第59話 マレの野望 革新 パワーアップキット(1)
「チヨさん」
扉を潜り言葉少ない虎人は店主の名を呼んだ。
「あ〜皆、いらっしゃぁ〜い。」
獣人を劣った種族と蔑む者はロレ国には居なかった。
更には半年間同じ釜の飯を食った仲。
そして多くの技術、知識を教えてくれた先生の一人。
チヨの笑顔に笑顔で応える九人の狼人の若者。
セインとタンノ、虎人の男女に案内されチヨとジュンが営む鍛冶屋に訪れた。
「はいよ! 知り合いのとこと家の在庫合わせて三十挺。で此れ集められるだけ集めた矢。」
“おおおおおおお!”
渡された初めて見る武器に興味津々の狼達。
セインは下顎の毛を撫でながら首を傾げる。
「なあ?ハク、重籐弓があれば、そいつ必要無いだろ?」
弩を手にはしゃぐ狼達、ハクは弩をじっくり観察しながら。
「小柄な猫人向けの武装らしいぞ?」
「あ〜あ〜あ〜なる程な。納得だ。」
セインは弩を背負う猫人の姿を想像し得心する。
武人ライズ・セイン。いざ戦となれば他の虎人を従え戦場に出る立場であり、時にはロレ国の徴兵農婦を率いて将として振る舞わねばならない。
そんな農婦達の武器といえば投石のスリングか此の弩が彼女達の主力武器となる。
「Brotherマレが言うには当面、弩を俺達で作る予定が無いらしい。時間が足りんのだと。」
此の日、ハクは初めて貨幣を使用し弩と矢の代金支払いをした。
「お店の商品見ていっていいですか。」
「どうぞ、どうぞ。」
笑顔で応じる夫のジュンが商品の説明をかってでる。
狼人皆がマレより渡された、お小遣い銀貨を握り締め店に並ぶ品々を物色する。
初めて貰ったお小遣い。
初めての買い物に終始はしゃぐ狼達だった。
「マイちゃん、邪魔するでぇ〜子供用の服いっぱい売ってや〜。」
ローレライを先頭に脚の不自由な蓮華と百合を抱えたマレとサンマルールが続き、その後を子供達が付いてくる。
最後尾にはリストアス。
時間が無いならお金で解決すればいいじゃない。
稼げる男になったマレ。
麻で服を一から編む時間が惜しいと既成の綿服を子供達に買ってやる。
「皆、欲しい服を選びなさい。アミとプラノも、此れから行く処には服も布も売ってないから服と下着二、三選んでね。」
面倒くさがりのマレは女達の名前を略称で呼ぶ。
極力、動きやすく、汚れてもよい物を選ぶ用にと。
それは初めての経験だったのだろう。
自分の服を買ってもらえる事に興奮する子供達。
子供達だけでは無かった。
リストアス・アーミテノールもまた瞳を輝かせ、はいと嬉しそうに返事をし服を観ていく。
店主のマイは緑色の作業着、十着と緑のベレー帽が十点をマレの前に並べ。
「見習いの皆も熟れてこれば、質も納品速度も上がると思います。今は、此れが精一杯です。」
恐縮する店主にマレは笑顔で礼を告げる。
急がなくてよい。
充分良い品ですと言葉を添え、見習いお針子さん一人、一人に礼を言って周った。
「なあマレ、その緑の服何に使うんや。」
「軍服。」
「青いのは?」
「官服。」
服購入後はハク達と合流し皆で雑貨屋へと向かい宿へと戻る。
一日、買い物を楽しむ。
子供、狼人のみならずマレ自身も楽しい一時であった。
翌日、王城にて女王ライン、王女ローレン、側近リンゼに挨拶をし街をでた。
「さー帰るぞ。」
「皆、頼んだぞ。」
おう!と返事をし牛、山羊を誘導するマレと狼人。
三台の荷車には子供達とアーミテノール、プラノが若干の鶏と荷物の石英、石膏などの素材と共に乗り馬車は北へと向かう。
すっかり馴染みとなったロレ国最北端の村で一泊、翌日には外要道へと入る。
「助かるわぁ〜」
「せやろ〜せやろ〜。」
マレの思わず口から出た言葉にローレンはドヤ顔で応える。
外要道の途中、行きではまだ未完成であった簡易小屋と簡易厩舎が完成していた。
ローレライ王女殿下の為、そして、と北端の村人総出にて急ぎ作業を進めたとの事。
また、北端の村人の何人かは海浜村とロレ交易所間の荷馬車配送に今後参加する。
村長の老婆は言う。
塩で苦労する事が無くなりました更に仕事まで頂けて。
村での一泊、マレは終始村人に頭を下げっぱなしであった。
頭を下げるマレにハクが狼人八人が続く。
理由も理解らず大量に作った塩、それを喜んでくれる人族の集落の皆。
もう彼等に人族だからとの偏見はない。
ロレ国北端の村人に感謝し、その日は小屋に皆で泊まった。
ロレ国、それは良き隣人。
「あの、マレ様、何処に向かって。」
アーミテノールの身を案じ尋ねずにはいられなかったのだろう。
「レキが蛮地と呼ぶ、俺ん家がある場所。」
馬車は平原を東へ東へと。
蛮地、プラノも知識としてはある。
獣人奴隷の産地、レキ国領の北部未開の地。
「レキ領ですよね?」
「あ〜レキの奴等が勝手に言ってるだけだな。レキの為政者が此の地に住む獣人族の皆に何かしてくれたか?此れから行く海浜の村は狼猫鬼族、そして俺と俺の子供達の国、レキが周辺国が認めんなら力で認めさせる。」
不思議だ、何故、そこまで言い切れる?
後ろ楯は小国、ロレ国。
幾らかの小金は持っているだろう。
屈強な狼人を従えてはいるだろう。
だが、、、、勝てるはずが、、、、
“我が君”
“王権を神より授かりし者”
“天をも掴む者”
アーミテノール様は、、、此の男に何を見た?
理解らない。
サンマルール・プラノは口を閉ざす。
進み続け幾昼夜、途中、荒れた鬼人の集落跡地を見て不安が募る。
「見えて来たぞ俺の俺達の家だ。」
大小二棟の家。
元王族と近衛の二人からすれば見すぼらしい建物に人は居らず皆は村かと幾つかの荷を蔵にいれ進む。
「まあ。」
「これ、が」
冷たい潮風、潮の香りを感じながらアーミテノールは遠くに見える光景に眼を輝かせた。
整備され踏み固められた街路、板の表面を焼いた焼杉で建てられた家々が数百棟、漆喰の建物が点在する。
蛮地、獣人の暮らす集落、プラノは自身の想像を大きく覆され動揺する。
「おーい、今帰ったぞぉ〜。」
午後、そろそろ本日の仕事を終えようかという狼人の職人、見習い職人の猫人、鬼人がハクの声に反応し荷馬車に手を振る。
周囲に集まり並び歩く狼、猫、鬼の子供達。
養女の子供達皆が荷馬車の幌から顔をだし周囲を興味深そうに観ていた。
「う〜す」
「おい〜す」
「おかえりー」
村の皆がマレ、ローレライ商隊、ハク達に軽い挨拶の声を掛け、そのまま荷馬車の後を着いてくる。
三台の荷馬車隊は何時しか行列を作り村、いやもう町であろう中央広場で待つ人々と二週間振りの再会、互いの無事を喜びあう。
そんな中に、赤髪褐色肌、鬼人少女と狼人の少女の前で背を丸め、申し訳無さそうに黒髪を搔くマレがいた。
「アイ、ケイ、シウ。留守番ありがとう。あ〜その〜子供が〜八人増えました。すいません!」
恵体な体躯を折り頭を下げるマレに微笑する三人の少女、実際そうなのである、仕事、仕事で年少の子供達の世話は少女三人とサジに任せっきりであった。
「マレ様の御心のままに。」
少女の微笑と彼女の言葉にマレはドキリとする。
嗚呼、ニケに、似てきたな
あーにき〜 にーちゃーん
子供の駆ける足音。
ミミとミウ、双子の姉妹がマレに飛び付き遅れて初が駆け寄り、お父様と。
更に後方からはサジが中央広場に向って歩きながら父上と叫び手をブンブンと振る。
「ただいま。妹が増えたぞ。ミミ、ミウには姉と妹。また皆で勉強や焼き物を教えてやってくれ。仲良くな。サジは今日は弓の練習か、サジが兎、鹿を獲ってくる日がくるの期待してるぞ。」
唯一の男子サジは矢筒を背負い重籐弓を手に照れくさそうに頭の灰毛を搔く。
家族との会話、ひと時を待っていてくれたマクとタン、ハイタッチを交わし合う。
“HEY BROTHER“
マクには家畜をタンには荷馬車の素材、資材の引き取りをお願いする。
「タン、ちょいと付き合ってくれ。」
「おん、どしたん。」
そのままタン、マク、家族に新たな家族、子供達を引き合わせ。
「義手、義足を作りたい。あとで簡易の絵図を用意する。」
「マレは優しいからな〜」
タンはニコニコと告げ、隣ではうんうんとマクが頷く。
「手脚を無くす、今後戦っていけば、そんな兵士も出てくる。此れも大事な技術だ、独り独りに合わせて使い勝手を確認しながら調整が必要になってくる。」
そうだな、うんと真剣な表情で応えるタン、マクも下顎を撫でながら、そうだなと同意する。
タンとマク。鍛冶と農業にて義兄弟長兄を後方支援する重要な役割を担う。
海浜村での午後、マレ新旧養子家族は甘酒と共に顔合わせと交流を、マレとハク、八人の狼人、ローレライは族長と主だった者で今回の旅の報告と話し合いの場を持つ。
此の日は海浜村の学校にマレは家族とローレライ商隊の皆と共に泊まった。
「はぁ〜寒い日はやっぱこれやで。」(* ´Д`)=3
我先にと炬燵に足をいれるローレライ、そうですね〜と続くラミスとメイ。
足入れ三秒で微睡むセインとタンノ。
アイがケイ、シウが子供達、アーミテノール、プラノを炬燵に誘う。
最初は、おっかなびっくりだった彼女、幼女達も炬燵に足を入れしばし、微睡に沈んでゆく。
北の大地での生活初日、夜は更けていく。
「全員整列ーーッ! 只今より任命式を行う。」
潮の香り冷えた空気、澄んだ寒空の下でハクの号令が響き渡った。
海浜町、中央広場を多くの見物人が囲む。
八人の狼人の横に立つハクと対面に立つマレ、アイ、タンの三人。
八人の狼人若衆
ハク ロロ サク シマル ソテツ オウン
ラル カマン カムラ
歳の頃はハクと同年代または前後。
十五、十六、十七歳。
マレが開いた青空教室に年少、年長の下の世代に混じり自主参加した。
水車、玉鋼造りにも参加した。
半年間のロレ職人からの教導で大工、土方仕事を学んだ。
そして、ルワイ率いる蛮地狩り九百に対し伍長または槍隊の一員として初陣済み。
彼等八人は職人、生産者、採集猟師漁師になる事を選ばず戦う事を選んだ。
自ら重籐弓を造り、日々鍛錬し、僅かな期間ではあったが剣術、槍術、柔道、拳闘の基礎基本を渡来人から学んだ。
黒一色に統一した服。対面の男が一歩前へ。
「今より諸君等を伍長より軍曹に昇進。また、新人指導教官に任命する。」
「名前を呼ばれた者は一歩前へ。ロロ伍長。」
「はい」
ハクの号令 ロロの返答
マレ、アイ、タンがロロに近付く。
「ロロ軍曹、今後とも宜しく頼む。」
マレから渡される軍曹任命書。
「おめでとうございます。」
アイから渡される緑色の軍服とベレー帽。
「期待してるよ〜。」
タンがククリナイフと革鞘と革ベルト砥石一式
「謹んでお受けします!」
ロロの力強い返答に周囲から万雷の拍手。
此の日、職業軍人、八人の軍曹が誕生した。
八人の若者は誇らしげに支給品と任命書を抱え集まってくれた皆に手を振った。
“うおおおおお 漲ってキタ――――ッ”
下ろしたての服とベレー帽を着用し荷車を引くソテツ軍曹。
押すシマル軍曹。
任命式と話し合いを終え昼前に自宅に戻り家族と過ごしたいと告げたマレ。
脚の不自由な子供の事も考え自分達八人がと荷車引きを申し出る八人の新任軍曹。
「ソテツぅ〜、シマルぅ〜バテるぞ〜。」
“うおおおおおおおおおおおおおいっスッ”
はしゃぐ子供達を乗せて張り切るソテツシマルペアにマレの言葉も届かず。
マレは横を歩く六人とハクに。
「すまんな〜予備の服は今ロレの職人さんに頑張ってもらってるから、もうちょい待っててな〜」
十二月。冬の陽光の下。
緑一色、統一軍服、背には矢筒、右手に重籐弓、
腰には奇形の鉈を携え微笑する若狼達。
職業軍人の誕生。




