第41話
素延べ、火造り、焼き入れ、鍛錬、
造り込み、形を切。
前回の玉鋼、工具造りから参加する若い狼男達に物と絵を使い説明していく。
槍穂、血溝、柄、口金、太刀打、石突。
部位説明、作業方法、利用方法、効果を解説する。
ここで一度言葉を留め集まった皆を見回した。
「皆も知っていると思うが、ローレライ王女の所属するロレ国から職人を招いている。実地技術はロレ国の職人の技を盗め。経験、これだけは俺も持っていないからな。俺も職人の皆さんから学ばせてもらう。」
此処まで一気に話しきり、一度吐息し気持ちを落ち着ける。
「皆、よく聞いて欲しい。この槍穂、これほどの品質、鉄の上位品である鋼は、ロレ国の職人には造れない。玉鋼の製造法と鋼の鍛錬法は秘中の秘。絶対外に漏らすな。漏らせば狼人族が滅ぶと思え。」
大袈裟な物言い、しかし男の表情は真剣。
彼等は、初めて今、自分達が行なった行為、識り得た技術の価値を知る。
「皆に全てを教える時間は無い。俺は、この世に無い技術、または重要と思える知識、技術のみを教える。釘を鍋を造る。石の中から鉄や銅を取り出す。其れ等の技術はロレ国の職人に頭を下げ教えを請い真摯に学べ。」
槍の穂造り開始の号令。皆が作業に入る。
マレはタンを呼び止め、ロレ国の鍛冶師からは日用品から武具迄全てを教われと告げ。
狼男、タンの瞳が好奇心に輝く。
「武具、防具については俺の方で考えては有るが、学びは必ず役に立つ。紙にメモしろ、幾度も質問しろ、何度も礼を述べろ。この鍛冶場、タンお前に任せる。」
タンは髭を震わせ嬉しそうに笑い、幾度もマレに礼を述べる。
鋼の槍は五十一本が作られ、隠匿された。
これで鍛冶は一区切り ('A`)
引き籠もり計画一歩前進 ( 'Д`;)
ホウが叫ぶ。
「おーい、こっち!こっち!」
槍を作り終え、マレとハク達、六人は職人受け入れ前の下準備に追われた。
一定の長さの紐の両端を持ち、距離を測り、杭を打ち目印とする。
都市計画の区画割り。
「族長、すまないが穀物を配給して若い衆に平野部から木材、竹の切り出しを頼みたい。」
開拓と伐採、資材確保を族長ハマと今迄の授業を経て読み書き計算を覚えた族長秘書の少年に、お願いして行く。
「大事業ですなあ。」
「ここは、狼人族の村にして、俺とお前達の永遠の都。不退転である。」
ハマは顎下の毛を撫でる手を止め、真剣な表情の男に目を細める。男の熱意、情熱を場の全ての者が感じとる。
「承った」
族長は短く、簡潔に、男の願いを聞き入れる。
五月末。
ニケに行き先と今日の予定を告げ家をでた。
二時間後、八台の荷馬車が列を連ね平原を進んで行く。
ローレン第二王女率いるロレ国職人達の馬車であった。
「姫様、見渡す限り森と平原ですね。この地を開拓すれば、どれだけ国と民が潤う事か。自分がレキの役人なら貧民街の人々を入植させて一大事業を立ち上げますのに。」
彼女はカイル・リンレン。
歳は十九歳、ロレ女王国の役人で文官。
今回の人材派遣に第二王女の補佐として付けられた。
大きな瞳、栗色のおかっぱ髪。ぽっちゃり表現の似合う少女であった。
「あら、私でしたら、その前に貧民街の人を税金で雇い入れて集団で働ける羊毛織物産業を興しますわ。」
王女の提案に文官は、素晴らしいと賛同するが数瞬後には互いの顔を見合い吐息する。
領土は小さく、主産業は農業、国民総人口五千。金や銀が採掘される事も無く、国力に乏しいのがロレ女王国。
若さ故か、故国富国の理想はある。しかし先立つものは無し。理想と現実に葛藤する乙女二人。
「あら、前方から何か近づいて来ますね。」
第二王女の言葉にリンレンの表情が強張る。
「狼人族が友好的といえども、ここは未開の地。姫様ご注意ください。」
「あら、凄く速い!?まあ?手を振ってらっしゃいますわ!」
楽しげに実況するローレン、文官リンレンはヒッと引き攣った叫びを短く挙げた。
チリンチリンと鐘が鳴る。
鼻歌交じりに自転車を漕ぐマレが大きく手を振る。
「お迎えにあがりました〜ぁ。」
「この度は、遠い所ありがとうございます。」
マレは勢いよく黒髪頭を下げ腰を九十度直角に折る。
ローレンもまた、皆を代表し、お辞儀を返す。
「此方こそ、良いお仕事を用意して頂けたと思っています。ロレ国内は街道、治水整備も建物を建てる予定が無いので。」
二人の挨拶と会話を他所に職人達は自転車に群がった。
「原理は、、、解る。解るんだけどねー。」
「軽いのに頑丈、凄い技術ですね〜。」
「しかし、良い道が有ってこそだろ?」
「でも、作ってしまえば馬を飼うより安上がりですよ、これ。」
一人の職人がマレに尋ねる。
「(若様の)お婿さん。これどうやって作ったん?」
鍛冶屋のチヨの問いに場のおばちゃん達が一斉に。
“な!? なんだってぇぇぇ”と叫び声を挙げた。
平原の春が終わり初夏へとはいろうかと云う、穏やかな一日。
チヨが歓声を挙げ自転車を漕ぐ。後続の馬車から次は私、私がと声が挙がる。
「なあなあ、この事業ロレ国へ婿に来る為の結納金代わりか?」
「なあなあ、どこ迄の仲なん?赤ちゃん楽しみやん。」
「姫様と何処で知り合ったん?告白は、どっちからなん?」
(( 'Д`;)) いや、その、あのー
「何でも、お姉様はマレ様の玉をしっかり掴んで離さないとか? リンレン?玉とは何の事でしょう?」
第二王女の問いにリンレンはブフォっと吹き出し、その後口籠る。
「兄さん、もう姫の尻に敷かれとるんか!」
「若様、大胆やわぁ〜。」
「姉様がマレ様は、会ったその日に抱きついてだしたとか?リンレン?何をだしたんでしょう?」
「え?それは、そのー、ナニをナニしてだしたといいますか〜その〜」
「兄ちゃん、早いんか!」
「兄さん見かけによらず強引、素敵やん。」
「兄ちゃん、貧乳派やな?だがそれもいい。」
騒ぎ興奮する、おばちゃん達。ある者は手を合わせ、ありがたや、ありがたや、あの若様にと拝む。
マレは頭を垂れた。
うん、、、間違ってないから困る
否!間違ってる!そ、早漏ちゃうわ!(# ゜Д゜)
これ、この件で一生涯イジられるパターンやん
ウッウッ(´;ω;`)エグエグ
今後のロレ国ロレ国民との付き合いに悩むマレを他所に荷馬車は進み自宅前を経由し海浜の村へと入る。
マレの自宅を遠目に見て騒ぐ職人のおばちゃん、ボロいけどなんか凄いらしい。
村では狼人族総出での出迎え。
皆の前に立ち、一歩前へと出た族長ハマがお辞儀一つのちに口上を述べ、ロレ側の代表、第二王女ローレンは自己紹介と共に一礼。
両者、固い握手を交わすとマレが拍手する。
成る程、この場、この場合、拍手をすれば良いのかと察し憶えたハク、セン等が続き拍手すれば海辺の村に皆の拍手が満ちた。
狼人族にとって小さくも大きな第一歩。彼等は外交と外交儀礼を識る。
「皆!ロレ国の職人さんに御礼を言いなさい。ありがとうございます!」
マレは大声で叫ぶように狼人皆に伝える。
皆が男の言葉に続き礼を述べ頭を下げた。
「本日は陽も暮れました。皆様には野営の準備をして頂きたく。夕食はお口に合うか分かりませんが此方で用意させて頂きます。ローレン姫様とカイルさんは私の自宅にお泊りください。」
ローレンは丁寧に礼を述べるが職人のおばちゃん達が黙ってはいなかった。
「なんや!?ローレン姫様まで手籠めにするんか!やるな兄ちゃん!!」
「ロレ女王家マジ安泰や!」
「チャンスやで!カイルちゃんも抱かれてまえ!」
「おばちゃんもいれてくれ。」
「ヨシコさん、いれてとか直球すぎや。」
マレは大変な人達を村に招き入れてしまったと頭を抱えた。
「狭く汚い家ですが、どうぞ、お上がりください。」
今日もマレのボロい平屋は人でぎゅうぎゅう詰めだった。
「此処が神住まう神域、、、の家ですか。」
ローレンもリンレンも玄関口、土間に立ち辺りをキョロキョロと見回す。
ニケと養女四人に居候三人が出迎え頭を下げ挨拶する。
大家族なのですねとリンレンが言えばマレはええと肯定し賑やかで良いですよと答える。
「奥様とお嬢様ですか?ロレ国、第二王女ロレ・ローレンと申します。」
自己紹介し一礼するローレンに戸惑うニケとアイ。マレが間に入り。
「ローレンさん、ニケは妻では無く。元々は他人ですが縁あって家族同然に生活しております。」
男の遠回しなもの言い。
第二王女は察する。
それは姉妹共に通ずるもの。
ああ、この男は、何でも抱え込んでしまう人なのだと。




