遠鏡を向けて覗きこむ事しばし。


腕の太さ程度の木を縄で縛って作られた腰程の高さの柵。

害獣避けの木柵。

木柵途切れる集落出入り口横。

木柵に括り付けた棒にぶら下がる。

それは月明かり星明かりでははっきりとせず。

それでも、そうなので、在ろう。


マレは横に伏せる涙と鼻水で顔をぐずぐずにした白狼に望遠鏡を差し出し。


「無理に視ろとは言わん。」


義兄の静かな言葉。

月明りドーランメイクが涙で酷い様になった顔。

ハクは歯を噛み締め、白い狼歯を剥き出し、怒りを糧に望遠鏡を握った。


頭つかうのはBrotherに任せた

俺は俺は怒りのままに

応報せよ

ホウの仇獲らねばならん


白い狼が歯を剥き出し口端から涎を垂らし。

唸り抑え、血走る眼で、望遠鏡を覗く。


「辛い報告をさせて、すまん。よく見えなかったが、想像はつくし覚悟もした。カラチ説明を頼む。」


カラチは俯きボソボソと。


自分達隊伍が到着した時にはもうホウ軍曹は、、、あの様に。

陽の有るうちに確認しました。

四肢は潰され、欠けて損傷激しく。

息はしておらず。

絶命されていたのを確認しました。


「カラチ、無理に亡骸を奪い返そうとしなかった事、賢明である。貴君は、私の下命を守り、部下の命を守り、斥候の任務をやり遂げた。ありがとう。」


センが歯を噛み締めガタガタと震えていた。

望遠鏡を覗き。

黒狼、怒りに身を震わす。


八狼が烈火の怒りを身に秘めて望遠鏡を覗いた。


プラノに彼等へ掛けれる言葉無く、ただ端にて無言で身を屈めた。

リストアスの城落ち、散々に見た光景だ。

掛ける言葉が皆無なのを女は知っている。


「分派の仕置きは決まったな。猫人、奴隷鬼人は救出、保護。集落には火をかけ灰にせよ。鬼共は、全て“根切り 撫で斬り”にせよ。全てだ全てな、各軍曹の担当を決める。」



蒼い月

月光降り注ぐ

土と炭で汚した顔からのぞく肌

幽鬼の様に蒼白い

黒衣の男が静かに下命する



 


 此処は無道の大地

 我 堕ちたるは

 六道輪廻 戦絶えぬ修羅道

 殺し 命喰らいて

 人なるなり捨てよ

 我 修羅 に 成る



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