119話 とり方いろいろ
ミーシャも俺と同じでなかなか魚が釣れてないようだ。
むすっとした顔で、釣り糸を垂れている。
「もう! 一匹ぐらいかかってもいいでしょ。どれだけ冒険者レベルをあげても釣りのほうは上手くなってないのね」
そりゃ、そうだろ。明らかに魔法とか戦闘とかと別種の才能だ。
俺はミーシャのほうに場所を変えた。
「釣りっていうのは待つことが重要な要素らしいぞ。日本にいる時に、友人に聞いた。ミーシャもじっくり待て」
「私、気が短いから多分向いてないわ。すでにかなりイライラしてるし」
口にするのを聞かなくても、尻尾が左右にやたら動いているからわかる。
「何が腹が立つかって言うと、魚が泳いでいるのははっきり見えるのよ。釣りスポットだけあって、数は多いわ。なのに、全然釣れない。まるでこっちを嘲笑ってるみたいに無視していくのよ。それが許せないの」
「無条件に食いついていくような習性だったら、絶滅しちゃうだろ。その程度には賢いんだよ」
「あ~、釣りって魚にひっかかっていただくものなのね。結局は魚次第なんだわ。そういう受け身なのは私に向いてないのよ」
「その点に関しては同意する……」
ミーシャは間違いなく待つのより攻めるほうが得意だ。これは猫だからとか関係なしに性格の問題だ。
「そういや、レナは得意だって言ってたよな。技を伝授してもらうか?」
「この調子だと、とっととレナ先生にお願いしたほうがいいかもしれないわね。それで待ち時間が減るならいくらでも教えを請うわ」
しかし、レナがいない。
あいつ、もっと奥まで釣りに行ったのか? 昔から知ってる場所なら、穴場も把握している可能性もある。
結論からいくと、そうではなかった。
ざぱぁっ!
川から水しぶきが上がり、オオカミ姿のレナが出てきた。
その口には、魚が一匹くわえられて、ぴちぴち抵抗している。
それを岸に置いてあるカゴの中に入れた。
「よし、また一匹釣れたぜ! ここはいつも数が多くていくらでも釣れるな」
「おい、それって釣るって言うのか!?」
そもそも釣りの道具一切使ってないし。オオカミになって狩猟してるだけだ。
「魚をとってるんだから、釣りでいいんじゃないですか? 私はずっとこれでやってたんですけど」
「お前がはしたないって言われてた理由がわかった」
ものすごく原始的な方法でやってるからだ。これじゃ貴族的な優雅さがまったくない。
「じゃあ、釣り糸垂れて、釣る方法はわからないのか?」
「それはあまり得意じゃないし、好きじゃないからやってない。あと、餌の虫に触るのが苦手なんです」
どうやら、釣りを教えてもらうのは諦めたほうがよさそうだ。
それでミーシャもどうするのが最善かを学んだらしい。
「そうよ。これは競技じゃないんだから、魚さえとれれば何をしたっていいのよね」
にやりとミーシャは笑うと、すぐにその姿を猫に変えた。厳密には猫に戻したということになるのだが、近頃は大半の時間を人の姿で過ごしているから、こちらが変身後のように感じる。
「それじゃ、ちょっと入ってみようかしら」
そのまま、ざばんと川に飛び込むと、しばらくミーシャは沈んでいた。いくらなんでもこれだけ浅い川で溺れることはないと思うし、気楽に見守っておくか。
突如、ざぱぁっとミーシャが顔を出した。
その口にはしっかりと魚がくわえられている。
それから、陸地に上がってきて、魚をカゴに入れる。
「やっぱり、こっちのほうが効率がいいわ。しかも、道具も何もいらないから、カゴさえあればいくらでも魚をとってこれるわよ」
「もう、釣りでも何でもないけどな。魚つかみ大会だ」
「じゃあ、ご主人様も魚をつかんだらいいんじゃない? そういう漁法だって日本にもあったでしょう?」
言われてみれば、手づかみでとるという方法だってないわけじゃない。一丁前にやってみるか。
俺も足をまくって、川の中に入る。想像以上に冷たい。冷たいけれど、気持ちいいとも言える。たしかにこれで魚がとれたら最高だろうな。
幸い、魚自体は水面を見ればいくらでもいる。上手くいけば手づかみも無理ではないんじゃないだろうか。
「よし、やってるぞ!」
だが、素人がそうすぐに成功する技じゃなかった。
ちょっと触れても、魚はぬるっとしているので、すぐに手の間を抜けていく。
剣ならそれなりに自信があるが、そういうのともかなり違う技がいる。
こっちが四苦八苦している間に、「また、とれたわ!」「こっちは二匹同時ですぜ!」と獣バージョンのミーシャとレナが順調に数を増やしていた。こういうのも一種のチートなんじゃないだろうか。
いや、相手の隙をついて手を出す能力は戦闘と大差ないはず。
慎重に魚を見ろ。
そして、魚が逃げられない隙を突け。
「ここだっ!」
俺の手に魚の感触がはっきりとやってくる。
そのまま引き上げる。
魚が手の中にあった。
「とったぞーーーーーーーっ!」
思わず、俺は勝利の叫びをあげてしまった。
少し時間が経つと、ちょっと恥ずかしかった……。




