第50話 Take The Wave (5)
“ 我 恵比寿は 今此処に 新族長 ユウを指名する! 己にて鬼人族の族長を選ぶがよい ”
え?は?え?
・・・・・・・え?
えええええええええええええええええええええ!?
神、恵比寿の宣言。
驚く、長老ママヤイ
驚きに期待が混じる全ての鬼人
誰よりも驚愕したのはユウ本人。
正に寝耳に水。
口を大きく開け、ポカンとした表情で立ち尽くすユウ。
沈黙し立ち尽くす、その様に神、恵比寿の鋭い視線が向けられた。
「なんだ石斧、俺様の指名に不満なのか!?不服なのか!?此の女郎、神罰 B地区 捻りのセクハラ刑が欲しいのか?この牝豚がッ!!」( # °д°)
名誉毀損、敗訴待ったなしのセクハラ発言。
詐欺、セクハラ、DV、即座に三犯男の罵倒にユウは背筋を伸ばし直立した。
「鬼人族、新族長ユウ。我、恵比寿に侍れ。我に仕えよ。我のものとなりて、我の手脚となって働け。さすれば鬼人族は未来永劫栄え続ける事を約束してやろう。神と鬼人の間に結ぶ契約だ。」
全てが不意、ユウの脳が男の言葉を理解しようとする間に。
「ユウ族長!」
一人、中年の鬼女が地に両膝を着く。
両手両指を組み、祈りの姿勢で頭を垂れる。
次々と周囲の鬼人が地に膝を着き祈りの姿勢でユウ向かって叩頭した。
焚き火を中心に数百人の鬼人が次々と地に膝をつく。
暫しの沈黙。
目の前の光景、神の神託。鬼人族の未来。
「神、恵比寿様。鬼人族ユウ、族長として此の身全てを捧げ生涯お仕えする事を誓います。どうかご契約を。」
ユウもまた他の鬼人に倣い地に膝付き騙り神に願い出る。
「赦す。八百万の神々住まう此の神聖なる大地にて鬼人族は子を産み、育て、栄えるがよい。今、此処に契約は成った。」
神。鬼人族にとっての神とは、とても大きな存在なのだろう。
そこかしこで啜り泣く声が聴こえた。
新族長ユウに先導され鬼人達が海浜の村へと向かう。
荷物など碌になく着の身着のまま。
それは難民の群れと何も変わらず。
しかし、鬼人達の表情には安堵。
微かな希望を繋ぎ歩き出す。
焚き火を前に一人取り残された老婆。
「ババア、俺は、俺様は、心がと〜〜〜っても広い。」
は?何をと長老ママヤイは皺だらけの顔をあげる
「貴様もニケを神の一柱として奉り、女神ニケに赦しを乞うならば、死にかけババアの余生くらい面倒みてやらん事も無い。」
(*゜∀゜)ねえ!今どんな気持ち?どんな気持ち!
男の最後の嫌味。
此れを最後にマレは長老を赦した。
“ハァハァ くっそおおお”
海浜村へ向かう途中。
マレは月明かりのした自宅に向かって原付を手押しする。
燃費良い原付はとうとうガス欠したのだ。
寒い夜に汗をかき、ふらふらになりながら実験作業小屋に入り床下に厳重保管していたペットボトルを取り出す。
「使うのこえええええぇ」(( 'Д`;))
僅かな量、自作精製したガソリンを恐る恐る給油する男。
品質保証無しガソリンに恐怖しながらスターターを回す。
「おふぅ」
掛かるエンジン。回りだしたエンジンに安堵する
( ゜∀ 。)あ〜 次はエンジンオイル自作か
( ° д ゜) 合成ゴム、、、自作?????
(´;ω;`)スパークプラグどうすんねん
他にも残った火薬は十グラム強。
小麦、ライ麦は尽きたが代わりに接収した大麦が手に入った。
硫黄、木炭の集め直し。
雪降る前に急ぎ葛根採取も必要になった。
やらねば成らぬ事は大量。
猫人、鬼人の労働力が手に入ったが管理運営の手間が倍増した。
マレは種々の悩みを振り払い、いや現実逃避し原付を海浜の村に向かって走らせた。
無数に焚かれる篝火。
深夜の海浜村。戦勝の先触れは到着していたが多くの狼人は眠らず。
海浜村中央広場。
新築された屋根のみの集会場に集う族長と年寄衆。周囲にも多くの狼人が集う。
人族を撃滅、撃退、我等勇士被害無しの報により幾分皆も平静を、いや戦勝に高揚した気分さえ漂う。
「皆、遅くまで待ってくれていた事に感謝を、再度の報告になるが、我等の勝利だ。敵将討ち取り、敵は壊滅。此方は被害無し。家族の帰りを待つ者もいるだろう、安心して欲しい。当面の危機は去った。」
マレの報告に知っていたものの村中が沸き立つ。半ば諦めていた狼人族の悲願、人族への勝利が果たされたのだ。
“恵比寿”“恵比寿”“恵比寿”“恵比寿”“恵比寿”“恵比寿”
先触れにて帰還していた狼人の若者が恵比寿とコールすれば集会場周辺で皆が恵比寿と叫んだ。
戦勝の熱狂、冷めるの待ちマレは此処でも両手を万歳し、話し合い続けるぞと皆を落ち着かせる。
そして、先程から気になっていた人物に挨拶を。
「リンゼさん、危険ななか来ていただき、ありがとうございます。後程、報告に伺います。まずは狼人族、族長と皆に相談がありますので。」
深く頭を下げるマレに微笑するロレ女王側近サウス・リンゼ。
「畏まりました。後程宜しくお願い致します。」
マレは族長、年寄衆と対面にて座り幾つもの報告をする。
猫人族、鬼人族を自身の傘下に加えた事。
鬼人族は直ぐにでも、猫人族は明日午後、その数、合わせて八百人強が海浜の村に保護を求め来る事。
建築済み、学校、公共施設、未入居住宅を彼等彼女等に開放する事。
今から鬼人への食事の提供、木炭の支給。
明日以降、午前は勉強会、狼人族と同様の教養授業の実施。午後は各作業への配置。
日々の食料配給。
「矢継ぎ早で忙しく申し訳ないが明日の午後には猫人族、族長タママ、鬼人族、新族長ユウとの会談、各族長に狼人族年長組三名を補佐につけ各種決め事をしたい、まあ端的に言えば飯寝床用意するから働け、問題起こすなって話を決めていくのが一つ。もう一つは今後、レキ国からの攻撃に対しどのように守るか。俺の独断でアル峡谷に拠点造りを開始した、この件に関してだけは反論は認めない。やらねば殺られるのは俺達だ。此れが勝つって事だ。勝って終わじゃない。寧ろ始まったと考えて欲しい。」
話し合いが進む程に険しい表情になる年寄衆、族長ハマは終始、両腕を組み瞑目し話しを聴き、横の族長付き年長組秘書がメモをとる。
年長組秘書はメモする。
戦は終わった後始末こそが大変と。
「マレ殿は、相も変わらずお人が悪い。」
すっと瞼を開き、静かな声音で告げた族長ハマ。
「すまんな。」
全く悪びれもせずニカリと笑う男。
ハマもニヤリと笑いかえす。
「神様とは我儘放題、好き勝手やるものと、学びましたわい。今更ですな。勝者としての責、果たしましょうぞ。」
くくと暫し笑いを堪えていたハマだったが遂には堪えきれず呵々大笑する。
思慮はあり、それでいて豪放。
ハクの父にして狼人族長ハマ、ここに在り。
大笑する族長に年寄衆、周囲で見守る者達の決意も固まる。戦勝気分は薄れ、戦後に向かって皆が動きだす。
ローレン、リンレン、リンゼ、ロレ国の面々との話し合いに向かおうとするマレを待つ者三人。
「アイ、ケイ、シウ、只今、すまんな、ゆっくり時間取れなくて。」
三人を代表するかの様に首を横に振るアイ。
三人の泣き腫らした目が男の心に痛い。
「初、ミミ、ミウは寝たか。」
「はい、泣き疲れて。」
一人、一人を抱き締めありがとうなと礼を告げる
「明日は皆でニケを見送ってやろう。ニケの新たな旅立ちだ。今日はもう休みなさい。」
三人の頭を撫で、男は次の仕事に向かう。
村内端、地区集会場として建てられた屋根のみの建物。
焚き火を囲み熱い麦茶と共に自作の漬物を茶請けに食すロレの職人達。
ロレ家に代々仕え、今も親子三代にて仕えるサウス・リンゼが第二王女、文官、職人に囲まれ歓談する。
「これ、ええで。冬の保存食に最適やし、旬を過ぎた野菜が年中食べれてええで。」
出された糠漬けを一切れ齧り頷くリンゼ。
「水車の設計図もろうたでぇ。実物もじっくり見たし帰ったら造らな。」
「ええ、私も実物を拝見しました。これで農作業も捗りますね。」
「これ見てえな鉋いうんやで。此れつこうたら木材の表面ツルツルのピッカピカになるんやで。」
あれがな、これがな、と職人達の話題は尽きない。
「この半年間は、とても有意義なものでした。」
ローレンの言葉にリンレンがうんうんと同意の頷きをする。
若い、若すぎる二人にリンゼは慈母の視線を向け
彼女達の話しを聴く。
「私も、今回ここに来れた事は収穫でした。獣人族がレキ兵を退ける。それも大勝して、この情報の価値は計り知れません。」
リンゼの真剣な表情と声音が事の重大さを若い二人にも分からせる。
「お待たせしました〜ぁ。」
息を切らせ駆け寄って来る男。
リンゼは焚き火に当たりながら座ったままに軽く会釈を返す。
文官リンレンは、場所をどうぞとマレの為に席を空けた。
そして、
「兄ちゃん、戦終わるの早かったな、あっちの方も早いんか!」
「あれやであれ!数が、回数が凄いんやで!!」
「わて等が帰ったあと、入れ替わりで若様と、こ〜あれや、しっぽりとやで。」
「きっと激しいで!」
「流石、シゴデキ男やん。あっちも直ぐにできてまうで。」
(*゜∀゜)(*゜∀゜)(*゜∀゜) ( 'Д`;)イヤソノ
職人のおばちゃんから浴びせられる下ネタに苦笑いするも、丁寧に頭をさげる。
「皆さん、自分を信じて待って頂き感謝しています。本当にありがとうございました。」
ローレンは顔の前で手を振り、いえ、そんなと。
職人のおばちゃん達は何度もうん、うんと頷き笑ってくれた。
マレは言葉を続ける。
「リンゼさん、ライン女王陛下には後日、説明とお詫び、御礼に伺いますとお伝え頂きたい。」
「お気になさらず。私は陛下より職人の安否確認を申し付けられたのみ、陛下にも良い報告を持ち帰れそうです。問題ありません。今回の件、私共もレキ国の動向情報を得るのが遅れ後手に周り申し訳ない。」
今回の侵攻は国事では無く一貴族の動向であった為ロレ国側の情報の入手が遅れた。
情報入手後外要道経由にて僅かな兵と共にリンゼ自らが馬を走らせ海浜の村へと向かったのだった。
「此の地からロレ国は多大な国益を得ています。自国の利益を守る為にも今後はより密に連絡を取り合っていかねばなりません。」
ロレ側の事情と共に詫びられ逆にマレが恐縮し再三、頭を下げ礼を述べる。
「その、ローレライ殿下と商隊の皆さんはご無事ですか。」
一番の懸念であった。
戦中にローレライ商隊がアル峡谷に入る。逃げる敗残兵と鉢合わせる。もしもを考え出せば枚挙にいとまがない。
マレの言葉におばちゃん達が口笛を吹く、ヒュウヒュウ、お熱いやんと囃し立てる。
「はい、殿下も今回の件をお知りになり一度ロレ国へお戻りに、陛下のお諌めもあり城にて待機されております。」
マレはほっと胸を撫で下ろす。
「ではローレライ王女には今後、アル峡谷の利用をやめて頂くようお伝えください。」
マレの伝言確かに承わったとリンゼ。
「マレ殿、差し支え無ければお答え頂きたい。此度の戦、互いの兵数は如何ほどでしたか。結果は?」
「此方は三百、レキは千有るか無いかですかね?結果、此方は被害無し。レキは、ほぼ全滅ですかね?敢えて少数生かして返しました。」
小規模な小競り合いの範疇。しかし圧倒的戦果にリンゼは惑う。
被害無く千人を殺したと告げられ考え込む。
誇大に言っているのか?
いや、彼の人柄からは考え難い。
この件は後回しに、
「此度の件、レキは軍事行動では無かった。これについては?」
「そ〜ですね〜彼奴等舐めてますよね。狩りで嗜みで娯楽らしいっすよ?いっぺん死んどけですわ。舐めプしてたんで、そこはまあ利用させて頂きましたけど。」
「今後をどうお考えですか。」
真剣な表情でマレを見るリンゼ。
「当然、再侵攻して来ますよね。必ず。」
男の返答と真摯な表情にリンゼは顔には出さないが、ほっとする。
一度の勝利で慢心する愚か者では無い。
それが知れた、女王に報告もできる。ロレ国側として一つ、安心を得た。
「わかりました。間諜にも注意喚起しておきます。」
ロレ国重臣リンゼとの会談、話すべき事が尽きた頃合いにて鬼人族が海浜村へと到着した。
マレは次の対応に追われ駆けていく。
人間の最も大きな喜びは 敵を打ち負かし
これを眼前よりはらい その持てるものを奪い
その身寄りの者の顔を涙でぬらし その馬に乗り
その妻や娘を己の腕に抱くことである
チンギス・ハン
真夜中。
出来立ての一階建て木造校舎。
学校内の極小部屋に灯る油灯の明かり。
多数の竹簡と和紙を前に仕事する男。
アル峡谷砦簡易設計図、海浜村都市計画の改編と追加。各種決め事の草案。
筆を手に書き込みをするのだが、時折手が止まる。
不安、葛藤、慚愧、自己嫌悪。 後悔。
幾つもの感情が渦巻き、昨日から今迄の事を幾度も思い出し仕事は遅々として進まない。
ニケを死なせてしまった事。
人を殺した事。
いっぱい殺した殺させた。
そう、人が人を殺すことは禁忌なのだ。
言葉にならない 焦燥感
俺は 間違った のか
間違っては いない はずだ
ああ そうか むいてねーンだ
なに やってるんだ おれは
進まぬ筆を置き、目元を揉みほぐす。
独り孤独に椅子に座り机に向かうと気持ちが沈んでいくのを察し立ち上げる。
扉を抜ければ、
酷く寒い夜気。
蒼い月、沈黙の世界。
眼前、遠く見える海。
潮の香りに誘われて海を目指す。
一歩踏み出す。
男は川沿いを歩く。海に向かって。
海浜の村、名前通り海の近く。五分、十分も歩けば砂浜にでる。
息吹山から湧き出た水は川を造り海へと流れ込む。
川沿いを歩く、あと少しで砂浜にでる。
水が跳ねた
大きく跳ねた
蒼月、月明かりのした
息吹山から流れでた冷えた清水で沐浴する
「ユウ か?」
褐色の肌、若い肌が水を弾く。肌に纏わりつく水滴が月光に綺羅めく星のようで
男の声、女は振り向き動きを停めた。
恵比寿、、、様
男を認識し女は股間を手で覆う。
何故そうしたのかは分からない 男は女に近付き その肌に触れた。
冷え切った体が心地よかった。
惑う女に構わず 濡れた体を抱き寄せる
心地よい。
今だ惑う女、男は本能のままに唇を重ね塞ぐ
ああ 今だけは すべてを 忘れられる
いまだけは すべてを 忘れよう
いまだけは すべて 投げ捨てよう
いまだけは 欲望に流されよう
男の刹那な想い
男の刹那な行動
男の刹那な逃避
女はされるがままにすべてを受け入れた。
凍える月だけが男と女を観ていた。




