第27話 西方交易路
「なあマレ〜。」
「何かね。」
集落へと向かう途中、ローレライの興味は尽きない。
少女はあれこれと男に尋ねる。
「女王家に卸した品も、あの場所、あの家で作ったんか。」
「そやね〜。あと狼人族の友人に手伝ってもらったりな。」
「なあなあ、幾らで売れたん?」
「え〜っ、知りたい?」
「知りたいわ。勿体振るなや、はよ言えや。」
「ん〜じゃ〜ここはぁ〜。契約してくれたローレライ商会さんだけに!貴方だけにですよ!!特別ですよ?こんな、お得な情報教えちゃうのは?」
「はよ!言えや!ぶっとばすぞッ!」
マレの如何にも胡散臭い営業トークにブチギレ王女、思わず口と共に蹴りがでる。
蹴られながらも、ぷりぷりオコ顔の少女を堪能したマレはさらりと告げた。
「金貨三百枚。」
荷馬車の軋む音が、暫し続いた。
「もー一度言ってくれ。」
「金貨三百枚。」
「あーすまん、金貨三百枚て聞こえたんやけど」
「はい、、、私にも、、、そう、」
聞き返すローレライと同意するメイ。
ローレライとメイ両者に向かって二度首を縦に振る詐欺師マレ。
木々枯れ草生い茂りる蛮地に驚嘆の悲鳴が響き渡った。
「うん、やっぱレキ王族?頭おかしいよね?」
二人の反応に自身の常識に間違い無しと、云々と独り納得するマレだった。
「はあ、まあ、王族、貴族の金銭感覚が違うのは多々ありますから、、、例外もいますけど。」
マレに同意すると共に伏し目がち仕える王女に視線を向けるメイ。
底意地の悪い男であった。
「ねえねえ!?今!どんな気持ち!どんな気持ち!」
男の言葉が若き王女の胸を抉る。
目尻に溜まる雫、顔を伏せ鼻水をすする十代女子、拳を握り堪える様。
マレ、不覚にも萌えた。
「為政者が政に興味無く、放蕩に耽る。これ亡国の兆しと言ってな。外貨を稼ぐ為に外へでるローレライを俺は立派だと思う。」
「そやろ!?そやろ!わっちの国はな、女王のかーちゃんが高貴なる者には高貴なる者の務めが有る言われて小さい頃から育ったんや!」
顔を上げ、頬を紅潮させ力説するローレライ。
「立ち直り早えーな、おい。」ww
呆れと笑い、そして彼女の笑顔に惹かれる男。
草叢、枯れ草がカサカサと音をたてた。
見れば白い毛。
分かり易い毛並みに今後一考が必要かと考えつつも合言葉を叫んだ。
「HEY BROTHER 俺だ。」
草叢から一斉に姿を現す五人の狼人、しかし弓は構えたまま、警戒は怠らずに近寄る。
「Brotherマレ、こいつ等は。」
「ハク、詳しい話は村で、族長と連絡係に伝えてくれるか。広場に集合と。俺と彼女達は契約をした。二台の馬車には狼人族皆への土産が積んである。」
「ハク、村への報せは、俺が走ろう。」
「マレは、やっぱすげーや!」
集落へ駆け出すセン、土産と聞きニコニコ顔になるホウ。タンとマクがマレの無事な帰還に安堵の言葉をかける。
「留守中ありがとな。ニケから色々聞いた。」
「今迄の恩もある。ハクが一番張り切ってた。」
当のハクは後続馬車のセインを凝視する。
え?田舎ヤンキーメンチの切り合い?('A`)
ハクの視線を軽く受け流すセイン。行くぞとマレに促され集落へと向かう。
集落の中央。何も無い空間、集落中央広場に数百人の狼人が集まった。
出迎えのハマ族長を筆頭に年寄衆に声をかける。
「皆、只今帰った。留守の間、変わりないか。」
問題無くと答える族長、場の空気は重い。
全ては人族との関係性だろう。
マレは広場の皆に声が届くよう大声で語りかける。
「皆!人族の住む地から今帰った。結果は上々!皆と協力して焼いた陶器とシナモン、ニッキ、メイプルシロップが役にたった。後ろを見てくれ!馬車に積まれた道具と食料は皆への土産だ。分配は族長、長老衆と話しあうから待っててくれ。」
広場に集まる老若男女がざわめいた。
好感触に場が和みだす。
「皆に紹介したい。こちらはローレライ王女殿下。王女殿下と言われても分からんよな?大きな一族の大族長の娘だ。俺は王女殿下と友誼を結んだ。俺の友人だ。」
さらなる、ざわめきが広場に満ち満ちた。
「いや〜どもども、ローレライっす。皆さんといい商売したくて来ました。」
「うわっ、この子軽っ。」
思わず滑るマレの口。
話し合いができる人族に対し狼人達の警戒も幾分緩む。
立ち話もなんですな、とハマ族長、毛皮の敷物と火鉢を集落の若衆に用意させ族長の妻が野草茶の準備を始める。
ローレライ一行と集落の主だった者が腰を落ち着け膝を突き合わせる。
集落の者達も初めての客人に野次馬宜しく周囲を囲んだ。
マレは族長、年寄衆、ハク達の前に模写した地図を広げ、地図を指さしながら説明する。
「ローレライ殿下はロレ国という人族の共同体に所属しておられる。ロレ国、分かる者はいるか」
マレの問、皆が沈黙で先を促す。
識る者は無しと。
ここで今回の旅のルートを指でなぞりレキ女王国の説明書をし。
「この地図から察するにだ。少し遠いがロレ国はレキ国を通らず、この地と行き来が可能である。」
男の説明に商隊皆がハッ!?と気づいた。
蛮地は広大である。そしてアル連峰にて人界とを隔てる。
そしてロレ国と蛮地もまた地続き。
マレは皆に西方交易路を提案した。
「あーそっか、そかー。レキにも何処にも儲け中抜きされんで済むな〜。お互いに欲しい物さえあるなら、美味しいで。」
「今後、狼人族の生活の向上を図りたい。まず食事、団栗に代わる食材として麦、米、豆だ。」
「魚と海藻では駄目なのか?」
主食の必要性を理解できないハクの問いに説明するマレ。
食事とは肉体を作る、体を動かす、体の調子を整える。
用途により必要な食材が変わる事を説明していく。
「いつの日か自分達で麦米豆を作る時が来る。それ迄は陶器、陶磁器を量産しローレライに売り対価として食物を交換してもらう。」
マレの説明に納得の表情を見せる面々の中、センが懸念を伝えてくる。
「マレの言葉には従います。ですが心配もあります。人族はいつも我々から奪う。」
センの心中を察し目を閉じ、数度頷き、常に寛容で思慮深い男を演じるマレ。
「センの心配は当然だな。その為にローレライ殿下と私は契約した。神聖な契約だ。また私なりに調べロレ国を選んだ。彼は虎人族だ。名はライヅ・セイン。彼と王女の関係は友であり仲間であり家族。センと俺、ハク、ホウ、タン、マクと同じだ。寧ろ彼女とセインの関係の方が長い。」
「そうですね。決めつけるには尚早でした。」
「今すぐ信じる必要は無いさ。物と物の交換、商売を通じて互いを少しづつ知って行けばいい。皆も皿や壺が飯に変わったら嬉しいだろ?」
サイコーだよ!と両腕を振り上げるホウに族長、年寄衆ばかりか周囲見守る皆が笑った。
改めて、族長ハマがローレライ一行に頭を下げる。
「族長ハマ、ローレライ王女殿下と皆様の御助力に感謝します。」
「族長さん、わっちなんて小国の貧乏姫ですに、気安うローレライと呼んでくださいな。」
ローレライはニカリと笑み、対面のハマも釣られる様に顔の皺を深めた。
詳しく話を詰めるのは又明日にでもと最低限の指示を出すマレ。
「族長、交易に出す陶器、陶磁器を集めて欲しい。各家庭から必要最低限を残し供出してもらえないか。」
「承った。」
「マレ、ひっどい暴君振りやな。堪忍ですえ〜ああ〜それだけはて声聴こえるで。」
「器で腹は膨れん。供出分、麦米豆を渡せば皆も喜ぶ。まず狼人の皆に腹いっぱい飯を喰わせてやるのが俺の務めよ。」
「とても外で女転がしとる男の言葉とは思えんは。」
「正直、外で女の子転がしてた方が楽。俺は俺の心思うままに進む。ハク、集めた陶器は紐で縛り、葛籠に枯れ草を敷き詰め割れぬように入れておいてくれ。」
「承知した。」
いくつかの指示を出すマレの横で周囲と海を見るローレライはおずおずと男に言う。
「あ、あのなマレ、その〜塩売って欲しいんやけど。なるだけ、、、安く。」
ベレー帽少女からでた塩の単語に周囲を囲む狼人達は、はて?と首を傾げだす。
ハク、セン、マク、タン、ホウの五人などはとうとうこの日が来たか!?という風に。
マレは尋ねる。
「塩欲しいの?」
「すんごい欲しいんよ。ロレは海が無い。力も無い。やから穀物は買い叩かれ、塩は値を吹っかけられる。踏んだり蹴ったりやで。」
マレがセンに視線を送れば。
「今、大瓶に五つある。何なら各家庭から供出してもらえば、更に同量用意できる。」
「だそうだ。」
「売ってや!できたら今後も、、、。」
センの在庫報告とローレライの懇願に数瞬考え。
「ロレの鍛冶屋に製塩用の大釜を発注したいが頼めるか?前金で支払う。」
マレの言葉に王女だけでなく臣下一同の表情がパッと明るくなった。
「うちの鍛冶屋に仕事もらえるなんて願ったり叶ったりやで!こちらから、お願いするわッ。」
マレは懐から電卓を取り出し叩く。
「ロレの国民五千人だろ?えーと年間十トンくらいか?」
「マレ!?何やそれ!わっちにくれ!いやマジで。」
電卓を見て今にも奪いそうな勢いのローレライに
引き気味のマレであった。
いや、モマエ、アラビア数字読めんやろ?('A`)
「神の御業、一点物の工芸品だからやらん。でだ、すぐにロレ国民全員分の塩は用意出来んが増産はしよう。族長、ハク、セン、ホウ、タン、マク、今後塩田技術を教える。塩を作って飯に変えてくぞ。」
また新たな技術と知識を得られる事に狼人の若者達の胸は熱くなる。
「ローレ、こちらの塩とロレの穀物や豆と交換したい。レキの塩相場いくらだ?」
「塩、袋一つ銅貨十五枚。ロレの大麦一袋が銅貨六枚や。」
「当面、相場固定。塩と穀物同量交換でどうだ?今回も塩先渡しでいい。」
ローレライは沈黙し、いやローレライだけでなくサンディ以下全員が沈黙した。
皆の表情にマレは対応を間違えたかと焦るが。
「マレはやっぱ女転がすのうまいで。女泣かせや。」
涙ながらに告げるローレライ。後ろではサンディ、メイ、ラミスが涙ぐみセインがウンウンと頷いていた。
激しく焦りだすマレ。(;´Д`)チョマ
「え、あの、え、え、ローレライさん?そのだな、塩無くして人は生きていけん。国が塩の生産販売を管理するくらいだ。俺はローレライ、ロレ国と末永く付き合っていきたいと願ってる。むしろ察してやれず、すまなかった。」
「ロレ国は小さい誰も助けてくれん。味方もおらん。わっちが毎回交易にでて珍しい品を隣国の女王に献上してご機嫌とっとるんや。サンディもメイもラミス、セインもほんまは王宮勤めなんをわっち手伝って各地を回ってくれとる。どんだけ悔しかったか。どんだけ辛かったか。初めてやで、こんな親身になってもろうたんわ。」
若き王女は人目も憚らず泣いた。
商隊の皆も王女の今迄の苦労が実を結びつつある事に目元を押さえ声を押し殺し泣く。
マレは彼女を知らずうちに抱きしめる。
自分の胸に、あの日、彼女がしてくてたように。
族長ハマも涙ぐんでいた。
「このハマ、ロレ国との友好の為、協力は惜しみませんぞ。」
ハク達はヒソヒソと話し合う。
「ブラザーやべぇー。女殺しすぎる。」
「この数日間で相当泣かせたんだろうな。」
「僕もあんな風に言ってみたい!」
「人族も色々あるんだね~。」
「恋愛成就の神なのか?」
マレは渋い顔でハク達を見た。
初はローレライに近寄り紅髪頭を撫でる。
「初もありはとな〜、わっち頑張れそう。」
笑顔を見せたベレー帽の少女に周囲を囲んで見守る集落の狼人達の間にも微笑が広がっていく。
ローレライが充分に泣ききって後。
マレは改めて狼人族の面々を見渡す。
「最後にこの度、養女を一人迎えた。初、皆さんに御挨拶なさい。」
「ミナモト ハツです。十二月一日生まれの八歳です。」
初の挨拶に良く言えたとマレは頭を撫で顔を綻ばせた。
「皆にも今迄以上に迷惑をかけるが宜しく頼みたい。」
頭を下げるマレに皆が応じる。
ハクも改まって頭を下げ。
「多くの恩を受けました。これからも受けていくのです。返すに返せません。一生涯お供させていただきます。」
「ありがとなBrother。」
マレとハク、義兄弟達は笑みを交わし合う。




