第32話 壷売りの愛人は詐欺師
三月も終わろうかという頃。
村の広場で皆で茶を飲みながら、出来立てのノミ、鉋刃を族長、年寄衆に見せる。
参加した若衆には、ここで作業は一時中断を伝える。皆が残念がるが、今後、槍の穂先造り、再度玉鋼造りをしたいと伝えれば、皆が沸き立った。
「族長、また子供達への教育を再開したい。
また、製鉄場付近の木を切った結果、できた空き地で種蒔きやいくつかの野菜栽培をしたいのだが構わないか?」
マレは次の課題に向けて動き出した。
「五列縦隊。出席!」
「1」「2」「3」「4」「5」、、、、、、
青空教室、青空学校とでも呼称すべきか。
海浜の村、広場に集合、整列、点呼する生徒達。
「一班、二十四名。」
「二班、二十五名。」
「三班、二十六名。」
「四班、二十四名。」
「五班、二十三名。」
班長を任されたハク、セン、タン、マク、ホウが各班をまとめる。
参加するのは前回も参加していたハク達五人と子供達とニケ、アイ、初、ミミ、ミウ。
今回からは、時折覗きに来ていた若衆の多くが自主的に参加した。
今期より算数と農業を授業に追加する。
ハクに班の一つを任せた事で度々マレに質問するようになったハク。良い傾向だと捉えセン達四人も交え懇切丁寧に質問に答えていく。
勉強と共に集団行動を教え込んでいく。
マレがハク達の協力を得て地道に増やしてきたじゃが芋、今日は狼人族の生活圏に作られた畑に植えていく。
畑の畝に植えられていく種芋を見ながら、どこか誇らしげに笑むのはマク。
「マクは野菜作るのが好きなのか?」
「好きっていうか、、、んー作った野菜、芋、豆をいつか皆に腹一杯食わせてやりてえ。」
「マク、楽しみに待ってるよ!」
問われ答えるマク。ホウの応援に本人は苦笑いで返した。
四月。春は曙、陽気にうつらうつらと舟を漕ぐ生徒もチラホラ見える。
「マーレー」
遠くから自分を呼ぶ声に視線を上げれば、村へ向かって来る馬車からベレー帽を被る少女が手を振る。
「はい、皆さん、急用ができましたので、授業はここまで。」
ハクが号令をかける。起立、礼、ありがとうございました。教師、生徒共に頭を下げる。
「はい、皆、ありがとう。明日はお休みです。」
ローレライ旅商隊を出迎えに向かうマレ、その後を皆がついて歩く。
「マァァレェェェ!!」
ちびっこいベレー帽少女がマレに向かって一直線に駆けてくる。
とぅ!と掛け声一つ、ローレライはマレに向かってダイブした。
“ぐぇ”漏れる苦鳴、マレの腹に直撃するローレライの頭突き。
よろけ、足を振らつかせながらも少女を抱き留めるマレ。
すまん、勢い余った、とサラリと詫びて済ませるローレライ。
「お、おかえり。仕事お疲れさま。」
苦悶の表情で商隊の皆に労いの言葉を掛け。次にはハク達に指示をだす。
「族長の子息ハクを隊長に五人で俺の代理として鬼人族、族長に穀物五袋を届けてくれ。表面上は友好的に、しかし弓での武装と示威を忘れず。族長にローレライ商隊には手を出すな狼人族と恵比寿の客人であると伝えてくれ。」
ハク以下五人、直立不動にて行って参りますと返事し、小走りに駆け出した。
「え?何この鬼隊長、なんか怖いわ。」
マレとハクの上意下達の様に引き気味のローレライ。
マレはニケに商隊の皆に甘酒の準備を頼み、アイ達にはローレさんのお話しを聴きに行こうかと告げ。
小走りに駆けるニケ、荷馬車と共に広場に向かうマレと若い狼人達。
族長、年寄衆の出迎え。生徒は見学と称し、大人は休憩と称して広場に集まって来る。
各々が自分の茶を淹れローレライを囲む用に座りだす。
娯楽の少ない生活、他所から客人がこれば珍しいと野次馬する。
ロレの面々は周囲、村外れなどを見て口々に感想を言い合っていた。
公共掲示板、畑、回る水車と小屋。
「サンディ、メイ、ラミス、セイン。お疲れ様。」
広場に到着すると共にローレライ商隊の皆の両手を順に取り、硬い握手と共に謝辞を伝える。
土の上、目の粗いゴワゴワした敷布を敷き客人を促す。
温い甘酒をニケが皆に供する。
「新年を迎える為に作った縁起物の飲み物だ、飲んでくれ。どうだった。良い商いはできたか?」
微笑するマレにベレー帽のしたで満面の笑みが帰ってきた。
「バッチリや!なんとな!金貨換算で三百九十枚!マレとわっちで百三十枚。旅費と皆の給金払っても運営資金に金貨六十枚残るんやで!!」
「そっか〜凄そう何だが、今ひとつ金貨の価値が実感できなくてな、すまん。」
落ち着き払う男とは対照的に王女は興奮した口調で捲し立てる。
「おまッ!?わっち何か今迄、マレに会う迄、そりゃもう苦労したんやで。外貨稼ぐ為にい、自分等の利益なんてほとんどあらへん!サンディ達にも、すまん給金ちょっと待ってえなと何度頭さげたか〜ぁ。」
俯き、目元に腕を押し付け涙ぐみ始める王女様。
王女の様に慌てる家臣。
「若!それは言わないでください。若にお仕えでき我等本望でございます。」
('A`) うぁ〜昭和人情、それは言わない約束劇場
忠臣サンディの目尻に雫。
姫と家臣が抱き合い泣く。
表情少ななセインを除き皆が涙ぐむ。
野次馬な狼人達も貰い泣きする様にマレ独り呆れた表情で眺める。
娯楽少ない共同体。お涙頂戴、ローレライ劇場は狼人の注目を集める。
「まあ、これも、此奴の人徳てやつか。」
「あ〜なんやこれ。落ち着くわぁ〜。」
「甘酒ですか?はい、優しい甘さですね。」
人生初の甘酒に顔を綻ばすロレの面々。
「栄養もある。夏場の疲れ予防にもなる。料理、菓子の甘味付けにも利用できる。」
マレの説明に当然のように作り方を教えろと言い出すローレライ。マレも隠す程でも無しと説明するが。
ザッケンナσ(#°Д°)=○)`3゜)∵THE理不尽
ロレ国内での米の生産量は極々僅か。
キレる十代少女の理不尽な怒りを顔面で受け止める事になったマレ。
殴られる男はたまったものでは無いのだが、周囲、皆は二人を生温かく見守った。
「あ〜米の栽培方法指導しようか?」
「約束やで約束やで!約束したでな!」
この少女に頼まれれば否と言えない男。
今回の交易の報告を暫く受け。
「マレ、今回、マレの欲しいもんと大釜二個積んだら穀物十袋しか積めんかったは、堪忍やで。」
「馬車一台増やすか?」
「ええんか?うは、なんか漲ってきた。」ww
穀物、豆は幾らでも欲しいと言うマレの願いを受け。
商会運転資金残、金貨六十枚。
ならば規模を拡大しようと提案するマレ。
ローレライは男の言葉に活力漲る笑みで返す。
「前回渡した陶器は、ほんと生活用品だから。
交易用に高級そうに見える物作っておいたぞ。」
狼人族の子供、若衆が大きな壺を抱え運んできた。ロレの面々の前に置かれた壺。
「な!なんじゃこりゃぁぁああああ!?」
「す、凄いですね。」
「お客さん。いい壺あるよ。」
絶叫したローレライ、ただ感想を漏らすしかできないメイに向かって詐欺師は自信たっぷりに微笑した。
天へと昇る龍。吠える虎。
定番の龍虎図をミミとミウが模写し狼人の子供達が感性のままに色付けした壺。
お客さん いい壺あるよ 買えば 家内安全、商売繁盛。(*゜∀゜)ニパッ
「マ、マレ?虎は、何となく判る。この空飛ぶ蛇?か。」
「龍だ。空想の生き物で、水神様。魚や蛇が長い時を経て力を得て、天へと昇る。」
マレは壺を傾け底面を商会の皆へと見せる。
ZIPANGの刻印と馬鹿の文字。
「銘入り。生産地ZIPANG 製作者銘付き!高級感マシマシ。ZIPANGでは龍は縁起物。皇帝、貴族に愛された定番瑞獣。」
「こ、こいつわ、やばいで、派手好きの成金共が喜んで買うでこれ。」
「物が大きいから数減るけど、そこは単価で勝負。今はこの陶器《投機》バブルに乗っかっとけ。」
旅商隊員は壺に目が釘付け、ローレライは新たな商機に身を震わせた。
いける、儲かる!と。
「でよ、俺の仕事手伝ってくんね?」
「なんや?」
「愛人業。」
男のボロい平屋に宿泊する旅商隊の面々。
夕食と風呂を終え仕事の話しを纏める。
「レキ入って、レキからマルトゥスク経由でロレでええよな?でロレの北方、アルス大連峰横を抜けて蛮地にはいる。でええんやな?」
確認をとるローレライ。
ロレ国北方から蛮地へ蛮地西から東へ。
この道程は不明、どの様に成っているか識る者はいない。
最悪は、引き返せば良いと話しを終える。
「レキ女王都で二泊してくれるか。俺はその間に用事を済ませる。」
男へ向ける王女のジト目。
「ま〜た、女転がすんかぁ?」
「半年弱放置してるからな。そろそろヤバイ。」
へえへえとローレライは流し、お前いつか刺されるでと。
その後はロレ国で購入できる品物について話しが移る。
家畜、精製金属、余剰作物を兎に角買いたいマレ。王女はニコニコで揉み手する。
「毎度ぉ〜。」
「鍛冶屋、他にもロレの職人紹介してくれんか?」
「ええよ~ええよ~。どんどんお金落として〜」
「今回はハク達五人も同行させたい。」
彼等の見聞を広めるには良い機会だと同行を申し出、ローレライは快諾する。
「外では商会の私兵扱いで。ローレ、御前の母、ロレ女王陛下に面会は可能か。」
「え?あ?え?、マレ気が早いで、そんな、かーちゃんに挨拶したいだなんて。」
男の言葉に過剰に反応し身を捩るローレライ。
マレ、素直に思ったままを口にした。
「くねくねと気持ち悪いな。」
シネσ(#°Д°)=◯)`3゜)∵アベシ
十代少女、世界を獲れる左ジャブがマレの頬に炸裂した。
「お祖母様、若様とマレさん、仲が良すぎじゃないですか。」
「良き、実に良きかな。」
不満を告げる孫、祖母は真剣な表情で二人の仲を肯定した。
昼前、マレ宅へと訪れたハク達五人。
室内は狭いと玄関前で喫茶する昼。
旅商隊に購入を頼んでいた小豆と麹による発酵餡子をパンに乗せ茶請けにする。
うひょ〜と小躍りしあんぱんにかぶりつくホウに思わず笑いが漏れた。
五人の狼男を前に短期の交易に自分達も同行する計画を話す。
「この日の為にローレに頼んでいた。俺とお前達の服を仕立ててある。後で着替えてみてくれ。急な事だが出発は明日朝でもいけるか?」
「もちろんだ!」
ハクの力強い返しに四人の狼男も頷く。
彼等は初めて自分達の生活圏の外へ出ることになる。
多くの不安と期待。




