第35話 交差路 交差する人生(2)
その夜も、男は少女を抱く。
アルウルは、男の側を離れようとはしなかった。
朝、食事の席。
「見送りはいらない。」
男の素っ気ない言葉、王女は悲しげに男をみた。
抱きしめ、唇を重ね、離し。
次はいつ会えるか わからない
別れの言葉は端的。男は部屋をでていく。
ローレライ旅商隊と落ち合い、荷馬車に揺られ旅を再開する。
街の様相は王宮から離れる程に貧相になってゆく
中産階級の住宅。商店、露店の並ぶある一角、ある一点に目が行く。
裸で膝を抱える大勢の女達。その手足には枷。
さらに少数の獣人族の姿。
その光景をマク、タン、ホウは言葉にできぬ思いで一瞥し顔を背けた。
ハクは歯を強く噛み締め拳を強く握る。
白狼の視線の先、狼人の少年少女。
「ローレ、あれは?」
「聞くと思ってたわ。奴隷市や。ヨシツネ、気持ちは分かるで、でもな、奴隷売買はレキ国が女王が認めとる。」
「相場はいくらよ?」
景気、戦争等で上下すると前置き、ローレライが言うには。
何も職能を持たない成人女一人、金貨二枚。
職能、特技、年齢により値段はピンキリ。
獣人族は種族で金額が変動するが、おおよそ金貨五枚。
「人種、鬼人族の男なら単純に値段が三十倍や」
「ローレ、売られている狼人、俺の取り分で全員買ってきてくれ。」
「わかった、待っとき。」
ハク達の表情がゆるむ。
数十分後、ローレライ商隊の面々が、狼人族の少女二人と男児、虎人族の少女一人を連れ戻る。
「きっちり値切ったったで!あ、この娘は、うちの方で雇うで安心し。」
マレの現在の資金なら、あの場全ての奴隷を購入できただろう。
だが、今、それをする訳にはいかない。
「無力だな。」独り愚痴をこぼす。
「安心しろ。奴隷ではない。お前達の面倒はみる。」
四人の獣人に向け言い切り、更に言葉を続ける。
「狼人族、族長の息子たる、ハクがな。」
「俺っすか!?」( °д°)
ハクの素っ頓狂な叫びにマレはニヤニヤと笑み。
「んーあー。あ、お嬢さん、何なら、この五人どう?独りもんよ?嫁に来ない?虎の娘さんも、ほら後ろの彼とかどうよ?」
セインを指差す男。少女達と男児の間に僅かな安堵と笑みが浮かぶ。
「僕もどーよ。この厳つい狼男五人、兄貴!!って呼べばいいお。」(・∀・)イイヲ!!
西の貧民街を抜け、西方防衛の要マキウス砦を目指した。
「ローレ、人独り雇うのに幾らかかる?」
「ピンキリやな〜。前、荷運びと護衛の日給の話したやん?傭兵銀貨二枚、これ結構高額なんやで。絶対奪われた無い荷、または大金持ち歩いてる。まさに今のわっち等や、が信用信頼できる傭兵雇うて日給銀貨二枚。普通の職人なら日当、銅貨十五から銀貨一枚以下くらいか?」
マレは伸びだした顎髭を撫でながら考え込む。
「麦、米1kg超が銅貨一枚だろ?女の奴隷が金貨二枚は安すぎないか?」
「西の方で戦争あったし相場さがっとる感じや」
まるで歴史教養動画を観ている感覚に囚われる。
そうか、と反応したマレ。
メイが体験を語る。
「前まで、半年交易で各地を回って、最終利益金貨一枚なら大騒ぎでしたよ。ほんと、皆の給金と若様のお小遣い確保できて、ほっと胸を撫で下ろすくらいでしたし。」
メイの言葉に、ん?と思うところあってローレライを見る。前回の交易旅一度で、それまでの旅商隊の利益数十年分を稼いだ事になる。
「なあ?陶器、陶磁器、凄く?高級品か?」
「当たり前やろ!前回タリアに運んだら硝子人気追い抜いたわ!更にニッキ、シナモンの供給不足で値がつり上がるしやで。今頃気づいたんか、このボンボン。」
マレ顎に手を添え虚空を見つめ呟いた。
「持つ者と持たざる者、貧富の差が激しすぎる」
その後もローレライは喋り続けた。
資産金貨三百九十枚所持しての帰路、どれだけ挙動不審になったことか。
家に帰り母ちゃんに金貨入り袋を渡したら泣かれた事。とうとう犯罪に手を染めたのか。
話を聴きながら考える男。
「例えば、今、使ってる街道、職人に金支払って造らせたんだよな?」
「多分、奴隷、犯罪奴隷の使役、平民への労役で造らせたかと。お金の支払いが発生したのは、食事、材料、道具、一部職人だけかと。」
「職人さんや、農閑期のおばちゃんに日当払って造ってもろうとるのロレ国くらいなもんやで。」
質問にメイが答え、ローレライが自国の対応を話してくれた。
ローレライの話しにマレは感心する。
「何気にロレ国、先進的だな。」
そうなの?とローレライ、メイ共に不思議そうな顔をする。
「で、何故ロレ国、貧乏なんだ?」
「んー。国民は他国と同等ですよ?女王陛下と姫様がお金無い?だけですかね。」
「金山、銀山がないんや!ロレ国は銅貨しかあらへん。農産物も大量には外に売れへんし、名産品もあらへん。更にや!ロレ銅貨は他国では銅の欠片扱いやで!」( # °д°)
話しの最後にはプリプリプンスカと表現できそうな表情で怒り出すローレライ。
その後、マキウス砦にて関所兵に銅貨数枚を握らせ通過し、さらにマルトゥクス関所を通過。
マルトゥクス国内、宿にて一泊、領土端の田舎道を北上し関所を越えロレ国へと入国した。
ロレ女王国。総人口五千人程。
農業と酪農、畜産を主産業とする極小国であった。
小さな関所を守る兵士に王女自ら声をかけ手を振った。「今、帰ったで。」兵士もまた笑顔で手を振り返す。
「あれや、あれが、わっち等の城や。」
ローレライが指差す先、マレは口には出さなかったが大層感心、感動した。
「なんや、今、ショボいとか思ったやろ!」
「いや、そんな事は無いぞ。で近くに宿はあるか?」
「んなもんあるか!ロレ国に来る奴はおらん。」
「自虐かよ!?野営するか。」
「何言うてん?マレ達は国賓やで?接待させてもらうで。」
ローレライの言葉に臣下一同が同意を示す。
「お世話になるか。明日も色々忙しいが付き合ってくれるか?」
「もちろんや。今日は女王妹紹介するで。あ、、、マレ、母ちゃんと妹にて出すなや、蹴り入れるで。」
「信用無さすぎて凹む。」
城前。店舗、露店が建ち並ぶ一角にて馬車から降りる。
「お勤めごくろーさん。」
方々から若様、姫様と声がかかる。ローレライはマレを向き言う。
「ロレ国唯一の市場や。明日は、ここで大麦仕入れるで。まあ見ていき。ロレ女王国直営店もあるで。」
「あ〜陶器まだ余ってたよな?もう、その直営店に値札付けて並べようぜ。」
「ええんか?そうさせて貰うで、ロレ直営交易所の格も大上がりや。」
市場を皆で見て回る。
色々な品物が並んでいるのを見るのはやはり楽しい。
直営店、少し大きな雑貨屋という風情の店内。従業員と農婦数人が歓談する。
一人の従業員がローレライに小声で尋ねた。
若様のコレ、コレですか!?
姫はニヤリと不敵に笑み返し、今はまだ良い友人とだけ含みを持たせ答える。
店内、王女の恋バナに従業員と農婦が俄に沸き立つ。
暫くすると、ローレライを囲むように婦人達が集まって来た。
「姫様、帰ったの?いつも、ありがとね。」
「姫様、姫様、大麦の買取り値上げてくれてありがとなぁ。でも、、、売値前のまんまで大丈夫なん?」
「せや、せや。姫の苦労は知っとる。無理せんでええんやよ。」
口々に礼と懸念、心配を告げる農婦でロレの国民にベレー帽に旅装束の姫は不安を祓う笑顔を向け。
「大丈夫や、任せとき。塩だけは御免な。もうちょいで充分な量確保できるき、まっとってえな。」
此処でもマレはローレライの国民からの慕われ振りに感心する。
お?鉄鉱石、銅鉱石、品揃え悪くないな。
眺める品々は、男の物欲を刺激する。
「マレ、錫や鉛もあるで。近所の鍛冶屋向けやし少量しかないけどな。」
余所者と姫、二人を離れた場所から見る、おばちゃん達。
春や春が来た。何処で引っ掛けたん?あんなええ男。姫さんもやるやん。ヒソヒソヒソ。
「あー後、牛、山羊、鶏の方は?」
「大丈夫やで。牛四、山羊六、鶏若干。話しはついとる。」
市場兼交易所を出るとリュックから双眼鏡を取り出しロレ城を視る。
「何やそれ。」
「双眼鏡、何と服が透けて見える優れもの。」
そう言い双眼鏡越しにローレライを見る。
「マレのエッチ!イヤ馬鹿ン!」
胸と股間を手で隠す。真実を伝えれば、勿論殴られた。 σ(#°Д°)=◯)`3゜)∵グハッ
一頻り城を眺め、ハクに双眼鏡を渡す。全員見ろと。
「我が家の何が気になるんや。」
「レキ女王都の城より攻め落とすのが難しいでゴザル。」
目の前の城は山城。小山の上に築かれた砦。
外周には広く深い空堀。
櫓、二の丸、三の丸があり山頂に築かれた本丸。
横堀、竪堀、堀切、様々な場所に様々な形状の空堀。
処々に植えられるのは栗の木。
「昔々な、ご先祖様が民衆を城に避難させて、籠城から夜襲仕掛けて敵追い払ったんやと。」
マレはハク、セン、ホウ、タン、マクの名を呼ぶ。知識、教養の時間。
「兵法では、戦において高所をとった方が有利である。この城、良く見ておくといい。」
最後に、今だけだがな、と呟き。




