瑞樹との出会い2
〈病室〉
「んっ」
まぶしい光が目を刺激する。
軽く目を開けると、窓から光が入って来ていた。
「あ! 気が付きましたか?」
声のする方向を向くと、太陽の光に負けないくらいのまぶしい笑顔で、こちらに微笑みかけてくれている女の子が居る。
必死にこの人の怪我を治そうとした事は覚えている。
でも、知っているはずの名前を思い出せなかった。
「急に倒れた時は、びっくりしたんですよ?」
困った顔でこちらを見てくる。
僕も困り果てて、正直に言う事にした。
「えっと。名前、前に聞きましたっけ? 忘れちゃって、もう一度教えてもらっていいですか?」
すると、女の人は、びっくりした顔をした後、くすくすと笑いだした。
「まだ、私は貴方に名乗っていません」
と、すると、名前を知っている気がしたのは、気のせいか。
「名前はありません。生まれた時から、黄色の三番と呼ばれていました」
この子も僕と同じで施設生まれなのか。
「ですが、命の恩人が、瑞樹、と名前を付けてくれました……瑞樹、と呼んでください」
瑞樹は幸せそうに笑いながらそう言った。
「分かった。瑞樹……さん」
何故だか、さん付けで呼ぶことに抵抗を感じた。
それを見て取ったのだろうか、瑞樹は呼び捨てで呼んでください。
と言ってくれた。
ドタドタドタ、と廊下から響く足音を聞きながら、これからの生活に思いをはせた。
今日は珍しく朝早くに目が覚めてしまった。
琴梨が朝ごはんを作ってくれるのもまだまだ後だろう。
僕は時間を潰す為に、広場に出た。
するとそこには、芝生の上で歌っている瑞樹が居た。
「――――――♪」
聞いたことのない曲。
楽しそうに両手を広げて歌っている瑞樹の周りには、小鳥が集まっている。
綺麗な歌声に、耳を澄ましながら、瑞樹を観察する。
長い黒髪に、黄色い首輪。
服は少しアレンジされているようだ。
優しげに細められている目をじっと見つめた。
ずっと目が合い続ける。
広げられていた手が下がり、顔から笑みも消える。
代わりに、少し顔が赤くなっているように見える。
「お、おはよう」
とりあえず挨拶してみたが、なかなか返事が返ってこない。
「……つからなの?」
「え?」
ぼそぼそと喋った瑞樹の声は後半しか聞き取れなかった。
瑞樹に歩いて近づく。
「だから、いつからそこに居たの!」
近くまで来た時に、瑞樹は大きな声でそう言った。
鳥たちが一斉に飛んで行ってしまう。
「えっと……ほんのちょっと前だよ」
「そ、そう」
歌っているのを聞かれたのがそんなに恥ずかしかったんだろうか。
「でも、素敵な歌だったね」
笑顔でそう言うが、瑞樹は顔をそむけてしまう。
これは、一度退散した方がいいかな、と動こうとすると、瑞樹がぽつりと言った。
「これは、お母さんが教えてくれた歌なの」
僕には両親の記憶がほとんどない。
だから、すごく羨ましく感じた。
「へー……お母さんかぁ……近くの街に住んでるの?」
瑞樹は力なく首を横に振った。
「お母さんも、私と同じ【力】を持った人だったわ」
「じゃー別の施設に居るの?」
その質問にも、瑞樹は首を横に振る。
「【力】を使って、死んだわ」
「そっか……」
ここの施設に居る子達の親は大抵亡くなっている。
子供を連れていく事に拒否して殺されたり、急に事故や病気になったり。
「でも、私は【力】を使ったけど生き残った」
そう言われてふと思い出す。
初め、瑞樹は瀕死の重体で運ばれてきた。
【力】が原因なのか?
「どういう【力】なの?」
恐る恐る聞いてみる。
「貴方と同じ系統だけど、私のは、どんな傷でも病気でも、一瞬で治す事が出来る【力】」
僕の【力】じゃ一瞬で癒す事は無理だし、代償として体の調子がどんどん悪くなる。
死ぬまで【力】を使っても、治せない病気や怪我もある。
すごい【力】だ。
そこまで考えて気付いた。
大きな【力】には大きな代償がつきまとう。
「代わりに、瑞樹が死にかける?」
そうつぶやくと、瑞樹は寂しそうな顔で頷いた。
「母も、一人目を治した時は、同じように他の人のおかげで生き延びたけど、二人目を癒した時は手の施しようがなくて……」
瑞樹は泣き出しそうな顔をしていた。
こんな時、僕はなんて声をかけたらいいのだろう。
無意識に瑞樹に伸ばした手が、触れようとした瞬間、遠くから琴梨の声が響いた。
「あ~~~~~~! にーくん!」
建物の方を見ると、琴梨が全速力でこちらに向かって走って来ている。
「おい! 琴梨! そんなに急ぐと……」
ずさー。
「転……ぶ、ぞ」
いつもの事ながら、盛大に琴梨は前転して地面に倒れた。
学習能力がないやつだ。
「ふふふ……」
起き上がった琴梨の顔には、泥がいっぱいついていた。
それを見て、瑞樹が笑った。
「いたたた……ん? なんで瑞樹ちゃん笑ってるの?」
「なんでもない……ふふふ」
琴梨は全然気づいてないようだ。
「む~なんだか分からないけど馬鹿にされてる気がするよ」
琴梨はむくれながら、僕と瑞樹の手を取った。
「ほら、ご飯出来たから、行こう?」
そう言って琴梨が僕達を引っ張っていく。
瑞樹の顔を見ると、幸せそうな顔をしていた。
ずっとこの顔が続けばいいな、と思う。
二人目を癒さなくていいように、そう祈った。




