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第33話 壺売りの愛人は詐欺師(2)

 

  「全員整列!休め!」


男の号令に反応するのは、恵体な狼男五人。

深緑のベレー帽。

深緑の外套。

深緑の厚手綿パンツ。

革と木と布で組まれた深靴ブーツ

統一色で決めた五人の背には重籐弓と矢筒。


「良く似合っているな。熟練傭兵といったところか?」


五人の容姿を評するマレは同様の衣装を黒一色で統一する。


「馬子にも衣裳やな。でもマレ?傭兵なんてだらしないで、ほんまもんのわな。」


そう云うものなのか?と軽くローレライに傭兵事情を確認後。


「これより諸君には外での見聞を広める為、商隊に同行してもらう。先々ではローレライ商会長の指示に従え。名目上君達は商会の私兵、護衛兵だ。外にでれば諸君は辛い現実を見ることになる。自分達の同胞が鎖で繋がれた姿だ。しかし、何もしてはならん。だがその目に焼き付けよ。

また、旅の間、外を歩く時は列をなし整然と歩くよう。以上」


 “SIR YES SIR”


狼男五人が揃って返事を返す様をサンディとセインはつぶさに観察していた。


「小隊乗車!」


マレの号令に五人は二手に別れ馬車に乗り込む。

少量の香辛料、今回は嵩張る陶器、陶磁器が数十点。ロレ国用精製塩を載せ鬼娘と初に見送られ馬車は出る。







 「なあマレ、聞いてええか。」

前を行く荷馬車、御者席にサンディとローレライ、荷台にはマレとハク、センが乗る。


「軍隊経験あるんか?それも将官で。」


気になっていたのだろうサンディも浅く頷き答えを待つ。


「ないよ、ない。そんな俺はインドア、ぼっち派。あーハクもセンも楽にしてて大丈夫だぞ。」


先程までと一転する男の様にサンディは目を細める。老婆は今だ、この男を計りかねていた。


「全部、魔法の箱の知識だな。ローレ、俺も聞きたい。」

「なんや?分かる事ならな。」

「文字の読み書き、十人いれば何人ができる?」

「んー十人中一人おるかどうかやで。因みに商隊の皆は全員できるで。」


「あー、予想以上に少ないな。次、なあ?男って数少ないのか?具体的な数字が識りたい。」


「女、三十人に対し男、一人の割合ですな。」


「ハ?」  チョ( ゜∀ 。)マテヨ


「どうされました?ロレ国戸籍台帳からの数字ですから信頼できますぞ。」

サンディの説明に呆然とするマレ。

今迄、なあなあで済ませてきた世界の真実に困惑する男。

世界の真実如何に関わらず馬車は進む。






 野営の時間。

夕闇のアル峡谷。マレを前に一列に並ぶ狼男五人。


「今から一つためになる話をしよう。昔々の頭の良い人が考えたお話。しっかり心に刻むように。」


前置きを終え、いざ語ろうかと言う時、呼んでもいないのにローレライと家臣一同が隣にやってくる。更には早く話せと催促の視線。

マレ、吐息一つ、気分を切り替え話し出す。


「天・地・人。天とは上、空だな。地とは足元、大地だな。人とはまあ、自分達だな。天には天の時あり、地には地の利あり、人には和あり。これは戦の有利について語ったもの。天の時とは好機、偶然得た有利だな。地の利は地形を有利に利用する事だな。そして人の和。仲間、集団での協力、結束だな。ではアル峡谷、この場所を戦場として考えてみようか。」


 現在彼等が立つのはアル峡谷の底。

両側断崖絶壁。

この谷底をレキ国から蛮地に向かい一万の兵が進軍しています。

道幅が狭い為、細く長い兵の列が進んでいきます。

此処までの前提条件を話し終え。


「さて、反対側、狼人族の精鋭千人。はい、ハク、戦い勝てるか?」


問われ白狼は力強く答える。


「我等狼族、一歩も退きはしません。勝ちます。」

「ハイ、ハク君討死。」

「本望です!」


真剣な表情で応えるハクにマレもまた真剣に応じる。


「それは一兵卒、将に率いられる者の心構えだ。部下を率いるなら絶対にするな。」


 もし、これが偶発的接触なら、選択肢は逃げる、隠れる。


「海浜の村を捨てて皆で北上する。迄選択肢に入れる。金は尊い。命はさらに尊い。生きてこそだ。」


 今度はホウに尋ねる。ホウが千人の狼人を率いていたら?と。

灰狼は暫し喉を鳴らし唸り考え込み。


「一万の敵が寝てる時に襲えばいいんじゃない?」

「素晴しい!今ホウは天の時、好機を得て戦いを仕掛けた。」


大仰に褒めるマレ、鼻高々なホウ、これにてセン理解したようであった。

マレは次はセンだと発言を促した。


「はい、先程の夜襲をかけるに加え、地の利を得ます。狼兵の半数は谷底に待機。左右の崖上に各二百五十名の狼兵を配置します。弓で高所から一方的に仕掛け、敵の混乱を誘い数を少しでも減らします。火矢を射掛けてもいいですね。混乱極まった時、正面五百の兵でぶつかります。この時、峡谷の特に隘路での直接戦闘を心掛けます。これも地の利です。少数対少数の戦いに誘導し敵に痛打を与え退却させます。」


センの発表にマレは拍手する。

その通りとばかりに一頻り頷き後に。


「ハク、お前は勇気がある。皆がお前について来るだろう。センは冷静に物事を判断しハクを支える事ができる。ホウもタンもマクもハクとセンの足りない部分を補ってくれる。五人が支え合い、助けあう。これが人の和だ。」


五人の若き狼人、独り独りを見回し、話しのまとめに入る。


「地の利は、天の時より強く。人の和は、地の利より強い。協力こそが一番強いと説いている。ハクが皆を纏め四人が地の利、天の時を進言せよ。話は終わり。お疲れちゃん。」


 水の無い峡谷底。

赤茶けた大地が夕陽に照らされる。

長い話しを終えて男は晴れ晴れとした表情で笑む。






 夕食、魚の干物いり麦粥を啜るマレをじっと見るローレライ。


「何だよ?俺に惚れると転がされるぞ。」

「あかん、目の前に常勝無敗の大将軍がおる。何これコワッ!」


なんでやねん!とツッコミをいれ顔の前で手を左右に振る男。


「知識として識るだけで、実際殺し合いになったらビビって一番最初に逃げ出す自信あるわ。」

「まーそやなー。普通男は戦場いかへんし。」

「あーそうなの?ZIPANGと逆だな。」


それでは男が居なくなってしまうとサンディが心配を口にする。


「男、多いのよ。さらに貧乏だったりすると女は誰も相手してくれん。一生涯独身で終わる。」


サンディ、メイ、ラミス、ローレライ。四人の女性陣が焚き火に照らされる男の顔を合わせるじっと見た。

「わっち、マジでZIPANGいきたいわ。」

女達の切実なる想いが重い。






 街道宿場町ルールでは宿をとる。食事も朝夕と宿で出される物を食した。

 お金があるって素敵やん ローレライは言う。

女王都ルーアン迄、ハク達は様々な思いで外の世界を見た。

竪穴住居とは比較にならない豪邸。

かと思えば貧民街の不衛生。

奴隷の人も獣人も。

立派な街道かと思えば放置される貧者の亡骸。


 近年の狼人族集落、海浜村では死者は火葬後、陶器の骨壺に入れ村の共同墓所に安置される。

 死者は我ら狼人族を支える一柱の神となった。

今は悲しめば良い。充分に泣いたなら前を見よ。

 客人神、恵比寿 曰く。






 午後、まだ陽があるうちにとマレとローレライはバークス商会を訪れた。

あれ程世話になり、長く沙汰無かったことを深く詫びた。

香辛料の小瓶少量納品し、陶器、陶磁器は茶を飲みつつ数点値段交渉をおこなった。


「こちらの壺は徒弟の習熟度を鑑み造らせてみました。」


龍虎図の壺を前に目を細めるバークス。


「立派な物ね。私はもう少し小振りで実用的な物が良いのだけど、常連のお客様は皆、この様なガラは好まれるわね。間違いなく。」


己が好みより市場のニーズを優先する鑑定眼が、イケルと告げたのだろう、高額な値がバークスによって付けられる。

商談の終わり、マレは一品を机にそっと置き。


「こちら、バークスさんへの私からの個人的な贈り物です。受け取ってください。」


卓上、置かれたのは湯呑み茶碗。

バークスは手にとりがらを眺め微笑した。


「一年限定かつ、もう四月ですが。」


カレンダー付き湯呑み茶碗を前に黒髪を掻き情けない表情になる男。


「良いと思うは。遊び心があって。」

「はい、喫茶の小話になればと思いまして。」

「ほんま、女転がすのが上手いやっちゃ。」

「ローレライさん?人聞きが悪いこと、言わないでください。」


ベレー帽商人の意地の悪いツッコミにもネコ被りでスルーする詐欺師。

そんな二人を見て、仲がよろしい事とバークスはコロコロと笑う。


「まあ、ヨシツネには、ようしてもらっとります。うちの様な零細商会には、すぎた共同経営者だとも思ってますわ。」


「自分もローレライさんが声をかけてくれて助かりました。お陰様で制作に没頭できます。これも、バークス商会バークスさんが結んでくれたご縁。本当にありがとうございました。」


しばし歓談し店を後にした。


「なあ?ローレ、その紙なんだ?」

「ん?これはレキ女王国が発行してるやつやな。両者のサインいれて両替商に持ってけばバークスさんが預けてるお金から支払われるんや。」

「為替、だろ?」

「そうそうそう、そうそれ、為替?」


こちらにも為替が在るのかと感心するマレ。

ローレライとの行動は様々な発見があり有意義だった。

「じゃ、壺と湯呑み一個持ってくぞ。副業行ってくるわ。」

「ほな、明後日、昼ここでな。」

マレとローレライ、二人は軽く手を振り合い別行動に移る。







 王城、北門の女性衛兵に声をかける。

職人で交易商人のヨシツネがレキ女王国、王女殿下 レキ・アルウルに面会したいと。

黒のベレー帽、黒の外套、黒の綿パンツ。

男の服装、容姿を暫し観察後、詰問を始める衛士。職務を全うしようとする姿に不快感は感じないが、事が事である。


「殿下の愛人だ。兎に角、確認だけしていただけないか。」


衛士の耳元で囁く様に告げれば、そのまま待てと言葉が返る。




 北門前で待つこと三十分弱、あの日あの時の老紳士執事がメイド四人を伴い北門までやってきた。

「ヨシツネ様、御案内致します。」

執事と共にメイドが恭しく一礼する。

 執事に先導され、広い庭、長大な廊下を進んで行く。通路を抜けた先、扉の前に立つ。

執事に殿下はもうお待ちでございます。と告げられた。

ノック後、扉を開く。

大きくゆったりしたソファーに身を委ねる様に掛ける王女アルウル。


「失礼致します。殿下、ご無沙汰しておりますヨソツネでございます。」


マレが室内に足を踏み入れれば執事が、そっと扉を閉じた。

室内、男と女、二人のみ。

王女は顔を伏せ気味にし男を頑なに見ようとしなかった。

そして、一言も口を開くことも無く。

マレは柔らかな絨毯に片膝をつく。

そっと王女の前、机に木箱と布に包んだ湯呑みを置いた。


「良き物が出来ました。()()()()手掛けた物です。お代結構です。殿下に受け取って頂きたく持参致しました。」


 さも真実の様に嘘を吐く。

狼人が成形焼成し、絵付けは子供がおこなった。

この男は嘘を吐く。

平気で。目的の為ならば。

 片膝をつき、その姿勢のままこうべを垂れる。

そのままに無言を貫く。


「今頃何の用だ。どの面下げて私の前に立つ。私はレキ女王国、次代の女王、レキ・アルウルなるぞ。私がいて欲しい、会いたい、そう想う時に、側に居らぬ男になど興味無いわ!」


 マレは頭を垂れたまま口を開く。


「こちらの品、使って頂いても、捨てて頂いても構いません。失礼します。」


告げ、立ち上がり王女を一瞥すること無く踵を返し扉へと向かう。

 王女は無言を、男は別離を選び扉を開け廊下へ出る。そっと扉を閉め、扉を背にし、小さく短く吐息した。



 ヨシ!ヨシ!ヨシ! ヤンデレる事無く糸冬リョー  

 逃げるぜ! 三┏( ^o^)┛

 撤退 てった Σ(°Д゜;)ヒィィィ



 急に開く扉。

少女が男の腰にしがみつく。

男の背に顔を押し付け啜り泣く。


 (( °ω° ;))gkbr

落ち着け 落ち着くんだ COOLに逝こうぜ

取り敢えず定番の素数を数えて

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10、、、、?

違う違う!そ・う・じゃないッ!

ハッハッ ふぅぅぅぅ ハッハッ ふぅぅぅぅ



内心の混乱、硬直し直立不動となるマレ。

腰をつかむ華奢な腕は震え、背中の感触と王女の啜り泣く声が伝わる。

 アルウルが喉奥から絞り出す掠れ声。


「行かないで。」


男は少女を部屋へと押し返す。

扉を閉め。

少女の細い顎に手を添えた。


「面倒な女は、嫌いだ。」

唇を唇で塞ぎ強引に舌を絡める。





面倒になったら唇を塞げば良い。

これで黙るなら、いくらでも。

男は愛人で詐欺師。



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