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第55話 廻る 運命の糸車 (3)


 ロレ城で二泊し忙しなく出発するロレ商隊とマレ、ハク達。




マルトゥスク国境関所にて木札を見せるローレライ、兵士は荷を確認する。

「確かに獣人奴隷と交易の品だな。通ってよし」

荷馬車の荷台には手枷され腰布半裸の狼人九人が俯き無気力に座る。

関所を遠く離れ後、マレは荷台に声をかける。


「いい演技だった、レキの関所でも頼んだぞ。」

ハクも皆も笑いを噛み殺す。

こんな事でさえ楽しいのだろう。

レキ、ルワイ兵と一戦交えた今、目立つ狼人を公然と連れ歩くは不味いと偽装させる。




 レキ国境砦関所。

此処でもローレライは木札を見せ通行税を支払う

兵士積荷の確認中に近寄り、お疲れさんですと言葉共に数枚の銅貨を握らせる。

「なあローレ、その証明木札と通行税払えば関所抜けれるのか。」


「ン、あ〜あれや、マルトゥスクの女王には偶に献上品持ってっとる、うちの商隊は問題無くパスできる。マキウス砦は、初回申請と審査、此処で木札買うやろ、で毎回通行税と別にワイロ銅貨三枚くらいやな。毎回小金握らせとれば顔も憶えられる、ですんなり通れるようなる。」


「マルトゥスク関所の通行札、俺の分も用意できるか? あとロレの関所は顔パスしたい。」

マレの要求に問題無いと答えるローレライ。





 街道を馬車は進む。

貧民窟に入り女王都が見えてくる。

ローレライは行き交う人々の中、一人の中年女性と視線だけを交わし合う。

それは、ほんの一瞬であった。

ロレ国の潜入兵士、間諜。

マレは名も知らぬ彼女に心の中で礼を述べる。



貧民窟を抜け街中の宿へ。

偽装奴隷を連れる為、取った宿は奴隷市場近く。


「ハク、皆、すまんが部屋で待機だ。食事だけはローレライに頼んで、たっぷりと運んでもらう。奴隷の振りを続けてくれ。」

ハクも狼人八人も無言で頷く。




 荷馬車一台、ローレライと共にバークス商会へと向う為に宿を出るマレ。

 アル峡谷はマレが封鎖指示をだした。

結果、レキ国入りする為には毎回ロレ国、マルトゥスク国経由にてマキウス砦からレキ国入りせねばならなくなった。

 そして、女王都中央に向う為に毎回この道を通る事になる。


 ああ、嫌だ、

 本当に嫌だ、

 此の国が嫌いだ、

 此の街が嫌いだ、

 此の場所が嫌いだ、

 此の光景が嫌いだ、

 俺は奴隷が嫌いだ。


男の視線の先、眼に入るのは奴隷市場。

その光景は男の心に傷を付ける。


 奴隷制度、其処に善悪は無い。

文明が栄える過程にて必然的に発生する事象。

人が紡ぐ歴史の1ページに過ぎない。

男は理解している。

心が拒否する。

頭と心が乖離する。


 マレの視線の先、幼い鬼人の子供が奴隷商に蹴られる。

歳の頃は、もしかすればミミ、ミウより幼いかもしれない。


「ローレ、少し寄り道したい、付き合ってくれるか。」


マレの見ているものに気付き、値切ったると笑い、意気込む少女。




 幾人もの奴隷商、幾百人の主無き奴隷達。

その殆どが女性で、この寒空の下、碌な衣服も無く、全裸の者も多々見られた。

皆、膝を抱え蹲り寒さに震える、見知った者同士は身を寄せ合い僅かにでもと暖をとる。

 ローレライに任せ待っていれば良かったと後悔する。

奴隷の多くは人種、鬼人は先程の幼女ともう一人。獣人は皆無。

見れば、ローレライは強欲そうな老婆と激しくやり合っていた。

白熱する値切り合戦。


「金貨三枚や!」

「あほぬかせい! 碌な労働力にもならんのをうたるんや!纏めて金貨一、銀貨八や!」


強欲VS強欲さんの戦いを眺め、早く此処から去りたいマレ。


「マレえ、この子ら姉妹やと。レキ金貨一枚と銀貨十五枚や、ええな?」


ローレライの言葉に無言の頷きで応え、幼き姉妹独り独りに大布を掛けてやる。

鬼人の姉妹は理解した。

自分達は幸運だったと。

何故なら周囲の奴隷達は姉妹を妬む様な眼で見たからだ。

そして幾人かはマレを恨みがましく見ていた。


 何故、私を買ってくれないの


 この世界の善悪。

奴隷に対し寛容な主人は善である。

奴隷に対し理由無く、狭量で暴力を振るう主人は悪である。

 主人にとって奴隷は財産、資産。


 不快な金切り声、怒声罵声が響いた。


 本当に嫌な場所だ

 最良は近づかない事

 次良は見ない事

 関わりたく無いなら見て見ぬ振りをする事


 中年の女奴隷商が喚き声と共に全裸の女奴隷を幾度も蹴りつける。

 奴隷は蹲り身を丸め耐えるが、その焦げ茶の瞳だけは奴隷商を睨む。

奴隷に身を貶したばかりなのか。

それとも誇りを失っていないのか。

または両方。

幾度も蹴られ更に奴隷商渾身の蹴りを受け奴隷はぐったりとする。

ぐったりと脱力する奴隷を見下ろし奴隷商は怒り心頭と手近に立て掛けていた棒を握り締めた。

誰も彼もがとばっちりを恐れ目を逸らす。


振り上がる折檻棒。


「駄目」


一言と共に独りの若い奴隷少女が地に伏し脱力する奴隷と奴隷商の間に割って入る。


 先程迄気丈に奴隷商を睨んでいた奴隷は顔を挙げ叫ぶように。


「離れて下さい!私は大丈夫です!どうかッ!!」


彼女の懇願を背に受け、固く瞳を閉じる奴隷の少女。

覚悟はした。


しかし、何時までも振り下ろされる事の無い折檻棒に少女は恐る恐るとゆっくり瞼を開いた。


「もう  いいだろう。」


棒を振り上げる奴隷商、棒を握る手首を掴む男。


「ああン!?離しやがれ!」


僅かに首を後に向ければ相手の身長の高さに見上げる事になる。

漆黒の外套、黒のベレー帽の下は黒髪に黒瞳。

精悍な顔付き。

奴隷商は恐れよりも先に思ってしまった。

此奴を競りに掛けたら幾らの値が付く?

王侯貴族に献上すれば下級貴族か役人に成れるか

守銭奴、亡八、人としての徳を喪いし根っからの人買い。

男の供であろう少女と鬼の幼女二人が駆け寄る。

奴隷商は刹那の妄想を振り払い凄む。


「あたいの売りもんだ、殴ろうが殺そうがあたいの勝手だ! 離しやがれ! 役人呼ばれてえのかッ!」


奴隷商の威嚇、強気な表情が次の瞬間には歪み。


「い、いてえ、は、離しやがれ!」


掴む手首、指先に力が籠る。


「躾だ、生意気過ぎて買い手がつかねえんだ」

「幾らだ、二人共買おう。」


「は? よ、、、金貨十枚だ!買えねえならはな」


奴隷商が吹っ掛けた金額、その言葉を言い切る事は無かった。


マレは外套内ポケットから無造作に金貨を掴むと地に放る。

「這いつくばって拾え。二人はもらってく。」


明らかに十枚は超えて放られた金貨に奴隷商は地に両膝を着き周囲を威嚇しながら必死に拾うのだった。


目の前で起こった事に呆然とする奴隷二人。

全裸の少女に大布を渡すローレライ。

全裸で蹲る奴隷に自らの外套を脱ぎ掛けるマレ。

「いくぞ。」





「サンディさん、メイちゃん、ラミスちゃん、タンノちゃん。ホンマ さーせん。」

一度宿へと戻ったローレライの目の前では、先程の男振りは何処へ行ったのかと思う程に商隊の面々に両手を合わせ平身低頭し四人の奴隷の世話をお願いするマレがいた。

ローレライは皆に彼女達の仮着の用意と食事の世話を指示する。

「マレ、ほなバークス商会いくでぇ〜」




 馬車を御し、上機嫌なローレライがいた。

此の男の横に居れる事が誇らしかった。


「なあ、マレ〜、奴隷に絶対の忠誠を誓わす方法識っとるか?」


「え?いきなりなによ?ちょ〜興味ないお話し何ですけど〜」


「まあ、聞きい。その奴隷の命を救うことや。あの四人は、きっとマレを裏切らん。マレの為に死も厭わんかもしれへん。」


「あ〜そういうの、ちょ〜勘弁して欲しいンですけどぉ〜」


「そうかぁ〜」


「只の自己満足だよ。」


「ほーー。それが女転がす超絶テクニックの極意か!?」


「ローレさん! 言い方が卑猥ぽいからやめて!」


マレの懇願にローレライはケラケラと屈託無く笑った。




 バークス商会にて商品を卸し、手形を受け取る

「ヨシツネさん、ありがとうね。ローレライさんも。」

店主バークスが礼を告げる。

この日マレバークス商会に来年の暦を柄にした湯呑みを百個無償で提供した。

お得意様にお配り下さいと言葉を添えて。

「いえ、もうすぐ年の瀬ですし、遅いくらいかと。申し訳ないです。」

 店主バークスの淹れた茶を頂きながらの歓談。


「いや〜、穀物全般値上がり、他の商品も値が上がって中々に手がでませんわ。」


「うちにはまだ影響が出てないですわ。相変わらずヨシツネさんが卸しくれる品はすぐ買い手が付きますもの。」


ローレライが適度に話題を振り話しを進めてくれる為マレは助かっていた。


 国民は物価高と増税で苦しく、

 お貴族様は放蕩三昧ね。

 

マレはニコニコと笑みながら二人の話しを聞く。


「やっぱ、大きい戦ですか?それやと扱う商品も考えないあきませんし、鉄や武器、防具も扱わなあかへんかな〜。」


「まだ、大丈夫じゃ無いかしら?お得意様からは二年程掛けて準備するとか。何でも北方で貴族の皆様で大きな狩りをするそうよ。長期滞在になるとかで皆様楽しみにしてらっしゃるとか。」


マレ、ローレライ共に、はぁ~、ほぉ〜と相槌をうつ。


「ああ、そうそう、思い出したわ。でね、得意先の貴族の皆様から、ヨシツネさんが最初に持ってきてくれた。真っ黒なお茶の器。あれが欲しいそうよ。」


「意外ですね。皆様、華美な物、派手な物を好まれると思っていましたので。」


「何でも、殿下があの黒茶碗で貴族の皆様とお酒を回し飲みなされたとか。多くの領主貴族様が自分もあの黒茶碗で皆と“渋く“ ”粋に“回し飲みたいそうなの。今後、渋い、粋、は女王都の流行りになるわね。」


「あ〜そうなりますと〜、マルトゥスク、バレス、タリア北方でも流行るかもしれへんなぁ。」


「かしこまりました。次回の納品にて幾つかご用意させて頂きます。」


「お願いできるかしら。」

柔らかな陽射し差し込む店内でバークスは柔和に笑んだ。


 ミミ、ミウ達にいっぱい造ってもらお (^ω^)

 お貴族様も子供の泥遊びとは知るまいて。

 テラアホス ( ゜∀ 。) うひょぉぉぉ

 千の利休さんもワルよのぉ〜 (*´ω`*)



「じゃまた二日後な〜」

バークス商会前にて予定を告げマレは王城へと向う。



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