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第31話 石の時代 鉄の時代 鋼と和鉄の時代


 年明けから積極的に動き出した。


連日通う海浜の村。マレはハク達と共に族長、年寄衆との折衝。

ニケは娘達と共に狼人族婦人会にてパン作り講習、糠漬けなどの保存食講習をおこない知識、技術を伝えていく。


「これ、作ってみたぞ。」


割竹を布袋に入れて作られた竹刀。袋竹刀の利用方法を説明すると興奮しだす狼男の子供と若衆。

やっぱ男の子だよな〜とマレは苦笑する。







 息吹山から流れ出す清水が作り出した麓の川へと来た。


「今日から、ここで水車造りを始める。」


マレの前には参加者。ハク等五人と狼人族若衆、総勢二十人弱。

 レキ鍛冶屋で購入した工具の数々。重籐弓を自作し得た自信。彼等の新たな技術を学ぶ意欲は高い。さらに水車のもたらす効能の説明を受ければ必要性を理解した。

班に別れ木を切り削り並べてと作業を繰り返す。

時計を確認し午後三時。ここらで本日の作業を切り上げるかと。


「おーっし本日の作業終了!お茶にしようぜ。」


午後の作業終了と共に始まるティータイム。

若者達の喫茶への順応は早く。彼等各自、お気に入りの香草を探し、時にはブレンドし、仲間内で、その香りや味を自慢しあう。

必ず茶に入れるのは小匙一杯のメープルシロップ。

 火鉢、炭、陶磁器の土瓶やかんと碗。

彼等の資産で喫茶道具一式。

 茶碗片手に寛ぐ彼等の前で、本日最後の実演を

おこなう。


 鉄輪を焚き火の中に入れ熱する。


「金属は温めると伸びる。輪っかなら広がる。」


水桶と共に待機するホウ。

大木槌の柄を握るタン。

マレは鉄棒にて加熱した鉄輪をつまみあげ、準備していた木材にはめ込んだ。

叩けの声と共にタンが鉄輪を叩き木材へと押し込む。

熱い鉄輪、木材からは煙があがる。

ホウ!水掛け!の声に熱い鉄輪と木材に冷水をかけるホウ。

ジュッと音をたて水蒸気が立ち昇った。


「火にかけ伸びた輪っかが水を掛けて縮んだ。

これで、この軸から輪っかが抜ける事は無くなった。」


 若い彼等はものを識らない、しかし今柔軟に男の言葉を知識を吸収していく。


 朝、寒い中、皆で集まり茶を一杯。

作業を始め昼頃、軽く食事を摘み茶を一杯。

午後の作業を三時頃終え、雑談と共に茶を一杯。

 3週間後、水車と水車小屋が完成した。


「いや〜石臼で苦労したな。」ww


廻る水車に子供達が群がる。

村長、年寄衆が完成見学に、手隙の者も見学に来る。

そして皆で温かな茶を飲んだ。

 喫茶しながら、道具小屋、水車小屋の利用規則を話し合いで決めていく。

掲示板の作製。読み書きを習った子供達に干し柿を駄賃に木版に使用方法、規則を書かせた。







 寄り合い、集会。

要は茶飲み話しの席。火鉢に土瓶、碗には野草茶。中央広場、厚着し敷物に座り茶を飲む族長、年寄衆の眉間に深い皺が寄る。

 話しを聴く若衆も考え込む。


「大きな事業を始めたい。たたら製鉄。」


男の提案は鉄を作りたいというもの。

話しを聞き、最初は皆、提案に沸いたが。


「炭を大量に使う。」


提案された炭の使用量、誰が聞いても渋い顔をしただろう。

得られる物は、渡来神、恵比寿が持つノミやかんなと同質の鋼。

成功は約束されず。失敗もありえると正直に説明したマレ。

 この世界の人族も持っていない技術。

その言葉はとても蠱惑的で。


「未来の為、子、孫に残してやる為にもやらねばならん。」


 この言葉がトドメを刺す。


「やりましょう。」


族長ハマは決断す。広場、囲む若い狼人達が立ち上がり吠えた。







 息吹山麓。

手始めは作業場兼寝所造り。並行し行われる炭焼き。木を伐採すれば、切り株の撤去迄。

行く行くは道の整備迄。

やるべき事は多岐に渡った。

ハクと近しい年代、若い世代、若衆の意欲は高い。班分けと休日、交代制を決めていく。


「兄弟、最初から最後迄付き合ってもらうぞ。」


五人にニヤリと笑ってみせれば、五人共にニヤリと笑い返す。





 報告と打合わせ。度々、族長、年寄衆と場を設ける。

この頃になると、読み書きを教えた子供に駄賃を渡し炭と木簡にて書記の真似事をさせる。

いつしか、読み書きできる子供がマレ、ハク達の周囲を付いて回る。





 早朝、自宅玄関口。

ニケ、アイ、初、ミミ、ミウ。娘達に見送られ。


「皆、留守番宜しく頼んだ。顔を見る程度なら息吹山の麓迄来てくれたら俺も嬉しい。」


子供達の頭を順に撫でていくマレ。


「行ってらっしゃいませ。お仕事頑張ってください。」


ニケの言葉と手を振る娘達に送り出され。荷物満載の手押し一輪車と共に現場へ向かう。

確かな労働、勤労への喜びを感じ。






 昼、息吹山麓。

「皆、これを観てくれ。こいつが砂鉄、鉄の粒だ。こいつを集める。」

麓、酸化鉄の地層、岩石に含まれる砂鉄、麓川底の堆積物。

川にてさらい分離、採取する作業。

本日は作業内容の説明と作業割り。

作業場には掲示板、作業表、作業者名札が掛かる。

 毎日のように村から運ばれる炭と食料。

最初に造られた小屋は寝所、皆で雑魚寝をした。多くの狼人と寝食を共にし、彼等とマレの間に高まる一体感。

時折、様子を見に来るニケと娘達。狼人の家族も様子伺いと共に茶を飲んで談笑する。

支えてくれる者達の存在が仕事への熱量になる。




多大な労力を注ぎ込み、未熟ではあるが製鉄現場が出来上がる。

「皆、良く頑張った。しかし、まだ道半ば。ここより本番だ。」

皆、腰を下ろし喫茶で一服。

和やかな空気の中、今後の予定が語られる。

「明日、明後日は休み。皆、家族と過ごしてくれ。三日後、炉に火を入れる。作るぞ、この世界で最高品質の玉鋼を作る。これからの参加は自由参加だ。解散。」

マレと若衆がハイタッチを交わしあい皆家路についた。





「いや〜疲れた!」

「鉋作るのも大変だね。」

「んーあのさ?ここ迄する必要あったのか?」


族長への報告に向かう為、並び歩き雑談する。


「Brotherが言うんだ、タン何をいうんだ!?」


ハクの怒り口調に身を小さくするタン。

その時、センはマレへと視線を向けた。


「いや、タンの指摘はもっともだ。鉋、ノミが欲しいなら俺もここ迄やらない。タン、よく考えてるな。」


笑い照れるタンは鼻先を指で擦った。


「ハクは少し疑う事を覚えたほうがいいかもな?なぜ?なに?どうして?は大事だぞ。」


明らかに肩を落とす白狼に皆が笑い出す。

そこがハクの良い所、長所で短所だなとフォローを入れておくマレ。

狼人族には冶金、鍛冶技術が無い。憶え経験を積む必要がある。

幸いにしてロレ国との伝手ができた。必要な物は買えば良い。他技術、知識も後々憶えればよい。

 今、兎角、一定量の鋼鉄を確保したい意向を伝える。


「鉋、ノミの刃、銛も欲しいが、一番欲しいのは槍の穂先だ。それも纏まった数。」

「また熊狩る?毛皮と肉いいよね〜。」


無邪気に笑うホウ、対称的表情のセン。


「戦うためですか。」

「守る為。」


義兄弟の言葉を聞きハクは表情を改める。

この場の五人に男の想いは確かに伝わった。






 久し振りの自宅。ゆっくりと風呂に浸かるも、

その後パソコンの電源を入れ各種資料を纏める。

幾つもの動画に目を通し当日に備える。

 うとうとし、いつしか炬燵で眠れば両隣にはミミ、ミウ、初が眠る。

 自然、男の顔が綻ぶ。





約束の三日後。

製鉄準備作業に係わった全員が私物を抱え作業場へ戻った。誰一人脱落無く始まる作業。

 「炉の火入れ前に、恵みを与えてくれる息吹山に住まう神に感謝と作業の安全を願う。」

山から吹き下ろす乾冷風を身に受け、何処か厳かな空気を纏い、マレは息吹山に甘酒を捧げ、次には全員にて二礼二拍手一礼。

皆で祈りを捧げる。


「皆、これより休み無く三日間徹し作業になる。今より皆で声を挙げる、掛け声だ。これを鬨の声という。このタタラ場での一戦勝ちに行くぞ。ならばこの声は勝ち鬨の声、勝鬨となる。俺がエイ!エイ! 皆がオオオ!と声を挙げよ!いくぞ!」


「皆、勝鬨を挙げよ! えい! えい!」


おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!


衝き上げる拳、籠る熱気、熱狂。作業場全体が震えた。


「砂鉄投入!」「砂鉄投入!」

「炭いれ!」「炭投入!」

「火いれよ!」「火点火!」

復唱と指差し呼称。安全と工程確認。

「送風、フイゴ!」「送風」「そーら」

齧った知識のマレとド素人集団のタタラ場初製鉄


「見ろ!見続けろ!何が良くて何が悪いかなど、分からん。俺もわからん! 失敗したら成功する迄やる! 退かぬ、これ、不退転!!」


「不退転、いい響きだ。」


「お前らしい。」


不退転の言葉に感銘するハクと友らしいなと微笑するセン。

 幾度となく、炭が砂鉄が炉に投入されていく。

燃え盛る三日間。

炉も皆も燃えた。

マレとハク達は特に睡眠時間を削り作業に集中した。

「よし!大鈎にて、壊せ!」

炉の一部、規定箇所を破壊する。

おおお、と若き狼人が炉に群がる。

ここで限界がきた。

「あかん、、、眠い。」

マレの情熱の電池が切れた。

続くように、一人、二人と限界を迎え寝始める。





 充分に寝た。火鉢の上、炙られる干物。野草茶片手に炉から出された金属塊を眺める。

「いっぱい!いっぱいある!」

はしゃぐホウ。マレは口内に食事を詰め込みながら。

「残念、それは私のお稲荷さん、じゃなくて、あれから鎚で叩き割って鋼を取り出すから二百KGも取れたら、お涙もの、使えそうなクズ鉄迄全部使うけど。」

 自作教本片手に塊を見聞する。

知識としての理解と経験皆無。何となく、ふんわりした感覚で品質を良い、普通、悪いの三種に割り振る。

 「明日からは鍛冶を実地で学ぶぞー。通いでいいから、興味の有る奴は来てくれ。」






 炉で玉鋼を熱し叩く。

「最初は低温で軽く叩く、そうすると馴染む。徐々に熱く。タン、叩け。」

ほっ、ほっ、掛け声と共に叩く。参加者皆が作業に注目する。

「薄く伸ばし、ここで水に入れる。これを焼き入れという。」

作業場を蒸気が包む。

「各班分かれてやってみてくれ。」


室内を鎚の音と掛け声、水蒸気が満たしていく。

 マレ伸ばした鋼板を鎚で叩き割り断面を確認する。

「皆、見てくれ。この割った板、断面の綺麗な物は硬い鋼。粘りがあり綺麗に割れなかったのは軟い鋼だ。この二つ、二種類の鋼をくっつけて利用する。硬さと粘りの融合だな。」

マレは木版に絵を描き、自前の鉋刃を見せ説明していく。

「よし、次は折り返し鍛錬をやってみよう。先は長い、だが終わった瞬間、お前達は時代の先駆者だ!」

マレの檄に皆が声を挙げ応じた。

その中でもタンの鍛冶作業への傾倒振りは一線を画した。


「タン。鍛冶仕事は好きか。」


「好きだね。何ていうのかな、、、出会った?うん、遂に自分の人生に出会えたみたい。」




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