第51話 Take The Wave (6)
正午
忙しい合間を縫い行なわれた葬儀。
戦勝の翌日、多忙極める時期故にニケの葬儀は近親者と一部参列者のみで行なわれた。
マレと養子の皆。
狼人族からは族長代理、妻サカエ 娘サチ
鬼人族からは新族長ユウとニケが庇った姉妹レレとミレ。
リンゼ、ローレン、リンレンは急遽朝国元へ帰国した為、職人から代表者が一人。
そして、青空授業で世話をしていた年少組、狼人の子供達が葬儀に参列する。
アイを筆頭に初、ミミ、ミウ、シウ、ケイ、サジがニケの亡骸を共同墓の窯に収める。
マレは無言で薪に火を点けた。
ニケの紅、艷やかだった髪が燃えていく。
パチパチと体が爆ぜ燃える。
皆が涙し別れを惜しんだ。
燃える愛しき人の亡骸を前にマレは不思議と泣くことができなかった。
人はいつか死ぬ。
長い時間をかけ焼かれ残ったニケの骨を皆で壺に納める。
黒髪、黒瞳、黒の綿外套に黒の綿パンツ。
稀人ことマレ。尊称は客人神 恵比寿。
「我が巫女、ニケの体は灰となった。今より我が眷族として此の地に住む我等を支える一柱の女神となろう。今、此の時、嘆き悲しみ膝を大地につくも良い。だが明日には立ち上がろう、前を向こう、我々は生きていくのだ。永遠なる女神ニケは我々と共にある。」
ニケの遺骨が共同墓に安置される事は無く。
後日、鬼人族に塚をゆくゆくは社を建てさせ鬼人族の氏神の一柱として奉らせる為であった。
祭祀で政。
葬儀後、養子皆を集め抱きしめる。
「当分帰れないから。」
マレに家族と過ごす時間は今は無い。
子供達の面倒を狼人族長の妻と娘に託しアイ達は当面、海浜の村で生活する事になった。
午後。
アル峡谷から狼人勇士が猫人と馬、一部物資と共に帰還する。
一息つく彼等彼女等とは別に慌ただしくなる一部の者達。
三部族族長会議。
戻ったばかりのマクとタンも主要メンバーとして例外なく参加。
二人共に忙しさで髭も萎れる勢いであった。
「皆、待たせた、先ずは全員自己紹介から、年長組の皆もだ。此れからの政に大いに関わってもらうぞ。」
学校の広い一室を使用しての会議会談、一番最後に入室してきたマレの言葉から始まる。
場内、一通りの自己紹介が済んだのを見計らい猫人族族長が声を挙げる。
「私から、宜しいですか。」
初回、皆初めての事ばかり、場を仕切り進行役を務めるのは自然、マレの業務になる。
「どうぞ、次からは発言を望む方は挙手を、自分が名前を呼びましたら発言する。この形で進めます。」
簡易ルールを即座に作り場を進めるマレ。
猫人族長、族長タママは老齢な女性であった。
「はい、失礼致します。急なお話しで申し訳ございません。まず私は族長を退き、カラチ、マル、チョコの三人の若者に新たな猫人族族長を託したく思います。」
確かに急な提案であった。その為会場の皆がざわつくもマレだけは動じず。
「承った。では三人の後見人としてタママ殿には当面の間、会議などの同席をお願いしたい。」
さらりと場を進行させ会議議事録をとる年長狼少年少女にアイコンタクトを送る。
その後も数々の議題を進めるがシャンシャンと進んでいく。
マレの鶴の一声とでも言うべきか。
会議馴れと問題処理能力の違いを見せつけられるばかりであった。
「―――でー現状の備蓄団栗と商隊より購入し貯めこんできた米と豆。明日以降の葛根採取、冬の漁業。戦の接収品で冬は越せるかなと。木炭も増産の方向で。」
マクの報告。
二倍に増えた人口、必要物資も二倍。前もって年少組が在庫確認と計算を行ない作成した資料を急ぎ目を通し会議の場で報告するマク。
彼の髭の萎れと力無い言葉はどうも疲れだけが原因ではないようで。
「年初のたたら製鉄の件か?」
「うん、製鉄分の炭の確保は無理だね。」
マレの言葉に同意するマクと隣で頷くタン。
マレは蔵にある実験作業用の石炭を鍛冶に回すと告げ。
「今回は見送る。レキから接収した粗悪な槍が大量にある。半分を使用、半分は打ち直して再利用する。問題は輸送力か、ローレライ商隊だけでは限界だな。おいおい考えるとしようか。」
その後は新都市計画の説明と猫人、鬼人の入植地の選定。
当面は海沿いに猫人、漁業と製塩に。
内陸よりに鬼人、農業重視にてマクが指導する事で話しは纏まる。
「炭焼き、陶芸の指導人員を狼人からだしたい。人員の選定を。」
マレは言葉と共に年少組を見る。
お前等でやっておけと丸投げの視線であった。
「落ち着いてきたら猫人、鬼人、部族関係なく鍛冶や大工、船大工など専門職人育成希望者も募る。決して猫人は漁と塩、鬼人は農業と固定する気はない。一人、一人、各個人がやりたい仕事を見つけて欲しい。」
マレは卓上の麦茶に口つけ喉を潤し次の議題へと進む。全ては、この男を中心に進んでいく。
ん~~これでは良く無いな。
今は仕方無しか。
「次、猫人、鬼人、各部族から兵役に三十名人員をだしてもらう。配給あり。土木等の技術教育あり。アル峡谷に駐留してもらう。」
アル峡谷への物資輸送に関して族長ハマとマレ、タン、マクで詳細を詰め最後の議題へ移っていく。
「此れは鬼人族のみ適用の規則になる。鬼人族男子は鬼人族の公共の為にのみ働いてもらう。まあ性交渉だな。鬼人男はやったら飯が食えて日々最低限の生活が保証される。まあ贅沢したかったら、やりまくるか、働けつーことで。」( # °д°)
何処か僻み妬み嫉み混じりに話すマレであった。
女三十人対し男が一人である。致し方無い部分と割り切るも割り切れず?だろうか。
この件のみ、他部族には理解を求め、ユウ族長には補佐に付けた年長組秘書と相談し対応させる事とした。
「最後、本日は俺が色々決めたが各部族ごとに色々あると思う、多くの意見、問題事の提起を求める。将来は多数決による議会共和制、つーても分かんねえか、まあ追々憶えてくれ。今は予行演習だ。じゃお疲れさん。解散かいさ〜ン。」
会議を終えると共にカラチがマレの元へと駆けてくる。
「神様!!」
「ん?おお、カラチ、普段はマレでいいぞ。つーか神様いうな、恥ずいだろ。」
「あ?はい、マレ様、自分軍役に志願します!」
「おーそうか、そうか、ちょいと待ってろ。お~い タ〜ン。」
「何よマレ、あ〜〜もう寝たいぃぃ。」
「ハイハイ、これ、これ宜しく。」
外套ポケットから取り出した紙切れ二枚手渡す。
渡された紙切れの内容を確認するタン。
「えーと、変わった形の刃物は解る、で、こっちは?」
「投擲具。苦無の型な苦無型を用意して猫人に作らせる。変な形の刃物はククリナイフ。実用性に優れた鉈。猫人の軍役者には当面接収したロングソードを持たせるけど彼等の体格や活躍の場を考えたら、ほら、夜間または森林内での戦闘、そしてやっぱり斥候だろ、活躍が大いに期待できる。そーなると専用の武装も必要だろ?」
二枚図面を凝視するタン。
マレに期待され直立不動で三毛柄尻尾をピンと立てるカラチであった。
「が、がんばります!」
「おう、死なん程度にな。あとカラチも猫人族長団の一人なんだから意見があれば言ってくれ。」
「は、はい!」
「お〜い、マレぇー。」
片手を挙げ小走りに来るマク。
そのままタンとマレとハイタッチを交わし合う。
どうしたと尋ねるマレに小脇に抱えていた結束済み竹簡束を、よっと掛け声と共に渡すマク。
「馬の飼育手順書。」
「ほあ!?幾らなんでも早すぎね!?」
峡谷から帰還し数時間。会議をしていた為実質、作業時間0にて渡された飼馬説明書に素っ頓狂な声を挙げるマレに対し、マクはニヤニヤとタンは両腕を組みうんうんと、判る解る分かるよ?でもなの意味で頷く。
「彼奴等やべ〜わ」www
「しごでき 過ぎるわ 年長部隊。」w
狼人族、年長組。
歳の頃十二、三前後の若い男子、女子のグループ。
彼等彼女等は先触れ隊三名の狼人に聴き取り調査し今後必要になるであろう情報を竹簡に纏めたのだった。
彼等彼女等もまた戦ったのだ。
机上での戦い。
マレが教えた、平仮名とカタカナ。算数をもって自分達のできる事を行った。
狼人族、官僚組。
「ン、峡谷駐留組に渡しとく。俺も会えば伝えるが二人からも俺が礼を言っていたと伝えてくれ。」
変わり始める世界。
変化の兆し。
マレは胸を熱くする。来たかとうとう此処まで辿り着いたのか。
タンからの報告を受け家畜小屋兼厩舎を訪れる。
「相棒、待たせたな。」
黒馬は応える事無く、目の前、大麦を混ぜた飼葉を食む。
マレは彼の反応を気にした風もなく藁束にて全身のブラッシングを始めた。
黒馬は草を食み、目を細める。
暫くすると、
「お父様」
「兄貴ぃ」「兄ちゃん」「「馬見たい!!」」
黒馬とマレに駆け寄ってくる初と双子のミミ、ミウ。
巨馬をおっかなびっくりに見上げる子供達。
黒馬は飼葉を食むのを止め、小さく短く嘶くと双子の姉妹に顔を擦り寄せた。
うわッ キャ と驚くも直ぐに笑顔と共に黒馬を鼻顔を撫でる初、ミミ、ミウ。
ありがとな。
数日振りの子供達の笑顔に新たな相棒に感謝する
その後家族皆で夕食を囲み、族長の妻娘、サカエとサチに後を任せ、一人事務仕事を始める男。
油灯の灯りの下、遅くまで文を記し、図面を描く




