第4章:高級車とダンス
第4章:高級車とダンス
痛み指数:[Pain Scale: ■■■■■■■■□□ 8/10]
ステータス:Urethral Breach(尿道への不法侵入)
人生で最も屈辱的で肉体的な原初の記憶。
それは、伯父が経営する珠算塾の遠足帰りに起こった。 「家に帰るまでが遠足です」とはよく言ったものだが、私はまさに自宅の目と鼻の先で、人生の道路を外れることになる。停車したバスから降りた瞬間、私は確認もせず道路へ飛び出した。
ドン! キイーッ、キュキュッ、ズン。
見事なまでのはねられっぷりだった。 私を視認したドライバーが、衝突を避けようと急ハンドルを切った。その結果、私は車のサイドミラーに弾き飛ばされたのだ。 私の体はクルクルと宙を舞った。バレリーナの素養があったのかと思うほど、実に見事な円を描きながら横へ横へと移動し、道路脇の畑に立っていた木柵に激突した。
「キャーッ!」
車掌の悲鳴が静かな田舎道に響き渡る。 急停車した高級車(BMW)から、顔を真っ青にしたドライバーが飛び出してきた。 目の前には、息子の帰りを待っていた、凍りついたように立ち尽くす母。 アスファルト舗装したばかりの道路に、大人たちの叫びと狼狽が渦巻く。
当の本人はといえば、驚きのあまり声が出なかった。痛みすら感じない。ただ路肩に座り込み、キョトンと騒動を眺めていた。
「ああ……私のせいだわ……」 バスの車掌が泣き崩れている。
「僕、大丈夫か!?」 BMWの男が駆け寄ってくる。
母も必死の形相で走ってくる。 まるで映画のワンシーンを観るかのような、他人ごとのようにぼんやりとした心地でその光景を眺めていた。
やがて救急車が到着した。この頃には、私の頭はすっかり冷えていた。 それどころか、初めて乗る救急車に胸が高鳴っていたのだ。 明日、学校でみんなに自慢してやろう! わくわくしながらそんな不謹慎なことを考えていた。この先に待ち受ける、本当の「地獄」も知らずに。
運び込まれたのは、見知らぬ大きな病院だった。
「痛いところがあったら、先生にちゃんと言うのよ!」 母の切迫した声に、私はキッパリと答えた。
「痛いところなんて、どこもない」
だが、大人は大げさだ。
「頭を打っている可能性があるので、二日間は入院して様子を見ます」
医師の言葉に私は絶句した。痛くないのに入院? クルクル回っただけだし、腕だってピンピンしているのに――。
病院のベッドに横たわったものの、怪我一つない子供には退屈という名の毒が回る。 しばらくして、運悪く私をはねてしまった運転手が、険しい表情で見舞いにやってきた。手には何やら品物を持っている。 加害者と被害者の母が、互いに「すみません」と謝罪し合う奇妙な光景。 ようやく男から差し出された手土産。喜びを抑えつつ受け取ったそれは、あろうことか、私が昨日買ったばかりの雑誌『月刊小学三年生』だった。
「持ってる。昨日買った」 私は悪気なく言い放った。
男の顔が引き攣る。 「明日は別のを持ってくるから……」 彼は一礼して去っていった。明日は何を持ってくるのか、私の関心はすでにそちらへ移っていた。
夜が更けるとともに、平穏な入院生活に暗雲が立ち込めた。 激しい尿意が私を襲ったのだ。 トイレに行きたいと母に告げた。
「何を言っているの。絶対安静って言われたでしょ。寝たまま、この容器にするのよ」
差し出されたのは、独特なフォルムをした「尿瓶」だった。 テレビのワンシーンで見たことはあったが、まさか自分の「アレ」をここに納める日が来るとは。
まあ、やってみるかと軽い気持ちで尿を出そうとするが、一滴も出ない。尿意はあるのに、蛇口が開かない。体勢が悪いのか、精神的なブロックか。焦れば焦るほど、膀胱はパンパンに膨れ上がっていく。 見かねた母が看護師を呼んだ。これが、最大の大誤算だった。
やってきたのは、優しげな微笑みを湛えた、美人なお姉さん(看護師)だった。 彼女の手には、鈍く光る金属の器が抱えられている。
「さあ、出しましょうね。我慢しなくていいのよ」 天使のような囁き。だが、次の瞬間、彼女は私の尿道に、冷酷なゴムチューブを躊躇なく差し込んできた。
「ギャーッ!! 痛い痛い痛い!!」
私の叫びは病室に虚しく響いた。 おい、待て。子供のチンポに挿入していい太さのものじゃないだろ! 悶絶する私を無視し、彼女はグイグイと管を押し込んでくる。
「はーい、すぐ出ますからねー。僕、もう少しだけ我慢してねー」 声は聖母、行為は悪魔。 尿意どころか、魂まで吸い取られるような不快感。一気に排尿は完了した。
「あら、あまり出てないじゃない。またしたくなったら、いつでも呼んでね」
彼女が去っていく後ろ姿が、私には邪悪な笑みを浮かべた「魔女」にしか見えなかった。
二度と呼ぶか! 頭なんか打っていないし。次からは周囲の目を盗んで、自力で尿瓶を使いこなしてやると、私は固く誓った。
まさか、この「ゴムチューブ」との因縁が、この先も続くことになるとは。 当時の私は、露ほども思っていなかったのである。
尿は尿瓶に!がんばれ!




