第26話
朝食時、
焚き火を囲む空間に流れる微妙な空気。
黙々と朝食を摂るサンディ、メイ、ラミスの
三人は時折、神を自称する男を盗み見る。
「初、後二日程で家に着くぞ。小さくてボロいが、まあ、そこはなんだ。帰ったら初の姉と妹を紹介する。」
幼き初は笑顔で、うんと頷き返す。
「ローレライ。」
「なんや?」
「これからも、ローレと呼んでいいか?」
「ええで。えーと エビス?」
快諾と共に男を何と呼べばよいか惑う少女。
「あー、うん。恵比寿の名前はな〜。うん、俺に割り当てられた役?役柄?」
「なんで疑問形なんや。じゃヨシツネか。」
「あー、それな、ヨシツネは外で活動する時の偽名なんだは。マレと呼んでくれ。本名がマレトなんよ。皆も俺の事はマレと呼んでくれて構わない。」
朝食後、今日は水の無い峡谷底跡地を抜けた所まで進もうと決め、マレは独り原付にて先に進む。
揺れる荷馬車、この日、御者するローレライの横を並んで歩くサウス・メイは胸の中のわだかまりを若き王女に尋ねるように話す。
「本当に神様何ですか?」
「ほんとのとこは、どうやろな?でもマレは嘘は言うてへんで。自分は、偽り神、うその神様ですぅ言うた。解らんのは“Give and Take“ と“もうかりまっか” あと“ぼちぼちでんな”の意味くらいか?商いの誓いの言葉なんやろけど。」
「えーと、騙されてません?」
「逆やろ?正直に言うてる。確かにマレは教養ある。商売に大事なんは、信用や、目に見えへん。だからマレ真実を語ったんやろ。凝った言い方したけど、自分は遠くから来ました似非神様です。色々な知識もってますよ。この知識で一緒に大儲けしようじゃない。てな感じや。」
「若様もマレ様を信用してるんですね。」
「わっちの胸の中で泣いたマレ見たら、他の誰もが信用せんでも、わっちだけは味方したらな、あかん思ったんや。」
前方、赤茶けた谷底、遠くを見るような視線、王女の横顔にメイはニヤニヤした笑みを向ける。
「あ〜なんか〜ぁ、甘酸っぱいです〜ぅ。」
「ち、ち、ち、違うで違う!マレ頼りないし、そ、そう、あいつ頼りないし。」
慌てる王女、臣下は、はいはいと軽く流す。
峡谷を抜けた先、夕暮れ色に染まる一面の枯れ草。
広大な蛮地を前に野営準備を始める。
「お疲れさん。」
原付に乗り、一行に合流したマレに白湯の入ったカップを手渡すローレライ。
「今迄、何してたん?」
「谷底の調査。地形や地層調べたり有用な物がないか探したり。この土地の事、よく知らんし。」
「住んでるんちゃうん?」
「住んでるのは、この先。住み始めて間もないし、俺の生活圏なんて僅かなもんよ。」
茜に染まる平原眺め、白湯を啜る男。
蛮地の全容を知る者は誰も居ない。
ここは人ならざる者達の生活圏と考えられていた。
「前は何処住んでたん?」
「何処か違う場所。遠い遠い場所。説明できないし、ローレには想像すらできない場所。だから天降りってなもんよ。」
男の言葉に興味惹かれたのだろう、調理の手を止めることなくラミスが尋ねる。
「天の世界って、どんなところですか?」
彼女の問にマレは言葉に詰まり逡巡した。
良い所か?と問われれば、命の危険は無く、働けば生きて行く事は可能。全てが有った。そして、男には何も無かった。
マレはいい所だよと答える事できずに。
「ん〜、押すか回せば、火が点き水やお湯がでる。暑い日も家の中わ涼しく、寒い日は暖かい。馬よりも速い乗り物が無数にあり、人が空を飛ぶ。」
「す、素晴らしいですね。」
「でも、その全てに、お金が必要で、全てに税が課かる。」
「あ〜それは、、、まあ。」
「ま、まあ、そやな。」
「とうとう、呼吸をするにも税金が。」ww
そこ迄説明するとローレライ達の顔も引き攣る。
男の話しに皆が耳を傾けた。
「ほら、あれ。」
マレが茜色の空を指差せば皆が見上げる。
空の端に浮かぶ青い月。
「極わずかな人が、あの月迄いったんだ。」
月面到達。それは正に神の御業。神話の世界でお伽噺。
「では!?この我々の立つ大地を背に乗せた巨大な亀を見たのですか!?」
初老女サンディの興奮した問にマレは苦笑する。
昔の人は、そー考えたんだよなあと妙に納得し。
「いなかったよ。初めて外から自分達の住む大地を観た人は言ったんだ。青かった、って。」
青かった。この言葉に祖母と孫は顔を見合わせ、頭に疑問符を浮かべた。
「海の色だよ。世界は陸地よりも海の方が圧倒的広い。因みに空が青いのは海の色が空に映ってるから。そして大地は丸い。直進して行けば何時かは同じ場所に戻る。まあ、世界は広大過ぎるけどね。」
「マレは、ここも大地は丸いと思ってるんか?」
「丸いね間違いなく。説明すると一晩かかるから勘弁な。初には、そのうち説明してあげようか。」
幼女に笑みと共に知識の教授を約束し。
翌日、早朝に出立する。
原付を手押しするマレは昼過ぎには着きたいと告げる。
ローレライは問う。
「やっぱ蛮地危険なん?」
問われたマレは微妙な顔で曖昧に。
「正直わからん。俺は狼人族と交流があり、概ね関係は良好。彼等との間は取り持つが、俺は狼人族、鬼人族以外の他種族と交流が無いからな。用心するに越した事は無いし、今後俺は他種族と接触を計っていくつもりだ。」
「ほら、見えたぞ。俺のボロ家、我が城。」
森の中に佇む築五十年超の平屋を指させば、次には全力で原付を手押しし駆け出した。
「ただいま〜。」
室内を駆ける音、双子の姉妹が兄ちゃん兄貴と駆け寄る。
二人の頭を撫で初へと声をかけ、その手を握り出迎えたニケとアイも交え。
「今日から家族になる初だ。ニケ、アイ、すまないが面倒をみてやってくれ。初、こっちが姉になるニケとアイ、こっちの双子が妹のミミとミウだ。」
初対面の四人の前でモジモジする初の周りをミミとミウがはしゃぎ回る。
その後、ローレライ一行を客人として皆に紹介し
「これとこれ、あと米麦豆、一袋降ろしておいてくれるか。俺ちょっと夕飯の下準備してくるから。」
「なんや?今夜はマレが飯作ってくれるん?」
「ああ、期待していいぞ。」
二人の横ではサウス祖母孫が家の壁を見て、鉄造!?瓦を見て石屋根!?と驚く。
それトタンやで ほぼ木造ですえ(´・ω・`)
ラミス、セインは家の周囲、畑、炭焼窯、陶器窯
を見学していた。
「よ~し 突撃!お宅拝見や!」
「ローレ、そこで靴脱げ!」
勢いよく乗り込み玄関口土間にて王女は硬直する。目の前、見たこともない物が多すぎたのだ。
「おおお、お宝の山や。」
「下手に触るなよ。呪いが罹るぞ。」
壊されては堪らないと咄嗟にでた嘘にローレライは灯油入りポリタンクからサッと手を引いた。
靴を脱ぎ周囲を落ち着き無く見回しながらマレの後について歩く。
流しで米研ぐマレを見て。
「何してるんや。」
「米研いでる。」
「だから、なにしてるんや!」
「えーあー、んー米を洗って臭みをとってる。」
米を洗い、研ぎ汁をペットボトルに詰めていく様をローレライは目を皿の様にし凝視していた。
炊飯器にセットすれば、これ何や?と問うローレライ、釜と端的に答えるマレ。
「こんな小さいんで料理できるんか?」
「全て神の御業。」
マレは面倒になり神の御業と答えるに徹する。
玄関横、立て掛けた重籐弓を興味深く観察する
サンディ、メイ、セインの三人。
セインは顎を撫で熱い眼差しを弓に送りながら。
「良く飛ぶのか?」
「飛ばすだけなら距離三百歩、弓と使用者が良ければ五百歩もあり得る。」
マレの説明に絶句する祖母と孫。
セインは無言で凄く物欲しそうな顔をした。
弩はボルトの装填に時間を要す、速射性能に優れ強弓ともなればであった。
ラミスは玄関隅の自転車を眺めていた。
「自転車が気になるのかい?」
「自転車ですか?」
「こいつわねー、ここを足で踏んで進む。歩くより走るよりも楽に速く進める。欠点は悪路では使えない。道が整備されてて始めて使える便利道具だね。」
何時迄も続きそうな神の家見学を切り上げ。渋る皆と初を連れ狼人族の集落へと荷馬車を向ける。




