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君との明日  作者: 直木
4/8

立ち込める暗雲

〈自室〉

 目が覚めると、隣に琴梨が寝ていた。

 昨日のことを思い出して、ぼっと顔が熱くなるのを感じる。

 幸せそうな寝顔。ずっとこの顔を見ていたいと思う。

 でも、赤くなってしまった顔を見られるのは恥ずかしいから、先に起きよう。

 そう思って、僕は部屋から出た。


〈廊下〉

 さて、何をしようかな。

 今日も特に予定はない。夏美や琴梨と違って、僕の検診はめったに行われない。

「……らしいぞ……」

「ん?」

 どこからか研究員達の声が聞こえてきた。

「あぁ、僕もその話は聞いた」

 そっと、角に身を隠して廊下の奥を見ると、三人の研究者が話し合っている。

「なんでも、黄色の3番が来るらしい」

 研究員達は僕達の事を名前では呼んでくれない。

 いつも識別番号と、首輪の色を言うだけだ。

 ぐっと白い首輪を握りしめる。

「どうして黄色がこんな所に来るんだ?」

 首輪の色は【力】の種類を示している。

 でも、黄色なんて聞いたことない……。

「ほら、……には白の2番が……だろ。そいつに……させて、……してくれれば、やっかい……出来て一石二鳥だろ?」

 一番遠くに居る研究員の声が聞きづらい。もっと近づかないと聞こえないか?

 少しずつ体を前に出していると、頭に鈍い痛みが走った。

「ぐっ」

 三人の研究員に意識を集中させていたせいで、後ろから近づく人に気付かなかった。

「お前達! そんな所でそんな話をするな。聞かれていたぞ」

 遠くで怒鳴る声が聞こえる。

 薄れゆく意識の中、軍服を着た軍人が僕を殴ったんだ、と認識した。


〈手術室〉

 ピッピッピ。

 一定のリズムで機械の音が聞こえる。

「私達の実験も出来て、よかったではないか」

 機械音に交じって研究員の声も聞こえる。

「新しい記憶の植え付け……まだまだ実用段階ではなく、何人もの被験者が記憶を失っていますが、いいので?」

「【力】の多用でも記憶は消えていくのだ。構わんだろう」

 ピッ。

 スイッチが入る音がした瞬間、頭の中に何かが流れ込んできた。

「ぐああああああああああああああ」

 それは、頭の中をめちゃくちゃにかき回していく。

「そういえば、隣の手術室に運ばれた人は誰ですか?」

「白の2番を捕まえた者だよ……死んだがね」

 その言葉が聞こえたのを最後に、僕の意識は遠ざかっていった。


〈自室〉

 ふっと目が覚めると、僕は何かに包まれていた。

 温かくて、甘い果物みたいな香りがする。

 ぼーっとした頭で目の前の物をつかむと、簡単に形が変わるほど柔らかい。

「んっ……ぁ」

 頭の上から声が聞こえる気がする。

 それにしても、これは何だろう?

 ぐにぐにぐに。

 力を込める度に、上から声が聞こえる。

「にーくん?」

 名前を呼ばれた瞬間、一気に目が覚めた。

 上を向くと、涙目になった琴梨がこちらを見ていた。

「えっと? あー」

 掴んでいた手をゆっくり放す。

「ごめん」

 素直に謝ることにした。

「いいよ。責任とってもらうから」

 顔を真っ赤にして琴梨が言う。

 責任って、どうやって取ればいいのだろう。

 冷や汗をかきつつ、この状況をどうしようか考えていると、

「にー! 大丈夫か!」

 夏美が叫びながら部屋に入ってきた。

 そして、ベッドの上で琴梨に抱きしめられてる状況を見て、口をぱくぱくさせたあと、ゆっくりとこちらに近づいてくる。

「夏美? とりあえず、落ち着け。まずは話し合おう? な? その拳を収めてくれ」

 にこっと微笑むその笑顔がとてつもなく怖い。


 僕の懇願むなしく、夏美に殴られた後――琴梨はお咎めなしだった――正座をさせられて説教を受けるはめになった。

「施設の入口で倒れてたって聞いて、人が心配して来てみれば、イチャイチャと……」

 別にイチャイチャしてた記憶は無いが、同じベッドに琴梨と入ってたってだけでここまで怒られるとは。

「何で入口で倒れてたの?」

 夏美が文句を言い続ける中、琴梨が疑問をぶつけてくる。

 そういえば、昨日の事を何も思い出せない。

「……わからない」

 首を横に振る。

 僕が真剣に考えてるのを感じ取ったのか、琴梨も夏美も黙ってこちらを見ている。

 ピンポンパンポーン。

 突然館内放送を知らせるチャイムが鳴った。

「白の2番。至急、病室に来なさい。繰り返す。――――」

 こんな時に、急な呼び出しか。

「にー……」

「にーくん……」

 二人とも不安げな顔でこちらを見てくる。

「大丈夫、きっと倒れてたから検査するだけだよ」

 そう、二人に笑いかけた。


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