第49話 Take The Wave (4)
三毛猫人カラチを原付の荷台に乗せ走る。
時速は15kmといったところか。
左手にはアルラ山脈が続く平原駆ける。
猫人族集落の方角を尋ね、しっかり掴まっていろの言葉以降、互いに無言となり原付は平原を直走る。
「あそこ! あそこが俺達の集落!」
肩越しにカラチが指差す先には森、いくつもの焼けた木々が今も煙を燻らせる。
さらに近付くと見えるのは巨木の上に建てられて居ただろう燃え尽きた家々の残骸。
猫人族はこの森にて樹上生活を営んでいた。
集落前で原付を停める。
視界に入るのは数百の猫人が木の幹に背を持たせかけ無気力に座り込む姿。
猫人特有の愛らしい瞳が今は腐った魚の目の様に宙空を虚ろに見つめる。
「カラチ!」
誰一人、マレと原付、カラチに興味を示さない中、その声の主だけは違った。
カラチの名を呼び灰と黒毛、縞柄毛並の猫人男子が駆けてくる。
「マルぅぅ!」
二人駆け寄り互いの肩に手をのせ無事を喜び合う。しかし、次の瞬間にはマルは哀しげに。
「チョコは、、、」
「無事だ!」
間髪いれず少女の無事を友に伝え後ろを振り返るカラチ。
マルはカラチの視線の先、異形の人族を一目見て毛を逆立てた。
( ` д ') “シャァァァ“
フルフェイスヘルメットにスカジャンと着古したデニムは血塗れ。
はだけた胸と腹に泥で紋様を描き込んだ異形。
背後には鉄の塊、原付。
怪しさ満載、腕組みし見守るマレを威嚇するマル。
カラチは慌てて事情を説明する。
「マ、マル! 恵比寿様だ! 恵比寿様と狼人族に俺もチョコちゃんも助けられたんだ! 味方だよ! 落ち着いて。」
カラチの説得、しかし訝しげな視線を向ける事を止めようとしないマル。
そんな二人を放置しマレはヘルメットを脱ぎ泥と血で汚れた顔を晒す。
陽が暮れる黄昏時、晩秋の風が泥だらけの髪を撫でる。
マレは原付横に括り付けた荷袋から荷を掴みだし歩き出す。
マレが右手に掴むものにマルは目を剥いた。
男は歩き、今だ絶望に沈む猫人族を前にする。
「貴様等! 己が両足で立てんのかああああ!!!」
男は咆哮した。
森中に響くように。
全ての猫人の猫耳に言葉が届くように。
茜色に染まる男。
手にした大将首を天へと掲げ。
“我! 応報したり! 敵将!討ち取ったりぃぃぃ!”
誰彼刻 茜に染まる勇士 一人勝鬨す。
“ 我 八百万の神々住まう この 神聖なる
大地に 天降りし!
我 偽りの神にして 渡来人 客人神
恵比寿 也ぃぃぃ
我 神持たぬ 猫人族を 此れより 守護
したりや
我 猫人族すべての 総氏神と 今より成り!“
男の言魂。
絶望の猫人族。
縋れるならば何であろうが縋る程の絶望。
男は詐欺師。
希望を餌に心弱気者を騙す。
“ 我と共に生きよ!
我と共に大地を駆けよ!
我と共に戦え!
我と共に 子を産み 育て 栄えるがよい
我を 奉れ 我を讃えよ
我が子 猫人族の民よ
我 此の身 灰となり 燃え尽きる迄 “
“ 否 ”
“ 我が身 滅しようとも!!
未来永劫 我が子 猫人族すべてを
守護しようぞッ!!! “
沈む太陽を背に。
血と泥、塗れの。
敵を討ちし騙り神。
カラチの心が強く強く打ち震えた。
我等が戴く神の出現。
「恵比寿様!!」
カラチは叫ぶ。
泣きながら駆け寄り男の前に膝をつく。
「神 恵比寿様 猫人族がカラチ 何処迄もお供させてください。」
泣きながら地に額を擦りすけるカラチ。
変わるんだ 僕は 俺は 変わるんだ
「立て カラチ」
「えッ?」
「己が二本の足でたてえええい!男だろうがッ!」
伏した顔を上げれば。
男の泥と血に塗れた手が目の前にあった。
カラチは男に縫合してもらった右手で、その手を取る。
沈む茜の太陽を背に。
多くの猫人が見た。
それは彼等彼女等は識りはしない。
それはまるで王と騎士のようで。
それは、何処か、神聖であるのは理解する。
神かは分からない。
もし、彼等に教養があったなら。
この一幕を王権神授と評しただろう。
一部始終を観ていた縞柄猫人は二人に近寄る。
照れ臭そうに、
「あ、あの、俺、マルです。あの俺も、宜しくお願いできますか?恵比寿様。」
カラチの手を引き、引き上げ立たせた男は、
ニカッと笑う。
「おう、俺に着いてこい!」
一人、また一人と猫人が立ち上がり男の元へと集う。
集いくる猫人達。
男は言魂を紡ぎ運命の糸車を回す。
「今、陽が沈む。闇が来る。しかし、しかしだ! また陽は昇り来る! 明けぬ夜は無いのだ!! 叫べ、吠えよ!」
男は顔に横で拳を握り締めた。
「我に続け!」
男は力の限りに拳を天へと突き上げる。
“ ライジング ・ サン ”
男の檄にカラチが続く。
「ライジング・サン!」
カラチの後を追いマルが叫ぶ。
「ライジング サン」
何時しか老若男女問わず皆が絶唱する。
“RISING SUN”
何かが変わる きっと変わる。
その想いに猫人の全てが涙した。
マレは一人、峡谷入口へと戻る。
不安そうに待っていたチョコにはカラチは集落の皆と共に此方に向かっていると説明し。
「時間はかかるけど皆来るから安心して。」
チョコを落ち着かせ、ハク達と隊伍長を集め今後を話し合う。
猫人族、総勢四百名弱を保護した事。
全員が此方に向かっている事。
彼等彼女等に接収した天幕、馬肉、麦粥を与え休ませる事。
「でだ、アル峡谷、この場所は我々にとっての要所、要地だ。」
要所、要地。狼人族にとって、この場所程、防衛戦に有利な場所は無しと皆が痛感した今日の戦いである。
「そうなると、、、ロレ城の様な仕掛けを造る必要がある、ということか?Brotherマレ。」
センは真剣な表情で自身の知る限りの語彙力で意見する。
「そ〜ゆう事。要害化、陣地構築だな。まずはできる簡単な事から始めりゃいいよ。柵を造る。穴を掘って通れる道を狭く、今より更に限定的にする。」
ハク、セン、ホウ、タン、マクはロレの山城にあった空堀を直ぐ様思い浮かべた。
成る程、成る程と頷く五人。
「あー、そういう事かぁ〜。左右の崖上から弓、正面は柵で長柄槍と弓で戦えば良いのか?」
「守り用に、此方側に矢避けがあれば便利。」
「堀は深く。土は貝殻粉撒いて固める?」
「燃え難い様に柵に使う木材の表面焼いとく方が良いよね?」
「城攻め三倍というやつか。」
五人から次々とでる要害構築案、感想に伍長達は目を白黒させ話しに着いて行けなかった。
もう義兄弟五人は将として部下を率いる道を歩み始めていた。
話し合いの末、ロレ職人から土木技術を学んだ者達を中心に人を残しハク、セン、ホウの三人が峡谷陣地構築を進め、マクとタンは海浜の村から支援する事が決まった。
要害は柵、堀、井戸、厩舎を優先する。
峡谷での生活は当面接収品を活用し村から炭などを送ってもらい越冬する。
マクとタンは明日、接収した馬を村迄連れ帰り、マクはロレ畜産者に馬の飼い方を学びタンは釘等各種必要な物を生産する。
「では最後に、多くの狼人を率いて戦に勝利した功績に対し、ハク、セン、ホウ、マク、タンに恩賞を授与する。」
「ハぅ!?」
「マジか?」
即座に大きく反応を示したホウとハク。
マクとタンは口には出さないが嬉しそうな表情で
センは成る程なと呟き、人の使い方学ぶ。
マレは言う、信賞必罰であると。
夜の闇、寛ぐ馬達。
恩賞は一人、馬一頭。
実際は給餌、世話はマクと村の畜産係が行ない馬は共有資産となるが、各人の専用馬と位置付けされる。
センは早々に自身の馬を決めた。
問題は残り四人。
一頭の巨馬を前に譲らん!とばかりに睨み合う四人。
漆黒の巨馬、死亡したルワイ・ランシールの持ち馬。
こうなる事が分かりきっていたセンは早々に二番目に上等な馬を選んだのだった。
「ん〜センだけ決まりか、じゃ、くじ引きで決めるか?」
マレの提案にくじ運に自信でも有るのかハクはクククと不敵な笑い声を挙げ黒馬は貰ったとばかりに、その鼻面に触れようとした。
その刹那である。
「うぎゃあああああああああ」(´;Д;`)
ハク涙目。
ホウ、マク、タン、ドン引き。
セン、ハァーと吐息し片手で顔を覆う。
不用意に触れようとしたハクの手をガブリとかんだ黒馬。
次にはゆっくりと前へと歩みだす。
その巨躯、その風格、正に威風堂々。
圧力に押されたかの様に後退るホウ、マク、タンの三人。
黒馬はマレの前迄歩み鼻面を僅かに左右に振ってみせる。
「ん、お前は磨かれた黒曜石の様に綺麗だな。」
手を伸ばすマレ。
漆黒の巨馬は男の掌に己が鼻面を擦り寄せる。
場の皆が唖然とする。
「すまんな、此奴は今日から俺の相棒だ。」
触れた手を離しマレもまた黒馬の鼻面に頬を擦り寄せた。
「マク、すまんが明日は此奴の事頼んだ。暫しお別れだ。海浜の村で先に待ってるわ。」
この用な様を観せられては誰も文句の付けようもなく、四人は落胆と共に自身の愛馬探しを始めるのだった。
「じゃ、すまん。後は頼んだ。石斧女行くぞ。」
マレはユウを原付の荷台に座らせ峡谷を後にする
夜を疾走る。
しっかり掴まれとユウに言いつけ。
「はぁ〜オッパイ!おっぱい!」(*゜∀゜)
月明かりとヘッドライトの灯りを頼りに道無き道を走る。
走り出してすぐ、背中に当たるユウの胸の感触に巫山戯、セクハラ発言をするも鬼人族集落が近付く程にマレは口数は減り、遂には無言になる。
ニケを死なせた。
初めて自身の手で人を殺めた。
ざっと千人、人を殺した。
胸掻きむしられ、
頭の中を黒い渦がぐるぐると渦巻く。
無言の男、ユウは両腕に力を込め背後から強く抱きしめる。
目的地に到着する。
「よう、名前も知らん族長のババア、久しぶりだな。二年振りか?」
荒らされた鬼人の集落、その中心地にて焚き火を前に座る枯れ枝の如き老婆が顔を上げた。
ユウはマレに、そっと耳打ちする。
ママヤイ様ですと、余りにもマレにはどうでもよい事であった。
「ふん、出来損ないの神が。また米でもくれるのか?」
ローレライ商隊の件で二度程、米、大麦をハク達が鬼人族に渡した過去。
族長、長老ママヤイは心底不機嫌そうに言葉を吐き捨てる。
何かを言おうとするユウ、しかしマレはユウを手で制す。
マレは心底愉しそうな笑みを浮かべ大声で叫んだ。
「無知で無力な鬼共! 集って来い!いいものがあるぞ! 神 恵比寿がお前等にくれてやる。」
冬を越す蓄えを焼かれた鬼人族。
鬼は鬼でも中身は飢えた餓鬼。
貰えるものならなんだろうと。
ガサゴソと草ずれの音をたて、寒さをしのぐ枯れ草の山から這い出す鬼人達。
マレは、集まれ、良いものをやると大声で連呼する。
集まり来る、幽鬼の表情をした鬼人、数百人が長老とマレ、ユウ、焚き火を囲む。
マレはクククと厭らしく、愉しげに笑う。
「集まったか。じゃ〜皆を代表して族長ママヤイ、受け取るがいい。とても良いものだぞ。」
焚き火越しに放り渡される布包一つ。
「はン、こんな小さなもので、」
キャッチし愚痴と共に布包を解くママヤイ。
そして不満顕に。
「はン! こんなもん 見飽きたわッ!」
骨の様な腕を掲げ、ルワイの首級を同族に見せつける老婆。
何処がよいものか。
期待外れもよいとこだ。
巫山戯るな。
全ての鬼人が想い感じただろう。
「そいつな、この集落を襲った奴等の、族長て言えば、分かるか?」
「はあン?」
訝しむママヤイ長老、ザワつく鬼人達。
「今日の昼間に、殺してきた。この集落を襲った奴も、その仲間も、全員殺した。皆殺しにしてやった。いっぱいだ、いっぱいの人族を殺してやった。当然だろう?奴等は俺の巫女たるニケを殺した。だから神罰を与えてやった。地獄の劫火を喚び寄せ皆灼き尽くしてやった。俺こそが客人神、恵比寿也。」
教養無き鬼人にも理解できるであろう語彙を使い、幾つもの誇張を混ぜ込み、愉悦の口調と表情で語る詐欺師。
「本当です。此の眼で見ました。」
胡乱げな視線を向けたママヤイにユウが答える。
一層ざわつく鬼人達。
「さ〜、ママヤイよ? 俺を呼び出し人族を始末させたんだ対価を支払え。」
男の要求にママヤイは絶句する。
暫し口をモゴモゴさせ、思い出したように。
「生贄を四人もやったではないか!」
「はあン?舐めてんのか?足りねえに決まってるだろ。対価は鬼人全員。」
「巫山戯るな!」
「おいおいババア?勘違いすんな。何も取って喰やしねえ。今より鬼人全員、俺の支配下に入れ。俺が、神たる俺、恵比寿が無知無能で明日の飯にも事欠く鬼人全員なんとかしてやろうって話だ。お前達は俺の言う事を聞く。俺はお前達に温かな飯と寝床を与えてやろうって、ありがた〜〜いお話し。猫人族は皆、涙を流して俺様に感謝したぞ? ママヤイ、お前、ほんと〜〜〜に罰当たりだな。神の言葉でな Give and Take 返事はな。」
食事と寝床、その誘惑は抗い難く鬼人皆が期待の籠もった視線を男に向けた。
マレは焚き火を周りママヤイへと近付く。
「ひぃぃぃぃ」
そして、おもむろに老婆の胸倉を掴み上げる。
「はい! か Yes! どっちかしかねええええんだよ。三つ目の選択肢、未来永劫に渡る地獄の劫火で苦しみ藻掻きたいか!?」
( ° д ゜)アウチッ
( ゜∀ 。)ババアの胸チラ 干し葡萄が見えた
マレは混乱してしまった
マレは5ポイントの精神ダメージをくらった
(´・ω・`) 糞ババア やりおる
ふ〜そろそろ詰めるか。
マレは掴むママヤイから手を離す。
ふぅと吐息し、平常へ。
落ち着いた表情と声音、心持ちで。
「我こそ恵比寿 八百万の神々住まいし 神聖なる この大地に天降りし神が一柱 恵比寿 無知蒙昧無力な鬼共よ 貴様達が力無き故に 唯一にして無二なる我が巫女ニケを喪った 我は貴様等全てに神罰を与える だがだ だが我が巫女ニケが貴様等に赦しをを与えるならば 我 恵比寿は 寛容を持って応えよう 赦しを乞う者は ニケを我が眷族の一柱とし 我と共に奉れ 讃えよ 畏怖せよ さすれば 貴様等 無知蒙昧にして無力なる鬼共に まずは温かな食事と寝床を与えてやろう その先には 貴様等 無知無力な鬼共に智慧と力の光明を与えよう 未来永劫なる鬼人族の繁栄を契約をもって約束しよう 我が加護 我が守護を得たき者は 我が声に耳を傾けよ 我が意に従え 我の後に続け」
突如、神騙る男は、ユウを指差す。
“ 我 恵比寿は 今此処に 新族長 ユウを指名する! 己にて鬼人族の族長を選ぶがよい ”
全鬼人の視線がユウに殺到した。
その瞳に希望と期待を籠めてユウを見詰めた。
この瞬間、全てが決した。
Crush&Build 旧き因習を捨て去る刻が来たのだ
飢えとひもじさに耐えられない。
この冬の寒さに凍えたくはない。
何よりも、死にたく無い。神罰は嫌だ。
長老ママヤイが何かしてくれたのか?
思ってしまった。
考えてしまった。
右が駄目なら左、左が駄目なら右へと揺れ動く。
愚か者の群れ。
詐欺師は狡猾。
舌先三寸、全てをひっくり返す。
扇動される愚民。
この瞬間、男は鬼人族を手に入れた。




