第28話 豊穣にして芳醇なる黄金
ローレライ一行と初と共に家に戻ると第一声が。
「あ〜肩凝ったぁ〜。疲れた疲れた。真剣な顔で話しとか当分勘弁。今日も落ち着くボロい我が家、愛しの我が城!」
「うわッ。マレ、人変わりすぎやろ。」
「あ〜ハイハイ、お仕事モード終わり終わり。ニケちゃん炭熾して〜火鉢二つと村から奪った炬燵一つ出したげて〜。」
所在なさげに立つ初に目を留め。
「アイちゃん。初ちゃんに炬燵、教えてあげて。ミミ、ミウも今ご飯用意するから入ってて。ローレライ、その他一同、順番に風呂入れ。」
「マレ様、その他一同じゃないです!」
抗議するメイをスルーし、夕食の準備を手伝うと申し出るラミスには、お客様は寛いでていいからと断る。そしてローレライが風呂の単語に過剰な反応を示した。
「風呂って?風呂あるんかい!?」
「うむ、小さいぞ。一人しか入れん。聞いて驚け、即湯がでてくるんだぞ!」
胸を張るマレに、怯むローレライ。
「な、、、なんやと、うちなんてな、実家王宮やいうてもな、下級貴族並や蒸し風呂と湯浴みゆうたら桶に湯はるんやで、わかるかッ!貧乏が貧乏が憎いッ。」
「カレーにスルー。あ、因みに晩御飯はカレーじゃないよ、ス・キ・ヤ・キ。お肉は鹿肉。お米もある。野菜は、、、うん、野草。奮発して砂糖と醤油使っちゃう!あ、アイちゃん、お風呂の使い方、田舎者におせーたげて〜。」
「いいい、田舎もんちゃうわ!」
「はいはい、風呂順番にさっさと入れ。この狭い家に十人超えとか、風呂順番待ちとか、忙しいんじゃ。」
マレは憎まれ口を叩きつつも楽しそうに炬燵テーブル上にホットプレートを置く。
「この鉄板は、何ですの?」
「ふっふっふ〜っ、ラミス君こいつは火が無くてもお肉が焼ける神器!神の奇跡なのだよ。あ、サンディさんもメイ、セインも炬燵入って待ってて。忙しいわ~ぁ。」
スキップで台所へ向かうテンション高めなマレを見送りサンディ、メイ、ラミス、セインは炬燵を囲む。
「なに、これ、やばい。」
メイの第一声。
「あら、中で燃えてますね?」
ラミスは炬燵の中を覗き込み。
「木の燃えカス?ですか?マレ殿。」
サンディは炬燵内部、炭をみて次には皿に具材を乗せ運ぶマレに尋ねる。
セインは下半身を炬燵に入れて一分で瞼は重くなり微睡みに沈んだ。
眠ったっていいじゃない。猫科だもの。
「あー炭知らないだ。うん、薪を加工した物かな?長時間燃えるから冬の暖房に良いだろ。」
「こちらも交易品には?」
「今度、大量に使う予定があるから交易に廻す余裕は無いな。」
酷く残念な表情を浮かべる初老の女。その表情を見ていると気の毒になったのか。
「作り方、教えようか?ロレで作るぶんには構わないよ。」
「ぜ、ぜひにッ。」
「温まったら、まず、爺ぃ!鹿肉をわたせいぃぃと脅し奪ってきた鹿肉の脂身で表面を〜。」
「奪ったのかよッ!?」
「ローレライ君、的確なツッコミ、㌧クス。勿論、狩りたての鹿捌いてる場で笑顔で頂戴て言ったらくれた。さっすが俺 now GOD!! 草生える。」
「マレさん、時折意味不明な言葉を発しますよね。」
熱したホットプレート、表面に脂を塗り薄切り肉を軽く焼く割り下をかけていくマレは終始上機嫌で喋る。
醤油と砂糖が焦げる香りが漂う。
商隊の料理番、マウリ・ラミスは調味料について、あれこれと尋ねるが。
「あー白砂糖?現物限りだね~。交易品無理無理無理無駄無駄無駄。」
「お醤油。今材料を栽培してるのよ、良くて三年後くらい?にお醤油自作できたらいいな〜と?あ、質の悪い魚醤なら大量にあるけど、お土産に持って帰る?」
返ってくる男の言葉にローレライ旅商隊は一気にお通夜ムードと化した。
「はい、肉煮えたから、まあ食えよ。」
頂こかと声に出しフォークを握りしめたローレライ。
鼻腔を抜ける香り、口内で噛み締める旨味。
緩む頬、喜ぶ舌、そして胸に明日への希望の活力が宿る。
「あ〜うんまいわぁ〜。」
只の感想も少女の表情が全てを物語ってくれた。
彼女は王女。その笑顔は他者を笑顔にさせる。
皆で笑顔の食卓を囲む。
満腹は睡魔を誘い、子供達が眠りにつく頃。
「ありがとうニケ。後はやるからもう休みなさい。」
炬燵テーブルに並べられた温かな野草茶。
用意してくれた鬼娘に微笑と共に礼を告げれば、
彼女は深く頭を下げ子供達の寝る部屋へさがる。
ここからは仕事と商談の時間。
「此処までの荷の護送代金の精算をしようか。」
告げながら彼女達の野草茶カップにシナモンステックを一本、メープルシロップを匙一杯投入していく。
まあ飲んでくれと促し、金貨を炬燵机に並べた。
「これか、この茶葉が金貨に。」
真剣な表情で手にしたカップを見つめるローレライ。
「それたんぽぽの葉っぱ煎っただけだぞ。」
金貨を彼女の元へ押し出しながら告げたマレ。
家臣一同の視線が王女に集中する。
違いの判らない女、ローレライ。
この恥ずかしさは、まさに、くッ 殺せ。
俯く王女、場を取り繕うように野草茶に口付け口々に美味いですと褒めるロレ国の面々。
喫茶と共にマレ側が用意できる各種香辛料、甘味料の説明をしていく。
机上に並べられる陶製小瓶に入った香辛料。
「メープルシロップは無い。」
「やっぱ希少なんやな。」
「え? 俺と家族と狼人族で使いたいから。無い。」
「そっちかよ!?」
「で、全ての品に言えるんだが。」
「なんや?」
「出処をぼかして欲しい。うん、まあ嘘つけって事。」
「火種だな。」
マレの言葉に炬燵に顎を乗せ終始うっとり顔のセインが答えた。
抗えぬ睡魔に侵される虎人族の戦士を慮りローレライが寝てええでと諭す。
即座に挙がる寝息。
その間、初老のサンディが思考を纏め。
「そうですな、香辛料、甘味、陶器の製法。欲する者は多いでしょう。」
サンディは男を上目遣いに見る。
「うん、ここから出る交易品は全て海を遥か越えた異国の地ZIPANGの商人から手に入れた事にして欲しい。」
「わかった。約束は守る。まさに大いなる福、小さな禍やな。」
両腕を組み瞑目し大仰に頷く王女に深窓の令嬢の欠片も無く。
ローレさん?おかん臭?漂ってますよ?( ´∀`)
まだまだ話しがしたいと告げパソコンの電源を入れた。
起動音、SE音、光だすモニター。
魔法の始まり。
「禁断の箱でございます〜。さあ、人類集積した膨大な叡智、その一部を見るがよい!」
二つの火鉢。一方にはヤカンが、一方には金網が乗る。
茶を淹れ、炙った干し魚、干し肉をツマミにパソコンに映る画像と動画を視聴する。
「これ?これはあるかな?」
「あーこれ、汚い大根やろ?えーと、えーと、」
「イアン商業連合国の市場で見ましたねー。」
「あ〜そうそう!チャップール産大根ね。」
「手に入るか?多少値がはってもいい。」
「安かったですよね?」
「確か家畜の餌やったかな?」
ローレライを中心にマレの質問に答え、ラミスが木片に購入リストを作成する。
(甜菜確保予定 次)
男が欲しがった物。大半が種子や苗。
次の画像を皆に見せる。
見せた途端、全員が、ああ、あー、等、知っているらしき反応を見せた。
「地下から湧き出る黒い油。見たことないか?」
「ん、うちにもあるで。」
「はぁぁぁぁぁ!?ちょ!?おま!!」Σ( ° д ゜)
驚愕するマレ、驚愕するマレに驚愕するロレの面々。
「おおお、落ち着けマレぇ。」
「お、おう。」
「燃える水は、油灯の燃料につこうとる。水混じりやから燃えたり燃えなんだりやし、油灯の油は他の物でもええしな。うちでは、ちょっと汲みにいこかで地面から滲み出るの、チョロっ掬って使うくらいやで。」
「えー燃える水購入おねしゃす。」
「儲かるんか。」
「え?」
「燃える水。儲かるんやろ。」
「あー原油な?」
「原油言うんか。儲かるんやろ。」(´=ω=)
半眼になり眼前の男にしつこく問う王女様。
「えーと?」
「わっちは騙されへんでええええ!!」
遂にはマレの胸倉を掴み上下左右、縦横無尽にシェイクする王女様。
男の口から漏れる、く、くるしい、の言葉。
炬燵机に顔を伏せマレは言う。
原油は加工が必要。自分が個人的に利用する為に欲しい。将来的には利を出す事も可能だが現在は無理だと説明した。
「ねえ?今、どんな気持ち?」ww
懲りない男だった。炬燵に伏せぐったりするも煽るのを止めない!何かの使命感に突き動かされ。
「マレえええ!ぶっ飛ばすぞッ!」
激昂する少女に黒髪頭を叩かれた。
最後の画像、映像がモニターに映される。
「なあ?こっちの人は小麦はあまり食べないのか?」
「そやな。主食ゆうたら大麦か燕麦やな。」
「なんで小麦人気ないん?」
マレに問われ考え込むローレライ、答えは年の功かサンディが。
「籾殻の外しやすさの違いですな。」
「え!?そこ。」
「大麦はエールにもなりますし、有ってこまりますまい。」
(そりゃ飲むパンて言うくらいだし。んー解せん)
彼女達の主食は大麦。粥か平焼きパンを食す。
ローレライはモニターを指差し話しを促す。
「でマレ、こいつも麦、何やろ?」
「あーうん。此奴は小麦の変異種、畑の雑草。ライ麦。寒さに強い黒小麦だな。」
「えっと、北方三国の貧者の麦?でしょうか?」
ライ麦に心当たりありとメイが教えてくれた。
こちらも収集、購入をお願いし本日は御開きとなった。
早朝の寒さ。
双子の姉妹と共にする暖かな布団から這い出すニケ。吐く息は白い。
客人用の火鉢を用意しようと台所のコンロで炭を熾す。
約一年、家具家電の扱いにもなれた。
朝の冷たい空気を深く吸い込む。
「あ、、、いい、匂い。」
いつもと違う朝に気付く。同時にきっとそうと火鉢の用意を済ませ玄関へと向かう。
あの方が、エビス様が。
歳の頃二十歳前後の鬼娘の思慕。
戸口を引き。
「おはようございます。」
「おはようニケ。今日の朝食、汁物だけ、お願いできるかな。」
窯前に立つ男は振り返り穏やか笑みを彼女に向けた。
それは表面がパキパキと音を立て今もひび割れていく。ひどく熱い。
それは、その香りは極上の芳香を放つ。
何故だろうと男は稀人は考えていた。
大麦、燕麦はグルテンを含まない。故に発酵パンには適さない。
目の前、焼き上がったばかりの小麦パン。
小麦の香りが部屋に漂う。
パンの歴史は古い。
しかしレキ、ロレ国にパン製法に関する知見無く。伝播伝達知識の継承の齟齬、消失であろうか。
この世界で小麦と酵母によるパン焼きは未開の分野であった。
(江戸時代の日本を思えばありなのか?)
「皆様、おはようございます。初さんも炬燵に入って待ってね。」
「ニケ、初はもう家族だ、さん付けはしなくてよい。アイ、ミミ、ミウと同様に接してくれ。」
「マレ様の仰せのままに。」
鬼人族の巫女は頭を下げる。
「ええ匂いやな〜。」
「本当に香しいです。」
ローレライ、ロレの面々もソワソワする。
「小麦が買えたからな。パンを焼いた。切り分けるから待っててくれ。」
マレは包丁を握り、今だ表面が自然に音を立てひび割れるパンを切り分ける。
丸めた形状で焼かれたパンのスライス。
皆が手に取り齧り付く。
人生初のパン。
初は大きく一口、噛み、咀嚼し、飲み込む。
焼きたてパンの美味さは格別。
自然と涙が溢れた。
小麦薫芳醇、豊穣なる黄金色。
「マレ様、これは小麦の粉を焼いた物ですよね?どうして中がこれ程ふわふわなのですか?」
「マレ、これ作り方教えてくれるよな?なあ、なあ。」
尋ねるラミスとローレライの強い圧を受け苦笑するマレ。
「もしやとは思ってたけど、発酵パン識らないんだな皆。因みに冷めると中もカリカリになるからな、熱いうちに食べてくれ。」
暫し、ラミスと酵母、発酵談議を交わす。
酒があるのだから、酵母、発酵自体は理解があった。
問題は。
「なんでやあああああ」(´;Д;`)
ローレライ泣き出す。
問題は小麦の流通量の少なさ。
ロレ国では小麦生産量0である。




