第53話 廻る 運命の糸車 (1)
広大にして豪奢な部屋の一室。
壁に嵌め込まれたタリア産の色付き板硝子から陽の光が差し込み室内は明るい。
長大な長机、その上座に座るはレキ女王国女王
レキ・アマノ八世。
長机の両脇に座る王女、重臣、各地の領主貴族達
レキ女王宮の一室。
「私に私に! 母上の汚名を雪ぐ機会をお与え下さい! 三千いや二千の兵を持ってして狼共を根絶やしにしてみせます。何卒!陛下!!」
席一つに座り必死に訴えるのはルワイ・ルルエール。蛮地にて死亡したルワイ・ランシールの娘にして現ルワイ侯爵、西方国境マキウス砦将軍。
「ふう、無知な獣に三千も必要無いかと。我が騎兵千にて狼の集落など一瞬で灰にしてみせましょうぞ。当然、狼は全て狩りつくしてね。」
「いや、待て待て、私が、私と私共の兵こそが、華麗に行軍し、音も無く忍び寄り、ズバッと狼共を斬り捨て血祭りにし、皮を剥いで持ち帰って見せましょうぞ!」
上位貴族達が威勢よく我こそはと名乗り出る。
彼女達にとって蛮地での軍事行動は未だ狩猟。
女王の側付き重臣が並み居る貴族を諌める用に。
「皆様、楽観し過ぎではありませんかな。」
諫言の言葉は通じず、多くの貴族は反論する。
無知で野蛮な獣に囲まれた。
たまたま、運悪くルワイ卿は亡くなられた。
運が悪かった。
油断が過ぎた。
私ならば、自分ならば、
遅れは取らない。
万に一つも無い。絶対に!
側近は貴族の言葉を聞き流し女王に上奏の体にて報告する。
危機感を煽る為に。
「生き残った騎士と農民からの聴き取り調査の結果をご報告させて頂きます。」
狼、二百から五百、千匹以上との言葉は誇張かと
集団にて戦闘を仕掛け、火を使った戦術、
その後、強力な弓にて高所より一方的に攻撃を受ける。
少数の狼が槍にてルワイ卿と寄子貴族、騎士を殺害。
女王側近の報告に貴族達から動揺のざわめきが漏れた。
「生き残ったルワイ卿の側付き騎士から不明瞭な報告も上がっております。蛮地の神の怒りに触れた、、、と。他にも神罰の炎雷を落とされ皆が絶命した、などですね。」
側近の報告に、ある貴族などは、フンと鼻を鳴らした。
「逃げ帰った理由の適当なでっち上げですな。逃散兵によくある言い訳です。」
この言葉に他貴族も同調し、気にする事無しと笑い出す。
瞑目し両腕組み静観していた女王アマノが瞼を開く。
御苦労と側近の報告を一言労い次には王女、娘へと顔を向けた。
「アルウル、貴方の意見を述べなさい。」
急に自分へと水を向けられ戸惑うも答えは一択でしかない。
「此の儘、放置するは得策では無い、かと。」
娘の返答に充分満足し女王としての勅を発する。
「頃合いでしょう。蛮地の獣を奴隷に、出来ぬなら殺しなさい。一匹残らずです。獣が多少とはいえ知恵を付けた、此れは由々しき事態。レキ女王国にとっての悪い芽は摘まねばなりません。マシウ、大掛かりな蛮地狩りを計画なさい。大軍を持って蛮地より獣を一匹残らず燻り出すのです。」
マシウと呼ばれた側近女官は御意の一言を。
貴族皆がおおと短く歓声を、そして胸中は、ああ、此れにて蛮地狩りの伝統も終焉かと悲しむ。
せめて多くの獣人奴隷を狩ろうぞと。
彼女達にとっては未だその程度の認識でしかなかった。
後日、幾つかの試算を携え女官マシウから報告が女王に上がる。
国軍、貴族軍、徴兵農民、合わせて三万から四万人規模。
蛮地滞在帰還は三ヶ月から半年。
山狩、森狩も見据え長期間になる事。
兵站と軍費が甚大である事。
各貴族領主の私兵は貴族の負担とし、その他費用はレキ国直轄領の税収で賄う必要がある事。
冬の期間は避けるべきである事。
「現在の国庫状況、税収から判断し二年から三年準備期間が必要と判断致します。陛下、御裁可を。」
更に後日。
レキ国全土、女王直轄領とほぼ全ての領主貴族が民に増税を通達した。
翌年の秋、多くの民が税を払えず、ある者は畑を捨て逃散し、ある家族は娘を息子を税の支払いの為に奴隷として獲られていく事となる。
ロレ一団とマレの話合いの翌日。
旅商隊は陶器、陶磁器、塩、魚醤、シナモン、ニッキを荷車への積み込み作業を。
更には帰還する職人団の荷車空きスペースに迄、商品を積み込んでいく。
「今より夜間を想定し、屋内突入、制圧、人質救出訓練を行う。如何に敵に気付かれず。人質にも騒がれず。短時間で作戦を行ない、速やかに撤収できるかを練習する。」
マレはハクと狼人若衆八人と共に軍事訓練を。
教材、訓練現場はロレ職人と狼人で建てた新築民家一軒。
マレの開始の言葉と共に事前打合せ通りに行動に入る狼達。
マレ以下全員が顔や体に泥、墨、染料によるドーランメイクによる迷彩を施し。
腰には短剣を想定した短竹刀をさす。
ローレライ商隊の皆、ロレ職人、周囲の者達が気になって仕方がないとチラ見した。
子供達などは近場で座って見学する。
幾度もの練習を重ねる。
マレ自身経験が無い。
皆も経験が無い。
行動と練習、不意、想定外の起こり得る事象は何か?を皆で話し合い詰めていく。
本日の訓練を終えようかという頃。
「マレ、注文のククリナイフ造ってみたよ。取り敢えず五本だけ。」
戦で接収したルワイ兵の槍穂を材料に打直し鍛錬した、くの字型の肉厚刃の鉈五本。
マレとハク、八人の狼人がタンを囲みククリナイフを手に取る。
若衆八人の興奮は凄まじく。鼻の穴を広げ実用性高い鉈に魅入った。
「お、革鞘とベルト迄用意してくれたのか。」
「ン、マレがロレから皮革買ってくれたからね。加工くらいはしようかなって。」
「皆、すまないが、直ぐには全員に支給できないようだ。今後に期待してくれ。」
しょげる八人。
ハクは言う。
「当面は重籐弓で頑張ろうぜ。」
「あ〜重籐弓。タンすまないが鬼人、猫人に重籐弓製作教室開いてやってくれないか。急がないし、材料の準備、開催、告知何かは年長組に手伝わせて、タンは確認と裁可出すだけでいいからさ。」
判ったと即答するタンとは真逆にハクは真剣な表情で尋ねる。
「まだまだ弓の数が足り無いと?」
「いや、狼人なら弓は嗜み、鬼人女性なら扱える筋力はあるだろう。猫人には重籐弓は大きすぎるな。だが技術は憶えて貰いたいんだ。」
さらに、レキ国が此の儘俺達を放置する事は、まず無いと皆に、告げ。
此の日、マレとハク、八人の狼人は商隊の荷馬車に同乗しロレ国に入った。
同時にロレ職人達の帰還。
別れ家へと帰る彼女達、マレと狼人は固い握手を交わし手を振り合い見送った。
マレとハク、八人の狼人は、外の世界でも信頼できる人々との出会えた事に感謝する。
交易所に寄れば商隊が荷を降ろすのを見つけた商人達が群がった。
その内の一人が黒髪黒瞳に恵体なマレを目敏く見つけ話しかける。
「兄ちゃん、もしかして噂のZIPANGの人か?」
一斉にマレを見る、近寄ってくる商人達。
しまった!と表情にだすローレライとロレの面々
取引しよう。
高値で買う。
今より良い条件をだす。
甘言にて距離を詰めようとする商人達。
「申し訳ございません。ZIPANGを治める皇帝陛下より海の先での商いはローレライ商会にのみ専売を許すとの勅命でございます。金貨を積まれた程度ではお取引出来ません。」
毅然とした態度、平静の声音で男は嘘をつく。
その時、
「ケチな王様やなッ金なら払う言うとるやろ!」
強欲な商人の野次が飛んだ。
対するマレは直ぐ様行動に移す。
後背、隠すベルトからのククリナイフを抜き放ち商人へと突きつける。
「貴様あああああ! 陛下を愚弄するかあッ そこへ直れ、その首掻き斬ってくれるわッ!」
憤怒の表情。
烈火の怒声。
マレに凄まれ商人は二歩三歩と後退り次には脱兎の如く駆け出した。
居並ぶ商人達も皆マレから顔を背け、少しづつ距離を取る。
何人かの商人は足早に交易所の従業員へと商談に向う。兎に角、陶器、陶磁器の確保だと。
「ハァ〜 相変わらずの役者っぷりやな。都の大きな劇場で主役はれるで。」
ニヤニヤと男を見て告げる少女。
マレはローレライの劇場、役者の単語にふと思い
「ローレ、ロレ国にも劇場、劇団があるのか?」
男の言葉に少女の表情は一変、渋くなる。
「あるわけ無いやろ!ショボい国で悪かったなッ!あるんは夏、冬にやる地場演劇や。地域のもんが集まってやる素人芝居や。」
地場演劇、素人芝居。ローレライの言葉にマレは益々興味惹かれた。
此れだと思い、更に尋ねる。
「演目は? 流星の寅太郎か?」
男の興奮に気付く事無く、更に顔を渋くするローレライ。
「お決まりの演目や。奴隷と王女様と、裸の城。どっちも軍記物になるんか?人情物なんかなぁ」
ほうほう、成る程成る程と相槌を打ち、マレはニッコニコ顔でローレライに提案する。
「年明け、相手方の都合に合わせる。海浜の村でロレ国地場劇団、出張公演をやらないか?」
「ふぁ?」Σ(゜Д゜)
男の突飛な提案、ローレライだけで無く周囲皆を困惑させるのだった。
「さ〜仕事、仕事。」
交易所、並ぶ前に群がる商人達。
ニッキ、シナモンのスパイス。
陶器、陶磁器は最高級品から日用品まで各種取り揃え百点近く。
商品の取り合いになり急遽始まる競り。
交易所の喧騒を他所に隅にて買い取り商品の実物陳列と買い取り値札を付けるマレと商隊の皆。
ハクとセイン、八人の狼人はマレ達の仕事を何とは無しに眺める。
多種多様多彩。
買い取ります!の札。
鉱物、金属、非金属。
購入しない物は、金、銀位だろうかと言うほどに
購入品、大量買い取り “石英”
買い取り品見本棚の角に混ぜ置かれる、トロナ結晶、硝石結晶。
各種、金属非金属は硝子、陶器、陶磁器の色味、艶、質感変化の為にも複数種類必要となる。
マレは実験研究の為にも様々な素材を欲する。
更には、ロレ交易所、小麦、ライ麦、大麦、米、各種豆類の買取値引き上げ。
供給の多いスパイスの買取開始。
麦酒買取ます 金額酒精に応ず。
青天井で値が上がる競りに早々に退散した商人が買取品コーナーに脚を運ぶ。
此れは商機!!と買取り品のメモを取る。
「は?何やこれ?」
それは誰もが首を傾げた。
詐欺か?と考えもした。
買取値は安い。だが、、、、
“買取マス! 厠の土 十年物”
思わず一人の商人が交易所の人間に説明を求めた。困り顔の交易所職員の代わりに対応するマレ
「はい、買い取らせて頂きます。」
商人は駄目もとで尋ねる。
「何に使うん?」
にこやかに 平然と。
「尿には塩が含まれています。厠の土から塩を抜き、塩と残った土は肥料になります。海の無い土地、そして農業肥料、厠の土はとても良いですね。」
「ほ〜〜ン 成る程な〜。」
感心する商人もいれば、他人の尿から得た塩を使うにはちょっとと躊躇する商人迄、反応は様々。
しかし、肥料と言われれば納得である。
確かに塩を抜かねば肥料に向かないなと。
男は詐欺師、そして嘘は言っていない。
ただ、騙しただけである。
長い年月、尿を掛けられ熟成させた土。
そこから取り出す“塩硝”(硝石)
男は火薬材の収集に奔走する。
此の後、ロレ国内、国境周辺マルトゥクス、バレス国農村からトイレの土が交易所へ持ち込まれる事となる。
時に紛い物を持ち込まれるも塩の含有量を調べられ買取拒否が成され徒労に終わり歯噛みする商人もいた。
マレが用意した買取品、品質ガイドラインが役に立つ。
全うな物には相応の金を支払う。
支払われた金で陶器、陶磁器を仕入れる商人達。
結果、近い未来。
ロレ国と海浜の村を往復する荷馬車が絶える事無く。
徐々に増えていく海浜村製商品の種類。
“ウスターソース 入荷しました 現品限り”
“ZIPANG酒 入荷しました 現品限り”
“ZIPANG火酒 入荷しました 現品限り”
ZIPANG火酒などと表する酒など酷い物である。
アルコール度数10%前後の上物麦酒を蒸留した原酒。
樽熟成品は保管、当面市場に荒々しい味わいの蒸留原酒を徳利に容れ販売し買取り資金を回収していく。
樽熟成蒸留酒が貯蓄の様に蔵に貯まっていく。
さらにアルコール度数70%まで高めた物は消毒薬に利用した。
(*゜∀゜)うひょ〜三年後幾らかになるかな〜wktk
仕入れ全土 加工産地海浜村 中継販売地ロレ国
補足 m(_ _)m
世界観はナーロッパ仕様ですが
文明の最先端タリア帝国 モデル、古代ローマ
ラハン神聖帝国 モデルは古代中華
を想像し物語を読んで頂けたら幸いです
( 'ω ` ;) 自分そこまで歴史に詳しく無いのでそこは
まあ ええ その ねえ こまけえ事は いいんだYo
精神でお読みください m(_ _)m
万記




