128話 森の奥へ
ヴェラドンナは作業のように確実にオオカミをナイフで斬っていた。
なかなか終わりが来ないから、ばてたりしてないかちょっとだけ不安だったが、表情をチラッと見て安堵した。
すごく生き生きとした顔をしていたのだ。
「やっぱり、ナイフを持ったら性格変わるんだな」
ヴェラドンナは刃物で何かを切るのが単純に好きなのだ。なんかシリアルキラーみたいだけど、野菜切る時とかも楽しそうだから、殺すのが好きなんじゃなくて、あくまで切ることが重要らしい。
まったく、こちらの動きが衰えないので、残っていたオオカミたちも限界を悟ったらしい。さっきまでと比べると、やけに情けない声をあげて、逃げていった。
「終わったわね。野生のモンスターっていってもこんなものか」
ミーシャは汗一つかいてない。どっちかというと、遊び足りてないといった調子だ。
「けど、数だけは多かったな。弱い冒険者が力尽きたところをああやって狩ってたんだろ。戦闘経験のない奴が迷いこんだら、たしかに生きて戻って来れないかもな」
ヴェラドンナも涼しい顔でこちらに戻ってきた。
「お疲れ様です、皆さん」
もう、ヴェラドンナの顔はメイドの時の無表情に戻っている。
「そっちもお疲れ。だいたい、実力はわかったよ」
「あ、そうだ。私のレベルも上がったようです」
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ヴェラドンナ
Lv23
職 業:暗殺者
体 力:163
魔 力:103
攻撃力:163
防御力:151
素早さ:176
知 力:157
技 能:急所突き・忍び足・隠密・二刀流(短剣)・背後攻撃・急速覚醒
その他:キツネの獣人・使用人
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「なるほどね。方向性としてはレナのステータスに似てる気がするかも」
ミーシャが総評を加えた。たしかに盗賊も暗殺者もダーティーで隙を突くような戦い方をするところがあるから、ステータスの傾向も似通ってくるんだろうか。
「お嬢様ほど素早さに長けていませんが、その分、魔力はありますね。あと、知力も高いです」
知力が高いって自分で言うとレナをディスってるみたいだけど、実際、レナはSランクレベルでも、知力は二桁中盤だし魔力はずっと0だ。
「ところで、ヴェラドンナって何か魔法は使えるのか? 使ってるのなんて、見たことないけど」
「そうですねえ。眠いという方はいらっしゃいますか?」
レナが手を上げた。
「いや~、朝早いから眠いんだよな……」
「わかりました。ちょっとお待ちを」
ヴェラドンナが、口をぱくぱくと動かした。声は何も出てない。なんだかテレビで消音を押した時のような違和感がある。
「あれ……眠けが数倍に……」
レナの意識がすぅっと抜けて倒れそうになったので、ヴェラドンナが手で抱えた。
「こういうように眠らせる魔法程度ですね。確実に暗殺を行う時に必要となりますので」
なかなか寝付けない時には便利そうだ。
「ところで、それっていつまで寝てるんだ?」
「先を急ぐわけでもないし、十五分ほど寝かしておいてあげましょ」
十五分すると、レナがあくびをしながら目を覚ました。
森の奥に進むと、今度は巨体のエイプが出てきた。
これも毛並みが紫なのでモンスターと見ていい。
こちらを殴りつけてきたが、剣で充分に防げた。
やっぱりレベルで言うと15相当ぐらいだな。そこまでの破壊力はない。すぱっと剣で斬り殺す。
レナもとくに問題なく倒していた。
「これなら、どんどん奥に進めそうですね」
それで肝心なのはヴェラドンナだけど――じっとエイプとにらみ合いを続けていた。
どっちも動かない。じりじりと時間だけが経つ。
そして、わずかな隙を突いて、ヴェラドンナがナイフを投げた。
そのナイフがエイプの心臓に刺さったらしく、一撃でその場に倒れて絶命した。
「オオカミは急所がわかりづらかったのですが、こういったモンスターならある程度どこを狙えばいいのかわかりますので」
「そっか、暗殺者って一撃必殺で敵を倒すのが基本なのね」
ミーシャが感心していた。
「そうですね。さっきのオオカミの群れは少し例外的かもしれません。あれはむしろお嬢様のような盗賊の戦い方です」
静かにヴェラドンナは魔法石を回収する。
「それ、重くない?」
「いえ、お金は大事ですので」
けっこう律儀な性格なのかもしれない。
そのあとも、モンスターを適度に狩りつつ、ミエント山のほうへと上がっていった。
山というだけあって、途中から道は坂になっていった。モンスターよりも道が荒れているのがけっこう厄介だった。落ちると大ケガしそうな道もいくつかある。
ただ、そんなところでもモンスターは出てきた。むしろ、こちらを追い返そうとでも思ってるみたいに、数が増えてきているような印象すらある。
「これ、この奥に何かいそうね」
ミーシャがつぶやいた。
「猫の勘が言ってるわ」
「何かって具体的に言うと何だ?」
「いわば、この山のモンスターを統治してるボスよ。ただ、モンスターが巣食ってるだけってことはないと思う」
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