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君との明日  作者: 直木
6/8

瑞樹との出会い2

〈病室〉

「んっ」

 まぶしい光が目を刺激する。

 軽く目を開けると、窓から光が入って来ていた。

「あ! 気が付きましたか?」

 声のする方向を向くと、太陽の光に負けないくらいのまぶしい笑顔で、こちらに微笑みかけてくれている女の子が居る。

 必死にこの人の怪我を治そうとした事は覚えている。

 でも、知っているはずの名前を思い出せなかった。

「急に倒れた時は、びっくりしたんですよ?」

 困った顔でこちらを見てくる。

 僕も困り果てて、正直に言う事にした。

「えっと。名前、前に聞きましたっけ? 忘れちゃって、もう一度教えてもらっていいですか?」

 すると、女の人は、びっくりした顔をした後、くすくすと笑いだした。

「まだ、私は貴方に名乗っていません」

 と、すると、名前を知っている気がしたのは、気のせいか。

「名前はありません。生まれた時から、黄色の三番と呼ばれていました」

 この子も僕と同じで施設生まれなのか。

「ですが、命の恩人が、瑞樹、と名前を付けてくれました……瑞樹、と呼んでください」

 瑞樹は幸せそうに笑いながらそう言った。

「分かった。瑞樹……さん」

 何故だか、さん付けで呼ぶことに抵抗を感じた。

 それを見て取ったのだろうか、瑞樹は呼び捨てで呼んでください。

 と言ってくれた。

 ドタドタドタ、と廊下から響く足音を聞きながら、これからの生活に思いをはせた。



 今日は珍しく朝早くに目が覚めてしまった。

 琴梨が朝ごはんを作ってくれるのもまだまだ後だろう。

 僕は時間を潰す為に、広場に出た。

 するとそこには、芝生の上で歌っている瑞樹が居た。

「――――――♪」

 聞いたことのない曲。

 楽しそうに両手を広げて歌っている瑞樹の周りには、小鳥が集まっている。

 綺麗な歌声に、耳を澄ましながら、瑞樹を観察する。

 長い黒髪に、黄色い首輪。

 服は少しアレンジされているようだ。

 優しげに細められている目をじっと見つめた。

 ずっと目が合い続ける。

 広げられていた手が下がり、顔から笑みも消える。

 代わりに、少し顔が赤くなっているように見える。

「お、おはよう」

 とりあえず挨拶してみたが、なかなか返事が返ってこない。

「……つからなの?」

「え?」

 ぼそぼそと喋った瑞樹の声は後半しか聞き取れなかった。

 瑞樹に歩いて近づく。

「だから、いつからそこに居たの!」

 近くまで来た時に、瑞樹は大きな声でそう言った。

 鳥たちが一斉に飛んで行ってしまう。

「えっと……ほんのちょっと前だよ」

「そ、そう」

 歌っているのを聞かれたのがそんなに恥ずかしかったんだろうか。

「でも、素敵な歌だったね」

 笑顔でそう言うが、瑞樹は顔をそむけてしまう。

 これは、一度退散した方がいいかな、と動こうとすると、瑞樹がぽつりと言った。

「これは、お母さんが教えてくれた歌なの」

 僕には両親の記憶がほとんどない。

 だから、すごく羨ましく感じた。

「へー……お母さんかぁ……近くの街に住んでるの?」

 瑞樹は力なく首を横に振った。

「お母さんも、私と同じ【力】を持った人だったわ」

「じゃー別の施設に居るの?」

 その質問にも、瑞樹は首を横に振る。

「【力】を使って、死んだわ」

「そっか……」

 ここの施設に居る子達の親は大抵亡くなっている。

 子供を連れていく事に拒否して殺されたり、急に事故や病気になったり。

「でも、私は【力】を使ったけど生き残った」

 そう言われてふと思い出す。

 初め、瑞樹は瀕死の重体で運ばれてきた。

 【力】が原因なのか?

「どういう【力】なの?」

 恐る恐る聞いてみる。

「貴方と同じ系統だけど、私のは、どんな傷でも病気でも、一瞬で治す事が出来る【力】」

 僕の【力】じゃ一瞬で癒す事は無理だし、代償として体の調子がどんどん悪くなる。

 死ぬまで【力】を使っても、治せない病気や怪我もある。

 すごい【力】だ。

 そこまで考えて気付いた。

 大きな【力】には大きな代償がつきまとう。

「代わりに、瑞樹が死にかける?」

 そうつぶやくと、瑞樹は寂しそうな顔で頷いた。

「母も、一人目を治した時は、同じように他の人のおかげで生き延びたけど、二人目を癒した時は手の施しようがなくて……」

 瑞樹は泣き出しそうな顔をしていた。

 こんな時、僕はなんて声をかけたらいいのだろう。

 無意識に瑞樹に伸ばした手が、触れようとした瞬間、遠くから琴梨の声が響いた。

「あ~~~~~~! にーくん!」

 建物の方を見ると、琴梨が全速力でこちらに向かって走って来ている。

「おい! 琴梨! そんなに急ぐと……」

 ずさー。

「転……ぶ、ぞ」

 いつもの事ながら、盛大に琴梨は前転して地面に倒れた。

 学習能力がないやつだ。

「ふふふ……」

 起き上がった琴梨の顔には、泥がいっぱいついていた。

 それを見て、瑞樹が笑った。

「いたたた……ん? なんで瑞樹ちゃん笑ってるの?」

「なんでもない……ふふふ」

 琴梨は全然気づいてないようだ。

「む~なんだか分からないけど馬鹿にされてる気がするよ」

 琴梨はむくれながら、僕と瑞樹の手を取った。

「ほら、ご飯出来たから、行こう?」

 そう言って琴梨が僕達を引っ張っていく。

 瑞樹の顔を見ると、幸せそうな顔をしていた。

 ずっとこの顔が続けばいいな、と思う。

 二人目を癒さなくていいように、そう祈った。


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