第36話 交差路 交差する人生(3)
陽が沈み始める。
ローレライに、はよいこかと促され。
まず敷地内の外堀、馬出と呼ばれる攻撃と防御を兼ねた曲輪が一行を出迎える。
木橋を渡り目の前には簡素な門、門を潜ると右手側に先程の門より頑強そうな門が、そして正面と左は垂直な土壁。
「これは虎口。」
ハク達へマレからの説明が入る。
虎口、狭い空間に敵を引き込み多方向から攻撃を仕掛ける場所。
目の前の現物と男の解説に感嘆感心の言葉を漏らす狼人の若者。
センが質問する。
「マレがこの城に攻め込んで勝つ自信は?」
「戦力差三倍ならいけるんじゃない?此方に多大な死傷者が出るけど。」
城攻め三倍。
算数教育の成果がでた。
現場と想像から苦戦必死と想像する狼男達。
「どちら側でも十分勝機あり、、、と?」
尋ねるハク、マレは首を傾げ、ん〜と。
「大軍で城を包囲。戦わない。城内の者が飢えて死にかけるのを待つかな?」
「マレ!嫌な事言うなし!」
プチブチ切れ少女のローキック。地味に痛い。
「過去あった事だし〜。金かかるけど此方の人的被害無いし。無傷城ゲッツだし?籠城戦で重要なのは士気。」
籠城は援軍の見込みあって成り立つ。
孤立し包囲されれば城内の士気は下がり、いずれ
は降伏か自害か玉砕か。
マレの話。
ハク達だけでなくローレライ等、ロレ国の面々も真摯に聞き入った。
皆で城、敷地内を進む。
周囲は小屋の様な住居が並び、井戸もある。
住居には人の気配。
マレが此処に住んでるのかと尋ねれば。
「昔々は家臣が住んでたんよ。今はお役所になっとる。皆、ロレ国の文官とかや。」
感心しきるマレ。ハクは敷地隅に畑を発見する。
「母ちゃんと妹が耕しとるわ。」
ウルッ (´;ω;`) ブワッ
ローレライの話しにマレの涙腺が決壊した瞬間。
急な坂を登り、上へ上へと。
すれ違う人々に若、姫と呼ばれ手を振るローレライと短く言葉交わすサンディ達。
道中、柵や櫓を見学しながら進む。
「おふぅ。まさに垂涎。ヘブンズMAX、い、いきそう。」
「へ、変態やあああ。城見て欲情する変態やあああああ!!?」
歴史マニア、戦国マニアで城マニア。
男の趣味を理解できず困惑するロレの面々。
最後の虎口を抜け山頂へと到達する頃。
陽は落ち薄闇に月と星。
城下は竈の火が灯り煮炊きの煙が登る。
独り女の子が薪を抱え歩く。
「ローレン!帰ったでえ!」
歳の頃十五だろうか。野良着姿でとても王女には見えない少女が微笑と共に。
「あ、お姉様、お帰りなさいませ。今回は、お早いですね。それに、まあ、凄い数のお客様。」
「連絡無く、急に悪い。お客様、十名様ご案内やで。あ、この娘は、うちで雇った。」
ローレンと呼ばれローレライを姉と呼ぶ少女。
この国の第二王女は柔らかく笑み客人を出迎えた。
「はじめまして。お姉さんには、お世話になっております。稀人と申します。突然押し掛ける形となり申し訳ございません。」
深々とお辞儀するマレに第二王女ローレンもお辞儀を返す。
案内されたのは五棟ある平屋の一つ。
来客用の棟らしき家。
板張りの床に靴を脱いで上がる様式。
座布団代わりだろうか山羊の毛を撚り
編まれた小絨毯。
これだけは手間暇かけてあるのだろう、良い物だと判る。
「母ちゃんに話してくる。寛いどり、後で呼びに来るで。ラミス、晩御飯作るの手伝いにいったげてえ。まあ、大したもん期待すんなよ。」
早口で告げて小走りで駆けていく第一王女。
「では、後程。」
旅商隊の面々も、この場に付き添うセインを残し方々へ散っていく。
狼人の元奴隷少女、男児を部屋に残し、マレ、ハク達一行はこの国の女王と対面を果たす。
場所は山頂の建物の一つ。
ロレ家の住居。
少し広めな床は板張りの客間。
日本戦国江戸期、主君が家臣一度と会するかと想わせる様な一室。
部屋奥、山羊毛座布団に正座し迎えるはロレ国女王。
「よくおいでくださった。私がロレ女王国、現当主、ロレ・ライン。我が娘ローレライ、ならびロレ国への過分の配慮いたみいる。何も無いところではありますが、国賓として歓迎いたしますぞ。」
凛として。
そんな表現の似合う妙齢の女であった。
マレは正座にベレー帽を脱ぎまっすぐに女王を見、頭を下げる。
「私、レキ国が北にある、蛮地などと呼ばれる地にて狼人族一党を指導しております。渡来人にして似非神、客人神 恵比寿と申します。」
女王、隣に控える女、第二王女ローレンが怪訝な表情をする。
マレの後方にて座るハク達は口を閉ざし場を見守る。
状況に焦るはローレライ。
自身を神といいだす、戯け者と母に対し、場を収めんと口を挟んだ。
「ちょ、ちょ、マレ、そのことは言わんでも。
わっちも何もいっとらへんで。」
「いいんだローレ、陛下とは、正直に腹を割って話しがしたい。此の度、ロレ国に参りましたのは、一つは様々な品の買い付け。一つは御息女、ローレライ殿下のご尽力に感謝し陛下に御礼参りに。最後に一つ、ロレ女王国と密約を結びたく参りました。」
場が沈黙する。
誰も声をだせず。
女王ラインは男をじっと視る。男の器を見定める。
長い沈黙の後、ラインは尋ねるように。
「遠回しな言い方は好かぬと?」
「人生五十年。今際に想い返せば夢、幻。ならば全力にて己が生を駆けたく想います。」
男の言葉は、さらなる沈黙を生み刻だけが過ぎる。
皆が沈黙に耐えられなくなった頃合い。
クツクツと上品さを帯びた女の笑い声。
「よいわ、よい。とてもよいわ。男という者は果断さに欠け、軟弱な者と思うておりましたが、恵比寿殿は異なるようですな。」
場の空気が弛緩していく事にローレライもほぅと一息ついた。
「して、密約と申されましても、ロレ国は小さい。金も無ければ力も無い。」
男は女王を見据え言魂を紡ぐ。
「人は城 人は石垣 人は堀 情けは味方 仇は敵なり。私の生まれた国の旧き時代に生きた将の言葉です。」
言葉を区切り、女王を見つめ。
「ロレ国、とてつもなき財がありますな。それをお貸し頂きたい。人、人材で御座います。」
女王は一言、ほう、とだけ漏らし男の話の続きを促した。
「勿論、対価は払わせて頂きます。まずは五十人お借りしたい。道を造れる者、家を建てれる者、農耕を指導できる者、鉄を打てる者。今まで私、独りで教えておりましたが手が足りません。期間は半年、1人レキ金貨五枚。半年の期間満了後、ロレ国にレキ金貨五十枚。計レキ金貨三百枚をお支払い致します。」
ここで話しを一度区切り、ライン女王を見たままに。
「ハク、セン、ホウ、タン、マク、頭を下げよ」
マレは平伏し
「お願い致します。」
続く、ハク、セイ、ホウ、タン、マク。
“お願いします”
下げられる頭、女王は早々に声をかける。
「頭をあげられよ。しかし、恵比寿殿は何を求め、目指しておられる?」
「楽土を求めて。」
短く、はっきりと、力強く応えた男。
女王は暫し瞑目し反芻し、側仕えに伝える。
「リンゼよ、宴の仕度をせよ。我が盟友として恵比寿殿を歓迎いたす。」
場に座すロレ国の面々が、ザワりと沸いた。
友好関係の構築は成った。
宴の準備にと腰を上げるロレ家家臣団。
女王ラインは尋ねる。
「して、恵比寿殿、ローレライとの婚儀は何時程か。」
“ごつっ ゴロゴロゴロ”
女王ラインの問。
第一王女ローレライは派手に転けた。そこから前方一回転までした。
マレ、素で え? (´・ω・`)




