第23話 Never let you go Ⅱ
寒い。
陽が昇る前に目を醒ます。
荷馬車の荷台から降りれば、焚き火の前でライヅ・セインが火の番兼見張り番を。
「おはようさん。」
「はやいな。」
「昨晩は変な事に巻き込んですまなかった。」
いい。虎男の返す言葉は短く簡素。
そして二人、沈黙し焚き火で暖を取る。何か話題は、とマレから話しかける。
「ライヅさん、ロレ国には奴隷がいないのですか?」
「いない。」
またも沈黙が続き、何か喋ろうと考えていると虎人から話しを振ってきた。
「どれ、一つ、ロレ国の昔話しをしよう。」
昔話し 奴隷と王女。
「ライヅさん、有難うございます。貴重な、お話しでした。」
「セインと呼び捨ててくれ。」
彼の提案にマレは一言、え? と。
「ライがお前との伝手を欲しがった。俺は心配し反対した。ライが捕まった時、それ見たことかと思ったさ。何時でも、お前を殺す覚悟もあった。」
傍らに置いた短槍を一瞥後マレをみた。
「昨晩まではな。ライの見立てが正しかった。」
昨夜の一件がこの男の琴線に触れ信頼をかち得ていたのだろう。
その後また二人共に無言になる。
「おはようございます。」
沈黙の二人に割って入る華やかな声。
雑用と食事を担当する商隊の一人、マウリ・ラミス。
「今から朝食の準備しますね。」
彼女は二人に朝から笑顔を振りまく。
金の髪を肩上で切り揃えたおかっぱ髪の十七歳の少女が鼻歌交じりに野菜を千切り鍋へ入れていく。
鍋から良い香りが漂ってきた頃、サウス祖母、孫がやってき焚き火前に座る。
朝食が出来上がった頃合にてローレライが帽子を被らず寝癖頭で欠伸をしながら朝食の席へ。
「みんな おはよー。」
「おはようございます。若様。」
汁椀を手渡すマウリ。
朝の挨拶、若様若様とサウス祖母孫、セインは頷き返すのみ。
「ローレ、昨日はすまなかった。恥ずかしいところを見せた。」
「いいって、いいって。」
顔の前で手を振り、両頬を紅潮させるローレライ。マウリが気づき。
「若様、服のお腹周辺がカピカピになってますよ。代えを用意しますね。」
「あ、ヨシツネが服の上にだすもんだから。」
(〃∇〃)テレ の効果音が聴こえそうな仕草で目を逸らす若様。
一瞬にして、マウリ、サンディ、メイ、三者の視線がマレに集中した。
マウリ・ラミスは両手で口元を押さえ驚き。
サウス・メイは射るようにマレを睨み。
祖母サウス・サンディは咳払い一つ。
「若も、そういう歳になりましたか。」
ちょ、ま、冤罪。(( 'Д`;))
それでも僕はやってない!
セイン独りが状況をクツクツと笑い見ていた。
食後、マレとローレライに男女の関係は無いと理解得られたが。メイのマレを見る眼は険しい。
皆が雑談するなか。
「ローレライ旅商隊、ローレライ殿にお尋ねしたい。」
「何や改まって。昨晩あんなに強く抱きしめたくせに。」
二人の会話にメイの視線が更に険しさを増す。
マレは否定せず真実を真剣に。
「貴方の胸で私が泣いたのは事実、否定も弁解もしない。」
マウリは、おお!?と感嘆し。
メイは落胆と呆然。
メイの祖母サンディは、若の質の悪い冗談で流す
セインは沈黙し成り行きを見守る。
仕事、業務口調で尋ねるマレ。
「商会は、この後、急ぎの仕事などあるのですか?」
「ないなぁ。だからヨシツネの跡をつけたんや。」
「では、商会に仕事を依頼したい。」
「お?何や何や?噂の品任せてくれるんか!?」
興奮気味の若様、対するマレは慎重。
「その件は、暫く考えさせてもらいたい。依頼はルールでの商品買い付けと運搬。拘束期間は四日間程度。」
「金額は?」
「相場を知らない。」
「それな、吹っ掛け放題やで。」
「昨晩、抱きしめあった仲ではないか。ローレライ。」
ニヤリと笑む男。真顔で逡巡する女。
僅かな時間、逡巡の間に損得勘定する少女。
「ヨシツネ、お前、女転がすのうまいやろ。陰で相当泣かせとるな。相場、そうやな〜」
( ° д ゜)ひどい偏見 やめれ
相場、人件費。ローレライ曰く。
「傭兵で護衛兼荷運びで日当、銀貨二枚。そこらの農閑期の農婦、職にあぶれたもんで、日当、銅貨六枚が、目安やな。」
「ピンキリか。」
手持ち袋を漁り握り込む一枚。指で弾き。
「全部込み込み、まとめて日当一枚で。」
弧を描く黄金の放物線。ローレライはキャッチし手の中の金貨を確かめる。
「あんた、やっぱボンボンやわ。それとも、危険なんか?」
「危険は、ん~~多分ない。買い付け積み込み迄やって貰いたい。そちらが馬車二台持ち込んでの仕事。金額としては妥当。仕事が無事終われたなら成功報酬、金貨三枚追加で払う。」
「あんた、やっぱ女、転がすのうまいわ。ヨシツネ、契約書交わそか。」
午前中はルールの店を周り、雑貨、穀物、布、果物、各種種苗木を購入した。
「ヨシツネ、あの子付いて来とるで。」
マレは何も言わず、見ようとはしない。
買い付けに周るローレライ商隊の後ろを物乞いの少女が付いてまわる。
見ない、見てはいけない、見た時、自分がどうするのか、何を言いだすのかがわかっていたから。
中天の太陽。冬の柔らかな陽射しの下、鍛冶屋前に馬車を停める。
鍛冶屋の娘スズと挨拶を交わしオーダー工具を受け取り代金を払い。
「店にある、有りったけの農具、工具、釜を買いたい。」
スズは男の言葉にポカンとするも、奥から母親がでて尋ねる、何が必要だと。
鋤が鍬が釘が釣り針がと次々に店に並ぶ商品に言及する男。
「停めてある馬車に積めるだけ欲しい。」
「ちょちょちょちょ、お客さん。」
慌てだすスズにマレは、ああと呟き革袋から無造作に金貨を一掴みし少女に突き出す。
手を出せと促され差出した掌。
スズは十枚前後の金貨に絶句した。
「兄さん景気いいな。」
固まる娘の横で母親が豪快に笑い、マレは女王都で大口の商談が纏まったと話す。
鍛冶屋が慌ただしくなる。
「ぎょうさん買ったな〜。」
荷馬車を前にローレライが呟く。その時だった。
「痛ってーなッ!おいッ!」
打つかる音、次には物音と共にチャリンと硬貨が打ち合う音があがった。
ああ、そうか、そうなるか。
覚悟を極めよう。
深呼吸、ゆっくりと吸い。腹で溜めて、ゆっくりと吐く。
心をフラットに。
そして、怒れ、いかれ。
丁度よい所に良いものがあるな。
拝借しておこう。
運命の輪が廻りだす。
車輪は廻り、加速する。
変革の兆し。
五人の女が街道の中央を幅を利かせ横並びに歩く。
道行く人々、商人は避けるように道端へと寄る。
女達は寒い中、髪を染め派手な化粧に片肩を曝け出し、全長1.2m程の大振りな剣を肩に担ぎ往来の人々を威嚇しながら練り歩く。
傾奇者と称される貴族、役人の次女、三女達であった。
列の端を歩く女、一人の幼女が眼に留まる。
巫山戯半分に蹴り飛ばし声を上げ怒鳴る。
「痛ってーなッ!おいッ!」
悲鳴を挙げ転げる幼女、同時に首から提げた革袋から銀貨、銅貨が零れ落ち大地に転がる。
街道に散らばった硬貨に五人の傾奇者たちはニヤと卑らしい笑みを浮かべた。
「道ふさぐたあ、舐めてんのか。」
「結構持ってるじゃねーか。」
「迷惑した事だしなあ。」
「なあ。」
落ち硬貨を拾い出す者、周囲を威嚇し恫喝の声を挙げる者。
中央、一際、大柄な女が不敵に笑い立つ。
「こんにちわぁ〜」
ひどく、間の抜けた男の声だった。
傾奇者のリーダー格の女は不用意に振り返る。
自身の身丈を超える大男を認識し怯むは一瞬、
イカレた男が女の顎目掛け鍛冶屋から持ち出した木槌を振るう。
白に黒に、暗転する女の視界、小さく短く苦鳴を漏らし、担ぐ大剣を取り落とし、膝は折れる。
「おらッ!!」
傾く女の身体、掛け声と共に女の腹に前蹴りを入れるマレ。
女を朦朧とする意識のまま街道中央で仰向けに倒れ伏す。
間髪入れず女に馬乗りになる。
周囲に聴かすかの様に大声を挙げる。
「逝っとけ!クソボケがぁ!」
木槌を握りしめた拳を女の鼻に振り下ろす。
一度、二度、三度、拳を振り下ろす度に紅く染まる拳、振り下ろされる度に、か細い悲鳴を挙げる傾奇者のリーダー。
男の凶行に見る者は恐慌する。
「ひっ」“チャリーン”
手にした硬貨を落とし引きつる声を漏らす傾奇者一人。
「やめ、やめやめて」
震える声で呼び掛ける女をマレは見る。
「おう、黙ってみてろ。こいつ殴り殺したら次は、お前だ。」
熊毛皮、蛮族衣装の男の凶相。
「て、てめえ。」
「ややや、やっちまえ。」
「し、死んだぞ、ごらぁ!」
震える声、震える手で各々の大剣を握り締める傾奇者達。
マレは傍らに落ちた大剣を掴み立ち上がる。
身丈一八〇超、彼女達から、すれば大男が大剣を手に立つ姿は恐怖。
「あがががが やめやめや。」
立ち上がりリーダーの右掌をグリグリと踏みつけ、その首に大剣の刃を押し当てる。
「お〜こいや、来いや!最初に死ぬのは、、、こいつな?」
気力失せた傾奇者リーダーが悲鳴と共に股間を濡らす。
「お〜お〜派手に漏らしたの〜。生き恥晒すくらいなら死んどくか?」
「許して許してください。さーせんした。さーせんした。」
身動きとれぬ傾奇者女四人。
リーダー格の女はマレに手を踏まれながら身を丸め泣き喚く。
あーこっから、どーすっかな〜( ° д °;)
怒りとイカレ状態が波が引く様に去っていく。
眼の前、震える傾奇者四人。勝負あったと引き際を模索する。
威嚇の表情を崩さず逡巡するマレ。
その間も女の手を足裏でグリグリするのを止めない。
今も街道に伏せ痛みと恐怖に声を挙げる傾奇者女。
「其処まで、其処までッ!両者退けい!」
両者の諍いに割って入る声。
声の主、初老の女、サウスサンディとローレライ、ラミス、マウリが今だ健在な傾奇者達に弩を向け、横では短槍を握るセインが立つ。
「ヨシツネ殿、その辺で退いていただけますか。その方も怪我人を連れて去られよ。下手な行動は慎まれるように。分かりますよな?」
四人に向けられた弩、意味を理解し一人が無言で頷いた。
顔中血塗れの仲間を抱え足早に立ち去る傾奇者。
マレは地に落ちた銀貨、銅貨を拾い集める。
拾い集め、そのまま自身の懐にしまった。
男の行動に周囲の野次馬がざわめく。
金目当ての野蛮な男かと眉をひそめ。
マレは今だ尻を付き場を見ていた幼女に近付き
膝を着いた。
「もう。」
幼女を抱きしめる。
「離さん。」
男の言葉に幼女は言葉無くしがみつく。
出逢ったばかり、縁もゆかりも無い二人が強く抱き締め会う様を野次馬は見守る。
幼女を抱き立ち上がる男の背。
誰かが声を挙げた。
「いよッ!(金貨)千枚役者!」
老婆が手を合わせ拝む。
「ありがたや〜ありがたや〜」
馬車に向かって歩く男の背に野次馬の歓声が飛ぶ。
「彼は、、、華がありますな。皆が彼を観る。」
「そやろ?そやろ?わっちの目に留まるだけはあるて。」
「素敵ですね~。」
「ちょ、ちょっとだけ見直しました。」
語らうローレライ旅商隊。
「まぶしいな。」
セインは呟き空を見上げる。
季節は冬。雲一つ無い青空。中天の太陽は輝く。
運命の輪が廻りだす。
車輪は廻り、加速する。
変革の兆し。
独りの幼女に騙り神の祝福
廻る運命の糸車
紡がれるは運命の糸
紡がれた糸はいつしか物語に
百年、千年、万年と
有史と共に語られる永遠の物語
では 誰が
騙り神を祝福したのか




