第19話 黒茶碗は偽りの契り
ノック後に家令は恭しく入室する。
手には真っ黒な器を持ち。
「失礼します。殿下、厨師もこの茶器というものだけは、如何ともし難くと申しておりまして如何いたしましょう。」
家令の困り顔と茶器を一瞥し。
「うむ、そうか、そこに置くがよい。」
「なんですの?これは?」
口には出さないが公女アーシスは黒茶器を駄作と断じた。
王女アーシスも、この黒茶器だけは評価のつけようがない。
まさに未知。
「ヨシツネ、この器の説明を頼む。」
「畏まりました。」
喫茶専用の碗、茶器。
茶の作法は数百年前ZIPANGの貴族、将軍、騎士
の嗜み、教養で道楽でした。
ある王は考えました。
恩賞に土地を分け与えていては、いつか土地が無くなる。
しかし、恩賞をケチれば家臣の心は離れてしまいます。
そこで考えられたのがひとつは貨幣。
そしてもう一つが茶器、茶道具です。
茶会を開き、流行を創造し茶器、茶道具に価値を持たせたのです。
戦場で命を懸けるも銘茶器では無く広大な土地を与えられ落胆して泣くほどに。
戦で助命の為に茶器を献上せよと言われれば、茶器と共に心中し命散らす程でした。
「そ、それ程か。次代の女王として大変、勉強になった。成る程、恩賞、褒美としてか。」
「価値がありましたので売ってお金を用意する事も出来ましたので。」
詐欺師は語る。もうそれは騙り事。
「流行は文化へと発展していきました。
思想に大きな影響を与えます。“侘び”寂び“ ZIPANG独自の思想でございます。」
侘び寂び、華美はなく、趣きを説明するマレ。
長くなる説明に三人共に紅茶で喉を潤しつつ。
男は黒茶碗を手に取り眺め。
「歪んでおりますね。」
「う、うむ。」
「えーと」
「思うのです。整えられた形、完璧の行き着く先は同一の形状になるのではないですか?」
「そう、、、なるか?」
「でしょうか?」
「だから敢えて崩すのです。結果、これは唯一無二になった。この歪みが趣きあり愛おしくなる。異性と同じですよ。」
理解し難い話し。
しかし異性と同じだと言われれば公女アーシスの心にストンと落ち着く。
「なるほど、なるほど。幾らイケメンでも同じ顔が二つ三つ並んでは毎日の鑑賞には向きませんものね。」
「そう言われればだな。」
公女の言葉に王女も納得した様である。
「この黒茶碗、趣きは“渋い”と評します。」
渋い。黒一色、華美さを一切廃した碗。
黒色から何を連想するか?重い、暗い、無骨、機能美。王女、公女に問うように説明していく男。
「渋い、味覚に例えれば、癖の有る味わいですね。だが、それが良い、でしょうか。飾らずにある様が美しい。」
沈黙の王女と公女、男の口車に乗せられて。
何だかそんな気がして来たであった。
「偉そうに語りましたが、茶飲み話しに客人と変な形の器でしょう?と笑い語りあえれば、それもまた良しかと。」
そっと黒茶器を机に置くマレ、暫し茶器を眺める王女。
「ヨシツネ、貴様の深い教養には言葉もない。」
「ええ、本当に。」
「ならばこそ、この黒茶碗、如何様に扱うべきか。なにか逸話などないか?」
王女に問われ口を噤む姿に無いのか?と再度問われ。
「いえ、逸話が多過ぎまして。どれが良いか吟味しておりました。」
おおと沸く王女と公女。
「長くなりますが、ミツナリとヨシツグ、男の友情話をば、」
詐欺師の長い語り夜話。
茶会、病の跡持つ大谷吉継が口付けた茶器を後の者達が飲んだ振りをする。
唯一人、石田三成は器に口付けた茶を飲み干した話。
「大戦、危険を承知で陣を構えますわヨシツグ。それ見た事か、味方が敵に寝返りヨシツグに向かい一直線。奮戦虚しくもヨシツグは討死。覚悟あっての事でした。敗戦の将たるミツナリは捕らえられ河原にて斬首と相成りました。」
戦記物、男の熱い友情に年若い王女、公女も目に涙を溜める。
「刎頸の友、でございますね。」
男の語り最後の言葉。
刎頚の友。友の為に首刎ねられ死ぬも後悔無し。
何時しか楽隊の演奏はやみ、室内に広がる静寂。
アルウルは水差しを手にし黒茶器に注ぐ。
次に素焼き瓶を手にし中身のワインを黒茶器に注ぎ終えると、床へと素焼き瓶を投げ捨てた。
割れる音、赤い絨毯に散らばる破片。
静まる室内、楽隊も世話するメイドも床の破片を拾う事もできずに立ち尽くす。
アルウル王女は黒茶器を掴む。
「良き話であった。私も王女としてかくありたいものである。過ぎ去った過去の英雄を偲び、皆で
、この酒を廻しのもうではないか。」
立ち上がり黒茶器を公女アーシスへ差し出し。
「まずは最初の一口を、アーシス。」
英雄譚に影響され過ぎた少女の真剣な瞳を受け、公女は両手で黒茶器を受け取る。
「慎んでお受けします。」
呷る一口、そして吐息一つ。返される茶器。
「次は私が。」
ぐっと呷る一口。やはり王女も吐息し口元を手の甲で拭う。
「最後にヨシツネ、全て飲み干せ。」
突きつけられた黒茶器、掴む男の節くれ立つ指。
王女に言われるままに酒を飲み干す。
静かに机に置かれる黒茶器。
静寂の中に“コトリ”と茶器置く音が響く。
楽隊がハッとし楽を奏でる。
英雄葬送曲。
中二乙 ('A`) 影響されすぎやん?
音楽に耳を傾ける。
王女が男の肩に手を回した。
そのまま男の空いた肩に頭をのせ。
「ヨシツネ、酔ったようだ。」
(( 'Д`;)) お、おう、想定の範囲内
「殿下も十六ですものね。」
( ° д ゜)…
(( °Д° ;))gkbr
想定の範囲外




