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第40話 蛮地と呼ばれし我等が大地(2)

 

  「でっけえ、でっけえぞ!?」 


旅の途中、マレは双眼鏡を覗き込み興奮の声をあげハクを見て尋ねた。知ってたか?


「あの湖は虎人族の縄張りだ。」


双眼鏡の先には巨大な湖。

湖北部に居を構え湖の幸と狩猟で生活する虎人族。

この交易路をロレ側の人間が通る際、虎人と接触し危険はないかと尋ねる。

今、歩く場所は、どこの部族も縄張り外の為、問題はないと答えるセン。


「何かあれば狼人族、族長ハマの名を出せば、その場は多分収まる。」

「ん〜どこかで虎人族にも話しを通す必要があるな。」


センの回答、マレの懸念にハクは喉毛を撫でながら暫し考えこんだ。





 

 家畜を連れての移動、ロレ領を出て一週間。

無事、我が家へと辿り着いたマレ達一行をニケ、アイ、初、ミミとミウが出迎える。

子供達を抱きしめ、頭を撫で不在の間変わりなかったか?と言葉をかける。


「ハク。ケイ、シウ、サジの三人は家で預かる。すまんが~家畜を村の小屋付き柵の中に放り込んで水と雑草、燕麦、大麦を与えてくれるか。明日朝、村にローレ達と向かうから親父さんによろしく伝えといてくれ。」


ハクが分かったと了承し家畜を牽く。


「この人数だ、狭い家で寛げんだろうが入ってくれ。晩飯は焼肉にしよう、塩と魚醤味だがな。」

「あ〜お風呂お借りしますね。」


狭くボロい家だが風呂完備。

ラミスは笑顔で告げ、メイとサンディ、セインは馬の世話の為に馬具を外し厩へと牽く。

ローレライは、あー疲れた、疲れたとのたまいながら勝手知ったるとばかりに靴を脱ぎ捨てマレの家に上がり込んだ。






 ハクがもたらした朗報に沸いた狼人族。

朝の海浜村、中央広場に全ての狼人が集う。

集まった狼人を前にマレは声を張り上げる。


「皆! この三人はケイ、シウ、サジ。外から、この村へと帰って来た。当面、俺の下で預かる。よろしくしてやってくれ!」


世代を超え帰還した同胞に狼人が歓声を挙げる。

皆を代表し族長ハマが一人一人に握手を、そして感極まり抱きしめ涙ぐんだ。

その後、サジは若衆男組にケイ、シウは婦人部に囲まれ歓迎される。

用意される野草茶とシロップ、若衆はサジの肩に腕を回し自慢の重籐弓を見せ、今度作り方を教えてやると。

婦人部は今度料理を甘酒を魚醤を漬物を一緒に作りましょうと。

 元奴隷であった三人。

自らの存在を皆が望み肯定してくれる事に感極まり涙ぐむ。

 同胞、千人に満たない共同体は全ての者が我等が家族。


「今日の授業、子供達は自習。アイちゃん、三人にも勉強を教えてやってくれ。族長と各家の家長は残ってくれ。大事な話しがある。」


 狼人族の会合。

族長、長老衆に家長。

ローレライ商隊の面々にマレとハク達が広場中央に集い茶と共に話し合う。

 今回のロレ国訪問の経緯、経過と結果を報告し

都市設計図を前にしてロレ国から職人を雇い入れた事を説明する。

ロレ国と狼人族は協力関係を結んだと聞かされ族長、長老衆は神妙な表情を作ると共にローレライ王女に頭を下げ、よろしく頼み申すとハマ族長は改めて挨拶を。

場に集う皆が戸惑いつつも友好的な人族の共同体との交流に前向きな姿勢を見せた。

やはり、ケイ、シウ、サジの若き狼人が部族に帰還した事が寄与したのだろう。


「大人達で五人一組になってロレの職人一人に付いてもらう。仕事の対価として麦を支給する。作業は道路、大工、鍛冶、農耕と酪農。出来る限り希望には沿うが、どれも大事な仕事であり知識、経験だ意に添えない事もある。」


タンが手を挙げマクが続く。


「僕、僕、鍛冶仕事がしたい。」

「俺は農業、家畜を育てたい。」


二人の提案に、何?その名前通りな希望と苦笑しつつも。

玉鋼、鍛冶仕事に携わった若衆を優先し鍛冶に回す事が決まる。

農業、酪農は婦人部からも人手を回してもらう事にした。


「ハク、セン、ホウは道路、大工仕事に回ってくれるか。職人到着前に下準備がしたい。」


三人はマレと共に六月の職人受け入れ迄に道路整備の段取りと木材の用意で話しが纏まる。






 会合が終わりローレライ商隊の仕事へと移る。

商隊の皆とマレ、ハク達と共に荷馬車から大量の荷を降ろし塩を積み込む。

売りに出せそうな陶器、陶磁器を選別していく。


「今回も日用品より観賞用の高価な物にするか。」

「お!?なんやこれ?魚が川を泳いでるんか?」

「あ〜そいつな〜。鯉の滝登りな。」


大皿に描かれた鯉の滝登りを説明するマレ。

滝の流れに逆らい泳ぐ鯉は、いつしか天へと昇り龍となる縁起物である。

この様な逸話は金持ち、道楽者に喜ばれる為、話を聴くロレの面々も真剣であった。

ええな、これ売り物にと指定したローレライは、ある茶椀に目を留め尋ねる。

「なあこれ?」

手に取ったのは漆塗りの木椀。派手さは無く、その落ち着いた佇まいは客人への饗し料理に良いだろうと尋ねるが。


「んーすまんな。そいつは当面量産予定は無い。使う材料が今後村内で必要になるから。技術向上の為に作らせただけだ。」


漆需要の逼迫。ますます興味惹かれる王女で商会長は尋ねる。その先の商機を見据え。


「何作るんや?」

「鎧。」


漆で塗り固めた革鎧の作製。

男はまた、狼人の文明、歴史を大きく先取りする。

予想外の返答に少女は手にした漆椀と男の顔を幾度も交互に見比べるのだった。



「どうする?もう一泊していくか?」

「そやな、そうさせてもらうわ。」



午後、自宅に戻りアイ、初、ミミ、ミウが作った陶磁器を数点鑑定し売り物に加えるローレライ商会の面々。

二泊三日、明日の早朝出発を予定し今日はマレの自宅に世話になる。

「ローレ、流石に狭いだろう。」

新たな同居人、ケイ、シウ、サジの三人が増えボロ屋は鮨詰め状態といったところか。

夕食後、気にしていないなと返答するロレ国、旅商隊の面々を前に、ちゃぶ台を挟み喫茶と会話。

狭いながらも笑顔絶え無い空間。


「この家の近隣に住居、小屋、蔵を各一棟、ロレの職人に、お願いしようと思ってる。」

「三つも建てるんか〜ぃ。贅沢やろ、神様調子のり過ぎちゃう?」

「ん〜住居の方はローレライ旅商隊宿泊施設兼営業所支店?みたいな。」

「お?お!?おお!!そ、そやな。」

「小屋の方は俺の化学の実験、研究作業室? 蔵は実験で作った物の保管庫だな。()()()隔離保管庫。」


危険物の単語にロレの面々の表情が強張る。そう、目の前の男は、渡来人なのだと。

皆の緊張を察したのか。


「化学は! 爆発だ!!」


突然の宣言にビクリと体を震わせたローレライ。

次には脅かすなや!とブチギレられビンタを喰らうマレ。

叩かれた頬をさすりながら。


「まあ、うん。言い過ぎた、、、けど、危険な物も作るから少し離れた場所に作業小屋と蔵は欲しいのよね。」

「やっぱ危険なんか、、、こわッ。あーでもーそーかー、ローレライ支店、営業所、国外専用宿泊施設、、、、いい響きや。」


交易、行商を始めて数年。

とうとうここ迄来たかと感慨深げに両腕を組み瞑目するローレライ。


「でさ、来年には狼人族にも貨幣制度を導入しようかと。」


男の唐突な報告、宣言に少女は目を見開き、顎がカクンと落ちた。


「“は?”」

「貨幣制度。通貨。お金を海浜村で流通させようかと。」

「そかー凄いことやなぁ、銅貨か?それとも鉄貨でも流通させるんけ?」

「金属は、貴重。代案用意してあるから。」


喫茶と共に、これ迄の事、これからの事をダラダラと歓談し、そろそろ休むかという頃。


「レキでさ、噂や情報集めといて欲しいんだけど。レキの蛮地奴隷狩り?の噂。」


気楽に話すマレに対しローレライ等、ロレの面々は表情を引き締め、男を見つめた。


「きな臭い話しやな。」

「あーなんかさ?秋頃?ここら辺の家々に火ぃかけて、攫ってくらしいぞ?」

「分かった。八月の終わり頃には一度、此方寄るわ。レキの巷の噂も集めとく。」






 翌朝、ローレライ旅商隊を皆で見送り後、ニケに伝える。

「ケイ達の勉強や炭焼き、陶器作り、料理を教えてやってくれ。」

彼奴等あいつらが自活できる様にと思いを添えて

それから二週間、マレは自宅と鍛冶場を往復した。




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