第25話 黎明の空
冬。陽の出る時間は短く夜の闇は長い。
早朝、時刻にして五時頃。
その時間、ローレライは見張り兼焚き火の番をしていた。
小さな商隊である当主であろうとも仕事は廻ってくる。
炎へ枝を放り込むローレライの背後、人の気配を感じ振り向けばマレが立つ。
「えらい早いな。寝れへんのか?」
「ローレライ、俺と交易品の取引契約がしたいんだよな?」
「お!その気になってくれたん。いいよ、いいよ、いいよ~ぉ!」
「俺の秘密を知るって事だ、一蓮托生、本当にいいのか?」
「告白かッ!!わっち等、出会って間もないのに、そんな困ってまうやん。」
ローレライは茶化すが焚き火の炎に照らされる男の表情は真剣で真摯、無言で見つめる男に。
「ヨシツネ、大事な話しなんやな。分かった契約書用意する待っとって。」
「その必要は無い。少しの間ここを離れる。初以外の全員を起こして待っていてくれ。俺が戻ったら契約内容を告げる。その時、受ける、受けないの返事をくれ。」
マレは独り薄闇の奥へと消えていく。
焚き火を皆で囲んでいた。
「眠いです。ヨシツネ殿は何故こんな朝早くに。」
「折角ですし朝食の準備しておきますね。」
メイは不満を漏らし、ラミスは何時もの調子で、セインは無言で焚き火を見つめる。
「夕食前からヨシツネ殿は何やら思い詰めておられましたな。」
年長者サンディの言葉にローレライは深く頷き返し、自身も皆に聞かせる用に静かに、しかしハッキリと話す。
「ヨシツネは多分、、、大勝負に出る気や。ヨシツネの背負うてるもん全て賭けて。この商談難しいで。わっち等全員に契約内容聞かせるんや。こっちも、いい加減な返事はできへん。」
商主の言葉に全員が沈黙した。
数分後、セインが虎耳を数度動かし皆に注意を促す。
「音、、、近付いて来る。早い、ン!?」
セインの言葉の意味を皆が受け取り理解した。
光が近付いて来る。それに伴い音が大きくなる。
「油灯持って走ってるんか?」
「え?なに?」
「ま、眩しいです。」
高まる緊張感に皆が身構える。
原付二輪のエンジン音とライトの光、そして一行の前にブレーキ音と共に停まる。
トクトクと静かなエンジン音に交じり発せられる男の声。
「待たせたな。」
目の前の現実を受け入れ難い面々は暫し言葉を失った。
数瞬の間を置いてローレライは尋ねる。
「ヨ、ヨシツネ?なんやこれ?」
「神が乗る馬と言えば納得してくれるか?」
また、また〜と否定交じりに応じるローレライ、しかし釈然としないのも確かで、神馬なのかとローレライ達が半信半疑のままに話は進んでゆく。
「ローレライ旅商隊、当主ローレライ、今より契約内容を述べるが構わないか?」
「お、おう。バッチこいやー!」
原付を降り、エンジンをきる。
周囲は薄暗い闇に包まれた。焚き火の弾ける音が耳に残る。
皆の前に立ち。
「では皆様、ご起立ください。契約の儀式を執り行います。」
皆の顔を見渡す男。
誰かが唾をゴクリと飲み込む音が聴こえた。
高まる緊張感、異様な空気感。
「私は、客人神 恵比寿。貴方方が蛮地呼ぶ地にて、とある獣人族を守護しております。今より契約内容を言魂にて述べます。契約内容をよく吟味し、お返事いただきたい。」
皆が沈黙する。
唯一人、ローレライは視線を逸らすこと無く頷き一つを返した。
騙り神は朗々と声だかに、詩を詠うかの如く。
世の理 闇の中に光在り 光の中に闇在りて
一切の闇無き世無く 一切の光無き世無し
これ 陰陽和合 也
神は善悪を語らず
神は奇跡を起こさず
神は人を助けず
これ 真の神 也
我 偽り神にて 八百万の神々が住まいし
此地に天降る
我 渡来人にて客人 也
我 世の理 識りて 此の大地の理 知らず
此れ無知 也
我 変革の力ありて 我が力無く 此れ無力也
我 糞尿捏ね 錬成する 邪神 也
我 時に槌振るい 時に算盤弾く
金神であり 商いの神 也
我 此れより 封ぜられし 知識を 開放す
我 偽りの神故 奇跡を起こす
汝 我と契約を求めるか
否 ならば 耳目塞ぎ 口を閉じ
此地を去れ
汝 可 ならば 声を大にし応え 契約の対価
を払え
可ならば 声を大に゙ 唱えよ 唱える 言魂は
“Give and Take もうかりまっか”
さすれば 汝に 過大なる福と過小なる禍を与
えん
ローレライ 決めよ 否也や 可也や
ローレライは一歩踏み出す。
はっきりとはっきりとした声で高らかに応える。
「私、ロレ女王国が女王、ロレ・ラインが子にて、女王位継承権 第一位 ロレ・ローレライは客人神 恵比寿と契約します。
“Give and Take もうかりまっか”」
夜が明けようとしていた。
薄明かりの中、詐欺師と王女は向かい合い、視線を逸らす事無く見合う。
詐欺師はニカリと笑った。
「ぼちぼちでんな。」
此処に契約は成った。
詐欺師ハッタリ君 成( ° д ゜)功
王位?1位?ス、スル〜で イミフ(( 'Д`;))ワカメ
男と集団のやり取りを覗く者がいた。
荷馬車の荷台、防寒着と羊毛の布に包まる幼女。
初は観ていた。
神はある。自分を助けてくれたのだから。




