第24話
過積載でゴザル(´・ω・`)
積み過ぎた荷物、御者と子供以外、全員が早足にて馬車と並び歩く。
度々の休憩、マレは幼女と向き合う。
名前は、首を横に振る。
歳は、首を横に振る。
幼女は自身の事を何も知らない。
「ローレ、この子、何歳に見える?」
「七、八歳くらいちゃう?」
周囲、旅商隊の皆もそれ位だろうと同意する。
「じゃ八歳、誕生日は今日、十二月一日。」
嘆息するローレライの横でマレは紙に鉛筆で書き込み幼女の前に差し出す。
“源 初”
「ミナモト ハツ 今から君は、ミナモト ハツ。ミナモトは姓 名はハツ。」
手にした紙とマレの間を幼女は幾度も視線を彷徨わせ、そして呟いた。
「ミナモト ハツ」
そうだと笑み初の頭を、その大きな掌でグリグリと撫でるマレ。
「この字は漢字、こちらは平仮名。初、お前は、この世界には無い文字で書かれた名前を持つ初めての子供に成ったんだ。」
男の言葉の意味を理解するには初には難しすぎただろう。
「この兄ちゃんの事は、女泣かせのヨシツネ、女転がしのヨシツネ、ボンボンのヨシツネて言うたり。」
「貴様あああ!俺の娘に変な言葉吹き込むなああ!!」
「あ?そっちでいくん?てっきり若い娘囲って自分好みにするんかな~て。」
ローレライの言葉にメイの険しい視線がマレへと向けられる。マレは大きく吐息し。
「まあ、間違いではない、とも言えるのか?」
メイの男を見る目が更に険しさを増す。
「ローレ、孤児が生き辛い理由は何だと思う。」
「ん、金が無い、家が無い、親が無い、やろ?」
「間違いでは無い。俺が思うは、学だ、学が無い。教養だ、知識だ。俺が初に金を渡した時、うまく使えと言ったが、分かっていた。上手く金を使えないであろう事がな。何に浪費し何に投資と言う意味でな。」
ローレライ以下旅商隊の面々が奇妙な表情になったのがマレにも判る。
「そんな事、言う奴初めて見たわ。」
「そうですね。知識、教養を持つのは貴族や大商人、職人は師から熟練の専門知識を学びますが。」
「初、家に帰ったら文字と算数の勉強をしよう。ま文字は俺の国の文字だが。」
マレはニコリと初に笑い、初は満面の笑みでうんと応え頷いた。
暫く馬車と共に進み疎らに民家が並ぶ場所にて。
「ローレ、ここで馬車を停めて待っててくれるか。用事を済ませてくる。」
「あいよ。」
マレは粗末な家の戸口をノックするが反応無く裏手へと回った。
「メイ、ここちょっと頼んだで、覗いてくる!」
「野次馬根性丸出しですね。」
「熱く!激しく!それでいて悲しいラブの香りがする。するんやでぇ!!」ヽ(°∀°)/
どんな香りですかと呆れ顔のメイに任せ、こっそり跡をつけるベレー帽娘。
民家の陰から顔を覗かせ裏手の畑を窺う。
女が男を抱きしめる。
男が抱き返す事はなく、寧ろ女を引き離した。
男は革袋を手渡す。
女は男の手に有る革袋をはたき落とした。
畑の大地に落ちる銀貨。
男は銀貨を拾い集め袋に戻し、女の手に握らせる。
一言、二言、言葉を告げ、女に背を向け歩き出す。
女は革袋を手に、その場に泣き崩れた。
「待たせて悪かったな先へ進もうか。」
馬に鞭をいれるメイ。馬車横を歩くマレへとニヤニヤと卑らしい笑みを向けるローレライ。
「何だよ、気持ち悪いな。」
「いや〜ええもん見たわ。巡業舞台の一幕みたいやったで。」
ローレライの言葉にマレは顔を顰める。
御者のメイまでが気になりますと言い出す始末。
「で?やったんか?やったんやろ?やったと言えや!」
「やった。」
「かーッ本気かッ!手切れ金渡す男とか普通おらんで?」
マレは真面目な言葉と表情にて。
「一晩宿を乞うた。朝夕食事の世話にもなった。その時、俺には彼女の恩に報いる方法が他に無かった。彼女のお陰で目的を果たし金も工面できた。だから彼女に謝礼を支払った。おかしいか?」
男の問。
答えと共に疑問を呈するのは御者するメイ。
「今の話しからですと、一晩の宿泊と関係で貸し借り無し。男は貴重なんですから、お金を渡すものですかね?」
マレと、この世界に生きる者の意識の乖離を実感する。
成る程と理解し頷くも。
「うん、それが君達の理なんだろう。それが普通なんだろう。俺は彼女に幸せになって欲しいと思う。わずかでは有るが今出来る事をした。君達の理など関係無い。俺は心赴くまま信じるままに行動する。もう決めたんだ自己満足を貫く。」
男の覚悟だった。
「ほんま、ヨシツネのボンボンは女転がすのが上手いは、ほんま女泣かせやで。」
ローレライは嫌味を言いつつも、何処か晴れ晴れとした表情で。
マレは次のロロ村を抜けた少し先で野営したいと告げた。
途中、ロロ村でマレは老女二人に手を振る。
老女二人も長椅子に腰掛け手を振り返した。
「どんだけ守備範囲広いんや?下は八歳、上は、おばば迄とか、ヨシツネ、レキ女王国いちの種馬やで。」
「ばっかじゃね〜の?」
「いや本気やで!わっちならヨシツネの種付斡旋で一財産稼ぐ自信あるわ。」
ローレライの力説にメイは笑いが堪えられなくなり吹き出す。
「数年来の友人みたいですね。一昨日の出会いを思うと何だか不思議です。」
マレとローレライは顔を見合わせる。荷台から覗いていた初も笑顔だった。
夜、野営での夕食。
「ヨシツネ殿、もうこの先は蛮地ですよ。」
皆で食事を摂りながらこの先の予定を確認しあう中、サンディが懸念を口にする。
「うん、まあ、そうだね。皆は蛮地の事、どれ位知ってる?」
マレは曖昧な返事と共に質問を質問にて返す。
「初ちゃん、お替りありますよ。」
ラミスが初に具入り麦粥のお替りを勧めれば、幼女は自身の名を呼ばれ、嬉しそうに頷き返す。
「レキ女王国の北方領土、広大な未開の地。セイン殿の御先祖が来た地。獣人族が暮らす。くらいですかんね?」
「セインは虎人族のとこ帰ったりした事、あるんけ?」
ローレライに尋ねられ寡黙な虎男は首を横に振る。
「何代も昔の先祖が生まれた土地。それだけで故郷と考えた事は無い。まず交流が皆無だ。」
「ヨシツネ殿、蛮地に入るのですか?」
サンディの問と共に皆の視線が男に集中した。
「ここ迄来て、何なんだが、少し考えさせてくれないか。」
食後、先に休ませてもらうと告げ、マレは早々にテントで横になる。




