第46話 Take The Wave (1) Naifu
タイトル Take The Wave Naifu
はアニメ ゴルゴ13op に使用された楽曲名から
( ´∀`)
暫くニケを抱きしめ一頻り泣き喚いた男は、そっと彼女の亡骸を大地に横たえる。
「おい、お前、そこの子供達を連れて狼人の集落で保護を求めろ。」
立ち上がったマレを見上げユウは、ハッと我に返る。
「ま、待ちな。ニケをこのまま放って置く気かい!」
月明かりの下、ユウを何だ此奴といった表情で暫し見つめマレは気付く。
「あー石斧女か。ニケには後で迎えを寄越す。俺が彼女に今してやれる事は何も無い。それよりも自分と、そこの子供達の心配でもしろ。取り敢えず狼人の集落にいっとけ。」
不機嫌さを隠しもせず、しかし、涙と鼻水でグチャグチャの顔でぶっきらぼうに告げるとマレは、さっさと原付に乗りアクセルを開け去って行く。
陽の落ちた海浜村にマレが到着した時には中央広場に全狼人とロレの職人が集合していた。
覚悟極まった表情の狼人男衆皆が重籐弓を手にマレを迎える。
集団から進み出るハク、後方にセン、ホウ、マク、タンが続く。
「我等一堂、義兄弟、長兄マレに、何処迄も、お供致します! たとえそれが死地であろうとも!!」
皆を代表し族長の息子ハクが大声で宣言した。
彼の宣言に続くかの様に男衆皆が握り締める重籐弓を夜空に向かって掲げ吠えた。
彼等の心意気にマレもまた大音声で応える。
「よく言ってくれた!感謝する!まず、俺が斥候にでる。今は体を休めろ! 飯を喰って、身を横たえて目を閉じよ。俺が帰ったら動くぞ!」
広場中央、主だった者達が車座になって座る。
皆には休めと伝えたが気になって仕方無いのだろう部族の皆が周囲を囲んだ。
「ローレン王女殿下、此の度は我々の面倒事に巻き込み申し訳ございませ。大変でしょうが皆様を連れ今すぐロレ国へと御帰還ください。」
頭を下げ詫びるマレに第二王女は硬い表情にて頷き返す事しかできなかった。
マレは矢継ぎ早に皆に指示をだす。
「タン、槍の準備を。柄の長短は偵察後に決める。」
「マク、食料を荷車に積めるだけ、各個人運べるだけ手配してくれ。」
「ホウ、米を炊き部族全員分の握り飯用意。」
「セン、戦いにでる男衆の背負い袋用意。水と握り飯を持たせる。」
「ハクは皆を纏めよ。族長、今回は俺の失態だすまない。最悪は村を捨てる覚悟をしてくれ。全ては斥候の結果次第。相手の状況と戦力が判らん現状では何も決めれん。だがだ!皆の生命と生活は必ず守る。約束しよう。」
マレは最後に族長にニケの亡骸の回収を頼んだ。
ハクがマレに進言する。
「一人は危険、お供します。ブラザー。」
「なに、俺の馬の方が奴等の馬よりずっと速い。遅れはとらんさ。吉報を待て。」
ニヤリと不敵に笑うマレにハクもまたニヤリと笑み返す。
ルワイ侯爵の一団はアル峡谷内の中程に、いくつもの天幕を設営し無数の篝火を焚き野営を行なっていた。
中でも一際大きく目立つ天幕内部。
十人程の女達が酒を酌み交わす。
「ルワイ様、よろしいので? これはまた上物ですなぁ〜。」
遠慮の言葉とは真逆にお付きの従者から上等なワインをグラスに注がれ満面の笑みを浮かべる寄子の下級貴族。
ルワイ侯爵もまた満面の笑みでワイングラスを掲げ。
「良い、良い。今日明日はこの狭い天幕生活、充分に寛いで英気を養わんとな。」
寄子貴族皆にワインが行き渡る。
寄親ルワイが音頭をとり皆でグラスを打ち合わせた。
酒と極上の肴に上機嫌となり会話も弾む。
斥候部隊長の報告を聴き流し。
「やはり、明後日の狼共よな。度々逃がしておるから数も増えておろう。」
「狼は狩りがいがありますからな!」
笑い声の絶えない酒席。
しかし話す内容は野蛮極まりない。
「そうそう、今日の猫は数も少なく本当に味気無い。」
「狼より虎ですよ!虎!あの毛並み、極上の毛皮が手に入るかと想うと興奮で寝付けません。」
「ここ十数年、国境防衛も暇で暇で飽いておりました。楽しみでたまりません。」
「逃げる獲物の腿を一突きにて生け捕ってみせますぞ。」
「言いますな。では勝負といきますか。」
「ほうほう、では良い結果をだした者には取っておきの酒を振る舞おうぞ。」
「おお!流石ルワイ侯!ではルワイ様に極上の毛皮を贈れるよう奮起しますぞ!」
天幕の内と外、それは激しい落差。
晩秋の夜、貴族の道楽に付き合わされる徴兵農民は厚手の布を被り焚き火を囲む。
支給された食料を調理し食し後は寝るだけである。
そして周囲を警戒する見張りは皆無。
これは戦では無く大規模狩猟。
故に安全は確保されている。
安全と普段は食すことのでき無い塩辛い肉と腹一杯まで食べる事ができる大麦粥が徴兵の報酬であった。
もしもである、獣人を生け捕ろうものなら僅かな報奨金もでるかもしれない。
「はぁ、貴族様や兵士は今頃ええもん食ってるんだろうな。」
「はぁ、鬼んとこの米を持って帰れると期待してたんだがな。」
「全部焼いちまったんだってな。」
「もったいねえ。」
農婦の仕事は荷運びと雑用。
獣人族の冬の蓄えを略奪する。鬼人の男を凌辱する等のおこぼれを期待していた。
農民兵よりも更に後方、軍列の最後尾物資集積場の崖壁際に二人の獣人。
集落を襲撃され連れてこられた猫人の若い男女は手の甲から平にかけて穴を開けられ荒縄を通された痛々しい姿で拘束されていた。
人口減少傾向の猫人族、番い一組ならばと奴隷目的で攫われたのだった。
男は黒白茶の三色毛並のカラチ。
女は黒一色のチョコ。
二人共に歳の頃は十代半ばとひどく若い。
身丈は低く百四十cm前後。猫人は総じて小柄な種族である。
寒さと、これからの未来に震えるチョコをカラチは抱きしめるが大丈夫だと彼女に声を掛けてやる事はできなかった。
非力だ。自責の念に涙が零れないよう顔をあげた。
キラリ。
夜目の利く猫人。
カラチの瞳が崖上、茂みの中で月光星光を反射する何かを捉える。
何か分からないものが光った。
だが今のカラチに些細な事、チョコを抱きしめる腕に力がこもる。
崖上、双眼鏡にて野営する軍列を覗く一人の男
充分な偵察を終えて三時間後マレは海浜の村に戻った。
21:30
腕時計で時を確認し時間が惜しいとハク、セン、マク、タン、ホウ、更に青空授業に参加経験のある狼人数名を集める。
打ち合わせと一方的な指示をだす。
今は何も聞かず只、従ってくれと。
「弓隊二百五十名は二つに分ける。ホウ、マクが、それぞれ率いろ。更に五人一組で一班、隊五を作り行動。」
「ハクは槍隊長として五十人を選抜し率いろ。タン、槍は短く、短槍でいく。センは俺に付いて来てくれ、各種準備を手伝え。」
「全員、俺の家を経由しアル峡谷前迄移動。
一度、俺の家、作業小屋、蔵前にて全員集合。荷物がある運んでもらいたい。強行軍にて移動、日の出前に到着、休憩と詳しい作戦の説明をする。今から出陣式をする。」
狼男三百名の前に壺に入った色付き泥水が置かれた。
「皆! この泥水を顔や体の部分部分に斑に塗れ。これで夜目では気付かれにくく、昼も周囲の景色に溶け込み見つかり難くなる。」
真剣に男の言葉を聴く狼人の勇士三百人超。
「更にだ! お前達の祖霊、英霊を天より降ろし加護を得る儀式でもある!」
男の言葉に力が籠る。
「我 恵比寿 我等 狼人 八百万の神々と 幾千 幾万の 狼人族 祖霊に誓おう 代々受け継がれし この大地を護るが為 必ずや敵を打ち破る! 皆、誓え! 願うな誓え! 願うは弱気 強く誓うは力! 今より鬨の声を挙げよ! 俺の声に続け!」
「えい!」
狂奔の一手。
詐欺師は掛け声一つ、拳は夜空を突く。
“えい!”
三百の逞しく腕が振り挙がる。
三百の固く握り締められた拳が夜天を突く。
「えい!」
二度目の拳が夜気を裂く。
“えい!”
三百の拳が夜の大気を唸りを挙げ切り裂いた。
「おおおおおおおおおおおおおッ!!!」
只の男が吠えた。
掌を突き上げ 天を掴む。
“うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお”
周囲を照らす篝火がその圧に激しく揺れた。
天降元年 十月末日 夜 北の大地が震えた。
出陣していく者。
見送る者。
族長と養子の皆を前に必ず勝って帰ると告げる。
子供達一人一人を抱きしめ、最後に横たわるニケに暫しの別れを。
「行ってくる。待っててくれ。」
今だ村にて待っていたローレン、リンレン、ロレ国の職人皆に挨拶を。
深々と頭を下げるマレ。
只、見ている事しかできないローレン。
一人、職人のおばちゃんが男に声を掛ける。
「兄ちゃん、わてら此処で待っとるで。帰ってきたら続きの仕事しよや。」
彼女の言葉におばちゃん達が続く。
まだ契約期間、半月残っとるしな。
勝つんやろ!信じとるで!
その女の歳は四十代位だろうか。
「わてらの世代、昔はなぁ〜、ようあったんや。バレス、マルトゥスク、時にはレキが国境越えて来るんや。まあ、だいたいは小競り合いや。でもなロレは兵士少ないやろ? よ〜先代の女王様が自ら馬に跨って駆けつけてくれたもんや。今のライン女王様もわこうてな〜 一緒によう槍振り回しよんねん。皆の生命は私が護るいうてな。わてな一度もその言葉疑ごうた事無いわ。マレの兄ちゃん、ロレ国の婿さんになってくれるんやろ。待っとるで。」
黒髪、黒瞳の男は、ただ無言で彼女に頭を下げた。
「皆さんも、そー言って下さってますし、待たせて頂きます。」
まだ年若き第二王女ローレンは笑顔で大事な決断を下したのだった。
「必ず勝って参ります。セン行くぞ、後ろに乗れ。」
遠ざかる原付を皆が見送った。
センを原付の荷台に乗せ移動中もいくつかの指示と説明をする。
「実験小屋と蔵にある使える物は全部放出する。小分けして皆で運んで欲しい。」
「使える物とは?」
「加工途中の大地の油に松脂、火薬用に用意した硫黄粉と木炭粉末。」
「ん。硫黄粉は結構あったな。」
火薬加工作業を思い出し、大よその在庫に当たりをつけるセン。
「蔵にある葛粉、小麦粉、ライ麦粉も全部だ。」
「必要か?」
「必要、詳しい説明は後で皆で集まった時にする。俺の家にある燃える水も頼む。運ぶのにネコ車使うか?」
「そうだな、そうさせてもらう。」
「あとは、、、(100円)ライターも全部持ってくか。」
「ん、あれか。」
マレの話しから大よそを察する。以前峡谷で話した火計かと。
先行していた三百人を追い抜き一足先に自宅に到着する。
皆が到着する前にと小屋、蔵を開放し持ち出す物をセンと二人で確認した。
「俺、風呂入ってから合流するから頼むな。」
「ブラザー、余裕そうだな。」
自宅前、小屋、蔵から次々と運び出されていく麻袋。
不敵に笑うハクの軽口にまあなと応え義兄弟五人とハイタッチを交わし合う。
浴槽に湯を張る待ち時間。
マレは着る服を吟味する。暫し悩み。
「これでいいか。」
手に取ったのは数着ある愛用のスカジャン。
色は赤と黒。
ズボンは着古した穴の空いたデニムを選ぶ。
長く伸びきった黒髪をヘアゴムで後に一括りし髭をそる。
温めの湯に肩まで浸かり一息吐く。
湯面を波紋が拡がる。
涙が零れた。
「ニケ」
もっと優しくしてやれば良かった
もっと会話をしていれば
もっと時間を共有していれば
もっと抱きしめてやれば
もっと もっと早く
今日、あの時、鬼人の集落に着いていれば
いくつもの後悔。
人は喪って初めて、大切さを知る。
人が人を愛すのに 愛し過ぎることは無いを知る
洗面鏡の前に立つ。
粘土水を両手に取りべたりと黒髪に塗りつける。
頬の一部に粘土水を塗る。
木炭粉を混ぜて目の下に黒色の線を引いた。
ふと顔を横へ向け室内を見る。
目に入ったのは天照皇大神宮の御札。
つい自虐の吐息が漏れた。
皆の前では猛々しき事を曰いつつも縋る自身に。
加護ぞある
自分の胸から腹にかけて粘土水で丸を描く。
丸の周囲に短く線を入れた。
太陽の紋様
着古したデニム。
素肌の上に龍の刺繍が入ったスカジャンを羽織る
鏡に向かい自身と対峙する。
「我、客人神、恵比寿成り」
伏龍 今 太陽を求め 天へ昇る




