第42話 永遠の北都 始まりの刻
早朝。海浜広場に集合する。
狼人 250人、ロレ職人 50人、族長、ローレン、リンレン、マレとハク達五人。
更にアイと年齢の比較的高い子供50名が集まる。
マレは皆に聴こえる用、大声で伝える。
皆さん、お早うございます。
まず、仕事を始める前に充分な話し合い打合わせ、そして段取りをしたいと思います。
特に狼人族の皆さんは憶えてください。
仕事とは、はい 始めます で始まりません。
話し合いの中で、何を、どこまで、誰がを決める。そして、段取りとは準備、材料の確認、道具の用意など。
狼人族の皆は明日から段取りを憶えた範囲でいい、少しづつでいい、自分なりに準備してください。
長い朝礼。マレは大きな木板に前もって書いておいた都市設計図を説明していく。
今日から子供組、五十人はロレ国職人さん一人に一人、書記として仕事中、同伴してもらいます。職人さんの要望、道具、材料の必要な物を記入し、一日の終わりに俺または族長に報告してもらいます。
皆さんにも、一日の労働の対価として大麦または燕麦を支給します。
今迄の授業の成果を発揮し良い経験を得られる場となるでしょう。皆さんに期待しています。
男の全体朝礼終了後は各班に分かれての話し合いが始まる。
マレは狼人各自に、いつも通りに野草茶とメープルシロップにて喫茶と共に話し合いを進めさせた。
後々、これが午前十時、午後三時の休憩の喫茶となっていく。
初日、午前は話し合いのみで作業する事無く終えた。
午後、マレは数人の職人と狼人を連れ自宅横に集合する。
「ロレの皆さんにも今回は初めての試みをしてもらおうと思います。土と竹で家の壁を作ってもらいたいのです。」
都市計画とは別件。家、小屋、蔵の建設。
「土と竹? お兄さん、あれ見たで。あの小屋とくるくる回るやつ。」
「水車小屋ですか?」
「そや、それや。朝散歩しててな、小屋の中まで見せてもろうたわ。あんなん初めて見たわ。」
「水車小屋の技術は持ち帰って頂いて構いません。契約期間中に技術供与と図面をお渡しします。」
「お兄さん、職人か?色々知っとるやろ。この家見たら分かるで。」
ボロい平屋を指差されマレは知識はあるが経験がない事を話し、日本の壁土と漆喰の説明をする。
「釘使わんの!?」
「はい、壁の中で錆びてしまいます。」
「何で土に刻み藁混ぜるん?」
「土の中で藁が発酵し良い効果を発揮するんです。」
「竹の骨組に土の壁、この漆喰は何がいいん?」
「ン〜色々あるのですが、一つは耐火性能の向上ですね。城の壁に漆喰良いですよ?」
男の話しに職人達は笑った。ええな、ええ仕事させてもらうと。
その日から目まぐるしく日々が過ぎていき、着実に集落は村、街の形を為していく。
「どもども〜。チヨさんに会いに来ましたぁ〜。」
軽い調子で鍛冶場のチヨを訪ねれば、皆に言ってますねと返される。
「タン、皆を一度集合させてくれるかい。職人の皆さんも。」
鍛冶師、五人。狼人族、二十五人を前にマレは鉄板を手に尋ねる。
「この鉄板をですね、鉄芯に巻いて鍛打して筒にする。更に鉄板を巻いて二重に、技術的に可能です?」
「丈夫な鍛造品の二重筒造れるか?って事?」
「そうです。そうです。」
「出来るけど、真っ直ぐには成らないかな?少し歪むと思うよ。」
「ええ、そこはまあ?手間暇掛けて追々直してくみたいな? で、ですね、筒の一方に螺子切って、相方の螺子も欲しんです。」
「軟らかい鉄だし問題ないかな。」
職人の返答に男はニカリと笑った。
「チヨさん、メイコさん、筒の製造と螺子教えてもらえませんか。俺も教わりたいです。」
職人二人、狼人十人を割いて造る鉄筒に、何の意味があるのか彼女、彼等には理解できないだろう。
男は火縄銃の試作に着手した。
八月中旬。
ギラつく太陽、海面に揺らめく陽炎。
じっとりとした纏わりつく夏の暑さに職人も狼人族も長い昼休憩をとる。
「皆の衆ぅ〜 帰ってきたでぇ〜 差し入れあるでぇ〜!」
三台の荷馬車に荷を満載にした商隊、真夏よりも暑苦しいベレー帽少女が大声と共に御者席から手を振る。
ローレライ商隊の入村に職人、狼人皆が沸き立つ。
マレは狼人族婦人部、マクとローレン、職人達に、糠漬け、大麦ふすま漬けの漬物造り講習会開いていた。
野菜の長期冬季保存、細菌による乳酸菌発酵の効能を説明していくマレ。
文官、カイル・リンレンは竹簡にメモをとる。
「はぁ~兄ちゃん色々識っとんなぁ〜。あ、若やで帰ってきはったわ。」
村広場に集まる人々。
ローレライ商隊の面々に慰労の言葉と共に井戸水で冷された甘酒が手渡される。
冷甘酒をグビリと一口飲むローレライが男を見つけニカリと笑った。
真夏の太陽のような笑み。
「お疲れさん。いい商売できたか。」
「超超高額高級品陶磁器で大正解で大盛況やッ! タリアの大地主、領主が元老議員に贈りたい言い出してな。何かな?何かな! タリア皇帝がな! 龍虎壺みて、まさにアタクシの為にあるとか言ったらしいんや!!笑いがとまらんて。」
「お姉様、良かったですわね。」
興奮抑えきれず喋る第一王女ローレライ。
ウンウンと相槌の頷きと共に微笑する第二王女ローレン。
文官、カイル・リンレンは頬を引き攣らせ。
「え、え、え? あ、あのロッタ・カーシス(女)皇帝が、、、ですか。」
大きな瞳を見開き固まるリンレンの横から職人のおばちゃんが声をかける。
「若ちゃん、成婚おめでとな〜。」
「陶器だけにバブルだな〜。」
(隣のおばちゃん何か言ったけどスルー)
「でロレ城で一緒に住むんか?」
(なに言い出すねん!?BBA)
「ああ?え?んでなマレ、金貨三百枚は母ちゃんに支払っといたで。」
「姫、いつまでも鼻垂れとった思うとったのになあ〜。今晩は激しいで!なんせ三ヶ月振りの逢瀬や!!」
「え?俺の取り分で支払えたの?」
(何か隣の隣のおばちゃん、凄い事言ったけどスルー) ('A`)
「タリア金貨でなー。タリア金貨は金含有率低いねんけど使い勝手がええんや。勿論レキ金貨三百枚分換算でな。で?おばちゃん?さっきから何の話し?」
「マレの兄ちゃん貧乳派って話しやんな。」
(ちょ!?待てYO!?)Σ(゜Д゜)
σ(#°Д°)=◯)`3゜)∵グハッ
マレはローレライに顔面を殴られた。
俺、何も悪くない。 と言葉が漏れた。
周囲のおばちゃん皆が、若い二人の仲睦まじさに
ほっこりした。
その後ローレライより売上残金、金貨八十枚と
タリア製ガラス器具を受け取る。
その夜、新築されたローレライ商隊営業所兼待機所兼マレ別邸で皆が食事をし寛ぐ。
「気持ちえ〜。」
風呂上がりのローレライは自宅から延長コードにて電源を確保した扇風機を占領していた。
大人数の狭い風呂の順番待ちは大変である。
マレ自身は風呂を諦め商隊の接待に努める。
「んじゃ、とって置きだすか。」
自宅冷蔵庫から持ち出した徳利をテーブル上に置けばロレの面々が集まって来る。
「シナモンかニッキですか?」
甘味をつけた冷えたニッキ、シナモン水かと尋ねるサンディにマレはニヤリと笑み返す。
「米で作ったお酒。」
「濁り酒ですね。」
笑顔で答える孫のメイにマレは更に卑しい笑みを浮かべ、ぐい呑に酒を注げば皆がホウと吐息を漏らした。
ぐい呑陶器に注がれた透き通った酒、日本酒を皆へと配る。
「まるで水の様です。」
「珍しいですね透き通る、お酒なんて。」
ラミスとリンレンの感想にマレは疑問疑念を抱き尋ねる。
「透明な酒見たこと、無い?火にかけて酒精を濃くした酒を識らないのか?」
マレの問に答えたのはローレライ。
「は?何言うてん。火にかけたら酒精飛ぶやろ。」
マレは望む答えが聞けた事に満足する。
蒸留酒を識らないのか。
焼酎、ウイスキー、ブランデー、バーボン。
異世界はまだ求めてるな。
最年長者サンディがぐい呑を手にした一口グビリと。舌の上、咽を通り、ほぅと一息。
「成る程、少し酒精がきついですな。初めての味ですが、これはこれで良い物ですな。」
まだまだ未熟な自作米酒を美味そうに飲む初老の女の反応に手応えを感じつつ今後を考える男。
「マレ、わっちには、この酒は酒精がきついわ。でも、これ商品に、」
「あーすまん。試作品だからな?購入した米で作ってるし、やる事いっぱいあるし、人手も物も足りないし、時間無いし。この後もレキに女転がしにいくし〜、無理ッ!」
キッパリ断るマレにズーンと落ち込むローレライ。セインは、ぐいっと酒をあおり後、ぐい呑を眺めていた、粋である。
「とうとう国外に営業拠点ですか。若様、大躍進ですね。」
歳の近いロレ国文官の言葉に第一王女ローレライは頷き。
「この一年弱の稼ぎがヤバい。リンレン?何か良い使い道無いかな?」
問われ柔和顔に皺を刻み思考する若き文官。
「む〜! 公共事業扱いで鉱脈でも探します? 治水も街道整備もほぼ完了してますし、、、あっ!?期間限定で減税でもしてみますか?海浜村特需も相まって良い結果になると思われます。」
「成る程ぉ〜。悩みどころですね〜。」
第一王女と文官に第二王女まで加わり三者が顔を突き合わせウンウンと唸り、商会が稼ぎ出した金貨の使い途を思案する。
幸福な悩み、至福の話合いを悪気無く男は邪魔をする。
「学びの場所、学校建てたら?小さな子供に読み書き算数。年長組には職能訓練、現場を退いた職人付けて学びながら稼ぐとか?」
未来、夢を楽しげに相談し合う王女と文官の会話は途絶え、固い表情へと変わるも男は気付かず語り続けた。
「もう、一案は〜女性が妊娠したら共同生活する施設?養護院とでも呼べばいいか?衣食住と出産、育児の援助を受けれる。ん〜同時に簡単な内職仕事の斡旋もした方がいいだろうな〜。あれ?俺変な事言ったか?それとも、もう有るとか?」
黙り込み男を見つめるローレライ以下ロレ国の面々。
第一王女ローレライは僅かに首を横へと振り、男に話しの続きを促した。
教育と互助。
妊婦、幼児、高齢者に対する国と地元自治体による援助、支援、更に職の斡旋まで。
この世界、教育とは親から子へ伝える一般教養。出産、育児は近隣の繋がり、協力を得て行なっていた。
マレは、そこへ国家が積極的に参画していくことを提案したのだ。
ローレライは男の言葉に幾度も頷いた。
「そやな、うん。稼いだ金は教育と救済支援に投資しよか。戻ったら母ちゃんと文官の皆に相談や。」
「マレさん?前々から考えていましたか?」
方向性が決まったローレライ、付き人ラミスは男に尋ねる。
只の思いつきでは無いのだろう?と。
「都市計画図の公用地に建てる予定ではある。更に先を見据えれば、此地の部族全てを統合する必要性を俺は感じている。先程の提案は鬼人族向けのものだ。」
都市図の空白地帯、その先を想い描く未来。
男の先見にサンディとリンレンが小さく呻きローレライは問う。
「マレ、お前とんでもない事、考えとるやろ。」
問われたならば答えもしよう。
拳を握りしめ、顔の前に。
「蛮族王に、俺はなる! ―――――――――――え〜と盛大に滑った?」
次にはテヘペロっと舌をだし場を流す男。
いつもの男の大言壮語かと流されるロレ国の面々。
しかし、ローレライとセインは男の本心だと理解してしまう。
蛮地 全部族の統合。




