第11章:登山家の勇気
痛み指数:[Pain Scale: ■■■□□□□□□□ 3/10] ステータス:Dignity at the Brink of Exposure(露出寸前の尊厳)
中学3年生、最後の体育祭でのことだ。
それは、全校生徒が紅白に分かれ、リレー、バレーボール、バスケットボール、綱引き、玉入れなど、多種多様な種目で競い合う祭典である。
これらの種目を例に挙げた理由は、言うまでもなく、私自身がそのすべてに参加したからだ。
私の学校では、体育祭の締めくくりは決まって「旗取り合戦」だった。グラウンドの両端に垂直に立てられた「竿」―いや、長さ5メートルはあろうかという直径20センチほどの「棒」の先にくくりつけられた旗を、敵味方が奪い合う。体格のいい生徒数人が支えるその棒をよじ登って奪いにいくのだ。
夕刻が近づき、ほぼすべての競技が終了した。いよいよ待ちに待った旗取り合戦の時を迎える。私の覚悟はすでに決まっていた。今年こそ、あの旗を手にするのは私だと。
私は紅組。標的は、白組の守る旗である。
バーン! 号砲が鳴り響く。
私は瞬時に、被っていた赤い帽子を短パンの後ろポケットに隠した。そして一目散に、白組の「オヤジ」連中(老け顔の重量級たち)が支える棒めがけてダッシュした。
白組が守る棒の周囲には、すでに赤い帽子の集団が群がっていたが、守備に阻まれなかなか取り付くことができないようだった。……筋書き通りだ。
私は白組のふりをして棒に近づき、支え手の「オヤジ」に叫んだ。
「肩を貸せ!」
「おう、ジョーか。わかった」
彼は私を味方だと信じて疑わず、中腰になり、私を背に乗せた。
次の瞬間、彼は勢いよく立ち上がり、私を棒めがけて射出した。
思わず、「桜、行きまーす!」と、カタパルトから発進するモビルスーツのパイロットさながらに叫んでいた。
棒にしがみつくと同時に、私は隠していた赤い帽子を取り出して被り、本性を現した。敵を頭上へ送り届けてしまったことに気づいた白組の「オヤジ」は、愕然として「ガンダム」の名台詞を放った。赤い帽子を被った私にむけて。
「はかったな! ジョー!」
「騙されるお前がいけないのだよ! フフフ……」
彼を眼下に残し、棒を登り続ける。下から足を引っ張ろうとする「白い奴ら」を「赤い私」が蹴飛ばしながら。
あと一息で旗に手が届く。あと50センチ。 その瞬間、短パンの後ろをグイッと掴まれた。
ええい、構うものか、あと30センチだ! しかし、私はその時気づいてしまった。掴まれているのは短パンだけではない。ブリーフもしっかりと鷲掴みにされていることに。
1センチ進むごとに、私のパンツがずり下がっていく。 すでに半ケツ状態だ。クソッ! このまま全校生徒の前でフルチンになれというのか? 勝利か、それとも男の尊厳か。進退窮まったその刹那、私は地上から見上げる1人の女子と目が合ってしまった。
「明里!」
その瞬間、私は理解した。 急変した悪天候を前に、山頂を目前にして引き返す登山家の、あの「真の勇気」というものを。
これまでか。あと一歩。あと数センチ……。なぜ私の人生は、いつもこうなんだ! 私が断腸の思いで静止した次の瞬間、我が紅組の旗が奪われ、競技終了の合図が響いた。
勝負を締めくくったのは、学校一の人気者だった。こういう「持ってる奴」というのは、本当に実在するのだ。私は己の卑怯な戦略を棚に上げ、一方的に彼を羨んだ。
だが、最悪の事態だけは避けられた。そう自分に言い聞かせることにした。 もちろん最悪の事態とは、彼女に、少しは成長したはずの「下半身の全貌」を観られることに他ならない。
―成長したのかどうかは知らんけど。




